表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて想いどおり  作者: 彩
8/22



学園生活2年目を迎えしばらく経ったある日、私は『冬の宝石』ことローゼリア・リゲル・ベイリー公爵令嬢に呼び出され、学院の隅にある東屋へ向かっていた。



初夏のカメリアの木々たちは青々とした艶のある葉を繁らせ、その中に静かにたたずむ『冬の宝石』は、まるで絵本から抜け出した天使のようだった。



「ごきげんよう、サランド伯爵令嬢。来て下さってありがとう。」



「ご機嫌麗しゅうごさいます、ベイリー公爵令嬢。どうぞ、私のことはアカリとお呼び下さいませ。」



「ありがとう。ではアカリ嬢、私のこともどうぞローゼリアと。私、今日は貴女とお友だちになれたらと思ってお呼び立てしたの。」



──── お友だち?どういうことかしら?てっきり、レオニード殿下のことだと思っていたのに。



正直に言えば、ローゼリア公爵令嬢からの呼び出しに、私の心は踊っていた。『ついにシナリオが動き出す。』そう思ったのだ。



私の回りの全ての人々と物事が、前世で何度もプレイした乙女ゲーム『星の恋人』そのものなのに、ローゼリア公爵令嬢だけが、何故かシナリオ通りに動いてはくれなかった。それどころか、この1年、ローゼリア公爵令嬢の周りではあるはずのイベントが起こらなかったり、ないはずのイベントが起こったり…具体的に言えば、先日の王城でのパーティーはシナリオと何もかも違った。



私はあのパーティーに、レオニード殿下のエスコートで参席するはずだったし、隣国の王子二人とダンスをするはずだった。

けれど実際は、私をエスコートして下さったのはレオニード殿下の側近であるアレクシア公子だったし、私は隣国の王子様とダンスをすることはなかったのに、ローゼリア公爵令嬢はオストン王国第三王子のルーメン殿下とダンスをしていた。そして、その様子はまるで二人は恋人のように…



「アカリ嬢?どうなさったの?」



パーティーでのことを思い出している最中に声をかけられ、はっと意識をローゼリア公爵令嬢に戻した。



「申し訳ございません、突然のことで驚いてしまって。お友だちだなんて光栄ですわ、ローゼリア様。ぜひ宜しくお願い致します。」



「よかった!もし断られたらと、とても緊張していたの!ありがとうアカリ嬢。私たちもうお友だちになったのだから、そう畏まらないで。とはいっても、貴族同士ではなかなか難しいわよね。少しずつ慣れていけたら嬉しいわ。」



──── これは、本心?



予想していたものとは全く違う話の内容と態度に疑心暗鬼で探るように覗いてみたが、まるで本当にドキドキしていたかのように胸に手をあてて、満面の笑みを浮かべながら友だちと言う美しすぎる姿に、思わず息を飲んだ。



──── 勝てないかもしれない。



いつか感じた不安が、またニョキリと頭をあげた。



──── こんなに美しい『冬の宝石』が、以前予想した通り転生者だったとしたら、シナリオや攻略法を全て知っていて行動しているとしたら、私はきっと彼女に勝てない。

勝てないと言うことは…



そう、勝てないと言うことは、私は愛する人を手に入れられないと言うことになる。



──── 嫌よ、こんなに頑張ったのに!こんなに彼の事が大好きなのに!



「あの、どうして私とおともだちになって下さろうと?」



何とかしてローゼリア公爵令嬢の目的を探ってみようと私から質問をした。



「そうね、アカリ嬢がレオニード殿下やアレクシア公子と仲がいいからかしら?あ、嫉妬とか嫌味とかではないのよ!実はある方に自分の気持ちを知るために貴女と友人になってみてはと進められたの。」




「…ある方?…自分の気持ち?」



「ええ、それで貴女のことをしばらく見ていたの。」



ローゼリア公爵令嬢は、そう言った後、ストーカーじゃないのよと言いながら、「学院内の中だけね」と決まりが悪そうに付け足した。



「そしたらねアカリ嬢、貴女は本当に明るくて優しい、聡明で美しい、まさに『春の宝石』にふさわしい女性だって直ぐに分かったわ。そしたら私、ある人に言われたからじゃなくて、私自身がお友だちになりたくってウズウズしちゃって。だから今日、こんなふうに突然呼び出して驚かせてしまったわね。ごめんなさい。」



「いいえ、とんでもありません。大変光栄です。ひとつだけ言い訳をさせてほしいのですが、私は特別にレオニード殿下やアレクシア公子と親しくさせて頂いていたわけでわ───…」



「存じ上げておりますわ。ちゃんと見ておりましたもの。それに彼のオストン王国との条約締結の際、サランド伯爵にご尽力いただいたとか。もちろん、アカリ嬢も。私からもお礼を申し上げますわ。」



完璧な貴族令嬢、淑女の姿になかなかローゼリア公爵令嬢の本心を見つけることが出来ず、焦るあまり、私はとんでもなくストレートな質問をしてしまう。






「ローゼリア様は、『星の恋人』をご存知ですか?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