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55……マクシム少年の取引

 姿を見せた国王リスティル、王太子ティフィリエル、そして王弟ミューゼリックと先輩であるクシュナ、クレスールとセリと男装に戻ったウェイトと童顔の少年……。

 マクシムは、誰だろうとじっとみて、次の瞬間唖然とする。


「も、もしかして……」

「こんばんは、デュアンリールだよ。マクシム……と言うよりも、グランディアの名前の万葉まんようが良い?」

「万葉……あぁ!うちの長兄のエルドヴァーンの義弟!ごめんよ!うちのバカ兄たちのお守りお疲れ様!」


 ポンっと両手を合わせ、拝むようにセリは少年を見る。

 実は、ちなみに、2年前に入れ違うようにルーズリアに戻ったマクシムと、特務からシェールダムに戻った形になったセリはあったことがない二人である。

 一応、


「うちの母さんがごめんね?遊んでくれってわがまま言ったみたいだね」

「……エル兄さんが、言われていた通りですね」

「チビとか可愛いとか……悪口ばっかりでしょ?」


嫌そうになったセリに、首を振り、


「違います!年は下なのに、自分達には出来ないことばかり出来て羨ましいと……まぁ、それを言うと、姉さんの飛び蹴りが来て……『テメェが怠けるからだろ。オラァァ!真剣にやれと言っただろうが!』と傷だらけに……」

「よっしゃ!月姉、もっとやれ!」

「絞め技に、急所攻撃が延々と続いてました……」

「ふんっ、あの兄貴は痛めつけられて喜んでる変態だから大丈夫だよ。あの図体だし、もっとやって良いよ」

「ズタボロでしたが……」


頰をひきつらせるマクシムに、ひらひらと手を振る。


「大丈夫、骨折くらいじゃあの変態兄貴たちはヘコタレナイ……変態どもめ……逝け!」


 セリの目は真剣である。


「えっと……24歳ですよね?」

「一応。外見はこれだけど。ねー?デュアン先輩」

「違う違う。僕は若返っただけだよ」

「先輩、元々10代にしか見えなかったし、大丈夫だよ!」


 セリはニコニコとデュアンを見る。


「酷いなぁ……そんなこと言ったら、リティに、セリがいじめるって言うよ?」

「わぁぁ!それだけはぁぁ!ごめんなさい!先輩!」

「言いつけちゃうよ〜」

「わーん!ごめんなさい!」


 必死に謝るセリに、くすくす笑う。


「冗談だよ。セリ。それに、リティはセリに懐いてるのに、文句を言うと泣くよ……それだけは僕も嫌」

「本当?本当?良かったぁぁ!」


 セリの頭を撫でる。


「あのね〜先輩まで酷いなぁ」

「弟弟」

「まだ結婚は許さん〜!」

「こらこら、ミューまで話をずらさない。戻ってきなさい」


 リスティルが手を叩く。


「はい。席に座る!」


 二人ずつ座る。

 ミューとデュアン、クシュナとクレス、ウェイトとセリ。

 リスティルとティフィは一人用のソファ、最後の1つにマクシムが座る。


「で、マクシム……君が言いたいことは?」

「お前の実家を救ってくれは難しい」


 国王と王弟の言葉に、マクシムはじっと見つめると答える。


「実家は結構です。お願いがあります。実家の……父の爵位と領地を奪って下さって結構です。父のしでかしたことは、命でも償えません。でも、悪いのは父……領民の命だけはお助けいただけたらと思います。その代わりに、生きているのなら……近衛のカーク・ルーベントの助命嘆願を希望致します」

「カークとは知り合いか?」

「幼なじみと言うか、母同士が友人でした。カークの母上が亡くなり、私の母は離婚したのでそれ以来会っていませんが、カークとはここに戻ってから時々会っていました」


 懐から一通の手紙と、数枚の紙を取り出す。

 その紙は、自分の爵位継承権を放棄する旨の書面と、自分なりに調べたらしい実父や周囲との関係や借金の数々、密輸した、ルーズリアに運ぶのは不可の劇薬となる薬草のことについて書き込まれている。


「こちらは私が2年間で調べたものです。お願い致します。カークを……どうか、どうか!」

「あれ?僕宛の封書?」

「カークからです……先日、最後に遊びに来た帰りに渡されました」


 デュアンは中身を開けると、開く……。

 すると、地図が出てくる……が、


「うーん……カークは地図汚すぎる。距離感微妙……文字も分かりにくい……」


顔をしかめる。

 その横から見たウェイトが、


「ん?これは……」


手にし、斜めに見ると、


「あぁ、フェリオの法則だな。紙を」


用意してもらった紙にサラサラと書き込む。


「何々?『オードニックの狙っているものは、国王の命と不老不死について。そして、シェールドの王がオードニックの国を貧しくさせている原因である。その原因である王と竜王に暗殺者を仕立てる。それは、オードニックではなくルーズリアの人間である』……何だと!」

