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幕間……罪を減じると言うことは今まで苦しみ抜いた人々を悲しませること

 地下の牢獄に繋がれる元パルスレット公爵や、ラルディーン公爵の子供達とその夫や妻……元ラミー子爵を始めとするパルスレット公爵に追随した者たち。

 個々に牢獄に繋がれているが、元近衛のカークは両手を戒められただけで、じっと俯いていた。

 他の者は己の罪を忘れ、他人のことを羨み、妬み、怨念と化した叫びを吐き出す。

 しかし、カークは実家は辺境伯の三男で、父が隠居する前、母が生きていた頃はそれなりに生活できていたものの、跡を継いだ兄が事業に失敗し、それを隠すよりも国王陛下に訴えてみればいいと諭したものの、意地を張った兄はますます借金を膨らませ、最後にはそれを弟のカークに何とかしろと押し付け、高みの見物をしていた。

 カークが捕まっていても、助けようとしない……切り捨てられた、それが現実である。


 王妃ティアラーティアに頰を叩かれたものの、国王リスティルが冷たい人間でないことは自分自身がよく知っていた。

 それに、情報は途切れ途切れだったが、本当は尊敬していた……裏切りたくなかったラルディーン公爵家の長子で上司のデュアンが、死にかかったと聞いて蒼白になった。

 自分の命はどうでもいい……ただ、利用された道化の自分が憎かった……。


 ポッ……


 次々に誰がつけたのでもなくランプに火が灯る。

 驚き喚く周囲に、ただ静かに座っているカーク。

 ゆっくりと音もなく歩く存在……。

 石で出来、絨毯などもなく、歩いたら必ず音がするはずなのに、彼が歩くと全く聞こえない。

 だが、優雅に歩くのは、マントのフードを被った1人の青年。

 そして、巨大な片刃の刀……ファルシオンを背負った少女が付いてくる。


「さて……」


 地下の牢獄に声が響く。

 張りのあるテノールの声。


「余りにもうるさいから、やって来たよ。己の過ちにいい加減気がつくがいい。愚か者!」

「何をぉ!」

「……パルスレット公爵……お前は見ているがいい!己の所業、過ちの最後に何があるのか!戦乱を起こさず収めた伯父に感謝するがいい!」


 パルスレット公爵は一番奥の牢獄に繋がれている。

 実は、リスティルの従兄弟も、刑が執行されるまでその牢獄に繋がれていた。

 そして、喉を潰され、処刑されたのである。

 今回は、リスティルは親族の愚行であり、恥を晒すのもと処刑をせず地下のこの牢獄に一生繋いでいるはずだった。

 しかし、甥のデュアンが死にかかった上に、息子のティフィの暗殺未遂に、頭を抱えた。

 数日考えた末に、ある場所に書簡を送ったのである。


「では……」


 青年は周囲を見回し、ある牢獄の鍵に手のひらをかざすと、ガシャーンとそれは床に落ちた。

 中にいた夫婦は嬉々として牢獄を出ようと駆け寄る……と、カークにも見えなかった……。

 ランプの炎が映る何かが横一線に走った。

 そして、牢獄の鉄柵ごと、2人の体を真っ二つに、少女が切り捨てたのである。

 夫婦は、元、ラミー子爵夫婦……デュアンの妹の実の両親。

 駆け寄った2人はバタバタと地面に落ちる。


 真正面のカークと、最も奥で、通路からよく見えるパルスレット公爵にしか見えにくかっただろう。

 しかし、肉片が落ちる音に、周囲は訝しげな顔になる。

 だが、青年は次の牢獄に移動し、開けて貰えると近づいて来た者たちは、その後ろから巨大な、少女の体にしては尋常ではないファルシオンで横薙ぎされ、柵も壁も粉砕していくのに、次第に真っ青になる。

 ざわつく罪人に、青年はうっすらと凄絶な微笑みを浮かべる。


「生きるか死ぬか……自分の兄や従兄弟を手にかけるということは、特に自分たちの身分で国を裏切るということは、相応の処分を受けても構わないと言うことだと思わないかな?」

