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とある出会い

 私は水野昌。美術部所属の女子高生。

 髪はボブの黒髪。なぜならば校則が厳しいからであり、決して私の趣味ではない。


 優しくも厳しい両親のもと、勧められるまま、家の近くの女子高に入ってはみたけど、特に何も得るものはない日々を過ごていた。


 思い起こせば、前の日の夜。

 自分は何のために生きているのかを考えながら、美術部で描く題材を探してネットで検索していたような気がする。


「、、、だから何だって言うのよ」


 他に誰もおらず、自分で自分に突っ込みをいれるしかないこの状況。

 もう疲れはてて足も動かない。

 あの女の人が言う通りに真っ直ぐ歩いてきたけど、本当にこの方向で外に出られるのだろうか?

 そもそも、地上の位置からかなり落ちて地下にきたのに、登る気配はまるで感じられない。これはもしかしたら、地下をずっとさ迷っているだけなのではないだろうか?


 有害な毒が舞っているという話だったが、人や動物どころか、虫一匹見かけないんだけど、森の中でそんなことありえる?


 私は騙されたんだろうか。

 あの場所に居すわってた方が良かったんだろうか。今からでも戻れるだろうか?


 動かなくなった足をかばうようにして、私は後ろを振り返る。見えるのはきた道だけ。

 しかもだだっ広い広間みたいな場所を指し示された方向に歩いただけの、道という道ではないため、引き返したからとさっきの場所にたどり着ける自信はない。


 もう、体を起こしておく元気もなく、私は地べたに這いつくばって、横になる。

「喉が乾いた。お腹すいた、、、」


 思えば豊かな世界だった。

 蛇口を回せば水が出て、少しあるけばコンビニで好きなものが買える。最近、おなか空いたと思うこともなかったような。


「、、、水、、、」

 なんでもいい。とりあえず喉が潤せられるなら、多少汚れていても今なら飲めそうな気がする。雨でも振らないだろうか。

 川や水溜まり。

 いっそ、さっきのクッションの中の水でも。

「、、、みず、、、」

 朦朧としてきた頭の中は、もう水の事しか考えられなくなってきていた。

 水。水。水。みず。

 誰か、、、助けて。

 

 顔が、少し、熱い気がした。

 パチパチと小さくはぜる音が聞こえる。

 焚き火の音だ。小さい頃、お父さんが家族をキャンプに連れていってくれて、そこでしたバーベキュー。肉が焼けて、とても美味しかった思い出がよみがえる。


「目が覚めたか?」

 男の人の声が聞こえて、私はぼんやりとしながらも、ゆっくりと目を覚まし、辺りを見渡した。

 薄手の毛布をかけられて、目の前には焚き火と、その横で薪を火にくべている男の姿が見えた。


 随分と体が大きい。

 以前、お父さんの会社の後輩といって家にやってきた男の人。元ラグビーの選手だったという人は、とにかく見上げるくらき背が高くて体つきもがっしりしていたけど、その人と比べても大きい。太いという印象はないが、全身筋肉に覆われており、大人が何人か同時にぶつかっていってもびくともしなさそうな体をしている。細マッチョといえばいいのか。


 見方によってらグレイにみえなくもない茶色の髪を短く切って、顔立ちは目鼻立ちの彫りが深く整っており、顔だけなら爽やかなイケメンである。

(うん)

 私は大きく頷いてみる。


(どうみても外人だなぁー。)

