就職戦隊ヒキコモリジャー
私の名前はジョン・スミス。以前はとあるグループの構成員として世界を相手に闘いの日々を過ごしていたのだが、つい最近そこを追われてこの街に流れ着いてきた。
そこでの私はコードネームを山田太郎と名乗り、毎日通達されるグループからの指令を受け様々なミッションをこなしていた。私が受けた任務はいつも滞り無く万事抜かりはなかった。ところがある日、不穏な気配を感じ取った私はひょんなことからグループの陰謀を嗅ぎつけた。
私は、次の作戦で自分がグループの仕掛けた罠の餌にされる。そう、捨て駒にされることを知ってしまったのだ。
私は次の任務が通達される前にグループを抜ける為に、先手を打ってグループに向けて対ショックの技を仕掛けた。しかしそれは読まれていたのだろう。まんまと嵌められた私は汚名を着せられ持てる力を全て搾り取られた後にグループが発令した超壊面ショックをもろに浴びせられて、気がつけばグループの外に排除されていた。
プレイグランドの鎖に吊るされたベンチに腰掛ける私。ここに来てしばらくは共に過ごした仲間に見捨てられた絶望感と、仲間たちに嘘を吹き込み私を罠に嵌めたグループに対する憤りに意識の大部分を支配られていたが、少し時間が経つとそれも消えて、今は新月の日の、風の穏やかな夜に訪れる海のような静けさを自分の中に感じ取っていた。
振り返ってみれば、あのグループで過ごした日々には良い思い出の一つも無かったのだ。毎日13時間、休む間も無くひたすら闘いに明け暮れる日々。身と心をすり減らして得られるものは僅かばかりの成功報酬と上前を掠め取っていく攻敵機関からの通知書だけ。ああ、私にはこんなにも、あの場所に対する執着心がなかったとは。一体、今まで積み上げて来たものはなんだったのか、そう考えるだけで目頭が熱くなる。もう、私はこのまま消えてしまっても構わない。
「おじちゃん、なんで泣いてるの?」
どこまでも広がる青い空に向かってひとしきり涙を流して満足した後、正面に視界を戻すと知らない子供がそばに来ていた。
「ん? ああ、なんでもない。ちょっと太陽が眩しかっただけさ」
「ふーん、変なの」
子供はそう言って隣にぶら下がってる、よく揺れるベンチに腰掛けた。子供が屈伸運動を繰り返すたびに前に後ろにスイングする板切れのベンチ。そう、私にもこんな無邪気な頃があったものだ。間接的にだが、この子達の日常を守るために戦っていたのだと思えば、あの辛く悲しい記憶に沈んだ日々にも意味はあったのかもしれないと、少し前向きな気持ちになれた。
ふと、親御さんと思われる女性が少し離れた場所から私をジッと見ていた。きっと戦闘服のままで子供向けの遊具に腰掛ける私の姿を怪訝に思っているのかもしれない。ここは空気を読んで立ち去るのが大人の対応なのだろうが、今は全てがどうでも良く、ここは童心に帰って我を忘れ新しい自分に出会いたいところだった。
私は隣の子供と一緒になってブランブランしてみた。おじさん楽しいね、なんて無邪気に笑われると本当に楽しくなって夢中でベンチを揺らし続けた。身体が軽い、こんな気持ち初めて。私は闘わなくて良いんだ。もう何も怖くない!