「ひ、ひぃぃぃ!」


 外に出られるかと近づきかけた女は、壁に張り付き、


「し、死にたくないわ!私は、ラルディーン公爵家の娘よ!この私に何かをしたら、其れ相応の処分があると思いなさい!それに、私の夫はセントバーグ侯爵よ!その妻を殺したらどうなるか、解っているの!」

「ふーん……セントバーグ侯爵?確か、すでに離婚してたはずだよ。リーはすでに離婚書類受理してたね。ついでに、幼い子供もいるしと、見合いを勧めてたらしいね」

「何ですって!私の夫よ!」

「そう?もうすでに、7年前に離婚しているって、リーからの手紙だよ」


 紙をひらひらとさせる。


「わ、私には、お腹に赤ん坊がいるのよ!」

「……チェーニャ?」


 青年は少女を見る。

 少女は整いすぎた顔で、女の青ざめた顔とお腹を見るが、首を振る。


「いないよ?嘘つきはハリセンボンの計〜!だよね?ドルフ?」

「そうそう。針千本飲ませるだけどね。やっていいよ」

「はーい!」


 少女が柵を握ると、引き戸を引くように横に動かした。

 すると、飴のようにぐにゃっと柵が広げられ、少女1人入れる大きさとなる。


「ハ〜リセ〜ンボン〜!ハ〜リセ〜ンボン〜!」

「いやぁぁぁ!化け物!」

「……酷〜い……チェーニャ、化け物じゃないもん!良い子だもん!化け物っていうおばさんなんか大っ嫌い!」


 チェーニャが叫ぶと、ドーン!と凄まじい音が響き、牢獄の中は埃と煙が充満する。

 しばらくして落ち着くと、チェーニャの前には人形を留めない炭のようなものが横たわっている。


「……あれぇ?何で雷が落ちたのかなぁ……ドルフ。光が一杯突き刺さったよ?」

「チェーニャ、出て来なさい。後で私が調べるから」


 口ではそう言いながら、何もかも分かっていると言いたげに、手招きをする。


 いつの間にかカークは鉄柵に近づき、自らの罪を悔い改めようとせぬまま刑を執行させられる人々の最後を見つめていた。

 次は自分だと思うと怖くもあり……それで、家の兄の命令からも解放され、デュアンを裏切ってしまったことからも逃げられると思った。

 しかし、処刑は、カークとカークの知人で王宮のメイドの女性を残し、次々奥に移っていき、カークも最後の方は見えなくなっていた。


「さて、パルスレット公爵?あぁ、元、だね」

「私はパルスレット公爵だ!今も!これからも!」

「裏切り者がよく言えるものだ」


 ドルフが酷薄な笑みを浮かべた。


「私達の国、シェールドとこのルーズリアとは、お前の祖父の代から特に交流がある。その前の代は、我が国に侵入し、我が国の民を誘拐し、売り払ったり、我が国の貴重な生き物……ドラゴンやナムグなどを、親を殺して奪い取ったりと当然のように行っていた」

「それがどうした!シェールドだけにあるのがおかしいのだ!我が国にあるのがふさわしい」

「どこがだ!その愚かさ、傲慢さがお前たちの国を一時期弱体化させ、その為に、この大陸の大乱が起こったのがわからないのか!ドラゴンは平和を守る。その平和の象徴を守るのが我が一族の務め!それを邪魔する人間は、幾ら他国の人間でも、私たちが、手を下す!」


 ドルフは宣言する。


「そして、特に、お前には、孫同然のデュアンを殺そうとしたと言う事実がある。今までの者のように、優しいチェーニャが一瞬にしてあの世へと送ってくれると思うな!チェーニャ。下がっていなさい」

