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道中、辛すぎる

 レオンの道は、特に急ぐものではない、と言ってくれたので、しばらく私につきあってくれるという。

 なんだかんだいって、レオンは優しい人なのだと思う。


 私の体力が回復するまで、あの場所で3日、寝泊まりした。そのあと、かなり長い日数、草原を歩いて渡っている。

 レオンは紳士的で、決して私に手を出そうとはしなかった。20を越えているであろう彼に、私は幼すぎるのかもしれないが。若干、子供扱いをされている気もしている。


 食べ物に関しては、とりあえず普通の水を飲ませてもらった。スープにはアレルギーのあるものが入っていると言ったら、アレルギーという概念もここにはないらしく、レオンに説明するのに時間を要した。

 他にも、グロテスクな虫や動物の内臓などをたべさせようとしてくるため、泣いて断り、森の中に生えていた、あまり美味しくはない果物を食べて、どうにか食いつないでいた。

 その果物、栄養価だけは高いようで、いざ、レオンもいなくなって食べ物に困った時、ここにきて食べようかとか思ったりもした。


 レオンはフリーの冒険者と言うだけあって、食べられる動物や植物に詳しかった。

 イリスの街に向けて歩き出してからは、あの動物のどの場所が食べられるとか、この植物のここには毒があるから食べれないだとか、食べ物の組み合わせまで、丁寧に私に教えてくれた。

 私はいざということを考えて、必死にそれを覚えていく。こんなに頭を使った事は今までなかったと思う。

 このくらい集中して勉強していたら、きっと学校での成績も良かっただろうにと考えなくもない。


「アキラ。今日はあれを食べよう」

 レオンが指を指したのは、空高く飛ぶ、大型の鳥。鷲とか鷹のレベルでなく、小型飛行機くらいの大きさの鳥だ。昔いた恐竜を彷彿とさせる。

「あれかぁ、、、わかった」

 私は辺りを見渡し、近くにあったちょうど良い高さの木を探した。見つけて、その木の枝にローブをかけて、スタンバイする。

「オッケー。準備できたよ」

「そうか。じゃあ、いくぞ」

 レオンが何かを呟き出す。詠唱、というらしい。

 しばらく呟いたあと、レオンは掌をその大鳥に向けて気合いを入れる。すると、その鳥はレオンの手から出た光を受けて、一瞬にして気絶した。

 ドォンという音を立てて大鳥は空から落ちてきて、その首をすかさずレオンが切り落とす。

 それと同時に私がその鳥の足に縄をかけてレオンに合図すると、レオンがその縄を思い切り引っ張った。

 木の枝にかけられたそれは、レオンがひっぱることで大鳥を逆さまにしたまま宙に浮かせ、木にぶら下がる形になる。

 首を切られているため、大量の血が、大鳥の首から流れ落ちていく。しばらくすると、血が全て流れて止まり、血抜きが完了する。

 すぐさま、大鳥を木から降ろして、今度は素早く解体をはじめる。お腹をレオンに切ってもらい、その中から手早く内臓を取り出していくのが私の役目だ。この血抜きと解体次第で、肉の味がまるで変わってくる。

 この世界の肉は、殆どのものが臭みを伴っている。何度か吐きそうになりながらも頑張って食べた。慣れなければという思いが強い。

 調味料も大したものがないため、ほぼ味付けなしで食べなければならない。

 つくづく、日本の食材の改良の出来と、調味料の豊富さの素晴らしさを痛感する。

 子供の頃に苦いと思っていたニンジンが、大きくなって美味しく感じるようになったのは、大人になったからだと思っていたが、改良のせいだったんだなぁ、、、などと思いながら、ニンジンっぽいのに泥と苦味しかしない植物を食べた時に思った。

「解体が様になってきたな」

 レオンは私の作業を見ながら、満足そうに呟く。

「そりゃあもう、1ヶ月くらいこの生活だからね」。

 不本意ながら、特製スープも一口は飲めるようになった。もう吐いていない。気分は相変わらず悪くなるが。人間、慣れって怖いものだ。


 どこまでも続く草原の旅。

 1ヶ月歩いて、まだ草原の先は見えない。

 馬があると早いらしいのだけど、レオンはあの魔の森にしばらく滞在するつもりだったらしく、魔の森に着く手前で、馬を業者に売ったという。馬を維持するだけの食料を確保するのは、魔の森では難しいらしい。