「あのー、すみませんね。ちょっと遊具から降りてもらえますか?」
迂闊だった。気がつけば私はグループとは非協力的関係にある攻敵機関、K-32のエージェントに囲まれていた。分からないが、多分この近くのどこかに息のかかった者が潜んでいたのだろう。私一人無防備で佇んでいるのを良いことに支援要請No24を発動したと推測する。く、こんなところで捕まるわけには。
私は拉致されて機関の尋問を受けて喋れる情報は洗いざらい吐かされた。情報を流したのは子供の母親。彼女の視線には私が受けた仕打ちをなんとなく感じ取ったかのような憐憫が込められていた気がしたのだがきっと私を油断させるための作戦の一環だったのだろう。おのれ、これ以上俺から何を奪おうというのか!許せん、この恨みははいつか絶対晴らしてやるからな。
なんとか機関の連中を煙に巻いて尋問をやり過ごすと夕方を過ぎてようやく解放された。しばらくはあのプレイグランドには近づくなと警告を受けた、機関の勢力図は一体どれほどまで広がっているのやら。所詮元グループの末端構成員では計り知れない程に奴らは深く潜んでいるのだろう。私はあまりにも無力だ。
力が、力が欲しい。全てを覆すだけの、この怨嗟を、血潮を燃やす怒りを鎮められるだけの、強力な力が欲しい。
「それが、あなたの望みですか?」
「?!、何者だ!」
「おっと失礼、私は機関、ローワクーハに所属しております面接官の如月と申します」
「ローワクーハだと?聞いたことがある。世界の闇に対抗できるだけの人材を斡旋して数多くの組織に間者を紛れ込ませ統制を行なっているという、あの」
「おや、お詳しい。そうです、そして貴方にもどうやら目的があるようだ。どうです?その怒り、私と共に世界にぶつけて見ませんか?」
「よくもまあ口が回る。私は知っているぞ、貴様らの背後にいる怪人、ショックアーンはそうやって人の弱みに漬け込み都合の良い戦力を作り出しているのだろう? ふん、だがまあ良い。そこに行けば力が手に入るのだろう?やってやるさ、たとえ悪魔に魂を売り渡してでも、私にはこの復讐を遂げなくてはならない」
「ふふふ、どうやら私の目に狂いはなかったようだ。良いですね、ついてきてください。まずはこれからあなたには私が紹介する組織にレジュメをばら撒いて組織の注意を逸らしつつ戦功会を勝ち残って貰います。優秀な戦績を残した者だけがインタビューを受ける権利を勝ち取ることが出来ますが当然あなたにはこれを得ていただく必要があります。まあこれは試金石でもあるのですがね、あなたが本当に遣れるか、そこを見極めさせてもらいます。そして本題はここからで、インタビューでは出来るだけ多くの時間を稼いでもらいます。その間に我々が様々な工作に取り掛かるのですが、あなたはまずは戦功会に出場し、優勝してもらいましょうかね」
「いいさ、私をその気にさせたことを後悔させてやろう」
「おっと、言い忘れるところでした。貴方にはチームを組んで頂いて、その上で作戦を完璧に遂行していただく必要があるんですよ」
「なに、チームだと?何を寝ぼけた事を」
「出来ない、とは言わせませんよ? かつてグループを率いるリーダーっであった貴方です。賞賛は充分あります。ただし、チームメイトはろくに集ショックも扱えないような愚物の集まりですがね」
「なっ!?」
「チーム名はヒキコモリダー。全員が未だ組織への所属がない、面の割れていない者ばかりですがレジュメの情報に謎が多いんですよね。このままだと組織に警戒され戦功会で消される可能性が高く諜報員としては使うにはどうにも心ももなくて。なので彼らを元グループリーダーである貴方に任せたいと」
「私はもう、誰も信じない。それでも構わないのであれば」
「では、問題ありませんね。
それで、メンバーなんですが、やる気だけは十分なレッド。些か卑屈なところがあるブルー。警戒心が強いイエローにお色気担当のピンク。やや高圧的なところが目立つホワイトと、最後に自然大好きなグリーンがいます。そうですね、貴方にふさわしいカラーは」
「私は誰にも染められない。私はブラック、今日から私は、ブラックだ」
「いいですね、あなたにピッタリの名だ。かつてのマシドナルドや死す郎、殺スキ屋などで伝説を残したその腕前、しかと拝見させて頂きますよ」
私は、いや俺は今日からブラック。ヒキコモリダーブラックだ。
~次回予告~
ブルーカラーとは違うのだよ
公正取引委員会から来ました
…実はあと2回の決済を残している
俺はこの事業、内臓を担保にターンアラウンドだ!
何をやっているんだピンク、さあ早く、ハニートラップを使え
この俺が、クビに、だって?
諦めないでホワイト、お前のブラックカードで最後まで現金化すれば勝てるんだから。
次回、ホワイト、闇に飲まれる。
さーて、来週もぉ、サービスオーバタイム!
※ この小説はヒキコモリ22歳独身男性がヒーローショーの助っ人として身内に強制召喚された結果ピンクの中の人をやる羽目になりベルトの効果でTSしてしまう作品をもとにしておりますん。