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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
花嫁候補の奮闘

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38 ちょっと空気の変わったメリアス魔術学園のとある日

 久しぶりのメリアス魔術学園。

 来てみると、自然にミティアの周りに人が集まっていた。


「おはようございます。

 エリー様」


 席に座った私を見つけて声をかけてくるミティア。

 気づけよ。

 今の挨拶で、数人額に手を当てたやつが居る事をよぉ。


「おはようございます。

 ミティアさん」


 挨拶は大事である。

 とはいえ、この空気をどうするべきか迷うので今日一日は少し動かずに、私が居ない間に何がどう変わったのか感じる事にしよう。


「迷宮の攻略?

 一昨日終わったな。

 あのクラスには不釣合いなお宝が発見されて、冒険者の宿はその話題でもちきりだったぜ」


とは、その迷宮探索に参加したシドの言葉である。

 その隣に当然のように居るアマラがシドの言葉を補足する。


「王子様とグラモール卿にキルディス卿。

 シドに、ヘルティニウス司祭の六人で盗賊討伐。

 盗賊たち十数人を討伐し、彼らが溜め込んでいた財宝を手に入れたって訳。

 少人数で迷宮をクリアしたから、あなたより向こうの方ができるみたいな事を言われているわよ」


 お。

 私の隣に居るアルフレッドの顔が少し怖い。

 私の為に怒ってくれているのならば嬉しい。

 それはともかく、実際の盗賊が何人居たのやら。

 せっかくだからシドにそのあたりを突っ込んでみよう。


「で、その悪さをした連中に心あたりは?」


「顔もしらねぇ流れ者だな。

 そのくせ、あんな粗末な宝箱に金貨をいっぱい詰め込みやがって。

 この話はそれで終わりだ」


 ああ。

 このほのかに香るヤラセ臭がまた。

 あえて強引に話を打ち切る事で上からの圧力を知らせてくれたか。

 シドからすれば、私とミティアの争いには関わりたくないけど、アマラがいるから最低限の便宜は図るという感じか。


「で、貴方はこの時期に一週間近くどこで何をしていたので?

 世界樹の花嫁候補のエリーさん」


 わざと声を大きくしてじゃれるようにアマラが私に迫る。

 もちろん、こうする事で私の一週間の不在の理由を皆に知らせるのが目的なのだ。


「仕方ないじゃない!

 エルスフィア太守代行の仕事が忙しかったんだから!

 賃金未払いで揉めていた騎士団に自腹で賃金を払って、街道巡回で盗賊討伐までしたんだから大赤字よ!!」


「お嬢様おちついてください」


 アルフレッドに宥められながら、オーバーリアクションに嘆くしぐさは我ながら芝居じみている。

 とはいえ、エルスフィア太守代行の仕事にかかりきりになっている事はアリオス王子を含めて知っている事だから、皆の聞き耳は私が大散財した事に注目が行く訳で。


「実は、後始末がまだ残っているのにこれ以上休むのは不味いからってこっちに来ているのよねー。

 盗賊討伐と騎士団の街道巡回の再開に伴って、タリルカンドとの貿易協定の締結までしないといけないから、体が二つ欲しいわ。ほんと」


 がたっと教室内に音が響く。

 大散財とほざいておいて、タリルカンドと交易協定を結ぶなんて権益を晒したのだから心穏やかではないだろう。

 これに、タリルカンド辺境伯が末息子のエリオスの嫁になんて舞踏会でほざいた一件が絡むと、タリルカンドがエルスフィアを奪ったみたいな見方もできない訳ではない。

 日和見連中を揺さぶるのにちょうどいいネタだろう。


「あ。

 先生が来たわよ。

 座って」


 アマラとシドを席に帰らせる時にアリオス王子をちらと眺めるが、王子様はついに私の方を見る事は無かった。




「ゼファン君。

 これ何て読むの?」


「『精霊魔術の根幹の四大精霊』。

 あんた本当に教師か!!!」


「あら、私の占いの腕は知っているでしょう?」


 姉弟子様絶好調である。

 魔術を学ぶにおいて、ちょう良いおもち……げふんげふん。

 優等生であるゼファンを捕まえていろいろ質問責めにしているのだった。

 こちらの世界の基礎知識の欠落というデメリットを現代技術と知識が穴埋めしつつ、占いによる精神的ケアと未来誘導で姉弟子様は短期間で占術学教師としての地位を確立していた。

 で、魔力適正があったので、図書館でゼファンを捕まえて魔法の勉強中という訳だ。

 あ。

 私とアルフレッドを見つけたのでおいでおいでと手招きしてる。

 肩に乗せたぽちを見るとぽちの顔にもやれやれみたいな顔が見えるのは気のせいだろうか。


「楽しそうですね。

 姉弟子様」


「もちろんよ!

