序章 戦国の未来 その2
冒頭の場所の記述の部分、別の構想をしてた時に書いた「南アルプス」が残っていたのをそのままにしてて、直すの忘れてたので修正しました。
申し訳ないですm(_’_)m
那須高原の東端の地点。宗像軍は、千振湖畔に築いた千振城に陣を構えていた。
「真船城からの無線連絡はまだ入らんのか!」
千振城の司令官が、本陣において通信係りにそう怒鳴ったところで、城内に早馬で駆け込んでくる兵士があり、本陣の直前で飛び降りるように馬から離れると、開け放たれた引き戸の入り口から転げるように中に駆け込んで来た。
「報告!ついに、鷹野軍が我が領地に侵攻し真船城を攻撃してまいりました!」
駆け込んで来た兵士は息の上がった様子で、目の前にいる司令官に報告した。
「くそっ!やはりこちらに矛先を向けて来たか!」
司令官は、吐き捨てるように言った。
「真船城から脱出できた兵の報告によりますと、敵は突然、真船城を奇襲。敵兵力はおよそ三百でありましたが、初動で城門が粉々に破壊されて敵兵の侵入を許し、わずか1時間ほどの戦闘で守備隊八百は全滅したとのことです。それほど早く侵入を許すとは予想していなかったため、通信施設にも簡単に侵入を許し、連絡する暇もなく機材が破壊されたとのことです!」
「なんだと!そんなばかな!あの城の城門は、厚さ五十センチの樫の木でできているんだぞ!」
「将軍、やはり時王の破壊力が噂通りだったということでございましょうか」
すぐ右脇に片膝をついて控えていた、参謀長が言った。
「くそう、まずい、まずいぞ。これほど簡単に一城が落とされるとは。当家始まって以来の最大の危機だ」
「城を占拠したのち、籠城していたわが軍の生存者をすべて捕虜として連行し、三十名ほどの兵を残して引き上げたそうです」
伝令は言った。
「まずは様子見、いや、意思表示の挨拶代わりということか。ちい!」
司令官は語気を荒げて言った。
その夜、日付が変わりそうな時刻に本拠地である松山城の本陣にていらつく宗像家当主、宗像大二郎は、対策を協議するため、代々宗像家に仕える宗像家の重鎮である齢八十を超える笹山次利を呼びつけていた。
宗像大二郎は、まだ三十二歳であったが、十代半ばから戦場に出て多くの武勲をあげ、大胆な行動力と勇敢さを持ちながら智謀にも長け、いくつもの戦場で見事な指揮統率力を示して宗像家史上最高の当主であると評判を持つ者であった。身長は百七十センチをわずかに超える程度であったが、鍛え上げられた鋼のような体を持っており、その胸板の厚さは普段着にしている甚兵衛の上からでもわかるほどだった。
「失礼いたします」
「おお、笹山か。入れ」
声のした襖の向こう側に向かって苦々しい顔でぶっきらぼうにそう言うと、入ってきた笹山に向かって、大二郎は顎で自分の目の前にある座布団を指し示した。
笹山は、静かに入口の襖を閉めると、座布団の上に胡坐をかいて座った。
部屋は、大二郎の私室で、大二郎は床の間に背を向けて厚い座布団の上に座っていた。
「まさか、魔性の刀がもう一振りあったとはな。これで、橘家との同盟話は消えたな。非常にまずいぞ」
大二郎の顔には、疲れと苦悩が見えていた。
「はい。由々しき事態でございます」
笹山はそう言うと、さらに続けた。
「捕虜に尋問した内容の報告が入りました。別々の戦場で両方の刀の威力を目撃した者が数名おりまして、その者たちの言によりますと、時王は周りのものを数十メートルの範囲で吹き飛ばし、刀悟は周りのものを数十メートルの範囲で切断するのだそうです。時王にやられた者は、頭部破壊、内臓破裂、背骨や肋骨を含む複数個所の複雑骨折等の損傷を受け、多くの者は命を落とすとのこと。
刀悟に切られた者は、胴体や首が恐ろしいほど見事に切断されてしまい、これも、ほとんどの者が助からないとのこと。両の刀とも数分間の戦闘で数百体の敵兵士を戦闘不能にするため、兵士たちはあっという間に蹴散らされて、対峙した部隊はすべて背走に継ぐ背走となっております。
そして、もっと恐ろしいのは、どうやら両の刀とも使っている者の意思が乗り移っているらしく、振るわれた範囲内にいても、味方の兵士は全く損傷を受けないとのことです」
「そんなばかな!それはさすがに見間違いであろう!」
大二郎は驚きの声を上げた。
「はい、私もそう思い問い詰めましたが、話を聞いた兵士の中に鷹野家の捕虜もおりまして、その者は、実際に鷹野紫燕が時王を振るった場所から数メートルのところに立っていたそうですが、自分は何ともなかったのに、その前後左右にいた橘家の兵士はみな、体が変な方向に変形して口から血を吹き出して絶命したのだと申しております」
「まさか!にわかには信じがたい!」
大二郎は吐き出すように言った。
「それからもう一つ、刀悟に切られた者の何人かは、代刀を通さない防具を着用しておりましたが、その効力は一切無視されて体もろとも切断されたということです」
「なんと!・・・それが事実ならば、そんなものをどうやって防げと言うのだ!」
「はい。大変に憂慮すべき状況になってまいりました」
そこで、大二郎の屋敷の使用人が、ポットと急須に茶碗を二つとおにぎりを4つ運んできたため、一旦言葉を切った。
「長い話になるかもしれんから用意させた。腹が減ったら遠慮なく食え」
使用人が退出すると大二郎が言った。
「お気遣い恐れ入ります」
笹山は頭を下げた。
