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第一話 始まりは拘束服とともに


この話は架空世界のものです。

事の始まりは、凍えるような冬の日のこと。


…だと思うが、いまいち自信が無い。


常に肌寒い地下十三階で、外も見ることが出来ない状態で季節を判断するのは困難だ。


そう、ここはハルケオン王国最北に位置する監獄、チェクム監獄。


そこの地下十三階、無期限監獄幽閉者のみが投獄されている通称「災厄の間」


僕はそこの住人だった。





ここに来た者は数ヶ月で廃人となる―…


そういった噂が現実となるほど、ここは暗く、静か過ぎる所だった。


看守の持つランプ以外に灯りは無く、牢と牢の間は遠い。


逃亡を防ぐためなのか、静けさに囚人たちを食い殺させるためなのか、僕には解らない。


そんな静寂の中、僕はいつものように眠っていた。


その静寂が破られたのは、何ヶ月ぶりだっただろうか。いや、ここで正しい時間を求める者などありはしない。


それが何日振りであろうと、何年振りであろうと、それは関係の無いことだ。


僕らはこの場所で永遠を過ごしているのだから。


静寂を破ったのは、この一言だった。


「囚人S−0049号、面会者が来ている」


鉄のような無表情で看守が言う。


「………?」


囚人S−0049号は、ここでの僕の呼び名だ。


急に名前を呼ばれ、僕は眠りから覚まされて暫くのあいだ虚ろな目をそちらに向けた。


正直に言えば、発された言葉が理解できなかったというのが、一番の理由だと思う。


思考を殺し、いつも夢うつつのような状態を保つのが、僕の常だった。


そうでなければ、自分の罪のことしか考えることの無いこの場所では心が壊れてしまうから。


メンカイ…めんかい…面会?


僕に会いたいという人が居る?


「え…げほっ…」


聞き返そうとしたらむせた。久しぶりに声を出したからだ…恥ずかしい。


そこで僕はようやく言葉の意味を理解すると同時に、少し覚醒する。


…が、すぐに覚醒したことを後悔する。


また実験サンプル《モルモット》か…


義務とはいえ、僕は憂鬱とかすかな恐怖を感じる。


この国では

「無期限拘束幽閉」の判決を受けた犯罪者は人権を剥奪される。


では、どうなるのか、簡単だ。お国の役に立つのだ。

解りやすく言ってしまえば実験台。新しい魔具…魔法補助用具や、新薬、未知の物質対策などの事前実験に使われる。


犯罪者だから、誰も文句は言わない上に、投獄されるものはかなり魔力が高い者ばかり。


実験にはうってつけの材料といえるのだろう。


人を人と思わぬあの眼。


実験者達のあの眼を思い出すたび恐怖を感じる。


きっとあの眼は、かつての僕と同じ物だから。




面会者に会いに行くために支度をするうちに、僕はいつもと違うことに気づいた。


普段は魔法で軽い洗浄を施されたあと、足枷手枷の上に魔封じの札を貼られる。


その後小さな檻のようなものに入れられ運ばれるのが常だ。


だが今日は違う


普段より念入りに洗浄された後服を変えさせられた。


腕の部分からベルトが伸び、腰の辺りを一周している。


その根元辺りには大仰な金具。


拘束衣だ。


…僕はこれを着たことがある……いつかの実験のときに着たのだったか………?


まあいいか、長く動かなかったため腕の動かし方を忘れてしまったかのような感覚に戸惑いつつ

着替えを済ます。


金具は自分では留められないので(留められるならば拘束の意味は無いといえる)看守が留め、上から魔封じの鎖を巻かれる。普段とは違い厳重かつ丁重だった。


いったい誰に会いに行くのだろう。


そもそも僕に面会するものなど居ないのではないか?


僕には兄弟も居ないし友人も失った。


両親はー…


「っつ…!」


激しい頭痛を感じ、よろける。


両親はー…死んだ。


なぜならー…


「行くぞ」


看守に言われ、僕は歩き出した。


思考は、中断した。






暫く進んでいると、他の牢が見えた。


前述の通り、牢と牢の間は広い。


次の牢が見えるまででも、一、二分はかかる。


僕が牢を通り過ぎようとした、その時だった。


「囚人S−0049……」


掠れた声。こいつも他人と話すのが久しぶりなのだろう。


僕がそちらに眼を向けると、暗い部屋の中に男が見える。


僕と同い年…だろうか?ここには自分の時を知るすべが無いので解らないが。


男は掠れた声で、告げる。


「いや……シキョウ・ユウ……」


「なっ…」


なぜ僕の名を?ああ、散々噂になった。きっとこいつは僕の事件の後に牢に入ったのだろう。


「何で知ってるかって…?とうぜん…だろ、お前は俺の…師匠なんだからよ…」


「な…なにを…?」


僕は一歩引いた。い、意味が解らない…こいつも狂ってしまっているのだろう。


実験で体を壊され、静けさに、暗さに、自分の罪に怯え、数日で自殺願望を抱き始める


だが拘束された状態では叶わず、先に死んでゆくのは…精神。


動けない永遠を前に、僕らは脆過ぎる。


ギラギラとした瞳で熱に浮かされたようにこちらを睨む男を見て、僕は自分の未来をそこに見たような気がした。


「おい、何をしている!」


「あ…すみませ…ん」


看守に促され、僕は再び歩き始めた。





ゆっくりと歩みを進めるうちに、長い廊下の端に着いた。


やはりおかしい、いつもは地下にある実験室へ連れて行かれるはずだ。


だが、今日は…まさか…


「このまま地上へ向かう。」


「え…!?」


「地上には結界が張られている。逃亡しようなどとは考えないことだ」


地上!?なぜ、僕は未来永劫この地下に幽閉されるのではなかったのか!?


混乱しているうちに、看守は何か…パネルのようなものを操作し魔力を通す。


すると廊下の突き当たりの部分、つまり壁が揺らぎ、扉が現れた。


「入れ」


看守に従い入ると、僕の視界は真っ白に染め上げられた。


「ようこそ地上へ、シキョウ・ユウ君」


澄んだ声が聞こえた。




第一話、いかがでしたでしょうか?

まだ謎だらけですが、これから徐々に明かされてゆく予定ですので、楽しんでいただけたら幸いです。


評価、感想、誤字脱字などありましたらばんばんお願いします。

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