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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
花嫁候補の奮闘

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42 ミノタウロスの迷宮 初日

「第一層攻略パーティが帰還しました。

 死者はおりませんが、重症6、軽症5。

 攻略続行不能と判断して、全パーティが撤退しています」


「わかりました。

 回復魔法をかける為にそちらに行きます。

 編成した第二陣をすぐに投入。

 第三陣の編成準備。

 彼らに第一層の『維持』を任せます。

 急いで」


「はっ」


 私の命を受けてアンジェリカが駆けてゆく。

 迷宮攻略第一陣は前にメリアスで雇った冒険者で編成しているが、低レベル育成冒険者だったので被害続出。

 今回は敵のレベルが上がっているので最初から苦戦中である。

 主人公だと攻略キャラが使えるのだが、悪役令嬢たる私の場合はいつでも使える訳も無く。

 かくしてモブキャラ育成をかねての出撃だったのだが、死者が出なかっただけ良かったと割り切ろう。

 アルフレッドも経験を積ませる為に送り出したのだが、彼は無事だろうか?

 頭を振って恋する乙女から指揮官に意識を切り替える。

 迷宮の入り口に到着すると、痛々しい姿の第一陣が地面に座り込んでいた。


「村の連中いい加減な事言いやがって!

 最初からミノタウロスが出てくるなんて聞いていないぞ!!」


 戻ってきたシドが悪態をつく。

 腕に巻かれた包帯から血がにじんでいるが軽症に分類されていると見た。

 目でアルフレッドを探すが、彼も軽症組。

 今回の探索にあわせて装備を買いなおしたのが功を奏したらしい。

 内心ほっとするのを隠しながら皆の状態を確認する。

 今回は長期契約を匂わせ、金も低利子で貸す事までして皮防具を身に着けるように推奨していた。

 アルフレッドを例に取れば、皮の服に皮の鎧、皮の帽子に皮の盾と全部皮で固めている。

 そこそこの防御力があり、修繕にかける費用も比較的安いこれらの防具を整える事が初心者冒険者の最初の目標となる。

 その効果ははっきりと現れており、これらの防具がなかったら死者が出ていただろう。

 今回攻略している迷宮のボスはミノタウロス。

 圧倒的身体能力を持っているので、序盤に当たると損害が続出する。

 その代わり魔法抵抗が低いので魔法で潰すのがセオリーなのだが、問題は迷宮にあった。


「この遺跡かなり入り組んでやがる。

 第一層全体の把握がまだ終っていない。

 しかも、ボスが奥からやってくるようだと、被害が続出するぞ」


 ゴブリンだけでなく、スライムや大蝙蝠、大トカゲが出現し、死者を供養しなかったせいでゴーストやスケルトンまで沸いている。

 更に聖地として村人があまり入らなかったせいで遺跡のトラップもまだ生きているものがあるらしく、ミノタウロスの出現によって撤退を決意したそうだ。

 古代魔術文明期の遺跡で信仰の対象になっていたから村人も全体を把握していない。

 把握していた村の長老は既にミノタウロスの腹の中である。

 世界樹の花嫁ではダンジョン攻略は層での攻略なのでマップなんてある訳も無く。

 これは少し作戦を立て直すか。

 シドを含めた第一陣に回復魔法をかけながら、私は口を開いた。


「シドは休憩したら、村の長老の家を漁ってくれない?

 何か言われたら私の命令って言って。

 金銭は取っちゃ駄目。

 欲しいのは、日記や覚書。

 この遺跡がらみの事よ」


「あいにく、俺はそこまで落ちぶれちゃ居ないさ。

 ついでに村人に聞き込みをしてくる」


 確実に使える盗賊というのはそれだけで攻略の難易度が変わる。

 第二陣に入れている盗賊を見るとつくづくそう思う訳で。


「へっ。

 お優しい事で」


「黙っていろ!盗賊!!