 歩いて草原を抜けるのに、3ヶ月はかかると言われて、愕然としたのは言うまでもない。

「レオン、火をくれる?」

 木の周りに落ちている枝を集めて、そこを指差す。レオンは今度は小さく呟いて、指先から火を産み出した。

 魔法。

 それを見た時に、私は完全に悟った。

 ここは異世界だと。地球ではないどこか。

 この世界には魔法がある。そしてレオンは魔法の上級者らしい。

 このだだっ広い草原で、なんとか食物や飲み物にありつけているのは、他でもなくレオンの魔法のおかげだ。

 何もないところから水や火を出すことができる。さっき鳥を気絶させたのは、光魔法らしく、無駄に傷をつけないことができるだけ美味しい肉を取り出すコツだと分かった私は、レオンに仕留める時はまずは気絶させてもらうようにお願いしたのだ。

 1ヶ月過ごしてわかったことは、レオンは栄養重視タイプで、味は二の次ってことだ。

 とにかくレオンが作るものはマズい。

 食べられればいいと思っているところがある。

 材料がないから、私が作ってもたいした差はないが、50歩100歩なら、せめて50歩でありたい。

 日々努力、でどうにか頑張っている。

 こんがり焼けた大鳥は、比較的食べやすい肉だった。あの大きさの鳥を自分一人で仕留めることはできないから、レオンと一緒にいるとき限定になるが、あの鳥を見かけたら、今度から積極的に夏っていくようにしよう。

 段々とこの世界に染まりつつあるのを感じながら、私は、いや、私達は、イリスの街を目指して進んでいった。


  *****


 ぽつりぽつりと家が見えだしてきたのは、2ヶ月目に入ってからのことだった。

 そこで、ようやく、野外でないところに泊まる事ができた。レオンが交渉してくれたのだ。

 これまでに狩ってきた動物ーーーと思ってたら、魔物だったらしいのだが、その中に入ってる核ーー魔石というーーが、高く売れるようだ。

 私でも狩れるようなウサギみたいな魔物の中に入ってる魔石では、10個で1日ささやかなパンが食べられる程度だが、大きいものになると、1ヶ月豪華な食事つきの寝泊まりができるほどの物もあるという。

 

 大鳥の中にあったのは、3日分くらい寝泊まりができる程度の価値のものだったが、それに食事までつけてもらえることができた。

 

 テーブルにつき、でてきた食事への感動で私の手はブルブルと震えた。

 スープが、臭くなかったのだ。

 この世界の料理は、全て臭いものなのだと思い込んでしまっていた。レオンの食事だったからなのだ。ちゃんとした食事ができる。

 それは、私の希望の光になった。

 宿屋の女将さんに、私がコツコツ貯めてきた魔石を渡し、料理のコツを教えてもらった。ついでに調味料についても教えてもらうと、私を不憫に思った女将さんが、ハーブ系の調味料を一つ、私に分けてくれたのだった。

 正直、女将さんが女神に見えた。

 もう、味のない魔物の肉は勘弁して欲しかった。慣れてきている自分にも嫌気がさすところだだた。調味料、万歳!!!

 藁を敷き詰めたベッドだったが、外で寝ると比べると雲泥の差。家の中で寝れるということが、こんなに素晴らしいものだったなんて、思いもしなかった。つくづく、私は冒険者にむいてないんだろう。心から、美味しい食事と、安心できる布団がある生活がいいと痛烈に思った。


 お湯で拭き取るだけだったが、風呂みたいなものにも入ることができた。

 狭い部屋でお湯を炊き、蒸気で体を蒸して汚れを拭き取るのだ。お湯に入ったわけでもないのに、かなり気持ち良かった。草原には、魔法で作った水はあるけど、川も池もないから水浴びもできない。小さなおけに水をいれてもらって、シャンプーなしの水で髪を洗って体を拭くくらい。それだけでもありがたかったが。

