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4……そっけない対応は怒っている証拠です。

 宮廷より、緊急に出仕するようにと逆にせかされるように使いが来たミューゼリックは、


「僕もいきましょうか?」


と言うデュアンリールに、


「いや、多分アホが来ている。アリアとマリアに着いていろ。私が行ってくる」


と、本来、兄弟の為少し略装にと思っていたが、正装を揃え王宮に向かった。

 王宮までは馬車が普通だが、ミューゼリックは緊急とあった為、乗獣に騎乗し、空を駆けた。

 そして、乗獣を騎乗する数少ない騎士……ほぼ、ミューゼリックやデュアンリールたち親族である……の通路を抜けて行く。


 すると、わめき散らすブクブクと肥え太ったラミー子爵夫妻に子息がいた。


「私の娘が誘拐された!」

「娘と執事、メイド頭を連れ去ったのですわ!娘はまだデビュタント前ですのに!」

「娘を返してくれ!」


 ミューゼリックは近づき、騎士団で鍛えた大声量で怒鳴り付ける。


「ここをどこと思っている!国王陛下がおられ、この国の政治・経済法律全てが動く場所!騒ぐのなら去れ!」

「でも、連れ去ったのが王太子殿下だったら?」

「私も息子も見ておりますわ!」

「あの、気持ち悪い殿下が!だから、王太子は第二王子の方がいいと皆言ってるんだ!姉を返せ!化け物!着いてくると言って、かどわかすなんて!」


 3人の声に、


「まぁ……!私の兄……いえ、殿下が気持ち悪いですって?」

「本当ですわ!何て不敬な……」


振り返ると、国王の第一王女、第二王女が扇を広げ、3人を睨んでいる。

 第三王女は、少し前に結婚したばかりである。

 その上、二人の間にいた幼い少年が二、三歩前に出て、


「お兄ちゃんに、僕の大好きな兄上に何てことを言うんだ!謝れ!僕の兄上はかっこいいし、優しいし、頭が良いんだぞ!僕の、僕の……」

「ラディエル?」


奥から姿を見せたのは、兄弟のように瓜二つの親子……国王リスティルと王太子ティフィリエル。

 少年は駆け出すと、瓜二つの年少者の方、ティフィリエルに抱きついて泣きじゃくる。


「どうしたの?マシェリナ、ミシェリア?」


 何故か、父親の自分よりも兄のティフィリエルが大好きなラディエルである。

 内心溜め息をつきながら、嫁いでいたが昨日の話の為呼び寄せていた二人の娘を呼ぶ。


「お、いえ、陛下、王太子殿下。お久しぶりにございます」

「お会いできて本当に嬉しゅうございます」

「お前たちは私の娘。いつでも戻ってきて良いのだよ?それよりも……」

「父上ぇぇ!この者たちが!お兄ちゃんを!お兄ちゃんが悪いことをしたって!それに、酷いことを言ったのです!お兄ちゃんのことを!」


 ラディエルは必死に訴える。


「お兄ちゃんに!お兄ちゃんは悪くないもん!絶対違うもん!」

「えーと、二人とも……よりも、ミューゼリック卿、君は見てないかな?」

「はっ。こちらのラミー子爵夫妻と子息が、娘が誘拐されたと騒いでおりました。誘拐した人物にティフィリエル殿下の名前をあげ、王太子殿下であられるティフィリエル殿下を罵っておりました」

「誘拐は本当だ!私の屋敷から、持ち去ったものもある!」

「泥棒ですわ!」


 ミューゼリックの言葉を畳み掛けるように怒鳴る夫婦を、ティフィリエルは静かに告げる。


「彼女が『この屋敷にいたくない。じいやとばあやに苦労を掛けている。二人と路頭に迷ってもいい。ここにいるよりまし』と言いました。陛下。この者たちの言っていることは偽りです」

