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7……ドラゴンの娘

 しばらくして目を覚ましたマリアは、傍に付いてくれているメイドに気がつく。

 そう言えば、デュアンリールにスープを食べさせて貰っていた間に、肩にストールや、あれこれ世話を焼いてくれていた二人を思い出す。

 確か、リナとレナ。


 リナかレナか一瞬迷ったが、アメシストの瞳の少女の為、


「レナさん……ですよね?」


 少しかすれた声で呼び掛ける。

 マリアの様子を見ながら、ドレスか何かの仕立て直しをしていたレナは、針を止め微笑む。


「マリアさま。レナで結構ですわ。でも、よくお分かりになられましたね?」

「さっき、アメシストの瞳がレナさん……レナだって伺ったから。綺麗な瞳ね。夕闇にけむる空に一瞬だけ現れる色。私は、その色大好きなの」

「……気持ち悪くはありませんか?」

「何で?私の髪の色の方が気味が悪いって言われたわ。それに、父には口うるさい。母には可愛いげがない。双子の弟には嫁の貰い手がないって。3人にはそんなに痩せて、ダイエットしなくても良い。もっと食べろ。でなければその平凡な、目付きの悪い顔では貧相でデビュタントが恥ずかしい……って。食べるものがないから食べなかっただけ。それなのに笑われたわ」

「マリアさまはお綺麗でしゅわ!瞳の青は海の色。髪は鮮やかな緋色。瞳は違いましゅが、王妃さまと同じ髪でしゅわ!美しいでしゅ!……あっ!」


 口を押さえる。

 双子の姉のリナは大人びていて、そつなくできるが、レナはそそっかしい。

 それでも、縫い物の腕はそれなりで、今はまだ本調子ではないマリアの為のワンピースとして似合いそうなのを奥様とメイド頭とリナと選び、自分がほどいて直している間に、リナは身の回りのものを集めている。

 舌ったらずのしゃべり方は、直そうとするのだがどうしても焦ると出てしまう。

 半泣きになる。


「も、申し訳ございましぇん……」

「大丈夫。レナは頑張っているもの。私なんて……そんなに上手に縫い物できないわ。それに、リナは冷静そうでいて優しいし、アリアさまが二人にお願いしてくれて本当に嬉しい」

「マリアさま……」

「あ、あのね?レナ。少し喉が乾いたの。お水を貰えるかしら?」

「あ、はい!体を起こされますか?」


 体を起こすのを支え、水差しから水を注いだグラスに、ストローを添えて持ってくる。


「ストローでどうぞ」

「あ、ありがとう」


 マリアは口をつける。

 すると、ほのかに爽やかなハーブとシトラスの香りが広がる。


「おいしい……」

「良かったですわ。もう少し飲まれますか?」

「えぇ」

「あ、そうでしたわ。先程、奥様とデュアンリールさまが少しでも食べられそうならと、クッキーなどのお菓子を作られたのですわ。食べられますか?」


 差し出されたのは、お菓子の山のかご……。

 クッキーだけではなくマドレーヌやバウンドケーキ、そして色々な色のマカロンもあり、無意識にピンク色のマカロンに手を伸ばす。

 そして、口に運ぶと、ホロホロと崩れるものの甘く優しい味に、


「ベリーの味……?」

「えぇ。そうですわ」

「おいしい……。作って下さったアリアさまとデュアンお兄様に、お礼を言わないと……」


ゆっくりと一つ食べ終えると、つい目が動き、


「マドレーヌを食べても、大丈夫かしら?」

「もちろんですわ。奥様が喜ばれますわ」


渡されて、口に運び、バターの香りがフワッと広がる。


「……おいしい……。こんなにおいしいなんて……」

「奥様やデュアンリールさまは、本当に仲が良くて、お菓子作りを一緒にされていますの。私達にも良く作って下さるのですわ」

「レナも食べる?」

「いえ、後で戴きますわ」

「でも、一人で食べるのも……」


 言いかけると、控えめなノックがして、


「失礼致します……あら、マリアさま。目を覚まされましたのね?良かったですわ」


水色の瞳のリナは何かをもって近づいてくる。


「あ、リナ……ありがとう。さき、目が覚めたの。レナにお水を飲ませて貰って、お菓子を」

「そうなのですね。笑顔になって……」

「あのね。リナ。レナと私と一緒にお菓子食べない?アリアさまやデュアンお兄様に戴いたお菓子を、そのままだと勿体ないし……一人で食べるのも寂しいから……」


 ね?


