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12……クレスールと家族

 所で、辺境の地にいる32歳のクレスールの元に、緊急に国王からの使いが来た。


 本人はまだ知らないが、すでにラミー伯爵のサーシアスとイーフェ夫妻の一人息子で、アレッザール子爵にすでになっているのである。

 元ラミー子爵とは4歳違いだが、年下の自分でも、


「あいつバカだよな。ルイス伯父上がお可哀想だ」


 と思っていた。

 そして、優秀な成績を収め留学し、その間に結婚をしたクレスールは、ルイスの死に驚き帰国すると、実家同然であり両親のいる屋敷に戻れなかった。

 頭は悪いが、金さえ使えばどんな悪どいこともしてもいいと思い込み育った馬鹿が、どこのコネか、辺境に送ってくれやがったのである。

 まぁ、一緒にはいられないと解っていた。

 でも、両親や、両親と先代のルイスの可愛がっていたマリアージュが心配だった。


 留学中に何回か、ルイスはマリアージュを連れて会いにきてくれた。

 鮮やかなザクロ色の髪と、大きな瞳は空の青。


「ルイス伯父上。もしかして、伯父上の子供ですか?」

「残念じゃが、あの愚息の子供じゃ。双子の弟ばかり可愛がり、邪険にされてよく泣いておる。少し人見知りでな。マリア?お家のじいじの息子で、マリアのお兄ちゃんのクレスール……クレスだ」

「おにーたん?マーリャのおにーたん?わーい!で、で、で、デアンおにーたんと、クエシュおにーたん、二人!」


 小さい指を折り、喜ぶ幼児は本当に小さくて可愛かった。


「マリアージュさま」

「ちあうにょ。マーリャなの」

「マリアと呼んでくれと言いたいらしい。私が仕事で忙しく、気がつくと頰を腫らしたり、擦り傷が多く、イーフェに聞いたら、愚息やその嫁が自分の言うことを聞かないと言って折檻をするらしい。その上、痛くて泣いていて誰かが手当てをすると、告げ口したと言って、ますます……」

「あの馬鹿が……あっ!伯父上、申し訳ありません!」

「いや、それは良いのだ。お前が本当に私の息子だったらと何度も思うよ。お前を養子に迎えて家を継いでくれたらと……」


 抱っこをねだるマリアを抱き上げ、苦笑する。


「伯父上にはマリアさま……マリアがいるではありませんか。大丈夫ですよ」

「……もし私に何かあったら、逃げて耐えてくれ……」

「何を言っているんですか。縁起でも無い。留学から戻ったら、俺はルイス伯父上の為に」


 そう言っていたのだが、妻子を連れ辺境の地に降り立った時には、ルイスの死を本当に悲しむ以上に、その息子である子爵となった男を憎んだし、悔やんだ。

 シェールドにいればまだ地位も上がり、妻や子供達に楽をさせられるのに……と。


 しばらくして、一騎の馬が姿を見せた。

 小さな小さな少女……マリアである。


「お、お兄ちゃん……ごめんなさい!ここにいるなんて、しかも、父が……」


 シェールドでの騎士の訓練とともに精神統一の為に、グランディアで行われる『坐禅』、そして、心底反省している、お詫びしたいと伝える時には『土下座』を習ったのだが、土というより砂や小さい石の上で、まだ8歳のマリアは土下座をした。

 頭を砂に擦り付け、ただ、


「本当に、本当にごめんなさい。ここから2日かかるけれど、定期的に領地に来ることになってるの。こちらに回ってじいやとばあやからの便りとか持ってきます。それに、それに……」

「マリア!お前、護衛は?」


慌てて駆け寄り抱き上げると、手足を確認する。

 赤くなっている額と足。

 そして、頰に傷跡が残っている。


「大丈夫!一人の方が身軽だもの」

「そんなんじゃ無い!あいつは良いが、父さんや母さんには言ったのか?一人で来るって。それにその頰は……」

「……父上、お金が勿体無いって、護衛を辞めさせたの。それなのに宝石とか、ギャンブルとか……ダメだっていうと叩かれたの」

「何だって!」


 ムッとするクレスールに、


「大丈夫だよ。私は平気。でも、お兄ちゃんや皆に……ごめんなさい」


 泣きそうな顔をするマリアを領地の近くまで送り、そして、まだ幼いマリアにまでと辛い思いをさせているあの家族に、いつか目にものを見せてやる……仕返しというよりも見返してみせると思ったのである。




