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2:自身の状況把握をしたい

 花畑を抜けたらそこは森だった。

 魔大陸とか言ってたよね?と思いながら見上げた木々は元気に緑の葉を生い茂らせているし、ぽつぽつと生っている実は案外美味しそうな感じがする。林檎みたいなのや、洋梨的なものとか外見的には魔大陸っぽくない。なんだか禍々しい獣とか明らかにヤバいですみたいな植物とか陰鬱とした大地とかをどうしても想像してしまうのだ。





 「あの、サイラスさんこの大陸に住んでいるのはどんな感じの方々ですか?」


 「‥‥‥‥敬称は不要ですよ。このリバルデールに住む事が出来る種族は魔族や魔獣、若しくは魔人族と限られています。西の大陸はハノンフール、妖精族や小人族などの自然から力を借りる事の出来る一族が、北の大陸はキンデルブルス、獣人族や巨人族など身体能力に長けた一族が、最後に南の大陸はティルムヤム、人族が住んでおります。それぞれ行き来するのは自由ですが、どの大陸も特殊な環境下にありますので行き来するのはある程度力の有る者か上の立場に就く者ばかりですね」


 「そ、そうなんですか‥‥‥。人間も、居るんですね」


 「スイ様は此方にお生まれになる前は人族でしたか、今スイ様のご自身の種族はお分かりですか?」


 「え、魔族か魔人族のどっちか‥‥だよね?違いがよく分からないですけど」


 「この二つの種族の違いは、私のように獣型と人型に変化出来るのが魔族です、スイ様のように人型のみが魔人族ですね。 獣型のみの場合は魔獣です、知能はあまり無く本能に忠実ですので取り合えず襲ってきます。因みに、彼処に実っているものは全て魔大陸の住民以外には猛毒を持ちます、魔力を纏っておりますゆえ耐性を持たぬ他の大陸の者には毒となるのです。勿論、私やスイ様にとっては只の果物ですよ」





 結構、えげつない実だったらしい。この大陸の住民には普通の果物なのに、他の大陸の住民には猛毒とかびっくりだ。それならこの大陸にやってくる力の有る人とか偉い立場の人とか果物で猛毒なのに一体何を食べるんだろうか‥‥‥‥まさか持ち込みとか?

 というか、私は魔人族になるのか。そもそも生まれたってなんだろう。




 「その、生まれたって言うのはどういう意味ですか?」


 「そのままの意味でございます。貴女が初めに居たあの場所は『大陸の源』と呼ばれる場所です、洞窟の周りに咲く花々は統治者たる者が生まれなければ蕾のまま花を咲かせる事はないのです。この大陸には約千年統治者が生まれず、日々緩やかに衰退しておりました。この大陸の全ての者が待ち望んでいたのです、新たな統治者を、我々に力を、生命(いのち)を与えて下さる存在を。そして本日、スイ様が大陸に呼ばれ新たに魔人族として統治者としてお生まれになったのです。無尽蔵の魔力をその身体()に宿す存在を、大陸そのものが呼んだのです、それが貴女だ」


 「‥‥‥‥‥‥‥、前の私はどうなってるんですか」


 「‥‥‥恐らくは、存在していなかった事になっているかと」




 一瞬、息の仕方を忘れた。

 田中翠として過ごした二十三年が無かった事になっている?友達も家族も経験してきた事全てが急に無かった事になったと言われ、一体誰が怒れずにいられるだろう。私は無理だ。呼ばれた?選ばれた?私が私たる所以が一瞬にして全て無にされた。

 やり場のない怒りがぐるぐると胸を巣食っていく、立ち止まった私に何を言うでもなく見上げるサイラスさんに耐えかねて、私は堪らず口に出してしまう。




 「勝手じゃ、ないですかっいきなり知らない所に居て、もう人間じゃない、とか言われて‥‥‥太陽が三つとか嫌でも違う世界だ‥‥って、統治者とか知ら、ない。待ち望んでる、なんて知らないよっっ!私じゃ無くたって、いいじゃないっなんで‥‥‥なんで、私な、のっ。なんでっ私なの、よぉ‥‥‥っ」





 ポタポタと顔を覆った手の隙間から落ちて行く涙。

 嗚咽混じりの言葉は酷く拙くて、私自身の心を抉る。何故私が、何故私じゃなければいけないのと涙が溢れ出る毎に深く傷を付けていく。

 分かってる分かっているのだ泣いても喚いても、サイラスさんに怒りをぶつけたとしても、私が帰れない事も今の魔人族になった事も、全てが現実でもう田中翠は何処にも居ないのだ。今居るのは、魔人族で統治者のスイ。


  分かっているけれど、分かっているけれども、この手を顔から退かす事も涙を止める事も当分出来そうにない。



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