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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
王室法院の二番目に長い日

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79 主人公は呼ばれもしないのにやってくる 3/23修正版

 人は大事な時にこそ平常心を保たなければいけない。

 だから、大事な時に昼食を挟んでというのは、いい気分転換になる……


「エリー様。

 きちゃいました♪」


 よし。帰れ。ミティア。

 そう心のなかで突っ込んだ私は悪くないはず。多分。


「あら、いらっしゃい。ミティア。

 ここに来るのはヘルティニウス司祭のはずだったのだけど?」


 神殿喜捨課税問題の審議は昼からだったので、実務者としてヘルティニウス司祭は午後から合流する予定だったのである。

 で、そのヘルティニウス司祭が私に苦笑する。


「それが、抜ける所をミティアさんに見つかりまして。

 行くならば皆でと」


 それでキルディス卿だけでなくゼファンやシドやアマラとかもいる……!

 あざとく見つけてしまう私の視線が恨めしい。


「必要ないと言ったのですが、ミティア様が是非にとおっしゃって……」


 ライオットシールド片手に学生服姿でアルフレットが顔を赤めて釈明するが、こっちだって顔が真っ赤になっている。

 いかん。

 どうもあれからお互いちゃんと顔が見れない。

 で、視線を逸らしたらミティアがにっこりと。

 うわ。

 めちゃいい笑顔で『私、良い事したでしょ』と顔で言ってやがる。

 な、殴りたい……

 誰だよ。

 こいつにアルフレッドのことちくったのは?


「私だけど何か?」


 こっちの考えを読んで、結論だけ言わないでください。姉弟子様。

 貴方が絡むと大概ろくな方向に行かないんですから。

 けど、それで話が落ち着く所に落ち着くからこの姉弟子様たちが悪いのだ。

 こっちについていたケインやアンジェリカもやれやれみたいな顔をするし。

 ため息をついて、私はアンジェリカに告げた。


「昼食の準備をして頂戴。

 みんなで一緒に仲良く食べましょう」


 食事は皆で美味しくワイワイと。

 楽しいことは楽しいのだが、話題がとても物騒である。

 王室法院の私の控室という場所だからなのだが。


「それで、エリー様のエルスフィア太守就任は承認されたと?」


 裏方で動いてもらうヘルティニウス司祭が会話をリードする。

 彼も皆を善意で連れてきた訳ではないのだろう。

 使えると思ったから巻き込んだ訳で、そのあたり私も来てもらった以上こき使う気マンマンである。


「一応ね。

 だから、これで晴れて神殿喜捨課税問題に関与できるわ。

 で、女神神殿はどう廃案に持って行くの?」


 制限君主制であるオークラム統合王国において、宗教の支援は欠かせない。

 その為、政教一致で国を運営するために女神神殿をどうやって国政に取り込むかが長年の課題となっており、その解答が利害調停機関である王室法院の設置だった。

 そういう背景があるから、女神神殿は神殿上級職の人間が王室法院に直接関与はしない慣例があり、具体的な根回し等は司祭までしか行う事ができない。

 とはいえ、信仰をあつめる宗教というのは一定の数で支持する貴族がいる訳で、今までは彼らを使ってなんとかこの問題をかわしていたのだった。

 彼ら神殿派議員への説得をヘルティニウス司祭にやってもらう事になっていた。


「それがどうして、今回は通りそうなんですか?」


 頭が悪くはないのだが、致命的なまでに政治センスがないミティアが私に尋ねてくる。

 王室法院の食事だから、統合王国最高級の食材と料理人によって作られているが、味を楽しむ余裕はない。


「諸侯の中核の一つである、西部諸侯が保有する新大陸穀物輸送船団がこの間嵐で大損害を受けたわ。

 その為に、穀物相場が急騰しているのと、西部諸侯が船団再建の為の資金捻出にこの神殿喜捨課税を使おうと考えているの」


 ぺろぺろとポチがテーブルの上でスープを舐めているので、頭を撫でながら私が理由を話す。

 その説明にゼファンが噛み付く。

 

「貴族ってのは良い身分だな。

 なければ持ってくればいいと思ってやがる。

 こっちがどれだけ苦労しているのか分かりもしない」


「けど、今でもまだ食べていけるのは、その貴族様が金を出した新大陸穀物派遣船団のおかげよ。

 これが無くなったら、この国本気でまずくなるわよ」


 第三者だからこそ、姉弟子様がゼファンの愚痴に真顔に突っ込む。

 結局、世界樹の花嫁の加護をあてにできないならば、その加護外から持ってくるしか無いのだった。

 そして、理由が分かっているならば対策も立てられる。


「という訳で、西部諸侯の新大陸穀物輸送船団再建に手を貸すわ。

 姉弟子様。

 あれは持ってきましたか?」


「重かったんだから。

 アルフレッド。もってきて頂戴」


 アルフレッドが一度部屋から出ていって、ジュラルミンケースを持ってくる。

 テーブルの上に置くと、姉弟子様がダイヤルキーを回して開けて、その中身を見せた。


「うわっ!

