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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
英雄に成る条件

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67 秘密の華園のお茶会

 王都オークラムの中心にある王宮『花宮殿』。

 四季の花が咲き乱れる庭園がその由来だというが、私はそれにすら悪意を感じずには居られない。

 花宮殿の庭園にテーブルと椅子が並べられ、華姫という美しいだけの造花が私達に笑顔を見せる。


「ようこそいらっしゃいました。エリー様。

 ささ。

 お連れの方共々お掛けになって」


「お招きありがとうございます。

 これはささやかなものですが、今回の茶席の為に用意したもの。

 皆様の舌になじむものだと良いのですが」


 さて、笑顔を作って挨拶をする私は華姫なのだろうか?

 それとも、姉弟子様やアマラと同じく花姫なのだろうか?

 今回のお茶会の参加メンバーは、私とその付き添いに志願してくれたアマラと姉弟子様。

 で、歓迎側がリアーヌ・ホルトゥルスをはじめとした十人ほど。

 後ろでメイド達が同じような笑顔を浮かべているが、多分あれも華姫調教済と見た。


「規則により毒見をしないといけないのですが、よろしいですか?」


 襲撃による暗殺より恐れないといけないのは毒殺で、その為にメイドによる毒見が必然的についてくる。

 こっちもそれを知っていたので、持ってきた箱を開けて取り出したケーキを皆に見せながら、メイドに告げる。


「切り分けはそっちでして頂戴。

 毒見作法で私も一緒に食べてあげるわ」


 このあたりもルールがあって、相手に切り分けてもらい、その相手と同じ切り分けたものを食べる事で毒見とするのだ。

 まあ、こっちで作った手作りケーキだから毒なんぞ入れていないのだが。

 入れても毒無効化できるし。私は。

 さておき、切り取ったケーキを私が先に食べ、メイドが続いて口に入れる。

 まずまずの出来でほっとする。

 向こうからケーキの材料を持ってきて正解だった。

 見るとメイドの顔がおいしさと甘さに蕩けている。

 こっちの世界では食べられない役得だろう。


「問題なさそうですね。

 では、皆様で頂きましょう」 


 わいわいがやがやと他愛の無い話を肴に、ケーキとお茶が消費される。

 このお茶はなつかしいなと思ったら、案の定西方植民地産の高級茶葉だった。

 昔、私が愛飲していた一品だ。


「ずいぶん懐かしそうにそのお茶をお飲みになるのですね」


 華姫の一人が懐かしそうな顔をした私にあどけない声で質問をなげかける。

 女達の他愛ない話はあくまでカモフラージュ。

 その裏で、言葉や仕草を読み、手札を確認し、相手に叩きつけるための機会を待つ神経戦が繰り広げられている。

 しまった。

 お茶の懐かしさに、表情を顔に出してしまっていたか。反省。


「好みの味なので。

 お気に入りにしようかなと」


「それはよろしいですわね。

 新大陸で作られた新しい茶葉ですのよ。

 エリー様もごひいきにしていただいたら、きっと広がりますわ」


 危なかった。

 これで『昔愛飲していた』なんて言っていたら、突っ込まれる所だった。

 こんな感じで、神経戦は繰り広げられている。


「エリー様の先生をやっているとか」

「ええ。

 占術学を教えております。

 彼女を私の後継になんて思っていたのですが、ここまで来るとは思っていませんでしたわ」


 姉弟子様はこの手の空気は私以上になじんでいるから心配は無かろう。

 さて、アマラの方は、


「イベリス鐘の家門に連なる者で華園の花の一輪をさせて頂いております。

 いつか皆様みたいな華姫になれたらと」

「まぁ、野花でしたか!