と上目遣いにおねだりする様は、14才にしては幼く、寂しがりな様子が見え隠れしていて、本当に素直で愛らしい。

 3才上の双子であるものの、こんなに可愛い主に仕えることになったのが嬉しくてならない。


「私どもと……よろしいのですか?」

「あ、お仕事があるのなら……」

「いえ、交代でマリアさまの傍にいて、マリアさまの身の回りのものを揃えるのが今の重要な仕事です。取りに行って参りましたの」

「私は、メイド長や奥様に選ばれた、一時的にマリアさまに着て頂くワンピースを詰めておりましたの。それと、可愛らしいリボンとか」


 レナはテーブルに置いていたドレスを広げる。

 淡いブルーのドレスは、痩せていて細いマリアの為に、袖にリボンや腹部にギャザーが入り、レースもたくさん取り入れられ、豪華なものである。


「すごい……作ってくれたの?」

「いえ、屋敷に良くおいでになられた、王女殿下のドレスだと。もう、お嫁にいかれて着ることはないから、一時的にマリアさまにと。お元気になられたら、デビュタントの支度もあります。その時に色々と仕立てられるそうですわ」

「……えっ!デビュタント……?」

「はい。奥様が嬉しそうに、デュアンリールさまが隣の大陸に先月お出掛けになられて、あちらの陛下から幻の銀竜糸で織られた布を戴いたのだそうですわ。で、折角の記念になるのだからマリアさまにと。そうするとデュアンリールさまが、奥様とマリアさまに一着ずつにしては?とか」

「そうですわ。それに、旦那さまが屋敷にある宝石等も、マリアさま用に作り直しておかなければと嬉しそうでしたわ」


 マリアは目が回りそうになる。


「わ、私……デビュタントなんて……無理だと思って……二ヶ月しかないから……諦めようと……」

「二ヶ月もありますのよ?私たちだけではありませんわ、この屋敷の皆が、マリアさまのデビュタントを最高のものにしようと張り切っておりますもの!」

「そうですわ」


 リナはテーブルに荷物を置き、椅子を持ってきて、二人は主に勧められたお菓子を手にして、微笑む。

 と、


「マリアは寝てる?」


そうっと扉が開かれ、顔を覗かせたのはデュアンリールである。


「デュアンリールさま!」

「も、申し訳ございません」

「良いよ良いよ。きっと、マリアちゃんが一緒に食べようって言って食べてるんでしょう?おいしい?」

「はい!だから、リナとレナと食べたいなと……デュアンお兄様も食べませんか?」

「本当に?じゃぁ、お邪魔しようかな?」


 近づいてきたデュアンリールに、レナが、


「こちらに座られて下さいませ」

「大丈夫。マリアちゃん。ベッドに座るね?」


デュアンリールは静かに座ると、


「マドレーヌだね?どうかな?おいしい?」

「はい!さきは、ピンクのマカロンを食べました」

「あぁ、それは、チェナベリーと言って、シェールドに自生するベリーのジャムを送って貰ったんだ。前に伯父上と共にマリアちゃんがおじいちゃんと、覚えていないと思うけど僕も一緒にシェールドに行った時に、マリアちゃんが両手や頬まで真っ赤にして『おいしい、おいしい』って食べてたのを思い出して。あ、その小さい瓶はジャムだよ?マドレーヌにつけるとくどくなるから、クラッカーか、そのクッキーにつけるとおいしいよ?」