 すると、


「サー・クレスール卿でしょうか?」


と身奇麗な正装の使いが姿を見せる。


 サーの称号は、この国ではなく、シェールドで騎士の地位を得た時に与えられた。

 この国でサーの称号を持つのは王族が殆どで、クレスールはルイスに勧められ留学して得たのである。

 留学するものは多い、しかし正式に騎士となるものは少ない。

 その狭き門をクレスールは突破していた。

 普通、クレスールがここにいるのがおかしいのである。


「あぁ。私がクレスール・エソン・アレッザール。アレッザール子爵の息子です」

「いえ、サー・クレスール卿、いえ、アレッザール子爵閣下、国王陛下より書状にございます」

「はっ?ち、父に何かあったのか?アレッザール子爵は父の地位で……」

「いえ、詳しくは、中に書いていないだろう、代わりに説明をして欲しいと王太子殿下より、お言葉を頂いております。実は、元ラミー子爵の領地を納める能力のなさに、王太子殿下への暴言、その上王宮に使いもなく乗り込んで騒ぎ、ラルディーン公爵閣下と陛下がお怒りになられ、ラミー子爵とその家族が爵位に領地を召し上げられました。そして、この地とは違いますが辺境伯の一私兵として追放となっております」

「はぁぁ!待ってくれ!ラミー子爵とその夫人やクソガキは良いが、マリア……お嬢様は?」


 噂や、あれからも時々やって来る、実年齢よりも幼く小さい少女を心配していたクレスールは問いかける。


「元ラミー子爵家には息子一人のみでございます。そして、サー・クレスール卿のお父上が、国王陛下の命でラミー伯爵として領地と屋敷、職務を司ることとなりました。王太子殿下の命は、サー・クレスール卿に、アレッザール子爵として王都に戻られ、本来の職務に戻ってくれるようとのことにございます。殿下がおっしゃられるには、多分、その書状には、ラルディーン公爵閣下のご令嬢のお話ししかないだろうと……」

「失礼……あ、お茶をどうぞ」


 使者にお茶と妻の作ったクッキーを勧め、渡された書状と袋を見つめ、書状を開くと、2歳年下の共に留学したティフィリエルの言葉通り、


『ヤッホー。クレスール。元気ですか?本当にお疲れ様。

 あ、僕ね?ルイスが可哀想だったから我慢してたんだけど、キレちゃった〜( ´∀`)

 鬱陶しい馬鹿は財産や地位も全部奪って追い出しました。なので、胸をはって戻ってきてね〜( ´∀`)

 そういえばさぁ、最近、ティフィが可愛くないんだよぉ〜?だから、いじめて良いからね?

 ティフィ付きになるからよろしく〜。リーお兄ちゃんより』


とかなりノリが軽い手紙だった。

 ちなみに、これが仮にも80を超えた、シェールドには及ばないものの大国の国王の手紙だろうか?

 そう言えばルイス伯父が頭を抱えていたなぁと思っていると、もう一枚便箋があった。

 めくると、


『追伸。

 本当はね?ラミー家を残したかったけどね、デュアンリールがマリアちゃんを妹にしたいっていうから、ラルディーン公爵家の養女にしました。そして、ラミー子爵家の屋敷もボロボロで改修工事に、君の両親も無理がたたって、栄養失調のマリアちゃんと一緒にラルディーン公爵家で療養中です。早めに戻ってあげてね。両親も本当は君たちを心配しているだろうから……悪いのは、ルイスの息子だからできるだろうと思っていた私だから、両親を責めないであげて下さい。リスティル』


と、丁寧な文字で記されていた。

 この国王が名君だと思うのは、気遣いに気配り、そして身分など関係なく周囲に優しくできること……政務や天才的な手腕もそうだが、様々考える人……。

 敬意、親愛はあれ、怒りはない。

 怒りの相手は、両親や自分たちのプライドや時間を奪った元ラミー子爵夫婦である。


「ありがとうございます。陛下に御礼と、急いで王都に戻り、なるべく早く任につけるように致しますとお伝え下さい」

「かしこまりました。サー・クレスール卿。よろしくお願い致します」

「あ、休憩は……」

「お茶とクッキーを戴きました。ありがとうございます。では、失礼致します」


 使者は頭を下げ、下がっていった。

 もう一度手紙を確認すると、袋を思い出し中を開けると、金貨がぎっしり詰まっていた。


「……これは、貸してやるから即帰ってこい、なのか……これからの仕事頑張れなのか……」


 考え込み、すぐ動き出したのだった。




 一応、金貨は謝罪と、王都への帰還の準備と、その他諸々なのだが、クレスールはそういったところには気がつかない性格である。


「まぁ、荷物纏めて、嫁さんと子供たちと帰るか……」


 書状と袋を懐に収め、歩き出したのだった。

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