 これ凄い」

「綺麗……」

「さすが商家のヘインワーズ家ってとこですか」


 アマラやミティアが見とれ、ヘルティニウス司祭が間違った感心をしたケースの中身は、金のインゴット。

 向こうで買った為姉弟子様に前借りする事になり、しばらくタダ働き確定で悲鳴を上げたこの金額はかなり高い。

 これが、こっちだと数百倍に化けるのだからおそろしいが、新大陸穀物派遣船団再建はこれでも足りないと私は踏んでいる。


「これはあくまで見せ金よ。

 これだけのものがあるから、うちから資金を融資する事で西部諸侯を切り崩して頂戴」


 西部諸侯が崩れれば、彼らの言いなりである北部諸侯も崩れる。

 極東大帝国への交易路を持つ東部諸侯と南方魔族への奴隷輸出で持っている南部諸侯は神殿喜捨課税はできればよいが、通して神殿を敵に回す必要も覚悟もない。

 西部と北部諸侯が崩れるならば、そのまま静観してくれるだろう。

 それが、こちらの票読みだった。


「このケースは諸侯の所に持って行ってよろしいので?」


「諸侯をこの部屋に連れてきて、その上で見せる事にします。

 シド・アマラ・アルフレッド。

 ケースの警備はお願いね」


 物が物だけに諸侯に見せて分捕られでもしたら泣くに泣けないし、ちょうどいい護衛もいる。

 指名されたシドが呆れ顔で私に意見する。


「お嬢。

 俺ら、一応盗賊って分かってる?」

「弱者から取らないんでしょ。

 で、これはそのまま弱者救済、飢えている庶民に穀物が届く為に使われる。

 あなた達が盗む理由がどこに?」


 私の言い方が面白かったのか、アマラが苦笑する。

 付き合いはこっちの方が深いので、その言い方もくだけて肩をすくめるあたり私をよく知っている。


「はいはい。

 言われるままに守ってあげるけど、ちゃんと友達料弾んでもらうからね」


「どうぞどうぞ。

 そんなアマラの為に、友達料の代金としてこんなものを用意しておりますがいかが?」


 どうせ持ってきているのだろうと姉弟子様に目配せしたら、姉弟子様がアルフレッドに目配せしてもう一つのジュラルミンケースを持ってこさせる。

 中を開けると、私が『夜の楽園』で使おうと持ってきた宝石類がまばゆい光を輝かせていた。


「ちょっと!

 なにこれ凄い!!

 こんな大きな宝石もらえないわよ!!!」


 アマラの悲鳴が心地よいが、実はこいつら合成宝石を中心にした装飾品で、お値段はこのケース一つでさっきのインゴット一個に負ける程度だったり。

 とはいえ、成分は本物だからこっちの商人達には本物としか見分けがつかない。

 石そのものはこっちの世界の方が大きい話を姉弟子様にした時にこの話題が出て、じゃあと買いあさったのである。

 なお、占いに宝石というかパワーストーンはけっこう有名な組み合わせで、占い師をしていると必然的にそのような石にも詳しくなったりする。

 今回は飾りだからと大きな石を作ってもらったが、天然と合成で値段が違うから、向こうではかなり問題になっていたり。

 話がそれた。


「失礼します。

 サイモン様がお見えになっていますが?」


 アンジェリカの声で我に返る。

 嫌な予感がすると部屋に呼んだら、案の定だった。


「セドリック殿下の一件で王室法院枢密会が、緊急に開かれます。

 エリー・ヘインワーズ子爵に出席していただきたい」


 そうきたか。

 枢密会が開かれたら、参加者および関係者はそっちを優先する必要がある。

 秘密かつ緊急の案件を処理するのが枢密会だからだ。

 そして、私の体は一つしかない。

 つまり……


「エリー様を定例会に出させずに一気に片付けるつもりか!」


 横で聞いていたヘルティニウス司祭が吐き捨てる。

 私という核がなければ、神殿喜捨課税は通ると踏んだ訳で、その狙いはまったく持って正しい。

 最初の太守就任あたりで妨害がないなと思っていたらこんな隠し球を用意していたか。

 なお、ベルタ公も枢密会の議長をするので、定例会の議長が居なくなる。

 本来ならば、こういう時の為にもう一人の執政官や摂政が議長を務めるのだが、できない以上法院定例会参加者から暫定的に議長を選ぶ事になる。

 これが執政官ならばそのままでいいのだが、空いているのが摂政代行だから王室の承認が必要になる訳で。

 国王がそのまま首を縦に振れば、アリオス王子の摂政代行がぶっ飛ぶという二重のしかけになっている。

 腹が立つよりこれを考えだした黒幕に拍手を送りたくなる。


「一応聞くけど、これ、あなたの差金?」


 使者としてやってきたサイモンに私が尋ねると、サイモンは首を横に振った。

 意地悪な笑顔付きで。


「残念ですが、一介の騎士如きで王室の深部まで関与できる訳もなく。

 買いかぶりすぎですな」


 双方視線が交差する。

 現在のところ、サイモンが裏切る理由はない。

 先に目をそらしたのはため息を吐いた私だった。


「いいわ。

 出席すると伝えて頂戴。

 ヘルティニウス司祭はゼファンと一緒に貴族への根回しお願い」


 そして、私はミティアの方を振り向いていい笑顔を作った。

 ミティアがその笑顔を見て一歩下がる。

 彼女も少し成長したらしい。


「ねぇ、ミティア。

 貴方にとっても大事なお仕事を頼みたいのだけどいいかしら?」


「え?

 あ、はい。何でしょう?」


 キルディス卿が断れと目で言っているが、分かっていないミティアがほいほいと受けてくれる。

 という訳で、彼女にも政治という洗礼を受けてもらおう。


「私が枢密会から戻るまで、定例会を引き伸ばして頂戴」


「どうやって引き伸ばせばいいのですか?」


 よく分かっておらずに首をかしげたミティアに、私はいい笑顔でぶった切ってあげた。

 これだけ人間かき集めたのだ。

 それぐらい自分で考えろと言下に込めてヒントは出してあげよう。


「がんばってくださいね。

 世界樹の花嫁候補生さん」

3/23 設定変更に伴う加筆修正

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