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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
花嫁候補の奮闘

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46 バニーバニーバニー……ばにー?

 娼館『夜の楽園』は基本的にいついかなる時でも開いている。

 朝というのは城門が閉まって街に入れない連中が群がるので思ったより需要があるのだ。

 とはいえ、この手の仕事は夜がメインであるので基本そこに主力の娼婦を集めてゆく。

 だからこそ、高級娼婦であるアマラは時間が作れる昼間に学園に通うことができるのだ。

 高級娼婦の場合、基本日雇いで契約が行われる。

 普通の娼婦の場合一夜契約(朝、城門が開くまで)だが、高級娼婦だとサロン等のつきそいも使えるので契約からその一日まで使えるようになる。

 普通は朝に客が帰り、残りの時間は客を取らない事で客への仁義をきっている訳だが、客の体力が持つならば、一日中する事も可能な訳で。

 アマラを襲ったサイモンの連続買いはまさにそれだった。


「で、さ。

 サイモンやばかったのよ。あれ」


 『夜の楽園』の待合室でバニー姿での密談である。

 学校休んで直で娼館に入るって事は、それだけの準備をしないと堕ちると当の本人から聞かされていたので、ちょいと激励も兼ねていたりする。

 さすが未来の魔族大公である。


「あのさ。エリー。

 学校サボっての激励は感謝しているのだけど、だからってあれ連れて来ることないじゃない!!」


 あれ呼ばわりとは、既に男にこび売りまくりのバニー姉弟子様である。

 早くも優良顧客を開拓したらしく、教師と高級娼婦の二足の草鞋を楽しそうに履いているので、私も嬉しいです。

 ええ。


「視線逸らすんじゃねぇ。こら。

 あんた絶対厄介払いしているでしょ。あれ」


 二人してあれ呼ばわりだが、敬意は払っているのだ。私は。

 ただ、台風の中心よろしく本人に被害が行かないだけで私にどれだけの被害をまき散らしたか……やめよう。鬱になってきた。

 ごほんと咳払いをして話を本題に戻せと合図すると、冗談で和んだアマラも話を元に戻す。 


「普通、がっつく事はしないんだけど、お日様が登り切るまで腰ふっちゃって……

 あ、これやばいと思った訳」


 高級娼婦教育を終らせているアマラを堕とす為にサイモンが取った手はおよそ推測できる。

 というか、隠しとはいえ攻略キャラなだけに情報は出揃っているのだった。


「魅了の魔法と薬でしょうね。

 薬に対する耐性はある?」


 アマラが露骨に不機嫌になるが、己の自制できない状態に心当たりがあったらしく何も言ってこない。

 テクニックではなく、この手の小細工で女を堕とすのがサイモンの真骨頂だった。

 ちなみに、この調教で主人公が見事なビッチ街道を突っ走るように作っているのに、世界樹の花嫁になれないあたりが開発陣の悪意を感じずにはいられない。


「最低限は身につけていると思うけど、あれは何?

 普通あんなの使ったら壊れちゃうじゃない!」


「そりゃそうよ。

 壊す為に、あれ使ってるんだから」


「はぁ!?」


 私の断言にアマラが怪訝な顔をする。

 そうなんだよなぁ。

 アマラは、華姫から教育を受けただけで、華姫そのものではないんだよなぁ。

 ここから先は鬼畜エロゲー真っ青な調教のお話である。


「華姫って本質的に、『飾り物』なのよ。

 『飾り物』に意思なんてあったらまずいでしょ。

 ましてや、王侯や豪商の側室や愛人が自らの意思で動いて御覧なさいな。お家騒動よ。

 だからこそ、華姫になる為に自我を徹底的に崩壊させるの」


 『守・破・離』という言葉がある。

 この手の言葉の普遍性がこういう調教にまで当てはまると知って大爆笑したのは向こうに帰ってからだったりする。

 さしあたって、調教道という所か。

 このあたりの『道』への昇華を目指そうとするのは、凝り性の日本人の宿痾なのかもしれない。


「それっておかしくない?