 特に外人に対する偏見はない。

 しかし、やはり慣れた日本人と比べると多少抵抗がある。その理由の大半は言葉の壁によると思われるが。


「今、スープ作ってるから、もう少し我慢しろ」

 始め、気のせいかと思ったけど、やっぱりめちゃくちゃ日本語を話してるその外人に、私は飛び起きて頭を下げた。


「す、すみません。助けていただいたんですか?私、どうして、、、」

 倒れたのかと、言おうとして、

「いや、気にしなくていい。あんなところにいて、倒れない方がおかしい」

 小さな網の上に乗せた鍋の中を、グルグルかき混ぜながら、男の人はちらりと私の方を見る。


「、、、ここは、有害なガスがある場所なんだが、君は、何か訓練を?」

「訓練?いえ、特に何も、、、」

「どこから来たんだ?こんな場所まで、そんな軽装でこれるものでもなかろう」


 言われて自分の服を見ると、昨日の夜に着ていた部屋着のままだった。ラフなパーカーとジャージのズボン。とても山の中を歩く格好ではない。

「わ、私もわからないんです、、、なんでこんなところにいるのか、、、」

「、、、そうか、、、」

 呟いて、男はおもむろに立ち上がる。


 真面目な顔をして、腰から人の身長ほどある長剣を抜いた。

 そしてその剣先を私の前につきだしてきた。


「こんな場所にわからず来るものがあるか。姿を現せ、化け物よ」


 男は大きく剣を振り上げて、私に振りかぶった。


「ひっ!や、やめてください!私は人間です!化け物なんかじゃ、、、」

 男の剣幕はおさまらない。


「この猛毒の中、訓練もせずに長時間いれるはずがなかろう!小さい頃から少しずつ慣らし、それでも1時間おきに解毒剤を使わなければ死んでしまうという毒なのに」


 そんなに???そんな毒だったの?


「わかりません!私もなぜかわかりません!なぜか生きてるんです。でも私は人間です」


 倒れてからまだ時間が経っていないのか、体の疲れは全く取れていなかった。これもその毒のせいだろうか。もしかしたら、私はもう本当は死にかけているのかもしれない。


 必死な私の懇願に、男は少したじろぎ、剣を地面に突き立てて、代わりに私に何か水をぶっかけてきた。


「うるさい!姿を現せ、この化け物」

 顔からかかったそれは、ただ私の頬を流れていき、地面に滴った。


 少し口に入ったが無味無臭、、、。

 水なら飲ませてくれればいいのに。勿体無い。

 液体をかけられても平然としている私に、男はみるみる慌てて、私にタオルを投げつけてきた。


「本当に人間なのか?そんなバカな、、、」


「、、、なんですか?今の水、、、」

「聖水だ。化け物なら、変身が解ける」

 申し訳なさそうに私の頭をタオルで拭いてくるその男は、私を犬と思ってるかのようにガシガシと擦ってきた。正直、痛い。

「疑ってるなら、私が寝てる時にかければ良かったじゃないですか、、、」

 呆れた言い方の私に、男は少し拗ねる。

「人間だった場合、疲れて寝ている時にいきなり聖水かけたら失礼だろう」

「起きてからでも失礼ですよ」

「それは。、、、お前が怪しい言動をするから、、、」

「訓練しないで生きてたこと?そのくらいで」

「それだけじゃないぞ。そんな軽装でこんな深くまでやってこれて、しかもここにいる理由がわからないなんて、どう考えてもおかしかろう」

 まぁ、確かに。

 そこは認める。

「、、、落ちてきたんです。上から。たどり着いたらここでした」

「上から?」

「空から、、、です」

 言って、自分でも怪しく思えてきた。信じろという方がおかしいのかもしれない。


 私がしゅんとしだしたことに、男も肩透かしを食らった様子で、やれやれと焚き火の前に改めて腰をおろした。

「、、、化け物でなくとも、何が魔物の幻覚におかされたのかもしれんな。高度な魔法を使う魔物は、そういう幻覚をみせたり、記憶操作を行ったりするらしい」

「そう、、、なんですか?」

 記憶操作。

 そうなんだろうか。

 落ちてきたという記憶が?

 クッションみたいなものに助けられたことも?

 まさか、私の元いた今までの生活も、、、?

 ぶるりと首を振って、自分の想像を否定した。小さい頃からの沢山の思い出が、作られたものであるはずがない。

 まだ、今のこの状況が夢であるということの方が考えられやすい。


 夢。

 夢だ。これは。

「ほら、できたぞ。特製スープ」

 簡易的なカップに渡されたそれは、湯気が出ていって、とても温かそうだ。

「熱いから気を付けろよ」

「あ、ありがとうございます」

 地下であろうここは、とてもひんやりして寒い。部屋着のパーカーでは耐えられそうになかった。この人が毛布を貸してくれなければ、ガタガタ震えていただろう。

 私はカップを受け取り、そっと両手で握りしめる。カップから伝わる熱がじんわりと私を温めた。

「あったかい、、、」

 ほっとする瞬間だった。 

「いただきます、、、」

 丁寧にお礼をいって、私はそのカップの端に口をつける。男の人は、にっこりと笑って頷いた。

 しかしイケメンにじっと見られると、とても飲みにくい。あまりにじっと見てくるので、私は視線を少しずらして、スープを一口啜った。

 こくり。


「、、、、っ!!!!、、、まぁっっ」

 叫びそうになって、私は自分で自分の口を塞いだ。親切に作ってくれた人の前で言ってはいけない。

 しかし。しかしだ。

 驚くほどマズい。本当にまずい!