「はーい。ドルフ。後2つ、開けてないところ入っていい?」

「ファルシオンは振り回さないように」

「はーい!」


 奥から足音もなく戻って来たのは、カークよりも年下……17歳くらいの美貌の女性である。

 しかし、背中にはファルシオンが背負われていて、それが、姿形に余りにもそぐわなかった。


「こんにちは〜。柵壊すね〜」


 と、両手で鉄柵を握るとぐにゃっと曲げた。

 鉄である。

 しかも、ここは重罪人が捉えられている牢獄であり、かなり重度の警備にこの柵ですら頑丈に作られているはずである。

 それなのに彼女は、飴のように曲げて、ニコニコと、


「はい、逃げないなら出て来ていいよ」


と言ってくれたのである。

 返答は……、


「あ、ありがとうございます。ですが、私は……反逆罪に問われた身です……」

「んーと……リーが言ってたカークだよね?……うーんと、ごめんね。チェーニャ、文字読めないの。手の鎖壊してあげるから、これあげる」


 と、ジャラジャラと重たい鎖を、軽々と紐のように引っ張り、引きちぎると、ポケットの中の紙を渡す。

 受け取ったカークは、中身を開けると、見慣れたリスティルの文字で、


『近衛隊員、カーク。

 忠誠心のある、そして隊長と副隊長も信頼する君が反逆罪を背負うのはおかしいと調査したところ、辺境伯である君の兄ルーベント伯爵が隣国と共謀し、この国に攻め込もうとしていたことが発覚した。捕らえ、問い詰めた。すると近衛の君の立場を悪用し、国王である私を暗殺しようと画策していた』

「……っ!」


 みるみる青ざめる。

 父は隠居していた。

 次兄は婿養子となって別の家にいる。

 父も長兄も少々辺境伯として天狗になり、何かしら中央を格下に見ていた節もある。

 小さい頃から爵位継承権もほとんどないカークは中央の学校を卒業し、腕っ節と負けん気で近衛部隊に入った。

 だが、死んだ母に言い聞かされた。


「国王陛下は本当に立派な方なのですよ。父上もこのような辺境で一番偉いと思い込むことは、お山の大将……グランディアの言葉では『井の中の蛙大海を知らず』と言うのよ」

「『井の中の蛙大海を知らず』……?何ですか?母上」

「井戸の中……や小さい池の中に住むカエルはこの世界が全てだと思ってしまう。本当はもっと大きな海があるのに……つまり、この辺境を知っていても、この国の事全部を知ったことにはならないと言う意味です。貴方は賢いわ。お母さんの子供だもの」


 病に伏せるようになったと使いが来て、慌てて戻った時、見る影もなく痩せ細ってしまった姿に涙を浮かべ、手を握りしめた。


「戻れなくて……ごめん、母上」

「何を言うの。外界を知った貴方に……賢く優しい貴方を自慢に思うことはあっても、お母さんを忘れたなんて思わないわ。貴方は貴方らしく生きなさい。卑怯なずるい人間にはなってはいけません。お母さんの息子として胸をはって生きてちょうだい」

「母上……」

「仕事があるのでしょう。頑張りなさい。貴方が頑張っている姿、嬉しいわ」


 帰って行くとしばらくして、母の死の知らせと、兄からの命令が入っていた。

 兄の手紙には、カークを責める文言が書かれていた。


 母は、仕事を頑張れと言ってくれた。

 でも、残っていれば良かったのだろうか……でも、自分に何ができただろう?


 悩んだ。

 そして、兄からの手紙の命令に従ってしまった。


「……あの……」

「なぁに?」

「……これを、デュアン隊長に渡していただけませんか?兄から届いた手紙です。パルスレット公爵の命令に従い、デビュタントを壊せと……デュアン隊長を傷つけたのは私です。母の死を……責められ、苦しかったのです。でも、デュアン隊長を傷つけた方が……あの後死にかかったと聞いた時の方が、ゾッとしました。母が……泣いていると思います。母は、私が近衛になったのを喜んでいてくれたのに……私は、母を……裏切ってしまった」