「『ルーベント家は捨て駒。本当に欲しいのは、偽王リスティルの正妃で正当な王ティアラーティア女王。その配偶者としてオードニック王がこの大陸を治める。そして、連れ去られた深紅の髪の少女は我らが神の御子。神子も取り戻す』」


 読んだミューゼリックとクシュナは呆れ返る。


「……馬鹿だな」

「アホですね」

「死ね!」


 ブツブツ呟くのは妻を愛しているリスティルである。


「僕の琥珀ちゃんを取り上げようなんて……生きている間中切り刻んで、指を一本一本折って……ふふふっ……」

「その顔、リティやティアラ、アリアに見せるなよ、兄貴」


 ミューゼリックは兄をたしなめる。


「……でも、殺してもいいよね?」

「向こうの王をこっちにおびき寄せて、とっ捕まえたらな」

「私に行かせて下さい!」


 マクシムは手をあげる。


「お願い致します」

「ダメ。マクシム、もうすでにグランディアの人間だから、グランディア公主殿下より直々の便りが届いてます」


 ティフィが手紙を差し出す。

 筆に墨を含ませて、見事な達筆の主は、義父の隼人の父……つまり祖父の清影せいえい


『万葉は私の孫です。本人のたっての希望で、一時期実家に帰り仕度をしたら、こちらに戻るよう言い聞かせて、本人も納得している。危険な目に遭わないように、どうぞよろしくお願い致します。

 宮下 清影』


 宮下がグランディアの姓で、名前が清影らしい。

 こちらでの名前もあるらしいが、尊称が多く長くて億劫だとグランディアの名前で過ごしている。

 一応、精霊使いと術師、騎士としてのそれなりの地位を得ているらしい。


「ですが!」

「僕が行くよ。この程度なら、大丈夫でしょう」


 セリが微笑む。


「2年間一般で動いていて勘は鈍っていたら困るけど、まだ大丈夫だと思うよ」

「私も行くよ、この姿はそんなに目立たないでしょ。セリと行ってくるよ」

「ダメだ!セリもデュアンも何を考えてる!」

「パパ。ティアラ姉さんにリティを守りたいんだ。お願い!」


 デュアンは真剣である。


「それに、この中で潜入経験はそんなにいないでしょ?僕とセリと……」

「俺もいますけど」


 クレスが口を挟む。


「俺も行きますよ。やれるだけやります」

「……っ」


 リスティルは険しい顔をするが、その横で、クシュナが口を開く。


「じゃぁ、無理はしないように。でも、デュアンとクレスはこの国の人間だけれど、セリはシェールドの人間だよ。お前はやめなさい」

「遠慮します。意味のない言葉はやめて下さいませんか?僕はこの国に骨埋めるつもりですし……何なら、この万葉から万葉の元実家の家を買い取りましょうか?」

「それは認めないよ」


 リスティルは孫に近い青年を見る。


「まだ正式にこの国の人間となっていないお前に、こちらのゴタゴタを見せるつもりはない」

「でもっ!」

「代わりに、ウィリアム卿。君の一族の力を借りたい。国王陛下にはこちらからよくよく頼んでおく」

「かしこまりました」


 ウェイトは微笑む。


「そして、セリディアス卿」

「は、はい……」

「申し訳ないが、私の姪、ファティ・リティ……あの子は、すでに嫁に行った娘たち以外、一番私に近い王族の娘……あの子を守ってくれないだろうか。そして、私とミューゼリックは動く。次の王であるティフィリエルは母で王妃のティアラーティアを守ることになる。できれば、リティの母のアリアも共に……頼める者は少ない。情報を理解できているセリディアス、君にしか頼めない」

「……」


 セリは唇を噛み、頭を下げる。


「かしこまりました。必ず、アリアレーナ公爵夫人と令嬢ファティ・リティ姫をお守りいたします」

「よろしく頼むよ。僕も最近なまっているからなぁ……一気に行くかなぁ」

「兄貴がなまってるなら、うちの近衛はもっと鍛えないといけないな。デュアン……」


 ミューゼリックは長男を見る。


「いいか?一度しか言わない。お前は私とアリアの宝物だ。爵位よりも何よりも、お前とリティは大切なものだ。……もう無茶をして、倒れている姿を見せてくれるな……先に逝くのは、パパだ」

「パパ!」

「まぁ、孫が成人するまで生きるつもりだが、お前は、マルムスティーン家のリュシオン・フィルティリーアのようになるな……親を悲しませないでくれ……頼むから。お前は、次のラルディーン公爵だ」


 デュアンは父を見つめ、大きく目を見開く。

 そして、俯き、


「ごめんなさい。パパ。ちゃんと胸に秘めて、頑張ります。ずっと心配かけてごめんなさい」

「……普段はおっとりしてるのに、目を離すとやんちゃになる。びっくりだぞ」


ミューゼリックは息子の頭を撫でる。


「この国の為に……リティやママやティアラを守る為に、やれるな?」

「はい!パパ。大丈夫だよ!」

「よし、それでこそパパの息子だ。頼んだぞ」


 デュアンは大きく頷いたのだった。

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