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タウン・アクター  作者: タブル
序章 アンハッピー
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4

 場所は変わり、東京───新宿。

 日本刀を片手に一人の男が、夜の街を歩いていた。

 つい先ほど、ある企業の上層部を皆殺しにしてきたばかりである。理由は至って単純。その商法が気に入らなかったからだ。

 仕事ではないので、当然報酬も出ない。

 ただ、殺したいから殺した。それだけだった。


 血を拭き取り、ギターケースに刀を入れた。刀を出したまま持ち歩けば、すぐに警察に捕まって面倒だ。警官を殺すのも、退屈だ。

 だから、銃刀法に引っかからないようにケースに入れて歩く。

 ギターケースを抱える様は、さながらバンドマンだ。しかし、ギターどころか楽器はロクに弾けやしない。あくまで姿だけ。

 黒いコートに、赤い長髪。長身で、残忍な性格さえ無ければ女性も放っておかないであろう容姿の男。

 彼の本職はヒットマン。趣味は虐殺。

 コードネーム───『フォーエバー』。

 村雨の元同僚である。


 そんな彼のケータイが震えた。着信。

 ケータイを取り出し、耳にあてた。

『───久しぶりだな、フェニックス』

「……今はフォーエバーだ」

 フェニックス。これは昔のコードネームだ。そう、村雨と同じ職場にいた頃の。

「フェニックスなんて、久々に聞いたぞ」

『そうか。今はフォーエバーだったか』

「ちゃんと通信履歴消しておけよ」

『分かっている』

「ところで、何の用だ。お前らとは縁を切ったはずなんだが。殺されたいのか?」

『お前のその言葉遣いも久々だな』

 呆れて笑う声が聞こえた。

「悪かったな」

『東京に行って、少しは更生したかと思えば、少しも変わっちゃいないな』

「死んでも変わらねぇよ。……で?」

『……と。用というか……お前、狼憑きを覚えているか?』

「狼憑き? ん……ああ、あいつか。俺と同期のくせに、どうにもヘラヘラして気に入らなかった奴だ。あいつも殺してやりたかっ───」

『あいつは今、桜神街にいる』

 桜神街。その名にフォーエバーは反応した。

「桜神街? なぜ、まだそんな所にいやがる」

『分かっているだろう。やはり本場だからな。そこであいつは今も活動をしている。今や期待のエースとしてだ』

「エース……ねぇ」

『殺し屋としての腕は一流にも関わらず、少しばかり性格が周囲と噛み合わなかっただけで業界から永久追放されたお前としては、これをどう思う』

「……言いたいことははっきり言え。殺されたいのか」

『お前が桜神街に戻ってくることを手助けしてやるって言ってるんだ』

 手助け。その言葉に引っかかった。

「お前の目的のために俺を利用したいだけじゃあないのか、おい。俺はお前の手助けをする気はない」

 誰かの駒となって利用されるのは嫌いだ。

『だからといって、このまま史上最強の通り魔でいるつもりか?』

「お陰で金はある」

 殺して、物を奪う。だから金には困らなかった。これでは通り魔というより強盗だったが、一応物を貰うのはついでで、メインは殺すことにある。だから、フォーエバーを知っている者からすれば、彼は間違いなく通り魔だった。

 ただの無差別殺人鬼。

『じゃあ、旅費は要らんか』

 旅費……?

「いや、ちょっと待て」

 そう言われると、考えたくもなる。たとえ殺人鬼でも、金は欲しいものだ。

 そもそも面倒だった上に、出費を惜しんで───なんとなく断っていただけだ。

 もし行くとするならば、旅費くらいは出してもらえなければ困る。せめて、ファーストクラスの飛行機で向かい、到着後、高級ホテルに泊めてもらわなければ割に合わない。

『どうした。気が変わったか?』

「……ああ」

 フォーエバーは、自身が認めるほどの気分屋である。気分で寝て、気分で食べ、気分で殺す。

 趣味が殺しであり、最強の殺し屋を目指す彼にとって、趣味で金が手に入ることは願ってもない話である。

「雑魚を殺すことも飽きてきた頃だ」

『じゃあ、来るか。桜神街に』

「ああ、口車に乗せられて、行ってやるよ。そこで祭をあげてやる」

『祭?』

 電話越しに怪訝な声が聞こえてくる。

『奴を殺したいだけじゃないのか?』

「いや、もう一つやりたいことがある」

『それに関してはサポートしないが───』

「構わん」


『じゃ、早速だが、必要は物は全てもう郵送してある。添付したファイルを開いて、指定した場所まで取りに行け。後は見れば分かる』

「お前にしては用意周到だな」

『お前がいつも無計画過ぎるだけだ』

「……色々計算立ててやるよりはずっと楽しいぞ」

『そうかい』

 ため息混じりの返事が返ってきた。

『だが、奴を殺すまでは面倒事は起こすなよ。お前はいつもそうだったからな』

「ああ、大丈夫だ。心配するな」

 そう言って、フォーエバーは大きな通りに出た。スクランブル交差点。うるさい雑踏が耳障りだった。

 人が電話しているのに、何様だ、お前らは。

『じゃあ、桜神街で待ってるぜ』

「ああ、じゃあな。千堂」

 電話が切れた。ポケットの中にケータイを突っ込み、ギターケースを手に取る。

 みなぎってきた。いよいよだ。

 雑魚を相手にするのは、もううんざりだ。東京に来て、面白い戦いなんて一度も無かった。人口が多いばかりで強敵などいない。桜神街から出禁をくらってから、退屈な毎日だった。これから強敵を殺しに桜神街に行く。本場、桜神街で心躍る戦いが待っている。

 だんだん気が高揚してきた。

 衝動的にギターケースから再び日本刀を取り出し、二度三度振ってみる。

 ───よし。切れ味も最高だ。

 目の前と隣を歩いていた人間が、呆気なく血を流して死んだ。

 この刀で、今度は狼憑きを───

「…………あ?」

 気づけば、周囲は騒然としていた。悲鳴や助けを求める声で満ちている。

 恐ろしい物を見る目でフォーエバーを囲む人々。ケータイのカメラを向ける者や、ひたすら逃げ出す者、果敢に取り押さえようとする者など様々だった。

 そんな彼らに向かって、一人(つぶや)く。


「なんだ、お前ら───殺されたいのか?」

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