表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
二人の世界樹の花嫁候補

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/135

26 ただのゴミ向こうでお金に変わりけり

「おはようございます。エリー様

 こっちはこんな朝なのですね」


 ゲート構築によってメリアスとエルスフィアをつないだ翌日。

 本格的な再建事業の為にエルスフィア太守の寝室で目を覚ました私に、メイドのアンジェリカはそんな声をかけたのだった。


「エルスフィアを一時的に預かる者で世界樹の花嫁候補、エリー・ヘインワーズ太守代行です。

 今回集まってもらったのは他でもありません」


 太守館に集まったのはエルスフィアを拠点にする商人たちである。

 前太守のやらかしが大きいので、皆目に猜疑心が宿っている。


「エルスフィアの運営ですが、前太守がやらかしているので予算に穴があいています。

 で、皆様に資金をお借りしたい」


 ほら来たという顔が半分、賄賂じゃないのかという顔が半分。

 これぐらいは計算のうちである。

 ドレス姿の小娘が借金を申し込んでも適当にあしらわれるのがオチだが、銀時計の鎖をぶらぶらさせてヘインワーズの家名と世界樹の花嫁候補の名前がそれを押しとどめる。

 彼らの頭の中では、鴨が葱背負ってやってきたと思いながら、その後ろに狼が潜んでいると警戒しているといった所か。


「もちろん、担保もなしで借りるつもりはありません。

 こちらの支払いがどれぐらいあるかですが、これを見てもらって判断してください。

 アルフレッド。

 持ってきて」


「はい。

 お嬢様」


 アルフレッドがゴミ袋を背負ってやってくる。

 その中に入っていたのは危うくごみに出されかかったぽちの鱗だ。

 武器商人がその価値に気づいて顔色を変える。


「これを皆様にお譲りしたい。

 その上で、借金の話に移りたいと思うのですがいかが?」


「ちょっと待ってもらいたい。太守代行殿」


 私の説明に手を上げて初老の商人が立ち上がる。

 たしか挨拶のときに聞いた限りでは、ここにいる商人たちの取りまとめ役みたいな人だったはずだ。


「そこにある竜の鱗をお売りになれば、この町の運営については問題が無いはずだ。

 それでもなお、金を借りる理由を教えていただきたい」


 私は初老の商人に向かって微笑んだ。

 この手の営業スマイルは十何年もやってきているので、すっかり板についてしまった。


「ひとつは予備費としてです。

 情けない話ですが、給料の遅延などでエルスフィア内部の状況はあまりよろしくありません。

 何が起こるかわからない状況で、それに対処できる資金を確保しておきたいというのが一つ。

 なお、エルスフィア騎士団および太守使用人の賃金遅延は昨日のうちに解決しております」


 ざわざわと商人たちから声があがるが、半分ぐらいは嘘だろう。

 彼らの給料遅延の結果、多くの人間がここにいる商人たちから金を借りる結果になっていたからだ。

 返済に行った連中からこの情報が漏れない訳がない。


「もう一つは新規事業を行うためです。

 私は、太守代行として以下の事業を行いたいと思っています」


 アルフレッドが集まった商人たちに計画書を手渡す。

 それを受け取った商人たちが驚きの声をあげるが考えてみれば当然か。

 羊皮紙がまだがんばっている世界でノートの上質紙を見たらそうなるわな。

 この驚きに商人たちが体制を立て直す前に、私は紙に書かれた事業計画を読み上げた。


「まずはエルスフィア騎士団による街道の巡回と近隣盗賊団の討伐。

 これは数日後には行う予定で、竜の鱗を売った資金はこれの物資購入に使いたいと思っています」


 騎士団を出すのにも金がかかる。

 その金の確保が目的なのと同時に、売った金が物資購入という形で商人たちに戻って来る事をアピール。

 街道の治安改善は商隊の襲撃低下とエルスフィアに商隊が寄る事を意味するので、商人たちの顔色が良くなる。


「次に街道そのものの補修を行います。

 東に向かう街道の整備と、見張り台の再建。

 エルスフィアの船着場の改修も行う予定です」


 エルスフィアのほとりを流れる川は河川交易に使われている。

 北の山地から切り出した木材を西の王都に川を使って運ぶのだ。

 船着場は川底の定期的な浚渫がないと底が浅くなって船が使いにくくなってしまう。

 また、東と南は草原地帯になっており、南に極東大帝国へ向かう交易路へ繋がる街道が伸びている。

 当然、騎馬民族が略奪にやってくる事があり、その警戒のための見張り台や砦が整備されていた。

 それも前太守の放漫財政によって遺棄されて荒れたままになっているので再建すると私が言った途端、長年商人たちが訴えてきた事の実現に商人たちも喜びの顔でいっぱいになる。

