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レオン編 旅立ち

 俺はレオン。レオン=ロード=バルザック。

 貴族ではあるが、成り上がりのため、世間の目も冷たいし、自分では貴族になったつもりはない。

 

 父は冒険者でほぼ家におらず、ある日、殉死して貴族になった。

 体の元々弱かった母は、貴族の知識も教養もないため更に家から出なくなり、父さえ失って、精神を病んだ。

 

 俺は小さい頃から一応、貴族の学校に通ったが、成り上がりと蔑まれ、孤独に9年間を過ごした。

 魔力の使い方が制御できず、中心になっていじめていた公爵のお坊ちゃんに、消えない傷を作ったのも1つの原因だとは思う。

 お坊ちゃんは容赦ない虐めを俺にしてたので、たいした罰は食らわなかったが、それ以降、皆が俺を化け物でも見るように扱った。

 

 学校卒業して、貴族であるということと、体躯、学力、魔力が優秀ということで騎士団の推薦をもらった。入る気はなかったが、母の病気が進んで伏していたので、少しでも明るい話題をと騎士団に入った。


 騎士団では、上下関係はあるものの、子供じみた苛めはなく、成り上がりを毛嫌いするやつらが俺に絡んできたことは多々あったが、子供の頃の虐めに比べると些細だったので、あまり気にしなかった。

 

 団長はいたく俺を気に入ってくれていた。

 いずれは副団長にと、様々な知識や経験を積ませてくれていた。

 それも、国をあげての武術大会で脆く崩れた。

 

 決して負けてはいけない団長に、俺は勝ってしまったのだ。

 団長ならこのくらいは耐えられるだろうと振った劍を、団長は耐えることができなかった。


 そして団長は、自分の身を守るため、俺が不正をしたと騒ぎだした。

 

 母が亡くなり、騎士団に固執する必要のなくなった俺は、あっさりと騎士団を去った。

 あのタイミングで辞めた俺は、多分、不正をした人間とされているだろうが、別にもう何を言われようが興味はない。


 そして俺は父と同じ冒険者になった。


 適当にギルドに入り、仲間は作らずフリーで活動した。たまに誘われて手伝いをする程度だ。

 もう、人とはできるだけ関わりたくなかった。


 ある日、ギルドに『魔の森の調査』の依頼が入った。誰も怖がって受けなかった依頼だ。報酬は莫大。だが、それよりも、興味が先にたった。

 面白そうだと思った。


 数ヶ月の旅の準備をして、魔の森に入った。


 天まで届きそうなほど高くそびえる木の繁る森はしかし、一見何もなく、ダンジョンは地下にある。


 ダンジョンには二種類あって、1つは建物になっている。階段も部屋もあり、仕掛けや魔物が襲いかかる。しかし調査は建物のため行いやすい。


 もう1つは洞窟だ。建物と違って道に補整はなく、部屋もない。分かれ道があるだけで、その階がどのくらいの広さにあるかもわからない。

 そして建物のダンジョンとは、比較にならないほど獰猛な魔物が出没するのだ。

 簡単な任務ではなかった。

 

 建物でいえば80階ほど地下へ進んだろうか。

 道端に一人の少女が倒れていた。

 

 こんなところに少女が、と目を疑った。次に、少女の姿をした魔物ではと訝しんだ。

 

 ここは魔の森のダンジョン。地下一階でさえ、ギルドの中級グループが手を焼くほどだ。それが少女1人でこんな深くまでいけるだろうか。


 いや、強いグループでここまでやって来て、他の仲間が殺され、少女は命からがら逃げ出したのかもしれない。

 腰の横につけている小袋以外は、旅の荷物も持っていないところを見ると、逃げるために重い荷物を捨ててきたという可能性もある。


 いつ襲いかかってきても良いように、魔法防御、物理防御の魔法をかけてから近づく。


 みると、少女は、この太陽の光も届かぬ地下深く、厚着を着ていても凍えるくらいの場所で、ヒラリとした上下揃いの服しかきていない。

 

「、、、なんて無防備な、、、」


 呆れんばかりだか、もしかしたら、これも油断させるための罠かもしれない。


 とりあえず、暖かくしてやろうと毛布を少女にかけて、焚き火の準備をした。

 疲労と脱水で倒れたのだろう、顔が蒼白になっている。

 しかし、焚き火を起こして少女を寄せるために抱えた時に気づいたが、少女は、数ヶ月栄養もまともにとれず旅をしたとは思えないほど、艶のある髪をしていることに気づいた。

 首元に短く切ってはいるが、髪の質だけなら、高貴な女性のそれよりももしかしたら綺麗な髪をしているかもしれなかった。

 普通なら、栄養不足でボサボサになるはずだ。


 やはり怪しい、と睨んでいたところで、少女はゆっくりと目を覚ました。

 

 決して美人とは言えない、素朴な顔立ちの少女だったが、何かおどついて、愛らしい小動物のように見えた。


 疑わしい発言をしてきたので、魔物と勘違いしてしまったが、結局、彼女は人間だったようだ。


 こちらの知識が驚くほど少なく、獰猛な魔物が蔓延るこの魔の森の深いところまで自分がどうやってきたのかも、帰る家さえもわからないという状態。

 アキラと名乗る彼女も困っているが、自分も充分困っていた。

 はいそうですかと放置するには、アキラは無防備で、華奢な体をしている。このまま別れるということは、彼女を見殺しにするのと同じだろう。かといって、自分は誰かと行動を共にする気はなかった。