示された小瓶にそう言えばと思い出す。


「昔、ハート型の赤い実を、黒ちゃんとお母さんと食べました。おいしいよって、黒ちゃんが食べて見せてくれて、食べたんです」

「黒ちゃん?う~ん。アルドリー陛下の乗獣じょうじゅうは、金色の目で……」

「乗獣?」

「あ、覚えてないかな?ちょっと良い?ミカ?入って良いよ?」


 その言葉に、ノブが動き、愛馬並みに大きな翼のある生き物が姿を表す。

 大きな瞳の生き物はお座りをしてペコンと頭を下げる。


「この子は、シェールドの乗獣で三日月。三日月と言うのは、グランディアの言葉で、眉のような月って言う意味なんだ。アルドリー陛下が、王太子殿下時代に僕に下さって、名前もつけて下さったんだ。愛称はミカ。ミカ?マリアちゃんだよ?」

「わぁ……綺麗、可愛いです。でも、黒ちゃんは目も黒くて、お母さんはもっと大きかったです」

「あぁ、そっか!マリアちゃんが会ったのは、マザードラゴンだね!ブラックドラゴンの長。僕も何回かお会いしてるし、先月もお会いしたけれど『私の娘は元気かしら?』って言ってたんだよ。マリアちゃんのことなんだね」

「お母さん?私を覚えていたんですか?」


 目を大きく見開く。


「『ファティ・リティよ』って繰り返していて、聞いたことのない名前だなぁって……」

「あ、お母さんが……『マリアージュって名前は似合わない。あなたはファティ・リティよ』って呼んでくれたんです。忘れてました」

「……マザードラゴンの娘……。うわぁ……パパが聞いたらどうするかなぁ」

「えと、忘れてたの怒られますか?」

「違う違う。パパがビックリするなぁって」


 デュアンリールはゆっくり食べ終えたマリア……ファティ・リティに、喉は乾いてはいけないとグラスを差し出す。


「ありがとうございます。デュアンお兄様」


 ストローで飲み終えたファティ・リティは、お菓子を食べたそうだったが、満腹になったらしく眠そうにまばたきをする。


「マリアちゃん……ファティ・リティ……リティちゃん。お菓子は又作るし、保存容器にも収めてるからね?お腹がビックリする前に、お休みしようね?」

「はい。デュアンお兄様、お休みなさい。リナとレナもありがとう」


 デュアンリールが横にさせ、毛布をかけるとよしよしと頭を撫でる。


「お休み。リティちゃん」


 目を閉じ、すぅぅ……っと寝入る、妹になる少女を見る。


「デュアンリールさま」

「マリアさまは……」

「昔、シェールドの森で迷子になって、ブラックドラゴンの長に保護されていたんだよ。確かファティ・リティは豊穣って言う意味だったと思う。リティちゃんは、本人は解ってないんだと思うんだけど、生まれつき生き物に愛される子供なんだと思うんだ。悪いことはないから……」

「大丈夫ですわ!」


 レナが声をあげる。


「マリアさま……レティさまは私の主です」

「レナと同じ思いです。私たちの主です。レティさまにお仕え致します」

「うん。よろしくね?二人だから特に信頼してるんだ」


 去年この屋敷に就職した双子は、実は元々孤児である。

 いや本当は、この大陸の一地方に生まれた、そこそこの地位の両親の子供である。

 しかし、その地域は様々な迷信に縛られ、双子であるのとレナの紫の瞳を気味悪がり、捨てられたのだと言う。

 引き取ったのがその地域のギルドメンバーで、即、大陸のギルド支部長である国王リスティルの元に連絡が行き、リスティルの親族の家で育てられた。


 そして、16の時にこちらに就職したのだった。

 この屋敷でも、育てられた家でも本当に可愛がられていたのだが、自分達よりも小さい、可愛らしい妹のような存在に心を奪われたのである。


「大丈夫ですわ」

「私たちにお任せ下さいませ!」


 双子は顔を見合わせ頷いたのだった。

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