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5 チュートリアルダンジョン 準備編

 『世界樹の花嫁』の攻略キャラは五人に隠しキャラの二人。

 第一王子アリオス、司祭ヘルティニウス、魔術師ゼファン、盗賊シドは顔を合わせたので残りは三人。

 そのうちの一人は主人公つきの護衛騎士なので、主人公と共に出て来る事になるだろう。

 隠しキャラ二人についてはひとまずおいておく事にする。

 なお、主人公がシドや護衛騎士とくっついた場合の末路もろくなものではないが、この二つのパターンだと身分違いというファクターが加わり、ベルタ公まで潰される。

 王家の娘である主人公の管理責任を問われた訳だ。

 で、そこからいつもの世界樹の花嫁の不在による不作が深刻化していつもの王国崩壊がはじまるのだが、王家の親族たるベルタ公がいないからダイレクトに民の怨嗟が王家に降り注ぐ。

 つまり、革命が勃発し王族があらかた断頭台の露に消えるというすてきぶり。

 シドについてはここから更にもう一幕ある。

 盗賊ギルドマスターの孫だった彼が主人公と共に西の新大陸に渡った結果、王国の崩壊と義賊的キャラだったシドの不在がアンダーグラウンドの無法状態を加速させる。

 そして、周辺の侵攻に対して何も対策が打てずに飢餓が広がった結果、新大陸の穀物を買うために人間を奴隷として輸出するという身も蓋もないオチが。

 アフリカの奴隷交易を参考にしたのだろうそれが完膚なきまでに文化や社会を破壊して再建に長い時間がかかるという末路に、いや現実にあったから説得力はあるだろうが誰がここまでしろと言ったおい。

 これらが、世界を捨てて己の恋愛をとった結末と言うのだから、そりゃもう叩かれた。

 話がそれた。



 私が冒険者の宿に出向いた翌日。

 私達がいるのはメリアス郊外の寂れた迷宮で、ゴブリン達がよく巣を作るので退治して欲しいという設定のチュートリアルダンジョンだ。

 集まったのは50人ばかり。

 ゲームでは24人しか使えなかったので、実にありがたい。

 内訳はケイン・アンジェリカ率いる護衛騎士とメイド全員の13人に冒険者の宿から募集した冒険者達。

 まあ、現実には24人縛りはなしかと思ったらあったのでちょっとびっくり。


「道が狭くて入り組んでいるダンジョンに大兵を投入しても、多重遭難になる可能性があります。

 一層あたり4隊以上入れるのはお勧めしません」


 ケインの説明になるほどと納得する。

 こんな背景があるのならば、それに従おう。

 要はダンジョン前で戦力を待機させればいいだけの事なのだから。

 ここで、ダンジョン攻略のシステムを説明しよう。

 6人×4組で重層になっているダンジョンを攻略してゆくのだが、自キャラを含めてダンジョン内の操作は一切できない。

 その為、事前準備と編成が全てを決める。

 レベルや装備はこちらで確認できるのである程度の目安がつくが、ご丁寧にモブキャラにまで『相性』の隠しパラメータをつけている。

 もちろん相性が良いと能力上昇補正が尽くし、悪いと低下補正がつく。

 さらに、攻略キャラには感情パラメータが隠されており、このダンジョン攻略においてそれが炸裂してプレイヤーの頭を悩ませる。

 攻略対象キャラはそのチートぶりから指揮適正があり、各組リーダーに置くのが最適なのだが、それは自動的に第一組リーダーとなる主人公と離れる事になり好感度が下がる。

 では、攻略キャラ全員を第一組に入れると『相性』最悪になり、パーティがまったく機能しない。ある意味当たり前である。

 各組に攻略キャラを割り振って、攻略目標の一人を自分のパーティに入れたらもうそれだけで『相性』が大暴落する。

 おまけに、ダンジョン攻略に呼ばれなかったキャラはその時点で『相性』大暴落。

 どないしろと。

 もちろん解決策はある。

 主人公の甘い言葉と体で攻略キャラ達に『ごほうび』をあげればいいのだ。

 さすが乙女ゲーというべきだろう。それで『相性』は大幅上昇するのだ。

 さて、大体このゲームの流れは理解できただろう。

 基本は、


 イベント発生>クリア>攻略キャラとらぶらぶ>次のイベント発生


 という乙女ゲーの王道に沿っているが、『世界樹の花嫁』は前提として複数の男達と付き合う事がゲームクリアに求められている。

 その為攻略キャラ間の相性問題が容赦なく発生し、らぶらぶどころかぎすぎすになる事も常態化。

 それを回避する為に、毎夜毎夜違う男の上で腰を振る主人公の姿が。

 うん。逆ハー求めていたけどそれは違うだろうよ。おい。

 なお、この話には後日談がある。

 ゲーム発売後しばらくして、プログラム解析をしていた連中が丸々使われていないシステムを発見。

 それは、複数の男の相手を一夜にするという『乱交』システムで、これを使うと主人公組に攻略キャラ全部ぶちこんでも相性が下がらないというゲームブレイカーなシステムである。

