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着火

「よう、シロウ!久しぶりだな」

聞き覚えのある声にシロウは振り向いた。この声は中村ヒロトである。小中高、そして大学と一緒の腐れ縁である。もっとも、今の学年は一つ上だが。


「久しぶりだな。就活はどうだ。そろそろ決まっただろ?」

「ああ、一応決まったぞ。外資の会社にな」人懐っこい笑顔でヒロトは答える。

「そうか、それはよかった。ゼミにも来ないで就活した甲斐があったな」

 なんのとりとめのない会話、大学生には気が気ではない会話だが、を済ませる。俺から見てもヒロトは優秀だ。外資の大手に決まってこちらも一安心だ。の本の国力が低下している今、安泰なのは結局「他国」なのだ。

「就活終わってよかったじゃないか。これであとは卒論だけだな。結局卒論は三島由紀夫で書くのか?」

「卒論の話はやめろよ。せっかく就活が終わったんだ。パーっと飲みに行かないか?来る来年に向けてアドバイスしてやるからさ!」


 もう飲んでるんじゃないか?そう疑うくらい興奮してヒロトは答えた。まあヒロトの喜びようも合点がいく。現在、外資に行ける人間はごく一部のエリートなのだから。ファーストキャリアとしては文句のつけようがない。


「ああ、わかったよ。でもお前のおごりな」彼の誘いを快諾し、次の講義の教室に向かう。

 ともかく、ヒロトがいいところに決まってよかった。幼馴染の一つの成功にぼくは胸をなでおろした。会社も国に代わるひとつの帰属意識の場となるだろう。利害の一致している分、国よりも強いのかもしれない。


 そう思いながらも、シロウの心は晴れないでいた。『売国奴』そんな言葉がふと頭によぎった。

 なにを思っているんだ!ヒロトのことは祝福しなければいけないだろう!そう心に言い聞かせる。このご時世、大学生なら誰もが外資を目指す。そんな流れの逆らうことはできない。それが一番合理的なんだ。


 たとえ国が亡ぼうとしてもだ。

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