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「兄さん」と呼ばれる日常

今更ですが、更新は一週間に三〜四回出来ればいいかなと。



「兄さん」


 生前、見智は好奇心の塊だった。

 幼い頃から、あれはなんだこれはなんだと俺に聞いて、答えてやっても結局は自分で調べ尽くしてしまうのが日常茶飯事であった。

 無論その興味の矛先は、ドッペルゲンガー現象にも向いていた。


「兄さん、兄さん」


 ……当時、熱心に資料を探して読んでは、独自の考察を語って聞かせてくれていたのだ。

 故に、理解は深い筈であった。

 そんな妹ですら、ダブルの前に発狂してしまったのだ。

 だが、今考えてみれば違和感は残っていた。

 そも、妹の直接の死因は現象自体ではなく、身体損傷による失血死。


「兄さん兄さん、こんなことも出来ちゃいますよ」


 ――出現したダブルはただのトリガーでしかないはずだ。

 それは、他の双子狩り事件にも当てはまる。

 ダブルを恐れるあまりに、自らと似通った人間を殺傷した事件の総称と世間では認知されているが、それは不完全な認識だ。


「ほらほら、口から腕が出ちゃいます」


 ……正確には、"突然一方だけが発狂して"引き起こされた事件である。

 ペアのうち、両者が共に発狂したという事例は存在していないのだ。

 似通った二人であれば、どちらかのダブルが出現した時点で、両者が発狂していてもおかしくはないはずなのに。

 しかも、世界中で発生したこの一連の事件は、異常なまでに終息するのが速かったような――。


「にいさん、ねぇにいさんっ」

「……考え事くらい、静かにさせてくれよ……」


 仮定妹のダブルであろう、眼前で騒ぐ存在――見智で問題ないだろう――は形容し難い姿になっていた。

 実体がないからと、俺の体を貫通してみたり頭から腕を生やしてみたりと、好奇心の成せるままに遊んでいたようだ。

 現在、絡まりに絡まった異形は見るに耐えない。


「なぁ、見智は何もわからないんだよな?」

「んー……私がわかるのは、約束をした次の日のことまでです」

「そうか、何故自分が話せるのかとかそういうこともわからないんだよな」

「なんでなんでしょう、不思議ですねぇ」


 文字通り頭を捻って見せる見智は、やはり自身の状態についてはよくわかっていないようだった。

 どうして突然現れたのか。

 そもそも、何故自我があって、会話が成立するのか。

 何も分からずじまいであるが、取り敢えず頭をフクロウの如く回転させるのはやめて頂きたい。


SEU(エスイーユー)に相談してみては?」

「SEUか……」


 SEU――世界中に支部を置いている反ダブル協会で正式名称を"seul(ソル) et() unique(ユニーク)"という。

 人類皆唯一無二(じんるいみなゆいいつむに)を掲げ、それを(おびや)かすダブルの原因を究明し対策するための組織。

 遮光ゴーグルを開発・配布しているのもSEUであり、今では世界中で絶大な支持と権力を持つ。


「……いや、それは最後の手段にしよう」


 個人的にSEUはあまり好きではない。

 どうも、権力というものに対しての不信感を持ってしまうのだ。

 それに、先ずは自分達で調べてからの方がいいだろう。


「しっかし、自立するダブルなんて聞いたこともありませんよ、大発見ですよっ」

「お前が言うなって話だがな」

「でも、ということはですよ……アストラル体分離離脱説が実証されたってことになるんですかねっ」

「オカルトだと思ってたんだが、近いかもな」


 いわゆる幽体離脱のようなもの。

 違いといえば、本人が意識を保っているということか。

 精神が二分され、その片方が外界へ離脱したものがドッペルゲンガーだとする説だ。


「決めつけるのはまだ早い、兎角今日はもう遅い……って、そういえばお前は寝れるのか?」


 というか必要があるのかどうかすら怪しいが。


「んー、前提をアストラル体にすると、私は精神体ってことになりますからそれっぽいことは必要なのかなーっと思いますっ」

「そうか……俺は眠っていいか?」

「はい、朝になったら起こしに行きますね」

「助かる」


 元々、朝には弱く五年前まではよく妹に起こしてもらっていた。

 なんだか、懐かしいな。


「明日、俺の友人に会いに行くからそのつもりで」


 日常的にダブルと過ごしているヤナギなら、何か知っているかも知れない。


「はい、お休みなさい兄さん」


 その日、久しぶりに俺は熟睡した。

 


分離離脱は造語です。

一話一話を短めにして、読むのにかかる時間を抑えてみる方向。

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