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異郷戦記  作者: こま
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十八話

「おかしい奴だとは思っていたが、本当にイかれたのかと心配したぞ」


 宿に戻ったスターリアは娯楽に水を勧めた。興奮冷めやらぬ彼がこれ以上わけのわからないことを言ってはしゃぐのを抑えなければ今後の話し合いもできない。

 グラスの水を飲み干し、娯楽はすまんと一応の謝罪をした。


「悪かったな。郷里を思い出したんだ」

「なあ、敵はどこにいるんだ」


 マイラはスターリアにも水を注いでやった。


「姉はウェステリアにいる」


 すでに敵と割り切っている。割り切れと自らに言い聞かせるようでもあった。


「そうじゃなくてさ、追っ手のことさ。お前を直接手にかけようとしてくる、バウトが危惧した奴らだよ。個人で動いちゃあいねえだろうから、きっとでかい団体だ」


 スターリアに心当たりはない。首を横に振った。


「ウェステリアに戻るのは危険だから、そのへんで聞き込みしよう。最近目立ってる組織だとか、金払いがいいとか、血眼になって誰かを探してるとか、そんなの」


 娯楽に向かって顎をしゃくった。行って来いと言うのである。


「俺か?」

「スターは駄目だ。狙われているからな。そして私はスターの護衛だ。それに面がわれてるかもしれないし」

「だが、やったことがない。どうすればいい」


 マイラはメモに何かを走り書きして娯楽に渡した。


「ここに質問することを書いておいた。場所もな」

「助かる。では」

「今から行くのか?」


 スターリアは心配したが、娯楽は平気なようである。


「外は提灯がいらないほど明るいし、酒場は暗くなってからの方が盛り上がる。これは好機よ」


 窓から見える街灯を指差し、娯楽は飛ぶように部屋を出た。自分にしかできないことがあると嬉しがっている。


「お前、意外と過保護だな」


 娯楽の背を窓から眺めるマイラ、スターリアはからかうようにそう言った。


「このくらいがちょうどいいんだ。ウェステリアの皇女を付け狙っている奴はいるか、なんて聞き込みされたらこっちが困る」

「それもそうだ」


 クスクス笑い、そして「なあ」と首をかしげる。


「なんで夜の方が盛り上がっているんだ?」

「そりゃあ」


 どう答えたものか。マイラは少し視線を彷徨わせた。


「動物の習性に夜行性ってのがあるだろ? それと同じで夜になると活発に活動する奴がいるのさ」

「へえ。知らなかった。それは人種によって決まるのか? それとも出身か?」

「環境だ。はい、これでこの話は終わり。夜まで時間が空いたな、飯でも食うか」


 強引に話題を変え、返事も待たずに腰を上げた。


「いや腹はへっていないが」

「私がへってんだ。行こう、ほら、いい店があるから」


 人間の夜行性について論じる気は無かった。こんなところでスターリアがお嬢様だということを、しかも箱入りであることを再認識した。


「ドロドロの権力争いに巻き込まれているくせに、こういうのには疎いんだから参っちまうぜ」

「何か言ったか?」

「お前が大人びているって言ったのさ」

「ふん。子どものままではいられないだけだ。私の周りの大人たちは反面教師ばかりで困る」

「はっはっは、私ほど優秀な教師はいないな」


 正しい意味での教師であるとスターリアは言いたかったが、マイラは自分を反面教師であると信じきっている。ご機嫌な彼女なので否定するのも馬鹿らしくなった。


「芝位はどうするんだ」

「終りゃあ部屋に戻るだろう、そんなにガキじゃない。と思う」

「大丈夫かな。あいつ、ちょっと変わっているし」


 マイラもそれには同意する。しかし変人ではあるが人間的な善さは認めていたので、なんとなく行動を共にしているのだ。


「ちょっと? 大いに変だよ」


 通りはまだ明るいがあと数時間もすれば夜行性たちが起き出してくる。


「置き手紙を残していこう。デンのところで待とうじゃないか」

「あいつ、道はわかるのか」

「……どこにいたって目立つさ。とにかく行こう」


 スターリアは呆れを通り越して憤りすら感じたが、逆らっても仕方がないので付き合うことにした。


「いい教師ばかりで、私は果報者だ」

「ふふ、そうだろうとも」


 通じているのかいないのか、マイラはスターリアの手を取った。


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