表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/135

7 チュートリアルダンジョン 攻略編 その二

「楽しそうな事をやっていますね。

 よろしければ、お仲間に入れて欲しいのですが?」


「どうぞ。

 むさくるしいお遊びですが、歓迎しますよ。

 殿下」


 アリオス殿下とグラモール卿の乱入に、ああ、乙女ゲーだなぁと感じずにはいられない昼下がりの事だった。



「紅茶です。

 エリー様の好みですが」


 雲上人突然の乱入にお茶をいれるアンジェリカの力の入れ具合がかえって私をリラックスさせる。

 ちらと見ると、一度あっているはずのケインも自然体ではないように見える。

 このあたり現代感覚だといまいちぴんと来ないんだよなぁ。


「いただきます。

 よい茶葉ですね」


 香りを楽しんでアリオス殿下は紅茶に口をつける。

 それに合わせて私も紅茶に口をつける。


「参加するのは構わないのですが、これを何処でお知りになったので?」


 一応情報源のチェック。

 隠れてする事でもなかったが、殿下が何処から聞いたかを知るのは今後の対策になる。

 アリオス殿下はティーカップを置いてあっさりと情報源をばらした。


「グラモールからこの話を。

 大々的に人を集めて迷宮攻略をするというので、それならばお邪魔しようかと。

 姫君の試練を手助けするのは騎士の誉れですから」


 いい笑顔でアリオス殿下が言うけれども、目はしっかりと胸の三つの勲章に。

 つまり、目的はこれか。

 耳もいいし、行動も素早い。

 さすがチート王子。


「乙女の胸をじろじろ見ないでいただけますか?」


「失礼。

 男の性とはいえ無礼でした。

 とはいえ、その胸に飾られているものは私でも持っていないもので、ついつい」


 そう言って、アリオス殿下は己の胸元にある従軍経験賞の三枚葉に指を当てる。

 三枚葉は騎士団副長およびそれに類するもの。

 王家や貴族の騎士団キャリアのスタートがここだったりする。


「乙女の秘密ですの。

 問わないでいただけると嬉しいですわ」


「もちろん。

 美しい女性には秘密はつきものです」


 おそらく、勲章を管理している王宮の紋章院は修羅場になっているだろう。

 魔法によって私のつけているこれらの勲章が本物である事は分かるが、何時に誰がそれを与えたかがまったく分からないのだから。

 で、偽者として一気に私を消しにかかるにはまだ情報が足りない。

 隠すと致命傷になりかねない秘密は、先に出してしまった方が後々有利になる。


「ごほん。

 それでむさくるしい遊びですが、殿下とグラモール卿はどのように参加なさりたいので?」


 わざとらしく咳払いをして、話をダンジョン攻略に持ってゆく。

 アリオス殿下はにこやかに自分達を押し売りした。  


「それはもちろん、姫君の盾として」


 第三層にいるボスアタックは私が率いるパーティで突っ込む予定で、前衛三人はケインと彼が率いる従士二人、後衛は私とアンジェリカに武装メイドという編制だった。

 ここに殿下とグラモール卿を混ぜろときたか。

 殿下のレベルは20、グラモール卿が31。

 入れば戦力は大幅に強化される。


「構わないですよ。

 ケイン。

 グラモール卿がいるから不要でしょうけど、殿下の盾になって頂戴。

 外れた二人は冒険者達のパーティに入って『維持』をお願い」


「かしこまりました」


 何かあったら迷わず殿下の盾となれという私の命令に、ケインは当たり前のように頷いた。

 へたに怪我でもさせるとそっちの方が後々大変である。

 ケインの装備は皮の服の上に使い込まれたチェインメイル、同じく使い込まれたバスタードソードを持ち、頭に鉄兜をかぶっている。

 どれも使いこまれているが同時に丁寧な手入れがされており、チェインメイルにぶら下げられた騎士章がないと歴戦の傭兵にしか見えない。

 その後、互いのレベルの確認をして、私のレベルで二人の目がシドと同じ事を語っていたのも付け加えておく。


「失礼します。

 第二層攻略パーティが帰還しました。

 今回も死者はおりませんが、重症5、軽症3で、維持以外のパーティはこちらに戻っています。

 第一層探索パーティも帰還しており、見つけたアイテムや財宝を確認して欲しいと」


 後は第二層攻略組の結果は、殿下とお茶会をして当たりさわりの無い会話をしていた時にやってきた。

 第二層は第一層よりレベルが上がっているので、その分損害が増えたという訳だ。


「わかりました。

 回復魔法をかける為にそちらに行きます。

 第一層と第二層の『維持』パーティを交代。

 うちのメイドと従士を使ってもう一つパーティを作って第二層の『維持』に投入。

 これが第二層の『維持』に入ったら、下から繰り上げて第一層『維持』パーティを帰還させるように。

 急いで」


「はっ」