 お嬢様の温情が無ければ、貴様らも縛り首だったのを忘れるな!!!」


 こいつらエルスフィアの街道で暴れていた盗賊である。

 幹部連中は縛り首になったが、下っ端連中を放逐して再度悪さをされるのも困る訳で、捨て駒として持ってきたのである。

 叱りつけた剣士はエルスフィア騎士団所属の従者で、彼らはエルスフィア騎士団内部で商人から多額の金を借りていた連中たちで構成されていた。

 彼らに合法的に金を回すのと、忠誠心テストを兼ねてこの第二陣を編成していたりする。

 私は第二陣の連中に向けて口を開いた。


「第二陣の諸君。

 貴方達の任務は、第一層の『偵察』と『制圧』です。

 それ以上の事は求めません。

 ミノタウロス出現による第一陣の苦戦振りは分かっていると思うから、無理はしないように」


 訓示をたれて第二陣を送り出す。

 それを横で眺めていたケインが声を出した。


「お嬢様。

 気になったのですが、あの盗賊たちに知り合いでも居ましたか?」


「ああ。

 気づかれちゃったか。

 私が奴隷市場出身ってのは話したでしょ。

 私を売ったのがあいつら」


「……」


 この時間だと、先の話である。

 彼らとて私の事を知らないだろう。

 過去にできたからこそ、私はやっとそれを語る事ができる。


「清々しいぐらいの最高の下種でね。

 そりゃ恨みもしたわ。

 けど、感謝も最近はするようになってね」


 やった事は許さないし忘れないが、彼らが私を捕まえなかったら私は広い大平原のど真ん中で骸を晒していただろう。

 そのくせ高く売れる事を見抜いて私を必要以上に汚さなかった。

 だからこそ、最高の下種なのである。

 そして、彼らはこの時間軸において私を捕まえていない。


「だからチャンスをあげたつもり。

 向こうがちゃんと働いてくれるならば、こっちからは何もするつもりは無いわ。

 けど、あまり期待できそうもないなぁ……」


 わざとらしくため息をつく。

 たらした蜘蛛の糸だが、切れるのがなんとなく分かってしまったからだ。

 わざわざ第一陣の損害を教えたのに、ついに彼らは装備の更新を申し出なかった。

 予備の皮装備を馬車に持ってきたというのに。


「あいつら、お嬢様の支度金を飲む打つ買うに使い切ってしまっていましたからね。

 エルスフィア騎士団の連中も借金が残っていた連中で、それを支払いに当ててしまっている。

 草原では出会わないミノタウロスに初見だとあの世で後悔するでしょうな。

 ある程度こうなる事は分かっていたのでは?」


 私が占い師で未来視ができるのはケインも知っているからの物言いに私は苦笑する。

 世の中は善意だけではうまくいかないが、善意を信じなければやっていけないこの理不尽さ。


「外れてほしかったんだけどね」


 数時間後。

 外れて欲しかった結果は最悪の目で現れる。


「第一層攻略パーティ第二陣が帰還しました。

 死亡四。重症八。行方不明三。帰還者全員が軽症です」


 アンジェリカの淡々とした声に私は深く深くため息をついたのだった。

 行方不明というのは、ミノタウロスに襲われて逃げ出した盗賊たちの事らしい。

 死体は迷宮内に残してきたらしいので、『回収』しないといけない。

 がちがちの初心者より、舐めた玄人の方が損害が大きいのだからどうしようもない。


「死亡の四って事は、盗賊が逃げたのとあわせて数が合わないわね」


「盗賊たちが逃げる際に他の連中に押し付けたそうです。

 その結果不意打ちに近い形になって戦線が壊乱したと」


 うん。

 清々しいぐらいに下種だった。

 アンジェリカの報告に私は笑う事しかできない。


「第三陣で『回収』をさせます。

 死体だけじゃなく行方不明者も『回収』するように。

 中で野垂死にしてゴーストやゾンビやスケルトンになったら目も当てられないわ。

 回収後に第一陣と第二陣の志願者で第四陣を編成。

 夜に投入する連中第五陣以降にも情報を与えるように。

 昼夜問わず攻め続けるわよ」


 今回用意した人員はおよそ100人。

 全四層からなる迷宮攻略は、初日から総力戦の様相を見せ始めていた。

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