4:一日の終わりとこれからと
どうにか、赤くなった顔を戻してからお風呂に向かえば、猫脚のバスタブでちょっと気分が上がった。浴室は壁一面、白のタイルで汚れやくすみ一つ無く磨きあげれていた。お湯は既に張られていていつお湯を張ったかは分からないけど、ぬるくはなっていなくて少し熱めですっきりしたかった私としては有難いと思う。
泡立ちの良い薔薇だろう花型の石鹸にまた気分が上がって、少し甘い匂いにこれだけの事だけどなんだか楽しい気分になれる。ついさっきまで大泣きしていたくせに、私は単純だろうな。
「もう、ここが現実だもの‥‥‥‥‥‥‥」
逆上せない内にお風呂から出て、真っ白なバスタオルは肌触り抜群で、一先ず脱いでいた服を着て寝るのに良さそうな服を探そうと衣装部屋に足を向けた。
「あ、良かった。シンプルなやつばっかりだ」
衣装部屋に入ってみれば、数枚のワンピースがハンガーに掛けてあった。丈も長めのものばかりでちょっと足を出すのに抵抗があるので心底ほっとした、用意してくれた方に感謝だ。
決して狭くはないこの衣装部屋にぴっしり服が詰まってない事も凄く安心した、詰まってそうな雰囲気があるんだもの。膝丈のゆったりした淡い緑のワンピースに着替えてから、ベットへと腰を下ろしてその感触に思わずそのまま体を倒した。
「うあー、なにこれ‥‥‥ふかふか。けしからん、ふかふか‥‥‥‥」
柔らかく沈む感じがなんとも言い難い幸せ感をくれる。包まれてます!って感じだろうか、こう‥‥‥ダメ人間が増えそうなふかふか具合だ。
暫くふかふかを楽しんでから、はたといい歳して何をしてるんだと思ったけれど、嗚呼、そうだ今の私は生まれて一日目だよなと落ち着いた筈の気持ちがざわつく。
また涌き出てこようとする『何故』を必死に飲み込む、泣き喚いても元に戻る事はないのだから受け止めると、何をするべきか分からないけれどしっかり自分の足で立つのだと決めたじゃないと、正反対の意見が私の中でぶつかり合ってはうやむやに消えていく。ぐるぐると回りだしたそれらに、無性に叫びたくなる。
不安定な感情は酷く私を追い詰めて、歪み始めた視界に慌てて手を強く顔に押し付けて、歯を食い縛って喚き出さないように叫び出さないように、落ち着け落ち着けと自分をひたすら叱咤する。 こぼれ落ちる涙はなんて苦いんだろう。
トントン、とノック音で意識が浮上した。
いつの間にか眠っていたらしい、涙のせいだろう手も顔もなにやらかさつく。酷い状態だなぁと苦笑して体を起こせば、ドアが開いて失礼致します、とサイラスさんの声と共に入ってきたのは、真っ赤な髪の青年だった。
片側は肩に届く位長く、前髪や短めのもう片側は後ろに流すようにセットされている。服はスーツのようだ、カチッと着ているのを見るに几帳面なのだろう。醸し出す雰囲気は知的で細身のダークグレーのスーツに赤い髪、キリリとした深紅の瞳、誰がどうみても見目麗しいと言うか麗し過ぎる。
昨日鏡で見た私は以前と変わらず、特別可愛くも綺麗でもない、まあ強いて言うなら綺麗寄りじゃない?と言われたように目立つような顔立ちではなかった。見慣れた普通の顔と肉付きのよい足が気になる平凡な体でむしろ安心した程だ、見た目も変わっていたら多分だけど気が狂ってた気がする。
「スイ様?」
「え、あ、ああすいません。一瞬誰かと思ってしまって。顔、洗ってきます」
ついぼんやりと考え込みそうになったのを誤魔化すように洗面台へと急いだ。鏡で見た顔はやはり酷い有り様だった、何も指摘しないでくれたサイラスさんには、気を使わせてしまったんだろうなと口を濯いだ。
「お待たせしました」
「大丈夫ですよ、どうぞティムルの実のジュースです。飲みながらで構いません、今日の予定を説明致します」
「あ、はいありがとうございます。あの、もしかして忙しかったりします‥‥か?」
「スイ様がある程度慣れるまでは特にする事はございません。‥‥‥‥と、申しましても統治者たるスイ様はこのリバルデールに居て下さるだけで我々にその魔力の恩恵を下さるのですが」
「‥‥‥‥‥は?っっごほっ?!」
何だかえらく凄い事を言われている。渡されたティ‥‥ティル‥‥ティムなんとかのジュースが見た目がオレンジジュースなのに、味がミルクティーで危うく吹き出しそうになってた私に言われた自分の存在価値に堪らずむせた。