 蒸し風呂に入りながら、つい言葉が漏れる。

「あーーー。温かいお風呂に入りたいなぁー」

 ゆっくり肩までお湯に浸かって、鼻歌でも歌いたい。体と髪をゴシゴシ洗って、入浴剤とかいれたりして、、、。

 沸き上がる欲望にホンワリしつつ体を擦っていると、立て掛けたあった浴室の板が、ガタリと外された。

 びくっと私が振り替えると、そこには平然とした顔でレオンが立っている。

「!?!?!!?!!????」

 言葉にならず私が目を白黒とさせているのも気にせず、レオンは、外側を指差して、

「終わったら、ちょっと外にでてみろ。面白いものが見れるぞ」

と言った。

「ぎ、ぎゃあぁーーー!」

 驚きすぎてまだ言葉を繋ぐことができず、叫び声だけあげてみたが、レオンは少し鬱陶しそうに、顔の前で手を振った。

「大丈夫だ。俺はお前みたいな子供に手を出すほど飢えてないし、興味もない。安心しろ」

 

 な。

 な。

 なにが『大丈夫』だぁーーー!!!

 見る方が良くても、見られた方は良くないに決まってるでしょうが。

 子供とはいえ、一応女なんだからね!!

 叫びたいのを、宿屋の迷惑になってはと、血のでる思いで我慢した。

 レオンが前に言ってた事を思い出す。

『俺は群れるのが苦手だ』

 そりゃそうでしょうよ。それだけ人の気持ちを読むのが下手くそならね!

 ぶつくさ文句をいいながら着替えて、それでもレオンの言う通りに、宿の前に出ていった。


 レオンは宿の前の木に寄りかかって、こっちを見ていた。私と目が合い、小さく笑う。

 少し、私の顔が紅潮したのを、自分でも感じた。ほんと、見た目だけは間違いなく綺麗な男だ。顔立ちや背の高さもそうだが、物腰もとても優雅に思う。この村にきて思ったが、レオンはもしかしたら、良いところのお坊ちゃんなのかもしれない。 

「きたか」

「どうしたの?」

「ほら、みろ、ここ」

 レオンが示したところには、小さな穴が空いていた。その中に、小さくうごめくものがある。ネズミくらいの大きさ。

 よく見ると、小さく羽の生えた人型の生物だった。すやすやと寝ている。動いているのはキラキラ光る羽だ。

「なにこれ、、、」

「精霊だ」

 どや顔して、レオンが言う。

「精霊?」

「滅多に人前にはでないけどな。たまにこうやって休んでいることがある」

「へぇ。珍しいんだ」

 まじまじと見ると、精霊がピクリと動いた。

 レオンは気にせず話し続ける。

「お前、魔法に興味があるって、前に言ってただろ?」

「え?うん。便利だなぁーと思って」

「魔法を覚える方法はいくつかあるが、一つは精霊と契約することだ。それが一番、手っ取り早い」

「契約?どうやって」

 精霊の羽が、ピクピクと動く。

「第一の難関は、精霊が見えるかどうかだな。精霊が見えないとどうしようもない」

「見えない人もいるんだ?」

 私にははっきり見えるのに。

「見えない人の方が多い。だが、魔法を使える人は必ず精霊が見える。魔法は精霊の力だからだ」

「へぇ、、」

「アキラは精霊が見えるだろうとは思っていた」

「え?なんで?」

「んー。なんとなく」

 ふふ、とレオンは意味深に笑う。

「おい、起きてるんだろ?その下手なタヌキ寝入りはもういいぞ」

 ち、と舌打ちが小さな生き物の方から聞こえた。

 精霊が舌打ち???

