From the catastrophe
あの未曽有の大災害から数年、日本はかつての国力を完全に失っていた。もともと減少していた人口は被災でさらに拍車がかかり、今では8000万人台に入ってしまった。上流階級は税率のいい国々、タックスヘイブンへ移住してしまった。結局、人間は自分のことしか考えていないのだ。移住することもできない人々はこの劣悪な環境で暮らすことしか選択肢がない。金はすべてではないが、金があると選択肢は多い。なければ現状から逃げることはかなわない。この国に残ったのは少数の愛国者と大多数の貧民のみである。
ぼくは幸いこの状況で一財産築くことができた。あの災害で日本円は暴落してしまった。災害後回線が復旧したらすぐにドルに替え、ある程度したらそれを日本円に両替。今後の生活がどうなるかわからないときにお金を手放すのは不安だったが、結果かなりの額を稼ぐことができた。その資金をもとに海外から様々なものを輸入。「中流階級」が面白いように買ってくれた。思うに、あの程度の人間は自分が置かれている立場を客観的に見ることができないためか、震災後も元の生活レベルを維持するのに躍起になる。そこで「中流階級」の皆さんへ紹介し、購買意欲をあおったら飛ぶように売れていった。ほとんどが「一見さん」になってはしまったが、資金があればあとは金に働いてもらえばいいのだ。これは資本主義になってからの世界の常識である。
ただ、ぼくの目的はお金稼ぎではない。金はかなりたまった。普通の人間であれば、(資本家にとって)暮らしやすい国、例えばシンガポール、にでも移住するだろう。だがぼくはこの国にとどまっている。つまるところ、ぼくは「愛国者」なんだろう。
ペーパーとは言っているがもはや紙ではないニュースペーパーを読み終え、夕食を取ろうとしたとき、電話の着信がなった。ヒロトからであった。
ホログラムが起動し、ヒロトの全身が浮かび上がる。
「久しぶり。元気にしていたか?」
ヒロトの笑顔が映される。目元にはクマがうっすらと見え、疲労の様子が見える。
「ああ、そっちはどうだ?今はどこにいるんだ?」
「俺は今は台湾だ。三年間は台湾生活が続きそうだよ」
ヒロトはあの震災を生き延び、予定していた外資のフィナンシャルグループに就職できた。一時は就職なんてどうなるかと思ったが、日本籍ではない企業なので影響は最小限に済んだという。就職で日本を離れられたのはラッキーだと語っていた。ヒロトが続ける。
「来月は日本に戻ろうと思うよ。ゲンジの墓参りもしたいしな」
「そうか。もうそんな時期なんだな」
ゲンジはあの震災で行方不明になってしまった。遺体も見つからず捜索は打ち切られてしまったのだ。彼の墓には彼の骨はなく、好きだった本が埋められている。
「日本は今どうな感じだ?前より治安が悪くなったとカオルから聞いたが」
「確かにいいとは言えないな。ホームレスとか暴徒もそうだし、あとは…」
「なにかあったのか?」
「ああ、不思議な事件が多発している。説明のつかないような、そんな事件が」




