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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
恋愛は華やかに陰謀は密やかに

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54 事件は会議室ででっちあげられる

 私とアリオス王子の顔色は良くない。

 フリエは表情を消していて、ミティアはおろおろしているばかり。

 わかってはいたが、ここで盗賊ギルドに振り込むと色々と厄介事が芋づる式に出てくるのが一番いやだったりする。

 とはいえ、早急に事態を収拾させないと何処に飛び火するかわからない。


「殿下。

 提案があります」


 今は黄昏れている時間すら惜しい。

 朝、人々の口にこの話がのぼる前に何らかの手を打たねばいけないからだ。


「赦免状を殿下の名前で書いていただきたい。二通」


「アマラとシドかい?」


 こっちの狙いが分かっているだけに、アリオス王子も反応が早い。

 なお、ゲームだとこの嘆願は主人公の口から出ているのだが、おろおろミティアはそこまで気が回っていないらしい。


「ええ。

 まずは二人の確保が大事です」


 そのままアリオス王子に近寄って耳元で囁く。

 フリエとグラモール卿が私を制しようとしたがアリオス王子がそれを抑えさせた。


「アマラは、私が用意した『世界樹の花嫁』ですわ」


「!!」


 アリオス王子がその意味とやばさを理解しているからこそ驚愕の顔を隠せない。

 まずは二人を助ける理由がいるが、アマラの世界樹の花嫁候補という私の隠し札は今のアリオス王子には容赦なく効くだろう。

 さて、フリエは私の言葉を聞けただろうか?