 苦いとかそんなものじゃない。香りではわからなかったか、口に入れた瞬間わかる、生臭い動物のそれと、口の中に広がる異質な刺激。スパイスとして入れられているのかもしれないが、とにかく、ただのスープで、これだけ悶絶しそうなものに出会ったのは生まれて初めてだ。

 え?これ、毒とかじゃないよね?

 目を白黒させながら私がその人の方を見ると、男は自分にもスープをついで、ゆっくりと味わって飲みだした。顔色を変えていない。冗談のものではないらしい。


 もう一度、私は自分の手に持ったカップの中のものを覗いてみる。

 見るだけですでに吐き気をもよおしてきたこれを、私はまだ飲まなきゃいけないのだろうか?

 お母さんから、人からもらったものはどんなものでも残してはいけないと教わって、それを今までは実行してきたけど、、、。


 やばい。本当に体がこのスープを飲むのを拒絶している。礼儀のために飲まなきゃと思うのに、手が硬直して全く動かない。

 手が痺れる毒が入ってるとかじゃないよね?

「なんだ?飲まないのか?」

 少し怪訝気味に男が私を促してきた。

 さっきまでただのイケメンだったこの男が、段々と悪魔に見えだしてきた。なにこれ。何この地獄のスープ。こんなの普通、人に渡すかな。

「あ、あの。このスープ、中身は何が入ってるんですか?」

 一応、軽く微笑みつきで尋ねてみた。スープを拒絶しているわけではないというアピールだ。

「中身?ただの水だと栄養がとれないから、そこらの虫とか動物を入れてるぞ。食えるやつばかりだから安心しろ」

 虫。動物。


 なるほど。道理でこの生臭さ。では、このスープに点々と浮いているものは、虫の死骸の欠片かな?あ。何かの触角みつけた。聞かなきゃ良かった。

「ほら、冷えるぞ。早く飲め」

 また促されて、涙が出てきそうになった。

 さっき喉が乾いて、飲めるものなら何でも飲むと思ったけど、これはナイ。こんなの飲むくらいなら死んだ方がいい、とまで思うほどくそマズイ。いやむしろ、このスープ飲んだら死ぬんじゃないだろうか?絶対やばい。このスープ。

「あ、あの、、、私、やっぱりまだ調子が悪いみたいで、ちょっとこのスープ、、、入らないというか、、、飲めなさそうな、、、」

 丁寧にお断りしようとしたら、男に睨まれた。

「何言ってるんだ。具合が悪いから飲むんだろ。体から水分も塩分も抜けてしまったら危ないだろうが。ブツブツ言ってないでさっさと飲め」

「いや、ほんと、そういうレベルでなく、、、」

「調子が悪いなら俺が飲ましてやろうか、ほら」

 ぐいっと手に持ったカップを手ごと掴まれて、無理やり口元に持ってこられた。うわ、臭い!

いや、臭い自体はあんまりないが、記憶が臭い!!

やばい、死ぬ!!!

 口に液体が入ってきて、私の舌が拒絶した。

「ぅぐぇっっ!!」


    ****


 わずかな風の音と、虫の声が耳に心地よかった。大きな木の根元に横たわった私に、レオンと名乗った長身の男は冷たい水に浸したタオルをかけてくれた。


 レオンがどう移動したのかはわからないが、かなり地下にいたはずだったのに、レオンが私を抱えてしばらくしたら、洞窟を横穴から抜けて、そこには草原の広がる森との境目だった。