 チェーニャは、蒼い目でじっとカークを見上げている。


「うーん。チェーニャは、解んないけど〜?多分ね〜デュアンは怒ってないよ。お母さんも怒ってないよ。多分ね〜お兄ちゃんは、頑張りすぎたんだよ。意地悪なお兄ちゃんだね〜。よーし!チェーニャがとっちめちゃうよ〜。これでブーン!」


 チェーニャはファルシオンを抜こうとする。


「チェーニャ」


 背後から声が聞こえる。

 近づいてくる青年は、思ったよりも若く、華奢である。

 長い髪はブルーシルバー。

 この国の王族もシルバーだが、青みはない。

 珍しい色である。


「抜いちゃダメって言ったよね?」

「ごめんなさい。ドルフ」


 柄を戻したチェーニャに近づいたドルフは、血も付いておらず、穏やかに見上げる。


「君はどうする?カーク・ルーベント。このままでは父と兄の反逆罪において、家は断絶となる……それだけではなく、隣国と通じていた為、そのどさくさで攻め込まれる恐れがある。リスティルは戦うつもりでいる」

「陛下が!」

「……お前はどうしたい?」

「……反逆しましたが、もう一度、陛下の為に働きたいです!兄でも、陛下に翻意を見せるということは、この美しい国を戦乱に巻き込まれる。もう、そんなのは嫌です……母が昔のことを教えてくれました!……母の言葉は正しかった……きちんと、母の言葉を聞いておけば良かった……」


項垂れる。


「……では、早く行こう。切迫している。連れて行く」

「わ、私は!」


 顔見知りのメイドが叫ぶ。


「私は、ティフィリエル殿下に毒を!私も、死なせてください!」

「後で調べたら、あの中身はグランディアの薬草だった」

「えっ?」


 呆然とする。


「そんな……あの人に渡されたのは……毒だって……」

「誰に渡されたの?ティアラーティアは毒じゃないって言ってたよ」

「……っ……」

「騙されたんだ。黙っていては、本当に王族の誰かが狙われる。名前を言いなさい」

「え、冤罪で、君は死ぬのか?」


 カークは自分と同じ立場の知人に声をかける。


「君がここにいれられているということは、切り捨てられる……死んでしまうんだ。君は死にたいのか?」

「……来なかった時点で、諦めてるもの……」

「生きろよ!死んだつもりでやってみろ!その人間に見返してやれよ!」


 手首を掴む。


「行くぞ!死ぬ気があるなら、ルーベント辺境伯領で、手伝え!」

「早く行くよ。夜にしか行けないんだ。チェーニャ。手を繋ごう」

「うん!わーい。一緒一緒〜」


 チェーニャはドルフの手を引っ張り、早く行こうと誘う。


「はいはい。チェーニャ。元気なのはいいけど、道に迷うといけないから、ゆっくりだよ」

「うん!」

「2人とも、来なさい」

「は、はい!」


 2人は知らなかった。

 この2人の正体を……しかし、知らない方がよかったと、後で2人は安堵したのだった。

ドルフ……青い瞳と灰青の髪の穏やかな青年。軍略家であり、政治家であり、王佐の才を持つ。武器はチェーニャや従兄弟が剣士だった為、接近戦とあらゆるところに武器を隠し戦う。チェーニャを溺愛し、チェーニャは自分のものと3歳の時に宣言。それから、チェーニャを自分以外に懐かないように独占欲バリバリで面倒を見る。


チェーニャ……青い髪と瞳の美女。母のガイアに瓜二つ。集中力がなく、勉強嫌い。代わりに怪力で、ものを破壊する元祖破壊魔神。無邪気で甘えん坊で、ドルフが大好き。勉強が嫌いで、元々生まれつき文字が読めない(ディスレクシア……識字障害)。でも体を動かすことが大好き。アレクシアを含め……3人の子供……ヴァーロも含めると4人の母だが、お子様である。


ヴァーロ……シェールドの国王アルドリーの側近で、後宮騎士団の団長。ドルフとチェーニャに育てられたドラゴン。

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