5:これからとそれから
むせた私にこちらをどうぞと胸ポケットから白いハンカチをくれるサイラスさんにぺこぺこしておいた。むせて喉が痛い‥‥‥。
「本日は改めて、この世界や大陸そしてスイ様ご自身の事など説明したいと思っております。それが終わりましたら、会って頂く者達がおりますので」
「それは助かります、会う方達って言うのはどれくらい居るんですか?その、あんまりマナーとかは自信ないんですが‥‥‥‥」
「心配はございません。今日会って頂くのは三人程です、位の高い者達になりますが大丈夫です。詳しくは別室にてお話致しますので、一先ずお着替えを」
「別室ですか?」
「ええ、ここはあくまでスイ様の寝室ですから。執務室がございます、そちらに。私は扉の外にて控えています、準備が出来ましたらお声を掛けて下さい」
「あ、分かりました。じ、じゃあ 準備してきますね」
にこりと見惚れそうな微笑と深すぎず浅すぎずな見本の礼をして部屋を出たのを見て凄いなと尊敬した後、準備をしてきますと言ったはいいけれど‥‥‥‥‥服を着替える位、だよね?今着てるワンピースは寝間着にした方がいいかなぁ。ちょっと皺が、ね。
衣装部屋にある服、残りも全部ワンピースだけど、まあ無難なやつ選べば見苦しいっては言われない筈だ。
白地の五分袖か渋めの赤い丸襟の長袖の方にするか、迷う。どちらもお嬢さん然とした清潔感のある形だと思う、まあ色は私的には赤い方が落ち着いた色合いで大人な感じがしないでもない。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥うん、よし。少しでも落ち着いて話聞けるように大人な方でいこう。
「サイラスさん、お待たせしました。すいません、少し時間が掛かってしまって」
「いえ、待ってなどおりませんよ。よくお似合いです、スイ様」
「あ、ありがとうございます」
「では、執務室へご案内致します。城内については後々覚えて頂きますが、大抵の者は転移を多用しますので大体の位置を把握して下さればと思っております」
「転移?って言うのは便利なんですね、不思議です。そうだ、お城って広いんですか?」
「統治者の居城ですので、不必要に華美ではありませんが魔大陸の象徴として四つの棟と五つの塔にそれらを囲むようにして二重の城壁がございます。スイ様の寝室や執務室などは中央の塔の上層になりますね。っと、ここでございますどうぞ」
話に気を向けていたので、あまり自分の部屋からの道順を覚えていない。ただ、窓は多目だったなぁって言うのはなんとなく覚えた。天井も高かったし、窓一つとっても目一杯見上げないと全体を見れなかったもの。どうやってあんな高い所を掃除してるんだろうか?
サイラスさんに促されて若干恐る恐る入った執務室は、シンプルだった。
入って右側に黒の革張りの三人掛けのソファーが対面で二脚、その間にソファーと同じ長さの机がある。応接室みたいだなぁ。
左側には本棚が、分厚い本しかないようだ少しだけ興味をそそる。
そして中央奥にどどんと艶の眩しい漆黒の大きな机が置かれている。机の上にスタンバイされている羽ペンを私は使える気が全然しない。
「では、スイ様お掛けください」
「はあ、えと失礼します」
「ソファーではなくて、こちらですよ。この机はスイ様専用ですので、執務室ではこちらにお座り下さい。スイ様以上の位の者などおりませんから」
問答無用でピカピカテカテカの机の方にと言われた、椅子も負けず劣らずこちらも黒の革張りでクッション性も申し分無くて、私なんぞが座って良いものか‥‥‥‥‥とソワソワしてしまう。そんな椅子を見たまま固まった私を、不思議そうに見てくるサイラスさんに曖昧な笑みで返事をして、そっと座るけどやっぱりソワソワする。
「どうしても、前の私のモノの感覚で考えてしまって。どうも高価そうなのに囲まれていると落ち着かないんですよね」
「なるほど。では、まずスイ様についてお話を致しますね」
「はい、お願いします」
「統治者、他の大陸や国からは『魔王』と呼ばれています。統治者たる方はあの大陸の源よりお生まれになると説明したかと思います。我々との違いは、統治者たる方は生まれた瞬間より成体でございます。我々は生まれておよそ五十年は幼体、長くとも百になるまでに成体へと成長致します。ここまでで分からない事はございますか?」
「‥‥‥‥‥その、統治者って言うのは皆私と同じような状況だったって事ですか?急にあの洞窟に居るんですか‥‥」
「はい、しかし稀にこの世界で統治者としての素質を持つ者が居ない場合にスイ様のように他の世界より呼ばれたと記録されております。魔大陸にある全てのモノに魔力は宿っております、植物はもちろんこの大地にすら宿っているのです。それらは常に魔力を注がなければ途端に荒れ果ててしまうのですが、それには莫大な魔力を必要とします。ですので統治者に選ばれる方は、魔力を無尽蔵に宿していらっしゃる方でないと駄目なのです。大陸の源より生まれた瞬間から大陸へと、魔力を補給して下さるからこそリバルデールは肥沃な大地や豊富な資源を有せるのです」
なにやら、統治者とは大それたやつのようだ。いや、魔王って呼ばれてるってさらっと言われたのはびっくりしたけれど。しかし、魔力がなんなのか未だにちっとも分からない。けど、サイラスさんの話からしたら、私があの洞窟に現れた瞬間から魔力をこの大陸にあげてるんだよね?全然魔力って言うのを感じないけど、大丈夫なのかな‥‥。