Begin of MONONOHU period
不思議な事件、怪奇現象といっても過言ではない、が目立つようになったのはおよそ一年前からである。八百万の神の国日本では太古の時代より不思議な現象というものは存在していたが、それらは押しなべて伝説の類、自分を大きく見せたいがための誇張、人を寄せ付けないための策略、口頭で伝わる過程で尾ひれがついたり、あるいは目撃者の見間違いだったりする。だが、最近の現象はそんなものでは説明がつかない。なにしろ目撃者が多すぎるのだ。多少人口が減ったとはいえ、もはや平安時代でも江戸時代でもない。説明不能な現象の証言者は数と進歩した科学技術に裏打ちされている。
「台湾でも話題になっているぞ。日本は神話の国に戻ったのか、ってな」
ヒロトが言うには、怪奇現象は日本でしか見られていないという。台湾はじめ、海の向こうでは普段通りの科学の世界が広がっているという。
「確かに不思議なことだけど、幸いにもそれで死ぬとかいうことはなさそうだがな。さすがに驚いたけどな。西から無数の生首が飛んできたときは。将門の時代が戻ったのかもな」
ぼくは笑いながら答えた。件の動画は世界中で拡散されている。
「最初はCGか何かだと思ったよ。でもシロウもほかの人もその目で見ているなら信じるしかないな。俺が戻るときには起きないでほしいよ。そのうち行方不明者が大行進するかもな」
相変わらず冗談めいた風に物事を言いやがるな、ぼくはそう思った。
ヒロトとの会話はそんなところで終わった。世界から見て、日本はもう神秘的な国としか見られていないのだろう。経済大国だったという数十年前が見てみたかった、そう強く思った。
だが、やはり疑問が残る。なぜこの現代の日本でそんな現象が起こるようになったのか。ぼくは一人気になって調べていた。すると、興味深いことが分かってきた。あの頃は混乱で人々が気づくことができなかったが、この現象は大震災後から起こっていたのだ。この怪奇現象はいったい何を意味するのだろうか。