「大丈夫か?」

 横になっている私の横に、簡易的なテントを張りながらレオンは心配そうに声をかけてくる。

 脱水状態だった私が胃から出すもの出したので、よっぽど体調が悪いと勘違いしてくれたらしい。

 確かに極度の披露と脱水で体調は最悪だったが、とどめを刺したのは間違いなくあのスープの味だ。今でも思い出しただけで吐き気がする。

「、、、平気です、、、」

 言ってみて、自分でも嘘臭いなと苦笑いがでた。きっと青白い顔になっているだろう。

 しかし、洞窟と違って、外は暖かく木漏れ日が私に当たるとポカポカする。


 傍ではまれにみる綺麗な顔が、黙々とテントを張っている。働く男の人って二割増し素敵に見えるなぁ、なんて、ぼんやり思う。

 ヨーロッパ系の人だとは思うけど、とても日本語が上手。日本に住んでいるんだろうか。いや、あの空からみた景色は決して日本ではない。アフリカのサバンナのようだった。

 私は少し頭を浮かす。

「あの、、、」

「まだ寝ておけ。ここに長居はしないからな」

「はい、、、」

 一面草原の世界。確かに近くに町などがあるようには見えない。

 レオンが何者かわからないけど、しばらくは一緒にいてくれるようだった。この先どうなるかはともかく、独りより断然ありがたい。

「、、、ここは、どこですか?」

「ここか?そうだなぁ、ここに名前はないからなぁ。魔の森の入り口とでも言うしかない」

 魔の森。

 ロールプレイングゲームのような安直さ。

「地域の名前も?国とか、、、」

 レオンは不思議そうな顔をしながら、森を背中にして広大な草原の方を指差した。

「少しいけば、ローライスの地域に入る。ローライスの国はイリスだ」

 ローライス。イリス。どちらも知らない。

「ここは、世界でも特別な場所だからな。名前をつけることが許されていないんだ」

「聖なる場所とか?」

 ちらりとレオンが私を見る。

 何か言おうとして、その言葉を飲み込み、代わりに「ある意味な」と呟く。

「さて、アキラ。お前に問いたいんだが」

「はい」

「どうもお前はこの土地に詳しくなさそうだ。はじめは疑ったが、とぼけているわけでもないことはわかった。」

 何を疑われてたかは知らないが、誤解は困る。

「とぼけてなんて」

「わかってる。お前は一人ではとてもこの先厳しいだろう。だからこそだ。、、、お前はこれから、どうするつもりだ?」

「、、、え?」

「俺は群れるのが嫌いだ」

 レオンは私の前にしゃがみ、私を見下ろす。しかし、その瞳は真摯に見つめる。

「以前は軍に所属していたが、どうしても性に合わなかった。今はフリーでやっている。この場所に疎く、記憶が曖昧で、体調も優れないアキラを捨ててまで旅を続けるほど極悪人にもなれないが、このままずっと一緒というわけにもいくまい」

 確かに、と思う。

「そこで聞きたい。アキラはこの先、どうするつもりだ?」

「、、、どうって、、、」

「目的はあるのか?進む道は」

 聞かれて、弾けた。

「ーーー帰りたい、、、」

 涙が、一筋こぼれる。

「帰りたい。帰りたい。元の世界に」

 ここがどこかわからない。

 なぜここに来たのかもわからない。

 地球かもしれないし、異世界かもしれない。

 どちらにせよ、きっと簡単には帰れないだろう。あまりに知らない土地すぎる。

 私は、地味で特に取り柄もなく、たいした友人も好きな人もいなかった。

 平凡な毎日。何一つ得るものはないと思ってた日々。生きている意味を考えていた。

 でも。心から思う。

「ーーー帰りたい。帰りたいよぉ、、、」

 込み上げたものは治まるどころか溢れていく。

 ずっと我慢してたこの気持ち。せめて自分だけには負けてはいけないと。

 言葉にしたら、心が折れそうで。

 でも、私はやっぱり、、、。

「帰りたい。ーーーそのためなら、何でもする!」

 上体を起こし、レオンの腕を掴んだ。

 涙は止まらないけど、言葉にしたら、心は決まった。

 そうだ。帰ろう。あの場所へ。

 来たんだから、帰れるかもしれない。希望は捨てたらダメだ。

 レオンをじっと見たら、レオンは少し驚いていたが、急にふっと優しく笑った。

「ーーーそうか。わかった」

 くしゃりと、私の短いボブの髪を撫でる。

「その目ができるなら、安心した。では俺はその手伝いをしてやろう」

 レオンを見上げる。

「方法があるの?」

「ないわけでもない。眉唾に思えるかもしれんが、イリスの街に有名な占い師がいる。かなりの人気のため占ってもらうのにだいぶ待たないといけないらしいが、俺はヤツとはちょっとした知り合いでな。そこまで待たずに占ってもらえるだろう」

「占い、、、」

 占いって、あの占い、だよね?

 突然でてきた単語に、少し不安を覚える。

 確かに今の私の状況じゃ、それしかないかもしれない。自分がなぜここにいるかも、どこにいけばいいかもわからない。住む家もなければ食べ物さえ保障してもらえない。知り合いもレオンしかいない今、少しでも道しるべが欲しい。

 それはわかる。

 だけど、、、占い、、、かぁ。

 ーーー騙されたり、、、しないよね?

 

 

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