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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
恋愛は華やかに陰謀は密やかに

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55 メリアス大捜査線 その一

 深夜の騒ぎの翌日。

 目覚めるとそこにはメイドが居た。


「おはようございます。

 エリーお嬢様。

 今日も良い天気ですよ」


「おはよう。

 で、メイドの真似事なんて何でやっている訳?

 アマラ」


 メイド姿のアマラは腰に手を当てて分からないかなぁみたいな顔で理由を話す。

 朝からドヤ顔がちょっとうざい。


「決まっているじゃない。

 助けられたから、こうやって恩を返している訳」


 で、ドヤ顔からシリアス顔になるアマラ。

 その顔でかなりの綱渡りだったらしい事が分かる。


「私もシドも本当に危なくてね。

 ギルド抜けて逃げようかと相談した時にあんたの手の者が駆け込んできた訳。

 ギルド内部には私達の身柄を渡さないと主張した連中も居たけど、近衛騎士団と法院衛視隊に手を出すほど馬鹿じゃなかった。

 で、早朝に飛び込んできたアリオス王子のメリアス太守代行就任。

 一体何が起こっている訳?」


 メイド姿のアマラが私の着替えを手伝う。

 なるほど。

 高級娼婦なだけにこのあたりの教育も終らせているのか。


「話せる範囲で良いならば、世界樹の花嫁抹殺を諸侯が企み、それを盗賊ギルドが受けた。

 で、その襲撃が失敗に終わり、世界樹の花嫁選考の監督役であるアリオス王子が激怒。

 襲撃事件の責任を取らせる形でメリアス太守を更迭。

 今日からは盗賊ギルド内部に捜査の手が入る予定」


 私の髪をすく鏡の中に居たアマラの顔がひきつる。

 そりゃそうだろう。

 赦免状が無かった場合、襲撃者の手引き役として疑われたのはアマラとシドだろうから。


「何で助けたの?」


 そう聞いてくる鏡の中のアマラの顔は私の頭で見えない。

 それでも櫛を止めないあたりしっかりしているというか。


「友達だからじゃ駄目?」


「……ありがとう。

 借りにしておくわ」


「どういたしまして」


 私には私の思惑があり、アマラにはアマラの思惑がある。

 それが分かっていて、私はあえて『友達』でごまかした。

 アマラもそれを理解しただろうが、それ以上は追及してこなかった。

 私はこんなアマラとの距離は嫌いではなかったし、アマラもその距離を崩そうとはしない。

 つまりそういう事なのだろう。


「シドは?」


「居間でミティアの相手をしているわよ。

 自分達の立場は分かっているつもり。

 襲撃者がやってきたら、撃退に参加するつもりだったけど……」


 アマラが窓の方を見る。

 私も見ると、ぽちが見つめている。


「きゅ」

「おはよう。ぽち。

 もう戻っていいわよ」

「きゅきゅ」


 朝まで魔術学園を守っていた白銀の神竜は白っぽいトカゲになると定位置の私の頭の上にちょこんと丸くなる。

 なお、こいつはこのままとぐろを巻いて寝ようとするので、頭からぽち専用のバスケットに移してやる。


「あんた、とんでもないもの持っているのね」

「ぽちを何だと思っていたのよ?」

「守護獣だとは思っていたけど、こんな化け物とは思わなかったわよ」

「使わない方が良かったんだけどね」


 私の漏らした本音にアマラも押し黙る。

 私がぽちを使わざるを得ない状況、そこまで追い込まれているという事に気づいたからだ。


「私も朝食を頂くわ。

 居間に用意して頂戴」


 白々しく悪役令嬢っぽい口調でアマラに告げると、アマラもメイドっぽく返事をする。

 それが嬉しくて、楽しくて、二人とも顔がにやけていたり。


「用意してございますわ。

 エリーお嬢様」




「お嬢。

 あんたにアマラを助けてもらった恩は忘れるつもりもない。

 この命好きに使ってくれ」


 朝食の席でのシドの謝罪である。

 アマラが先で、自分の命については言わずか。

 こういう所を見ると盗賊というよりも古き良き任侠に近いんだよなぁ。

 今じゃヤクザが大半になっているが。


「エリー様ってかっこいいですよね。

 私、憧れちゃいます!」


 まて。

 そこの世界樹の花嫁候補。

 あんた忘れていると思うが、ライバル。

 最終的には、私を蹴落とさないとまずいだろうが!!