「バレてるんなら、さっさと言ってよね!あたしがバカみたいじゃないの!」

 可愛い顔で、プリプリしながら精霊が怒っている。なにこれ。何この可愛い生き物。

「知り合い?」

「いや」

と否定するレオンの声に重ねて、精霊が「冗談じゃない!」と叫んだ。

「こんなやつと知り合いなわけないわよ!こんな悪道非道な最低人間と」

 本気で怒ってるっぽい。

「、、、レオン。この子に何をしたの???」

「何もしてない」

 呆れた声でレオンは呟く。

「知り合いではないけど、私はちゃんと知ってるわよ!貴方、精霊の力を無理やりとっていくでしょう!うっかり近くにいようもんなら、ボロボロにされるって有名よ」

「好きでやってるんじゃない。そういう性質なだけだ」

 レオンにしては珍しく、ちょっと憮然としながらレオンは反論する。

 私がわからない、という顔をしていると、精霊の子は、丁寧に説明してくれた。

「魔法はね、詠唱によって精霊が力を貸して、使うものなの」

 でもね、と精霊は付け加える。

「この男は、貸すだけじゃ足りず、勝手に奪ってもっていくの。魔法は精霊の生命力でもあるから、沢山奪われたら、大変なことになるんだから」

 それに対してはレオンも否定しない。

「あんたとは私は契約なんかしないからね!」

 叫んだ精霊に、レオンは、やれやれと頭をかいて、言った。

「契約は俺とじゃなく、こいつだ。悪いやつじゃない。保障する」

「この子に?」

 精霊は私の周りを回りながら、あちこち見てくる。じろじろと。

「できるだろ?」

 確認したレオンに、精霊はキッパリと言った。

「無理ね」

「?、、、なぜだ?」

 私より先に、レオンが驚く。

「私にはそれが何かわからないけど、この子には何か大きいものがついているみたい。それがいる以上、私は契約できないわ」

 大きいもの。

 何を言ってるかよくわからない。

 想像もつかなかった。

 ただ、なんとなく、それが私のこの世界にきた原因であり、理由な気がした。

 本当に、なんとなくだけど。

「てことは?」

 ふん、と精霊は鼻息を鳴らす。

「私との契約はできない。でも、その大きいものが精霊以上のものであれば、魔法は使えるんじゃないの?」

 確信は持てないけど、と精霊は付け加える。


 魔法が、私にも使えるかもしれないってこと、だ、と?

 青天の霹靂、だった。


   ********


「まずは気の使い方なんだ」

と、レオンは言った。

 精霊と別れを告げて、一旦宿に戻った私達は、質素だが拷問のようではない食事を食べながら、魔法の話になった。魔法が使えるようになりたい、という私に、レオンは面倒臭そうな顔はしないでくれた。そしておもむろに立ち上がって、説明しようとしてくれている。

 ほんと、意外と良い人だよね、この人。


 宿の外に出て、少し開けた場所にきた。もう夕日は山に沈みかけている。

「手のひらに『気』を集めるイメージを作る」

 レオンが自分の胸の前で、ボールを持つようなポーズを作り、目を閉じる。私も真似して、そのポーズを作ってみた。

「手に温かさを感じるだろう?」

「、、、そんな、気はする」

「次に、その気が全身を巡るイメージをする。指の先から足の先まで。巡る形は『∞』。一つ一つ丁寧に。おなかの中心を必ず通るように」

 メビウスの輪か、、、。

 私も目を閉じ、ゆっくりイメージする。

 指先から、足の爪先まで、じんわり温かさを感じ始める。

「それを繰り返す。慣れてきたら少しずつ早く」

 そのようにしてみる。

「体の気がそれで倍増する」

 ストップ、とレオンは手を打つ。

「これが、魔法の基礎だ。これができないと魔法は使えない。使えたとしても調整できない。調整できない魔法は危険だ。周りだけでなく自分自身も傷つけかねない」

「そう、、、なんだ」

 まだ体がじわじわ温かい。イメージを止めたはずなのに、むしろドンドン温かくなる気がする。

「とりあえずこれを練習して、慣れたら魔法の基礎の呪文を教えてやるよ。慣れてないのに魔法を使ったら危険だからな」

「、、、わかった」

 頷くと同時に、息が漏れた。

 熱に浮かされるように体が熱い。レオンもそれに気づいたようだ。

「大丈夫か?アキラ。顔が赤いぞ?」

「う、うん。でも、なんか、、、」

 大丈夫ではない気がしてきた。 なんだろう、これ。

 なんか、身体が、疼く。

 やばい。

「レ、レオン、、、助け」

 助けて欲しくて、レオンに手を伸ばした途端、私の手から、重力を帯びた丸い光が生まれた。

 ブゥワッっと。

 手が重さで一気に沈み、そこから発せられた風圧で私は後ろに飛ばされた。

「きゃあっ!」

 