 世界が広がるってこんな感じなのね!!」


 こんなに嬉しそうな姉弟子様を見るのは久しぶりだ。

 そうか。

 向こうでは女帝よろしく君臨していたけど、こっちではただの水樹姉様に戻れるのか。

 私が向こうでただのJKとしてあたりまえの日常に涙したように。


「そういえばさ。絵梨。

 聞きたかったのだけど、魔術系統で神聖魔術や精霊魔術はなんとなく分かるのだけと、魔術の根幹ってマナとオドなの?」


「そうですよ。

 この世界には、魔術の源であるマナが満ちています。

 マナに対して、現状変更を働きかけるのがオド。

 つまり私達が持つ魔力ってやつですね」


「じゃあ、適性が無くてもその意思をマナに働きかけられるならば……」


「ご明察。

 たとえば、この杖なんかがそうですよ」


 姉弟子様に愛用の世界樹の杖を取り出して見せる。

 あ。

 ゼファンの顔色が変わった。

 そりゃ、いくら掛かるか考えるだけでいやになる超一級マジックアイテムだからなぁ。こいつ。

 それで思い出して、三人の前に師匠の形見である神竜石を取り出す。

 ゼファンだけでなくアルフレッドまで完全に言葉を失ってやがる。


「そうだ。

 この師匠の形見ですが、よかったらこれで杖作りませんか?

 材料費ぐらいは私が出しますよ」


「ちょっと待て!

 さらりと言いやがったが、それに合う杖の材料なんて街が買える金が必要になるんだぞ!!

 どうやって工面する……」


 そこでゼファン自ら言葉を閉ざす。

 街一つが買える価値が魔術師にはあるのだ。

 極めた魔術師は戦術兵器では無く戦略兵器に化ける。


「たとえば、マナの具現体である精霊を使役する精霊魔術は比較的扱いが簡単だとはいえ、水の浄化、火の制御、風の安定、大地の豊穣祈願とそれだけで一生食えていけるわ。

 これに神への誓願が絡む神聖魔法や、転移魔術等をはじめとする儀式魔術まで使える魔術師はそれだけで権力中枢にまで行く事ができる。

 姉弟子様はそんな逸材って事」


 ゼファンだって分かっているだろうに。

 規格外の私の姉弟子様が規格内で収まる訳がないって事を。

 アルフレッドは何か考える顔になって、私達に質問を投げかけた。


「そこまで魔法が優れているならば、俺らみたいな存在っていらないのでは?」


「そうでもないのよ。これが。

 便利なものには、それだけの反動ってのがあってね。

 私達魔術師はそれをマナ汚染って呼んでいるわ」


 世界に満ちるマナにオドを使って働きかけて現象を改変する事が魔術である。

 という事は、現状改変の意思がマナに残ってしまうのだ。

 この現象をマナ汚染という。

 たとえば、前に火の魔法を使った場所で水の魔法を使うとその効きは悪くなる。

 そこに残っていた火の意思が水の意思を邪魔するからだ。

 それだけならばまだいい。

 思いの強さはそのままマナに反映される。

 だから殺意なんて強力なものが残っている場所で別の魔術師が魔術を使った場合、その殺意が魔術師に移ってしまう事もある。

 魔術師にとってマナ汚染はそれだけやっかいなのだ。

 これは未だ推察なのだが、世界樹の花嫁におけるオークラム統合王国の不作の根本的原因はこれだと睨んでいる。

 処女神の加護を受けた巫女達がその加護を世界樹を使って無意識下に発信しているのだ。


「若芽のままに。清いままに」


と。

 そりゃ不作になる訳だ。

 実る為には花をつけて熟れなければならないのに、花のままにと願えば実ができる訳が無い。

 話がそれた。


「魔術を使う場合、どうしてもそれを意識しないといけない。

 ならば、魔術を使わずに済ませちゃえという訳。

 これが意外と侮れないのよ」


 転移で世界を跳ばなくても、時間をかけるならば目的地にたどりつくのだ。

 魔術師が特権階級になりつつある現状で、低コストの仕事をするよりも高コストの仕事に特化してその仕事を他の人間にやらせた方が効率的なのだ。


「せっかくだから、アルフレッドも魔法覚える?」


「覚えられるのですか?」


 私の一言にアルフレッドが目を輝かせる。

 まぁ、男の子ですし、強くなりたいお年頃でしょうから。

 

「覚えられなくでも使えるマジックアイテムがあるって言ったでしょ。

 こんどそれを貸してあげるわ。

 ケインあたりに言えば、そのあたり話してくれると思っていたけど?」


 私が首をかしげたらアルフレッドが恥ずかしそうに俯く。

 赤髪で目を隠してその理由を口にした。


「ケインさんは、『お前にはまだ早い。一つの事を極めないと結局技に溺れるぞ』と」


 その言葉に私だけでなく、姉弟子様やゼファンまでもが納得する。

 アルフレッドを除いた私達は一つの事を極めた人間の部類だからだ。


「ケインの言う事の方が正しいわね。

 極めたら、そのお祝いに何かマジックアイテムをプレゼントしてあげるわ」


「はい。お嬢様。

 楽しみにしていますね」


 そう言って、楽しそうに笑うアルフレッドの笑顔にときめいたのは内緒だ。

 後で散々姉弟子様にからかわれたのもついでに付け足しておく。

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