 なんとか短期間なら、と自分に言い聞かせて、王都の有名な占い師に視てもらうことにした。

 占いといえど、彼女の占いは外れた事がない。それもそのはず、魔力を使った過去未来の再現能力なので、事実しか言わないからだ。

 各地の有力者がこぞって彼女のところを訪れているが、彼女はかなりの面倒くさがりで、滅多に占いをしない。占いよりも貢ぎ物で生活しているといっていい。

 その彼女が、不思議なことに、自分には愛想良く接してくれているのだ。王宮で出会った時から、向こうから声をかけてくれる。

 占いたいものがあればいつでも占うから、と言われて数年経つが、特に占ってもらいたいものがなかったため、こちらも愛想笑いで返すだけだった。


 彼女なら、アキラがなぜここに来たかとか、どこに行けばいいかとか、何でも答えてくれるだろう。


 そういうわけで、二人で王都を目指して旅することになった。

 一度はギルドに魔の森の途中経過の報告をしなければとは思っていたので、ちょうど良かったとも言える。


 道すがら、俺はアキラに旅に必要な知識を教えていった。

 何も知らないアキラだったが、元々賢いのだろう。スポンジが水を吸収するように次々と覚えていった。


 次第に、アキラにモノを教えることを楽しいと思うようになった。


 アキラは不思議な娘だった。

 この世界の大抵の人は、俺が魔法を使ったり剣術を見せたりすると、怯えて俺に近づこうとしなくなるのに、魔物を仕留めるためにどんなに魔法や剣術を使ったとしても、全く驚くことがない。

 魔法というものを初めて見たと喜ぶばかりで、俺に恐怖する様子は一切なかった。

 化け物を見る目に慣れてしまっていた俺は、むしろそうやって羨望の眼差しで見られる事が照れくさく、しかし、だからといってアキラを嫌悪することもなかった。


 一緒に狩りをして、一緒に食事して。

 1ヶ月も過ぎた頃には、長年連れ添ったような、そんな感覚さえしていた。

 生活するために旅をしてきたが、生まれて初めて、旅を楽しいと思った。

 生活することが、楽しかった。


 とある村から離れた時のこと。

 焚き火をしていると、アキラが自分が料理をすると言い出した。

 前から比較的、自分が料理をするというのでやってもらっていたが、この時は意気揚々としてアキラが料理に意欲的だった。

 どうやら、調味料を村から買ってきたらしい。


 実は、俺はもう記憶にない昔から、味覚が殆どなくなっていた。

 子供の頃に同級生から苛められていたせいか、医者からは心理的なものだろうと言われていた。

 それから十何年と、味を感じたことはない。

 毒かどうかもわからないのが困るが、貴族であり、騎士団での修行として、昔から毒に慣らしてきたので、大抵の毒には強くなっていた。

 

 それによって、魔の森の毒にも倒れることなく過ごせていたのだが。


 とりあえず、そういうわけで、俺にとって食べ物は栄養をつけるだけのものであり、味を気にしたことはなかった。


「美味しいものを食べさせてあげる!」

と、意気込んでいるアキラに、申し訳なく思いながら、生肉にハーブ塩をかけただけのものを食べた時、俺の目から一筋の温かいものが流れた。


 肉の、味を感じたのだ。


 アキラが塩をつけすぎたのか、それはとても塩っぽくて、また涙が出てきた。


 生涯、食べ物の味を感じる事はないと思っていたのに。


 俺が涙して慌てたアキラに、塩辛い、と一言言ったら、アキラは素直に受け取って、何度も「ごめんなさい」と謝っていた。

 素朴な味が好きだと思われたようだ。


 相変わらず狼狽え方が小動物っぽくて、俺は、とても可愛いと思った。

 つい、笑ってしまうと、アキラは俺が笑ったことを嬉しそうに微笑む。

 優しい時間だった。


 しばらくして、料理はアキラに任せる事にした。同じ調味料を使っても、自分が作ったものでは味がしないのだ。アキラの料理だけが味があり、美味しかった。


 魔法の基礎を教えてからは、旨味が増して格段に美味しくなった。俺には言わないが、何かの魔法を使ってると思われた。


 このままずっと、アキラと旅をしてもいいかもしれないな、と思うようになっていた。

 王都に近づくにつれ、別れが近いのだと淋しそうな視線を送ってくるアキラの瞳も、何やら胸の奥がくすぐったくて、案外悪い気持ちではなかった。


 そして、イリスの国に入る少しずつ手前の湖にて。


 自分が少し離れた隙に、アキラはゴロツキどもに絡まれていた。

 最近増えているという話を聞いていたので、少しでも目を離したのが間違いだった。

 

 何か揉めているので慌てて駆けつけると、アキラの頬が真っ赤になって腫れていた。口から血も少し流れている。

 無力な少女に暴力とか、本当にゴミくず以下で腹立たしかったが、それ以上に、アキラを助けてくれたらしいリアムという男の方が問題だった。


 ゴロツキどもを本気で殺そうとしただけでなく、アキラに一目惚れだと抜かしやがった。


 この平々凡々な素朴顔のどこに一目惚れの要素があるというんだ。


 絶対何か企んでるに違いない。


 アキラに告白とか、ほんと、許せないだろう?

 

 

 

 

 

 

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