「だって、昨日のアリオス王子との会話全然わかりませんでしたから!」


 胸を張って言うな。

 つまみ出すぞ!

 と、口を開こうとしたら、ミティアの純真笑顔攻撃。


「けど、エリー様が私達の為に一生懸命がんばってくれたのはわかります。

 だから、私はエリー様を信じます!」


 ぱくぱく。

 ミティアに指を指したまま、金魚のように口を開け閉めする私。

 どうしてくれようこれ。


「シド。

 恩を返して欲しいの。

 これなんとかして」


「お嬢。

 潔く、俺をギルドにつき出してくれないか?」


「ひどいです!二人共!!

 私何か酷い事言いましたか!!!」


 気づけ。お願いだから。

 立場を!

 政治的立ち位置を!!!

 よし。

 ここは友達料を払っている現メイドのアマラに……


「ねぇ。エリー。

 これに、『悪の親玉です』と言って理解すると思う?」


 アマラの先制口撃に私撃沈。

 更に悪意のないミティアが追い打ちをかける。


「アマラさんひどいです!

 エリー様、こんなにがんばって、シドさんとアマラさんを助けたんですよ!」


「……」


 ぷんぷんと怒ったふりをするミティア。

 嫌味のないぶりっ子がまた怒りを注ぐが我慢我慢。

 あ、アマラが天井を眺めてる。

 私も眺めるか。いろいろ諦めたくなったので。


「あ、絵梨おはよう。

 ちょっと話があるけどいいかしら?」


 アンジェリカと共に入ってきた姉弟子様。

 二人の顔を見ると真面目モードなので、ミティア以外は真顔に戻る。

 状況についていけないミティアは放置の方向で。


「どうぞ。

 学園内で何かありました?」


「警備担当者が更迭されたわ。

 後、盗賊ギルドと関係が深い教師が今日中に退職予定。

 世界樹の花嫁の補佐する人間の方にも辞職者が出るみたい」


 ある意味、予定されていた粛清の第一陣の報告である。

 メリアスの魔術学園は貴族子弟が多く学ぶからある種の治外法権が確立していた。

 それが今回の騒動で剥がされることになる。

 大事にはならなかったが、世界樹の花嫁が殺されたら下手したら学園そのものが成り立たなくなっていただろう。

 そんな事を考えていたら、姉弟子様がいじわるそうな笑みを浮かべる。

 あ、ろくな事考えていないな。これ。


「で、メリアス太守が更迭されるのに合わせて、魔術学園学園長も替えてしまおうと。

 どう?

 この椅子に大賢者モーフィアスを座らせてみない?」


 そうきたか。

 失脚確定のモーフィアスだが、それは政治的影響力の排除が目的であって、彼の才能は誰もが認めている。

 不祥事を起こした魔術学園の学園長の椅子を与えることで、国政に関与させないようにして法院での追求を避けるのが狙いか。


「実現の可能性はどれぐらい?」


「王子を絵梨が説得できるなら通るでしょ?」


 出来ないわけではない。

 現状の混乱はアリオス王子も望んでいないからだ。

 勝算は十分あるな。


「わかりました。

 それはこっちでやります」


 姉弟子様がそのまま席につくと、後にいたアンジェリカが次に口を開いた。


「アルフレッドですが、まだ眠っています。

 毒と傷は完全に消えていますが、そのまま眠らせています」


 アサシンの毒は浄化したとはいえ、その毒が体を回って傷つけてその回復に時間がかかっているのだろう。

 それでも容態が安定しているのが助かる。 


「無理させないでいいわよ。

 私達の出番は今日は無いと思うから」


 だが、私のこの見立ては見事に外れることになった。

 各所の粛清から盗賊ギルドへの捜査が遅れ、逃げたアサシンとギルドマスターの捜査に大規模人員の投入が不可欠になったからである。

 メリアス地下水道。

 世界樹の迷宮にも繋がっているここでの捜査に私も駆り出されたのは、この日の夕方だった。

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