 鍛えられたレオンの体は、かろうじて飛ばされずに堪えられたようだが、体を守るために防御した腕は、何か重いものでもぶつかったように赤くなっている。


 驚きを隠せない表情で、レオンは転がった私を見下ろしていた。

「アキラ。今、何をした???」

 ブルブルと私は首を振る。何もしていない。決して何も。

「わ、わからない。何もしてないよっ」

「レオンは私の傍に膝をつき、私の手を持ち上げようとして躊躇した。私の手からはもう何も発していない。光も重さも風も。あの耐え難い疼きも。

「見たことない力だった。重力系?すごい衝撃が」

「風、、、の魔法じゃないの?」

 少なくとも私は風圧で飛ばされた。

「風の力だけであそこまでの衝撃はないだろう。何か物が飛ばされてぶつかったならともかく、、、。そもそも、高位な魔術師でさえ、木が揺れ動く程度の風が限界だ。今のは、下手したら、、、。術者のお前でさえ、この状態だからなぁ」

 私の手を触るのを躊躇した理由がやっとわかった。驚きで痛みさえ忘れていたが、私の腕の付け根が、つまり肩関節が、変な方向に捻れていた。

「重さで手が沈んだ状態で、横に飛ばされたんだろう。肩が外れている」

 医術の知識もあるのだろうか、レオンは私の肩と腕を掴むと、ぐいっと力を入れて腕の位置を元に戻した。

 もんっのすごく痛かったけど。

 絶叫した私に、レオンは気にする様子もなく淡々と言う。

「自分の魔法は自分で受けても10分の1にも満たない力でしかない。それでこれだ。俺も、自分で言うのは何だが、鍛えている上、魔力防御の防具と魔法を使っている。これが、ただの人であったら怪我どころではすまなかっただろう」

 恨めしそうに睨む私を尻目に、レオンは踵を返した。

「お前の魔力は尋常じゃない上に、魔法の質さえわからない。これ以上危険な目に合わされるわけにもいかないから、とりあえず魔法のことは忘れて今日は休もう。明日は早く宿を出る。ゆっくり休めよ」

 肩が外れて戻した痛みがまだ抜けない私を労う様子もないレオンに、ちょっと肩を落としながら私はレオンのあとを追う。

 優しいんだか、優しくないんだか。

 はぁ、とため息が漏れた。


 その時、私は知らなかった。

 私達がいた広場の少し先にある何本かの大木が、根元から折れていたことを。

 レオンは思っていた。

 魔法の詠唱をしていない。それは精霊の力を借りていないことになる。

 精霊の言う大きな力というものが何かわからないが、人が使える魔力を大幅に越えた力を無意識にだしたこと。

 それだけの力を出したのに、肩を痛めたとはいえ、疲労をそこまで感じていなさそうなこと。自分を睨む余裕さえあった。

 あれだけの力を出せば、訓練をしていない普通の人間は意識を失うか、あるいは気が狂う。魔法とはそういうものだ。

 体の鍛練だけでなく、精神の鍛練がいる。

 気の使い方を少しずつ教えて、体と精神が整ったら魔法を教えようと思っていたが。

 土地に慣れていない少女だったから、のんびり旅をしようと思っていたが、これは急いで王都に行った方が良さそうだ。

 王都には、街全体に魔防の備えがしてあるが、この村にはない。

 万が一にも、この村を壊滅するようなことは、あってはならないのだから。

 

 魔法の基礎を教えたことをレオンが後悔していたことさえも、私は知らなかった。

 

 

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