「嘘をつけ!」

「私の娘はそんなことは言わないわ!」


 ティフィリエルは、父を見る。


「陛下。サー・ティフィリエル。自らの剣に誓い、申し上げます。一昨日早朝、そのラミー子爵令息が、陛下の署名のあった封書を屋敷から持ち出しました。宛先は、先代ラミー子爵ルイス卿に当ててのものでございました。それと、石の納められた箱を持ち、ギルドに加盟している古物商に参りました。丁度、所用もあり古物商にいた私が確認、陛下の筆跡と解りましたが、持ってきた彼がラミー子爵令息本人か解らず、確認の為に確認次第、買い取るからとラミー子爵家に参りました」

「サー・ティフィリエル。何故、この子が令息と解らなかったの?」

「ラミー子爵の令息と噂に聞いていたのは、細身で髪の色も落ち着いたザクロ色の髪で、瞳はアイスブルーの乗馬服の似合う少年です。馬に乗り領地にたびたび訪れているので日に焼けていると……しかし、この者は細身どころか肥えており、瞳の色も栗色、髪は赤茶、肌も白く、この姿では領地につくまでに何頭もの馬がつぶれてしまうかと」

「……なっ!」

「ブフフッ!」


 ラディエルは振り返り、確認すると吹き出す。


「あぁ、領地にラミー子爵令息が、定期的に来られていると噂にあったが、領地の噂では『ホッソリとしてはいるが品のある優しい方だ。それにあの美貌。将来はたいそう美しくなられるだろう』『女性でないのが勿体ない』『そう言えば双子の姉上がおられると言うが、本当にお美しいのだろうなぁ』とありましたね。なのにこれが美貌かと……母上やここでお名前を出すのは失礼かと思いますが、シェールド国王陛下、妃殿下を拝見していましたので、残念としか……」

「失礼な!」

「失礼なのは、お前たちではないか!」


 ミューゼリックが睨み付ける。


「お前たちは!国王陛下、王太子殿下の前で、言葉遣いも知らんのか!降嫁された王女殿下方も丁寧に陛下を挨拶されていたと言うのに!無礼ではないか!」

「だ、いえ、ですが!ラルディーン公爵閣下!我々は娘を!それに屋敷の雇い人が……」

「私がその子息と共に屋敷に行くと、ボロボロの屋敷、玄関、ロビーは何とか掃除をしているようでしたが、その上からずかずかと泥のついたままで歩くせいで再び汚れていく床、廊下はギシギシといい、居間は壁にかけられていた絵画などが無くなった色の違う壁紙が……そして、足を引きずっている女性に、キンキン声で、『お茶を持ってきなさい!最高級のおもてなしをするのよ!』と怒鳴り散らす。そして、猫なで声で『申し訳ございません。娘が寝坊しておりまして、もう!とろくさい!私が呼んで参ります』と、こちらの子爵夫人は女性を突き飛ばして出ていきました。子息も『何をしてるんだ。役立たずなら追い出すぞ!』と。夫である人が支えて、奥に入っていき、もう一度お茶を入れ直して下さって、二人が『遅くなりまして申し訳ございません』『おもてなしもできずに……』と何度も頭を下げられました」


 ティフィリエルの淡々とした言葉に、周囲は……ちなみに王宮の定置に配置されている衛兵や、通り抜ける女官や官僚もしっかり聞いている……次第に嫌悪感を露にする。


「そして慌てたように色褪せたワンピースを纏った、痩せ細った小さい少女が姿を見せました。髪は落ち着いたザクロ色、大きな瞳はアイスブルー。顔立ちは整っていて、日焼けをしていました。そして、その少年に自分の部屋には鍵がかかっているのにどうして入ったんだと聞き、悪びれず、『お父さんからポーカーで勝って、借りたんだ!』と言っていました。彼女は一瞬哀しそうな顔をして『歯ぁ食いしばれ!』と迫って、みぞおちに拳を。あんなに痩せてるのに、肉男のみぞおち……彼女の手が痛いだろうなぁと思いました」