 メイド服の上にレザーアーマーをつけたアンジェリカが駆けてゆき、私の命令をちらと見ていた殿下とグラモール卿が感心する。

 こちらの指示が堂々としている、つまり命令する事になれていると知ったからだろう。

 私がダンジョン入り口に赴くと、当然のように二人もついてくる。


「お嬢。

 とりあえず生きて帰ってきたが、この面子だときついぞ」


 私はそれを無礼と感じた殿下とグラモール卿の動きを手で制した。

 今は礼儀よりも聞かねばならない事がある。


「で、何がきつかったの?」


「ゴブリンシャーマンだ。

 ちらちらと出てきて回復をかけてくる。

 長丁場になって損害が増えちまった」


 皆に回復魔法をかけ終ると、帰ってきたシドが憎まれ口を私に向ける。

 皮の服にはショートソードをぬぐった血がつき、腕につけられていたバックラーに傷が入っている。

 苦戦の証拠だ。


「なるほど。

 じゃあ、三層にはソーサラーもいるかもしれないわね」


 私の呟きにシドが食いつく。

 その根拠はと目で言っているので、口を開く前に私は続きを話した。


「敵にとって、第三層は本丸よ。

 後が無いからとっておきの戦力を投入するの。

 ボスがゴブリンロードで、回復のゴブリンシャーマン、魔法攻撃のゴブリンソーサラーがいると犠牲者が出かねないわ。

 だから、私が出ます」


 攻略本情報とは口が裂けてもいえない。

 この手のはったりは堂々と言う事で効果がある。


「お嬢が出るなら勝てるだろうが、他は?」

「それは、お宝しだいってとこね」

 

 シドの言葉に私は視線を横にずらした。 

 第一層探索パーティが持ち帰った財宝……というのにはおこがましいガラクタの山を見つめる。

 ゴブリンは興味があるものはなんでも拾って巣に持ち帰る習性があるが、それを手入れするという発想が無い。

 とはいえ、迷宮で死んだ冒険者や傭兵の装備を剥ぎ取って使えるならば、戦力は飛躍的に強化されるのだ。

 何しろ、こちらは板の盾に廃材の棍棒なのだから。


「ショートソードの類は錆びてるのはある意味仕方ないわね。

 これは骨の兜かしら?

 使えるには使えるから横においておいて。

 カビが生えているレザーアーマーか……ないよりはましね。

 石の斧に、石の槍。

 こっちは十分使えるわ」


 こうやって装備を並べながら、ちらりと殿下とグラモール卿を眺める。

 全身耐魔法エンチャントつきのミスリル制プレートアーマーと兜装備だが、近衛騎士団仕様でものすごく見栄えが良い。

 ただ、二人とも実戦経験があるなと感じたのは、戦場が狭い迷宮なので同じくミスリル製ラージシールドとショートソードを持っている点。

 明確な盾役に徹しますと装備で物語っていた。

 竜騎士ならば、本来の武器は槍なのだが、対策対象は私なのだろうなぁ。


「さて、ここにあるがらくただけど、これを使って再度迷宮に潜る勇者はいるかしら?

 ここから先は命の保障はできないわよ。

 だから、ここで仕事を打ち切っても、報酬は満額支払います」


 数人ほど居た初心者冒険者達に私は声をなげかける。

 割のいい仕事ではあるが、同時に命のやり取りをする仕事だとこの数時間で彼らは身を持って分かったはずだ。

 その上でなお野心と向上心のある人間こそ、今後私にとって必要になる人材だろう。


「俺が!」


 そう。

 あなたいつも先頭を走っていたわね。アルフレッド。


「たしか、どこかで見たような。

 えっと……アル…フ?」


 わざとらしく愛しい人のかつてのあだ名を呟くが、アルフレッドはそれに気づかない。

 冒険心と野心を胸に秘めて、彼は一歩前に出てその名前を告げた。


「アルフレッド。

 アルフレッド・カラカル。

 冒険者の宿で、あんたに頼まれて主人を呼んだ駆け出しの剣士さ」 


「ああ。

 思い出したわ。

 あなたもこの仕事受けていたのね。

 いいわ。

 一番槍にはそれにふさわしい報酬を。

 そこの装備好きなの持って行きなさいな」


「感謝するぜ!

 お嬢様!」


 アルフレッドに刺激されて三人ほどゴブリンの装備を身に着けたが、残りは契約終了を願ってこの場を去る事を選んだ。

 さてと、さっさと迷宮を攻略するとしよう。


「休憩を挟んで第三層を攻めるわよ!

 私が率いる本隊がボスを叩きます!

 第一層と第二層にはそれぞれ『維持』を一つずつ。

 装備を整えた初心者とメイドでパーティを一つ作って第二層『探索』を!

 第三層の残り三つの内、シドのパーティは『探索』。

 残りは私についてきなさい!」


 なお、ボスのゴブリンロードとゴブリンシャーマンとゴブリンソーサラーの混成部隊は、私のカウンタースペルで魔法を封じられた上でアリオス殿下とグラモール卿によって潰された。

 ついでに、今回の探索でヘインワーズ侯直々に苦言がやってくる程度の赤字が出た事をここに記しておく。  

11/27 設定変更に伴い加筆修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