 ただ喘ぐだけの飾り物が、そんな高値で取引されるわけないでしょ?」


「もちろんそうよ。

 で、壊しきった後に、礼法や知識など王侯富豪の側室や愛人に必要な知識を叩き込む。

 赤子のように壊れた状態だと、砂が水を得るように覚えが早いのよね」


 唖然とするアマラの顔がなんか面白い。

 己に自我があると、この最初の知識吸収に手間取るのだ。

 このあたりの華姫製造はブランド維持の秘事として世間では出回らないし、華姫連中も語りたがらないからだ。

 なお、私はこの陵辱調教を中古パソコンのフォーマットとOSインストールと認識していたり。

 話がそれた。


「んじゃ、エリーも華姫って事は……」


「二ヶ月ばかり、私のお尻は地面を知りませんでした。

 なれると寝言で喘ぐようになるわよ」


「うわぁ……」


 地面を知らない。

 要するにずっと男の上に乗っていたという事だ。

 なお、ここはファンタジー世界。

 人だけてでなく獣からモンスターまでその手の相手に事欠かないのが困る。


「で、ここまでだと『高級娼婦』止まりなの。

 華姫ってのはね、画一的に作られた高級娼婦の中で自我を再建した、もしくは新しく作り出した連中の事を言うわけ」


 私は、自我を再建した口である。

 売り払われた時にタロットカードが手元にあったのが幸いした。

 そのまま自我が戻らなかったら好きにして構わないと頼み込んだおかげで、タロットカードの暗示による自我の外付けに成功したのだ。

 話を少し戻すが、この手の陵辱調教で自我を破壊する事を中古パソコンのフォーマットと私が言ったのには理由がある。

 脳には忘れていようが壊されていようが、その自我が記憶されているからだ。

 だから、そこから自我を立て直すためには、その忘れさせられた記憶を思い出す必要がある。

 たとえば、タロットには『星』というカードがある。

 裸の女が水瓶から水を垂れ流しながら野外露出しているカードなのだが、もちろんそんな意味もあったりなかったり。

 これと対になるカードで『節制』というカードがある。

 これは衣服を着た女性が水瓶の水をこぼさないような絵になっている。

 こうやってカードの意味から、己の自我を再建していったのだ。

 占い師というのは、占う相手に肩入れをしてはいけないからこの手の自我形成と再建は徹底的に仕込まれる。

 快楽で狂う所からの再建も姉弟子様からしっかり教えてもらっていたが、それが役に立つとはとあの時苦笑した覚えがある。


「華姫の需要は高いけど、同時に作り出すには本来すごく時間がかかるの。

 私達はその時間を短縮して作られた画一的な品物でね。

 これに対して、アマラみたいに自然形成を残したまま教育して作り上げたものを私達は花姫とこそっと呼んでいるわ」


 これは、華姫達がその境遇を羨んだ隠語だったりするが、もちろんそれをアマラに伝えるつもりもない。

 華姫が工業製品ならば、アマラは素材の良さを引き出したオリジナルオーダーメイド。

 いずれ身請けされる時、私達華姫以上の高値で売れるだろう。


「だからわざわざ激励に来た訳。

 この辺りの情報はアマラ知らなそうだから。

 何ならば、魅了耐性のアイテムもあるけどいる?」


「頂戴。

 相手が狂うならばまだしも、私が狂うなんてごめんよ」


 即答かよ。アマラ。

 このあたりのプロ意識は私も見倣いたい所だが、私はもう娼婦ではないので素直にアマラの手にブレスレット形のアミュレットを渡す。

 銀製品で裸でもつけていて問題ない飾りなのがポイント。


「裏面に魅了耐性の魔法を刻んでいるわ。

 魔力回復は魔法店でできるから忘れないようにね」


「ありがとう。

 これは友達料から引いておいて。

 けど、私でこれだとエリーやあんたの姉弟子様もだめな口?」


 アマラが腕に銀のブレスレットをつけて手をかざす。

 その仕草がまた様になっているのがアマラの格を物語っている。バニー姿だけど。


「私は多分大丈夫。

 アマラできついとなると、姉弟子様だとちょっとやばいかもしれない」


「私が何ですって?