 発見されたとき、


「さすがにこれはまずいと思ったんだろうな」


という良心的意見よりも、


「絶対見つけると思ってこれをわざと残したんだろ。ここの開発陣」


の声が圧倒的だった事を付け加えておく。

 なお、私がぶん投げたデザイナーズノートにこんな記述がある事も付け加えておこう。


「民俗学見地から見て、豊穣神というのは慈愛に満ちている訳ではなくその逆である。

 『1000人殺されたならば1500人生めばいい』という恐ろしく冷徹的な割りきりができてこそ、豊穣神はその加護を分け与える事ができる。

 その本質は良いも悪いも全て一緒くたに与える訳で、そこに善悪愛情を持ち込む必要が無いのだ。

 だからこそ、彼女達豊穣の女神は全てを愛する代わりに誰も見てはいない」




 パーティの編成だが、私の本隊はケインと護衛騎士二人、アンジェリカにメイドと完全に身内で固めてしまっている。

 まぁ、これについては異存は無い。

 前衛が騎士3人、後衛が私と武装メイド2人という訳だ。


「で、具体的にメイドって何ができるの?」


「後衛からの魔法と回復。

 攻撃に弓を使う事もありますが、一番の仕事はエリー様のお世話です」


 ダンジョンに潜るのだから体力に差がある女性は当然負担がかかるし、食べたら出るものもある訳で。

 そのあたりのサポート職が彼女たちメイドという訳だ。

 ゲーム内では彼女たちを入れると疲労度減少と回復が早まる効果があったりする。

 なお、戦闘においては支援職の一つなのであまり期待しない方がいいが、このあたりは悪役令嬢補正。

 アンジェリカを含めて皆傭兵や冒険者あがりで、治療や回復魔法スキル持ちだったりする。

 なお、そのスキルは私も持っていたりするのだが。


「最初に突入させる3組はどう編成させているの?」


「冒険者達に相談させて、編成を急がせています。

 使わないメイド達は待機させて上で負傷者の治療等に当たる予定です」


 私の質問にケインが淀みなく答える。

 そこから3組を編成し、さらに待機パーティを二つ作る。

 そんなパーティ面子を眺めていると見知った顔を見つけた。 


「なんだ。

 貴方結局来たの?

 シド」


「割のいい仕事だからな。

 で、あんたの事も知りたいし」


 確認すると突入する3パーティの一つのリーダーになっていた。

 さすがイケメン攻略キャラ。


「で、お嬢。

 こんなダンジョンにこれだけの戦力集めて何をするつもりなんだ?」


 ケインとアンジェリカの眉が露骨に曇るのは、シドの敬意なしの会話が理由だったりする。

 二人が激昂する前にとりあえず最終目的をばらしておこう。


「世界樹の花嫁にならないといけない以上、世界樹地下の大迷宮は避けて通れないでしょ?」


「本気であれを攻略するつもりなのか?」


 私は答える事無く地図を眺める。

 この迷宮は三層からなるが、世界樹の加護を司る神殿は世界樹の地下深くの迷宮の奥にある。

 その層の数は合計12。

 ゲーム内では4つのパーティに以下の命令を与える事ができる。



 探索

 偵察で敵のデータを見る事ができ、敵の不意打ちをさける事ができる。

 ただし、シーフをはじめとした偵察スキル持ちがいないとこの命令の効果が薄くなり、戦闘が発生すると軽装備ゆえに被害がかなり出る。

 また宝物などを見つける事もできる。


 制圧

 その層の敵を制圧する。

 ユニットのクラス・スキル・装備等の数値でオート戦闘を行う。

 層の敵を制圧できるかはこの制圧を命令されたパーティが多ければ多いほど成功の確率があがる。

 その分、損害が出る事は確実で、レベルが低いと全滅もありえる。


 回収

 全滅したパーティの遺体を回収する。

 肉体があって損傷が激しくない場合、蘇生呪文で生き返る可能性がある。

 攻略キャラは基本死なないので、鍛えたモブキャラを失いたくない場合に使う。

 なお、パーティの1/3が死亡した場合命令を実行できずに撤退し、半分が死亡すると行動不能となるので同じく回収で撤退の支援をしなければならない。


 維持

 制圧した層を奪還するためのモンスター側の攻撃を排除する。 

 重防御装備のパーティで編成され拠点防衛などを行うが、それゆえに移動が遅い。




「6人4組の12層だから288人。

 予備とバックアップ考えたら500人は欲しい所ね。

 その準備と選抜をかねているの」


「あんた、戦争でも始めるつもりか?」


 呆れ顔のシドと同じ顔をしているケインとアンジェリカ。

 なお、騎士団の基本定員より多い。


「何言っているのよ。

 戦争するならば、それ以上用意しないと」


 胸元に輝く五枚葉の従軍軍団長章を見せ付けながら私はあっさりと言い切る。

 万単位の指揮経験なんぞしていると、予備兵力と補給物資の大事さを骨身に染み付いている。

 そのぶん金がかかるが、新興貴族でぶいぶい言わしているヘインワーズ侯だから請求書をぽんと送りつけた。

 ついでだから、ヘインワーズ侯の財布具合もたしかめておくか。

 必要ならばこちらで財布を用意しておかないといけない訳だし。


「そういえば、お嬢のレベルっていくつだ?

 ……なんで目を逸らす?」


 シドの質問に露骨に目を背ける私達。

 ぽちも同じように目を背けているのでシドが苦笑する。


「そんな化け物連れているから、あんたのレベルが低くても死にはしねーよ。

 世界樹地下の大迷宮を攻略するんだろ。

 レベル上げもする必要があるだろうから、嘘偽り無く言いな。

 笑いやしないからよ」


「……42」


「は?」


 なお、シドのこの時点のレベルが17。

 ケインが27でアンジェリカが22、護衛騎士とメイド達の平均が17、今集まっている連中の平均レベルが5である。

 ついでに言うと、ぽちが40だったり。

 そりゃ、一度別ゲームクリアしたのだから、今の私は強くてニューゲーム状態。

 目をぱちぱちして顔が崩れているイケメン盗賊に私は私のレベルを繰り返した。


「だから42よ。

 何なら冒険者カード見せるけど?」


「……もう全部お嬢一人でいいんじゃないかな……」 


 言うと思ったよ。

 私も同じ事思ったのだから。

11/11 少し加筆

11/27 設定変更に伴い該当部分を修正

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