クリスマスの贈り物
-----クリスマスの贈り物-----
12月21日
今日はジミーの5歳の誕生日です。
ジミーはママに連れられてバスに乗って街へ出ました。
日が落ちたばかりの街にはクリスマスソングが流れ
赤や白やオレンジ色の光が溢れかえる程に輝いています。
「ジミー。そんなに走ると危ないわよ。迷子になっちゃう」
ジミーはママの手を離れて軽快なスキップで走り出します。
「ママ。ボク覚えてるよ。ほら・・・こっちだよ。こっち」
ジミーは数十メートル先のレストランの看板を見つけて得意そうに叫びました。
去年も一昨年もジミーの誕生日にはそのレストランで食事をしたのでした。
レストランの前には赤い服のサンタクロースが立っていました。
ジミーは初めて見るサンタクロースに声をかけました。
「・・・こんばんは。サンタさんですか?」
「そうだよ。こんばんは。坊や」
「・・・ほんものの?」
「・・・もちろんさ」
「ホントに?・・・ぼくね。ほしいものがあるんだ。でもママがダメだって・・・
だからサンタさんにおねがいしょうと思ってたんだ・・・」
「クリスマスプレゼントだね?坊やは何をお願いしたいのかな?」
ジミーは両手を大きく開いて言いました。
「あのね、これくらいの赤いしょうぼうしゃ」
ハイヒールでジミーの後を走って来たママがようやくジミーに追いつきました。
「ジミー。サンタさんはお忙しいのよ・・・邪魔したらダメじゃない」
ママはジミーの小さな肩を抱いてレストランに入るように促しました。
「ジミー5歳のお誕生日おめでとう。今年はおうちでお祝いしても
良かったんだけどジミーは本当にこの店が好きなのね」
今年の誕生日はママとジミーの二人っきりです。
去年まではパパがいて三人で楽しく誕生日を祝いました。
ジミーはその事をもちろん覚えていましたがパパの話をすると
ママが悲しそうな顔をするので黙っていました。
----ジミー誕生日おめでとう。パパが留守の間いい子にしていたかい?---
ジミーはパパが突然現れてそんな言葉をかけてくれそうな気がして
どうしてもこのレストランに行きたいとママにお願いしたのでした。
もちろん現実にはそんな事は起こりそうにないという事も知っていました。
パパは遠くへ行ってしまったんだとママに聞かされていたからです。
「うん。ここのハンバーグが大好き。でもママのハンバーグもおいしいよ」
ジミーは気遣いのできる子供でした。
「まあ。じゃあ今度はママがうんと美味しいハンバーグをつくるわね」
ジミーは大好きだと言う炭焼きハンバーグを平らげ
仕上げにバニラアイスパフェを食べて終始ご機嫌な様子でした。
「サンタさんもういないね・・・」
レストランを出るとジミーはサンタクロースを探しましたが
もうどこにも姿は見えませんでした。
12月23日
「こんにちは。宅配便です」
その日ジミーの家に少し大きな荷物が届きました。
荷物の送り主の名前を聞いてママの顔色が曇ります。
ママは荷物を受け取ると早速送り主に電話をかけました。
「マーク。一体どういうつもり?あなたからの荷物を受け取ったんだけど」
「やあ。ジェシー元気そうだね。明日の夜ジミーが寝付いたら
枕元にそれを置いてくれないか。サンタさんからのプレゼントとして。」
「何を言ってるの。もう私たちの事はほっといてちょうだい。
あのレストランの前でサンタのふりをしてジミーを待ち伏せするなんて
変な小細工はやめてほしいわ。
・・・あなたとは一年前に終わったのよ。」
「ジェシー。変に思わないでくれ。
あの日はチャリティーイベントでサンタの格好をしていたんだ。
ジミーの誕生日に毎年三人で行っていたレストランが懐かしくて立ち止まっていたら
たまたまジミーが・・・」
「もういいわ。あなたっていつもそう。変な小細工と言い訳ばかり・・・」
「ごめんよ。ジェシー。ごめん。電話を切らないで。
僕はいつだって君を怒らせてばかりだね・・・本当にすまないと思っているよ」
「今更謝ってもらわなくても結構よ。あなたとはもう赤の他人ですから。
ジミーの親権もこっちにあるのでもう構わないでちょうだい」
「そのことなんだけどジェシー・・・もう一度考え直してくれないか?
ジミーには僕が・・・父親が必要だと思わないか?
僕はサンタの格好をしていた時にあの子が欲しがっている物を知って確信した。あの子には父親が必要なんだよ」
暫く沈黙が続きました。
「そしてこの一年で僕は思い知らされたのさ。
ジェシー・・・僕にはパートナーとしてどうしても君が必要だと言う事を・・・
愛してるよジェシー・・・君だけを愛してる」
12月25日
「やったー!ママみてー!サンタさんのプレゼントだよ。」
その朝ジミーはプレゼントの包を開けておもちゃの消防車を抱きかかえました。
でもジミーは嬉しさのあまりうっかりママに消防車を見せてしまった事を
後悔したのです。
ジミーはとっさに消防車を背中に隠しました。
誕生プレゼントに消防車を欲しかったけれどママが
他のおもちゃにしましょうと言って買ってくれなかった事を思い出したからです。
ジミーのパパは消防士でした。
ジミーは消防車を見ると優しかったパパが側にいてくれる様な気がするのでした。
ジミーにとって消防車は消防士であるパパのシンボルだったのです。
でもママにとってはパパの事は忘れたい存在です。
ジミーはその事も何となく感じていたのでした。
「・・・ジミー消防車を隠さなくてもいいのよ。
今までジミーにつらい思いばかりさせたわね
でもこれからはもうそんな思いはさせたくないわ。
・・・だからママは決心したの
今夜うちでクリスマスパーティをやりましょう。
ジミーにはまだ言ってなかったけどパパも呼んであるのよ。」
「ホントに?ほんとにパパが帰ってくるの?やったー!」
ジミーはママの前で堂々と消防車を抱きしめて飛び回りました。
窓の外では粉雪が静かに降り始めました。
今夜は素敵なホワイトクリスマスになりそうです。
---- Merry christmas----
<完>