「しかし、想像以上に恐るべき力を持った刀たちだな。何か対抗手段はないのか!」
「両の刀とも魔力と言って良い常識では考えられない力を発揮しておりますゆえ、それ相応の魔力に対抗できるような力を持った刀でないと難しいかと思われます」
「魔力に対抗できる刀だと?例えばなんだ」
「酒呑童子を切ったという伝説のある童子切安綱、もしくは、雷様を切ったと言われる千鳥のような刀でございましょう」
「ああ、なるほどな。確かにそれらの刀であれば、何がしかの妖力を備えているだろうからな。しかし、今の時代には古来の日本刀ほどの切れ味と耐久性を持つ刀は貴重だから持ち主がそれを手放さないだろう。第一、それらの日本刀は各家の当主か将軍クラスが持っており、めったなことでは使わないしその素性を秘匿するから誰がどんな刀を持っているかはほとんど不明だ。しかも、童子切安綱は国宝だった刀だ。もし、所在が分かったとしても、そんなものを譲ってくれる酔狂な者はおるまい」
「はい、そうでございますな。当家にも何振りか古来の日本刀はございますが、残念ながら、そのような伝説を持つものはございません」
そこで、少し沈黙が流れた。
「しかし、あの二振りは誰が何の目的で造ったものなのだ。どうして、あのような恐るべき力を持っているのだ。笹山!もっと情報はないのか!」
大二郎は笹山に向かって怒鳴るように言った。
笹山は、そこでしばらく間を置くと、しっかりと大二郎を見据えたまま静かに言った。
「ついに、あの二つの刀についてお話をする時が来たようです」
「なに!?」
笹山の予想もしない言葉に、大二郎は驚き、思わず笹山を睨み付けた。
「きさま、あの刀たちの素性について何か知っているのか!?」
その問いかけに対し、一旦、目を瞑り、短く息を吐いてから笹山は答えた。
「笹山家には、二つの魔性の刀が出現し宗家が危急となった折に宗家の当主にのみ話せとの命で、先祖から伝えられてきた一つの物語があります。その物語は、いくつかの不思議な事件を含んだものでありますが、笹山家当主となった人間は、誰一人、その内容を疑わずに自分の子へと伝えてまいりました」
ここで、笹山はいったん言葉を切ったが、また一つ短く息を吐くとさらに言葉を続けた。大二郎は、笹山の顔を見据えたまま、無言で笹山の言葉の続きを待った。
「実は、刀悟は時王に込められた想念を受けた者が造った刀で、この二振りは親子、または兄弟と言える関係にあるのです」
と、笹山の口から驚くべき言葉が語られた。
「なんだと!」
大二郎は思わず聞き返した。
「この二振りの刀には、私の先祖が深く関わっておりまして、その経緯は、その時が来るまで決して他言してはならぬということで、一子相伝で口伝されて参りました」
「では、お前はあのような能力がある刀が二振りあることを知っていたのか」
「強い想念の込められた刀が二振り存在することは聞いておりましたが、今まで誰も使えるものがいなかったことに加え、核戦争の前から長い間その所在が不明となっておりましたので、その能力については知りませんでした。おそらく、このたび初めて本来の力が発現したのだと思われます」
「ふうむ。で、その話というのはいつごろのことだ」
「二十世紀後半、昭和の中期から始まりますので、かれこれ三百年ほど前になります」
「なに!?俺はてっきり江戸時代より前の戦国時代の話かと思ったぞ。そんな平和な世の話とは意外だ」
「はい、それはある程度正しくもあります。ことの発端は、戦国時代から江戸時代にかけての話でございますので」
「やはりそうか。しかし、そんな昔の話を口伝していたのでは、途中で間違った内容になって伝わっているのではないのか」
「十歳のときに父から伝えられ、暗記するまで何度も聞かされた上、忘れないように年に何度も復唱されられました。私の父も祖父もそうだったと申しておりましたので、その心配はございません」
「そうか。では、聞かせてもらおう」
「相当に長い話で、すべてお伝えするのには数時間を要しますが、今からお話ししてよろしいでしょうか」
「構わん。その話を聞かんことには、今の状況への対策も何もないからな」
「承知いたしました。では」
そこで、一口茶を飲んでから、笹山は語り始めた。
「かつて、私の先祖に骨董品の問屋を営んでいる者がおり、その者が出入りしていたとある古美術商の家の床の間に何十年も飾られたままの刀があったそうです。わが先祖は、ただの一度もその刀が抜かれているのを見たことがなかったこともあり、その存在がずっと気になっておりましたが、その古美術商は同業者が一目置くほどの古くからの家柄で組合の長を長年努めて来た家であるため、聞くことを憚っておりました。しかし、ついに耐えかねて、その家の使用人にどのような刀であるか聞いてみたところ、不思議なことにずっとそこに飾られているだけで、刀を抜いて手入れというものをしているのを見たことがないということでした。その当主は売り物の刀剣については念入りに手入れをする者だったので不思議に思い、その古美術商の屋敷を訪れ、刀が飾られている居間に通されたあるときに、ついにその刀について当主に尋ねてみました。そうしたら、予想もしない不思議な話を聞かされることになったのでした」
笹山次利の口から語られたのは、昭和の世に時王が現れたことに発端を得た、実に実に長い物語であった。
未来のお話は、一旦ここで終わり、次回からは昭和の時代に移ります。