「ホントだねぇ……お姉ちゃん、可哀想」


 ラディエルは、太った家族を見ると、兄を見上げる。


「お兄ちゃん。あの人たち太ってるのに、何でお姉ちゃんだけ痩せてるの?」

「あぁ、それは、マリア……令嬢が倒れて、慌てていたマリアどのの乳母とその夫である方に伺った」


 ラルディーン公爵ミューゼリックは答える。


「アレッザール子爵サーシアス卿とその夫人イーフェどの。お二人は先代子爵にお仕えし、先代よりマリアどのをよくよく頼むと遺言を受けていた。しかし、現在の子爵のギャンブル、夫人のパーティ好き、ドレスを買い漁ることや、子息の放蕩に諦めていたものの、マリアどののことだけはと自分の財産を削って何とかしようとしたが、マリアどのは受け取らず、次第に減っていくメイドや庭師の代わりに自分が働き、領地に赴き、そして台所に立ち、家族は肉だのを要求するのに自分はハーブティや残りものを口にしていたと」

「なっ!娘とは共に食事をしているとも!なっ?」

「えっ……えぇ!一緒ですわ!」

「そうだ!」

「じゃぁ、マリアどのの利き手は?」


 ティフィリエルのの問いかけに、即座に、


「み、右だ!」

「そうですわ!」


何を当たり前なと言いたげな両親に、ティフィリエルは冷たく告げる。


「マリアどのの利き手は左。左利きだ。親だと言うなら、何故知らない?」

「何ですって!う、嘘よ!私は!あの子は!」

「お前は母親だろう!何故知らんのだ!」

「何を言ってるの!貴方が右と言ったからでしょう!」


 罵り合う夫婦を見ていた国王リスティルは、息子を見る。


「何で分かったの?」

「馬車で軽食を取ったのです。朝食も食べずにでしたから。そうすると、お菓子を乗せたお皿を左手で受けとり、左手で取って食べていました。昔はこの国も左利きを無理に右に直していたと陛下に伺っていましたが、シェールドは左右を気にしないお国柄で、あちらの国王陛下も左利きですし、あえて直さなかったのだと……思っていたのですが、親の育児放棄だったと言う訳ですね」

「ふーん。育児放棄?」

「それに、サーシアス卿とイーフェどののことを気にされて、本当に泣きそうでした」

「ティフィリエル?どこにいるんだっけ?その私の友人ルイスの孫は?」


 リスティルの言葉に首を振る。


「ここでは……口にすると、育児放棄した親と呼べない親が、そのまま疲れて寝込んでしまわれたマリアどのを連れ去りかねませんし……乗り込んでも大丈夫かとは思いますが、マリアどのが可哀想です。こんな家族など、縁を切りたいと言っていました」

「そりゃそうでしょうね?」

「私だったらもうすでに縁を切ってるわ」

「優しい子ね。マリアちゃんって」


 マシェリナ、ミシェリアが口を揃える。


「ほんっきで、最悪」

「私たちのお父様が陛下で良かったわ。お母様とラブラブいちゃいちゃしていても、そういうことだけはお母様や叔父様たちと話し合いながら私たちを育てて下さったもの」

「本当に。それに、兄弟も縁がなかったのね。私たちのお兄様は、賢くて強くて優しくて可愛いところが魅力なのに」

「そうそう。王太子としての勉強だけではなく、騎士となる為に留学までされて、帰国されたお兄様は、童顔で可愛いところが素敵なのに」

「可愛い言うな!」


 ムキー!


 冷静を装っていたティフィリエルが妹たちを睨み付ける。


「可愛い可愛いと、兄をペットと思ってるのか~!僕はナムグじゃない!」

「あら?違いましたの?」

「あちらの陛下にはペットって」

「違う!王弟殿下に言われたんだ!っとそれはいい!それよりも、マシェリナ、ミシェリア、本気で失礼だな!」


 子供たちの喧嘩に、リスティルはポンポンと手を叩いた。

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