 ここまで健やかにお育ちになって!!」


 問題はなさそうだ。

 娼婦というのまずは素材の良さが求められ、そこから先は技量などになるのだが、アマラは素材も良く仕込んだ華姫も手を抜かなかったみたいだ。

 きっと、近くない将来にこの花園の一輪として咲き誇ることになるのだろう。

 それが幸せかどうかまではあえて語らないし、私が花姫として留める事になりそうなのでその未来は来ない可能性も高いのだが。

 他愛無い話でお菓子とお茶が消費され、三杯目のお茶が差し出されたあたりから、互いに本格的な戦闘に入る。


「そういえば、エリー様はタリルカンドの華姫とか。

 王都にはタリルカンド産の華は多く咲いているのですのよ」


 まずは私の華姫設定を探りに来たか。

 世界樹の花嫁と華姫が繋がった今、この質問には重大な意味がある。

 とはいえ、私は華姫なのか花姫なのか自分の中で結論づけられていないのだが。


「ええ。

 『窓星の歌』を先達から教えて頂きました」


 私は立ち上がってその『窓星の歌』を歌う。

 この歌は華姫の身分証明の証。


「♪窓の外に星がひとつ。

 手を伸ばしても届きはしない。

 どうか私を見ないでください。

 私はまだ何も持っていない」


 売られた最初一月の調教を歌った一番。

 外への未練と人でない何かに変えられてゆく恐怖と己の体に刻まれた陵辱に対する羞恥が歌われる。

 まだこの歌を聞けるのならば、彼女たちは人である。

 私の歌声に、数人の華姫が立ち上がる。

 彼女たちもタリルカンド産の華姫という訳だ。


「♪窓の外に星二つ。

 眺めても手を伸ばさない。

 どうか私を照らしてください。

 白き泉に華は咲くでしょうから」


 売られた次の月の調教を歌った二番。

 もうこの頃だと快楽調教に徹底的に壊された者しか残っていない。

 白き泉はあれで、諦めと快楽と歪んだ誇りが垣間見える。

 そして、華姫達は静かに口を閉じる。

 この三番が歌えるかで華姫かどうかが決まる。


「♪窓の外に星三つ。

 白き泉に咲く華は星を見もしない。

 どうか私を買ってください。

 実をつけぬ華を貴方の飾りに」


 最後売られるまで、この歌を華姫は知らない。

 調教の段階によって華姫達の部屋が違うからだ。

 そして、口伝が出来る程度に華姫は大量生産され、華姫になれず家畜として売られた者は更に多くいる事を意味している。

 ただ裸で陵辱され続ける華姫達が唯一持つことができ、それゆえに口伝となったこの歌。

 もちろん騙りも出るが、それも華姫そのもののブランドを考えれば、化けの皮が剥がれた時にその制裁は執拗で執念深いものになる。

 まぁ、私がやられた戦乱期、それで騙りの華姫が大量に出たのだが。


「♪窓の外に星はなし。

 華は夜、貴方の上で咲き誇る」


 華姫達から一斉に拍手がおくられる。

 最後まで歌えた華姫は最高級の華姫と認められる。

 この最後の小節は奴隷市場の合言葉でもある。

 華姫は飾り物である為に、基本的には自らの意思はない。

 そんな華姫が自らの意思を出せる唯一の権利が自己売却の権利で、自らを売ることで買主に金銭的保証を払い関係を精算することができる。

 もちろん、金銭保証を払いきれずに自ら借金を背負って堕ちていった華姫は後を絶たない。


「疑ってごめんなさい。

 エリー様の事は調べておけと言われてね」


「アニスと名乗っていました。

 今はこの身なのでこの名乗りはしないのですけどね」


 一同を代表してリアーヌが私に詫びる。

 だとしたら、調査を命じたのはアリオス王子か。

 私が一時的とはいえ、ヘインワーズ家門を率いる事になるからそのあたりの裏とりに走ったという事なのだろうな。

 そして、それは師匠であるゼラニウムとの関連付けがされるという事で、否応なく王都の暗部に触れる。


「リアーヌよ。

 改めてそう呼んで頂戴。

 アニス」


 互いを同種と認めたからこそ、華姫はその源氏名で呼び合うことを礼儀とする。

 リアーヌとはアリアドネからきており、ラナンキュラスの花の一種である。

 花言葉は『晴れやかな魅力』。

 また、アリアドネはギリシャ神話の『アリアドネの糸』もかけているのだろう。その意味は『導き』。

 アリオス王子の筆おろしにぴったりの当代一の華姫という事なのだろう。

 なお、私の華姫名であるアニスの花言葉は『活力』や『自愛』という他に『人を騙す』というのがある。

 実に私にぴったりだと知った時苦笑したのは内緒。

  

「いろいろ物騒ですからね。

 調べることについては気にしないでください。

 法院もいろいろあるので、どうか皆様は飾りとして買主の目と体を癒して頂けたらと」


「あら、アニスさんは王子に買われないのですか?」


 リアーヌの予期していた言葉に、わざとらしく苦笑してそれを否定する。

 今の私は花姫のはすだ。華姫ではない。

 けど、リアーヌ達を羨ましい、懐かしいと思う自分がいるのを否定できない。


「どうでしょう?

 飾られるよりも、働く方が今の私には性に合っているみたいで。

 今回の法院定例会は大変なのですよ。

 世界樹の花嫁候補襲撃事件や神殿喜捨課税問題、我が父ヘインワーズ侯の引退と、大賢者モーフィアスが管理する遺跡への襲撃で責任を問われるとかで」


「まぁ、世間は大変ですのね」


 そう。

 彼女たちに意思はないしあってはならない。

 だからこそ華姫として権力者の寝室で咲き誇れる。

 そして、権力者の言葉を意識無しに垂れ流す。


「けど、大賢者様が責任を問われるなんてありえませんわ」 


 え?

 今、なんて言った??

 完全部外者で、こちらを監視していた姉弟子様に視線を走らせるが、姉弟子様の目は私の聞き間違いではない事を肯定していた。

 こちらの狼狽など知らぬ華姫達は、その続きを平然と口にした。

 ある意味当然で、ある意味見落としていた大賢者の過去を。


「だって、陛下の即位に尽力した一人がモーフィアス様で、その功績によって陛下より大賢者の地位を賜ったのですよ」


と。

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