 絵梨」


 話題に出たことに気づいて姉弟子様がやってきた。

 なんだろう。

 無駄に醸す色気は、私ともアマラとも違うんだよなぁ。

 後で姉弟子様にもこのブレスレット渡しておこう。


「何でもないですよ。水樹姉様。

 しかし、私ともアマラとも違う色気ですよね。それ」


 私の苦笑交じりのぼやきに、姉弟子様が嬉しそうに笑う。

 この笑みは私やアマラには出せない笑みだ。


「そりゃそうよ。

 貴方もアマラも、基本男に寄り添うものでしょ。

 私は違うわ。

 男を選ぶもの」


 なるほど。

 清々しいまでの自分本位だ。

 娼婦ではそれができないからの魅力か。

 アマラや昔の私は男を選べないが、姉弟子様は選べる。

 それがこんな場所だと魅力に見えるだろう。


「それでも、私が相手したサイモンだと貴方でもきついと、エリーが」


 さらりとバラすアマラに姉弟子様の目が細くなる。

 負けん気に火がつくと止められないのだ。


「へぇ。

 私が耐えられない男かぁ」


「魔法と薬での調教です。

 サシで戦えないから搦め手使ってくるんですよ」


 そう言って私に電流が走る。

 そうだ。

 搦め手だからこそ、アマラが狙われた。

 その狙いは、アマラを学園から離す事。

 こっちのアンテナを消しにかかる事が目的としたら、次に狙われるのは姉弟子様。


「……という訳よ」

「なるほど」

「えげつなー」


 私の説明に頷く姉弟子様に食らったアマラはげんなり顔。

 近衛騎士の財力で高級娼婦のアマラを買い続けるのにはどう考えても無理がある。

 という事は、サイモンの後ろに金を出している誰かがいる。

 バニー三匹が適当に色気をまき散らしながら、話していることは政治的にやばいのだからこのアンバランスさがおかしい。


「で、サイモンってやつの後ろについているのはあの王子様なの?」


「そっちの王子様じゃないです。

 第三王子カルロスでしょうね。

 アリオス王子がいなくならないと彼には出番が回ってこない。

 ミティアとアリオス王子をくっつける事が狙いかと」


 もちろん、音消しの魔法をかけての雑談である。

 姉弟子様はともかく、ある程度の知識のあるアマラはこの国がこんなにやばくなっている事を察して顔を青ざめていたり。


「どうしてそれが、アマラや私の排除に繋がっているの?」


 姉弟子様の質問に私が口に手をおいて少し考える。

 こちらの手を縛りにくるとしたら、世界樹の花嫁争いしかないのだ。


「世界樹の花嫁がらみなんでしょう。

 私が勝ちそうだから邪魔をするが一番わかりやすい理由だけど、それをするほどサイモンは馬鹿じゃない」


 既に私はアリオス王子の取引でエルスフィア太守代行の地位を得ている。

 同時に、当て馬としてミティアを引き立て役になって負けるという訳なのだが、それをサイモンが知らない訳がない。


「むしろ、ミティアとの繋がりを切ろうとするってのはあるんじゃない?

 何だかんだで貴方とミティア仲いいし」


 アマラの指摘にそっちの線もあるなと考える。

 現状は乙女ゲーというよりも育成ゲーみたいになっている。

 私と王子でミティアを育てているという形だ。

 私の動きが封じられて、表向きゲームマスターとして直接的介入ができないアリオス王子だけだとサイモンあたりが絡む余地ができる。


「もう一個可能性があるのよね。

 私が動けなくなって困るネタで、大賢者モーフィアスが出してくる世界樹の花嫁がらみの報告書」


 ヘインワーズ侯の引退に合わせてモーフィアスが失脚する予定なのだけど、その前にこの世界樹の花嫁の報告書を王室に提出するはずなのだ。

 花嫁が処女では世界樹の加護に悪影響が出るという調査報告書は、世界樹の花嫁の存在そのものに大激震を食らわせる事態になるので、その時に私が動けないとこの報告書が闇に葬り去られる可能性がある。

 ここが解決するだけでも世界樹の加護が回復して不作傾向から脱却できる最重要ターニングポイントで、同時にどんな敵が出てくるかわからないパンドラの箱でもある。

 ん?

 よじ登ってきたぽちがほっぺたをつんつん。

 ぽちが見る方に場違いな主人公が驚愕の顔をこっちに向けている。



「ああああああっ!!!

 エリーさんにアマラさんにミズキ先生!!

 なんて所でなんて格好しているんですかぁぁぁぁっ!!!!」


 音消しの魔法で聞こえないはずだけど、指差して何か叫んでいるので、解除するとミティアの叫び声が響く。

 あ。後ろで頭抱えているシドとキルディス発見。


「何であんたここにいるのよ?」


「というかエリーさんがどうしてこんな所にいるんですかっ!!!

 侯爵令嬢のお嬢様なのにっ!!!」


 大声で叫ばないで。煩いから。

 というか、キルディス止めろよ。護衛騎士やってるんだからよぉ。


「お嬢。

 あんたが心で思っている言葉、鏡を見ながら言ってみろや。おい」


 心を読まれたらしくシドのツッコミに何も言い返せない私。

 後で聞いた話だが、アマラの消耗は学校でも見えるほどだったらしく、ついに学園を休んだアマラに心配になったミティアがお見舞いを企画。

 で、背景を知っているシドとキルディスが必死に止めるがそれで止まる主人公ではなく、入ってみたらバニー三匹が発見されて現在に至ると。


「ふっふっふ。

 ばれちゃあ仕方がないわ!

 ミティアよ。

 あなたもバニーになるのです!!」


 あ、のりのりの悪役口調で姉弟子様がバニー服を取り出してきたが何処に用意していたんだ。それ。

 というか、ミティアも受け取るなよ。というかキルディス赤くなってないか?むっつりめ。


「サイモンの奴、こっちを見たら引き返していったぞ」

「助かるわ。シド」


 馬鹿騒ぎの中、交わされたシドとアマラの信頼にちょっと嫉妬したり。

 なお、姉弟子様の口車に乗せられたミティアがバニースーツを受け取った所で馬鹿騒ぎはお開きとなった。

 もちろん、娼館の主人に私が頭を下げまくったのは言うまでもない。

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