 出てきてもらったお礼だ。王子のコネと出世の引き換えに厄介事を振られやがれ。

 水樹姉様が本命だが、そこは伏せさせてもらおう。

 離れて、今度は皆にも分かる理由を堂々と口にする。


「シドは信頼ができる盗賊です。

 何よりもアマラを抑えているならば、おかしな動きはしないでしょう。

 世界樹下の迷宮を攻略するのならば、彼の手助けは絶対に必要になります」


「分かった。

 フリエ君。赦免状を用意してくれ。

 君が証人だ」


「かしこまりました。

 殿下」


 フリエが赦免状を用意して、アリオス王子が署名する。

 これで、二人は今回の騒動で罪に問われなくなった。

 その赦免状を受け取って、私はアンジェリカにそれを手渡す。


「アンジェリカ。

 メイドを走らせて、シドとアマラをここに連れてきて頂戴。

 ギルド内部にいると二人の身が危ないわ。

 こっちで保護します」


 その言葉にフリエとグラモール卿が反応する。

 やっぱり近衛騎士団と法院衛視隊の仲は良くないらしい。


「だったら、こちらからも一人つけましょう」

「私の方からも手の者を出しましょう」


「ありがとうございます。

 それぞれ一人ずつお願いします」


 即座に話を終わらせる。

 こんな所で揉めてもらっても時間の無駄だからだ。

 で、再度王子に向き直る。


「次に、殿下によるメリアス掌握です。

 太守更迭は確定ですが、早急にする事で盗賊ギルドと繋がっている人間の排除が可能になります。

 今日中に、交替してしまいましょう」


 冷静に考えるとクーデター示唆になりかねないんだなぁ。これ。

 フリエはそのあたり気づいて険しい顔しているし。


「世界樹の花嫁候補襲撃事件の責任を取る事が更迭理由ですが、今日中ならば辞任を認めましょう。

 こちらの正当性の担保のため、私とフリエの連名で法院への告発状を書きます。

 告発の受理は朝で、法院が開くのを待たないといけません。

 それを持って、殿下が太守館にて太守とお話すれば、辞任について文句は言わないでしょう。

 使い終わった告発状はちゃんと太守の見ている前で火をつけてくださいね」


 更迭だと色々後ろ指を刺され退職金も減額されるが、辞任だとそれが幾分緩和される。

 少なくとも、自ら責任をとったという建前ができるのが大きい。


「フリエ。

 用意してくれ」


「かしこまりました。殿下」


 手慣れた権力簒奪手段にある意味呆れているアリオス王子が口を開き、ギリギリセーフラインでの裏技に苦笑するフリエが告発状を用意する。

 私の署名とフリエの署名が入った告発状をアリオス王子に手渡す。


「これでメリアス騎士団に介入できる権限ができました。

 フリエは、太守代行についた殿下の命令という事で、メリアス騎士団で盗賊ギルドと繋がっている人間の摘発を。

 グラモール卿は、殿下の太守代行についた後で近衛騎士団とメリアス騎士団を統括して盗賊ギルドへの捜査を」


「で、私達が居ないくなったここの警備は君が担当するという事でいいのかな?」


 告発状でテーブルを軽く叩きながら、アリオス王子が皮肉る。

 それに私は肩をすくめながら白々しく答えてみせた。


「もちろんです。

 ぽちを元の姿で立たせておきますから、まずちょっかいを出す馬鹿はいないでしょう。

 で、ケインとキルディス卿が居るので私達の警備も大丈夫。

 ついでに、シドとアマラを切り離してこっちに連れてくるのはこの為でもあります。

 向こうの手を知っている人間が警護につく。

 襲撃は更に難しくなるでしょうね」


 混乱する状況に対して、何を優先するかというのはものすごく大事である。

 特に法律や建前が必要になる国側の人間はそれがあるのと無いのでは動きがまったく違ってくる。

 この悪巧みは、表の権限が集まっているメリアス太守にアリオス王子がつかないとはじまらないのだ。


「背景の諸侯についてはひとまず忘れましょう。

 探っても出てこないならいいですが、藪をつついた結果が今回の騒動です。

 最悪追求されるようならば、ヘインワーズ侯の引退にかこつけてごまかしてしまっても構いません」


 フリエの顔が更に厳しくなる。

 事件の棚上げ的解決だからフリエの立場からすれば厳しく見てしまうのも仕方がない。

 だが、既にミティアが襲われており、そのうやむやにヘインワーズ侯引退を使ったアリオス王子は私の提案にくすりと笑ったのだった。


「君も泥をかぶるのが好きだね」


「あいにくかぶりたくてかぶる泥ではありませんが。

 この一件をうやむやにしても法院は荒れるでしょうからね。

 余計な火種はさっさと消すに限ります」


 なるほど。

 このあたりでフリエとアリオス王子の情報の齟齬があるのか。

 覚えておこう。

 何かに使えるかもしれない。


「最後に一つだけ。

 狙われたのはどっちだと思う?」


 太守館に向かおうとしたアリオス王子は、最後の最後で一番真剣な顔で私にそれを訪ねてくる。

 そうだろう。

 この質問如何によっては、間違いなくシナリオだけでなくゲームが変る分水嶺になりかねないからだ。

 私は襲撃時の光景を思い出して、その結論を出さざるを得ない。


「ミティアでしょう。

 私を狙ったのは囮の可能性が高い」


 その言葉でアリオス王子は察してくれたらしい。

 私とアリオス王子が接触したのが引き金で、ミティアが狙われた。

 降伏寸前のヘインワーズが一発逆転を狙った。

 そう事件はでっちあげられる。


「フリエ。

 赦免状をもう一枚用意してくれ。

 また証人を頼むよ」


 アリオス王子はフリエが用意した赦免状にサインをして、それを私に押し付けた。

 つまり、でっちあげの完全否定に他ならない。


「私がこの国を率いるのならば、絶対に君は手に入れないといけないと確信したよ。

 劇場での告白の返事。

 期待しているよ」


 そう言って、アリオス王子はフリエとグラモール卿を連れて部屋から出て行った。

 本当はもう一つ可能性があったのだ。

 ミティアを消す事で、エリオスの存在が表に出てくる。

 そうなるとやったのは東部諸侯の可能性が……。

 やめよう。

 今のあの人はタリルカンド一門の人間で、ちっぱい妹とイチャコラしているのがお似合いの人間だ。

 万人の希望と怨嗟を背負って国を立て直すなんてあの人には似合わない。

 軽くため息をついて、そういえばこの集まりはお茶会で置きっぱなしをケーキをやっと食べようと思ったら、なんか顔真っ赤のミティアが目の前にいるのですが。

 そういえば居たの忘れていたなんて言える訳もなく。


「あ、あ、アリオス王子に告白されたんですかっ!!!

 私、応援しますから!!」


 ああ。勘違い。

 その勘違いを訂正するのに、更に時間が消費され、目の前のケーキを食べる時間は更に遅れるのだった。

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