 同時においしい話には裏があるとばかりに警戒を強める。

 そのとおりなのだが。


「さて、表向きの理由はこれらです。

 ここから裏向きの理由になりますが、聞いたら戻れませんよ。

 ここでお帰りになる方は、帰ってもらって構いません」


 満面の営業スマイルで言ってのけて商人たちを脅かす。

 数人の商人が席を立ってこの部屋から出てゆく。

 彼らの多くは拠点とはいえ商隊で移動しながら商売をする連中。

 残ったのはこのエルスフィアに店を構えた連中。

 手をあげた初老の商人も当然残っている。


「残っている人間は、覚悟がある人という事でしょうか?」


 再度確認の言葉を放って、誰も出るものがいない事を確認して、アルフレッドに扉を閉めさせる。

 で、念のために音消しの魔法をかけて口を開いた。


「私は現在世界樹の花嫁を目指しています。

 メリアスで行われている世界樹の花嫁を使ったベルタ公とヘインワーズ侯の争いはご存知?」


 お、露骨に目をそらしやがった。

 このあたりにも聞こえているか。商隊や旅人を使って彼らは必死に情報を集めたのだろう。

 で、それがこんな所にまで広まっていると。

 だから、この情報はまだ届いていないはずだ。


「この争い、ヘインワーズの全面降伏によって先ごろ決着しました。

 ヘインワーズ侯は近く引退する予定です」


「!?」


 海千山千の商人達もまさか私の口から己の属する家門の敗北を口に出すとは思っていなかっただろう。

 それまでの商人の仮面を落として驚愕が顔に出ている。


「で、問題なのは花嫁候補である私の存在で、こんなものを持っている私の処遇に困ったらしいのです。

 花嫁争いはベルタ公が押す花嫁候補が勝つ出来レースの当て馬をやらされた後、おそらく太守としてこの地に赴任する事になるでしょう」


 ドレスにつけられた銀時計の鎖と五枚葉従軍章と大勲位世界樹章を見せ付ける。

 もちろん、身につけての太守代行だからそれらが本物であると商人達もわかっただろう。

 ヘインワーズの全面降伏は、封建諸侯の勝利を意味する。


「その後、王室法院においてある計画が承認されるでしょう。

 北方・東方・南方、オークラム統合王国を取り囲む蛮族に対する大長城構築計画です」


 それが何を意味するのかわからない商人達ではない。

 真っ青になった彼らに私は営業スマイルを崩さない。

 

「ここは北方と東方の中間地点に位置する辺境部で、その負担は莫大なものになるでしょう。

 ですが、それに備える事はできます。

 早めに手を打ち、工事を進める事でその負担を軽減させたいのです。

 借金による事業推進でそれを狙っています」


 まさかもうすぐ統合王国崩壊して、ここも東方騎馬民族と北方蛮族に荒らされますよなんて言える訳も無く。

 とはいえ、いずれくるだろうこの二つの異民族襲来に備える事はできる。


「借金の額は膨大で、今すぐにとは言いません。

 とりあえず、私の統治を見てもらって信用できるのならば、私にお金を貸していただきたい」


 ぺこりと頭を下げる。

 太守代行が頭を下げる事自体とんでもない事だが、頭を下げてお金が借りれるなら安いものである。

 初老の商人が口を開いた。


「わかりました。

 こちらも大金である以上、すぐに答えが出せるものではない。

 ひとまず、その竜の鱗と持ってきた袋を買い取りたいのだが、よろしいか?」


 袋?

 アルフレッドが持ってきた袋はあやうく母に燃えるゴミとして出されかかったゴミ袋なのだが。

 こっちの理解が追いついていないのに、初老の商人は竜の鱗以上にこのゴミ袋に視線を注いでいた。


「これほどまでに透き通る袋を私は見た事がない。

 どうか、その袋を私に譲ってくれないか?」


「待ってくれ!

 それは私も狙っていたんだ!!」


「私だって!!!」


 竜の鱗も貴重品だが、それ以上に透明ゴミ袋は希少価値が高かったらしい。

 アルフレッドに水差しを持ってこらせて水を注いで漏れない事を見せたら、一気に価値が跳ね上がった。

 こうやって、私は当面の資金確保に成功したのだった。


「あまり目立つ事をしては駄目よ」


 先のぽちの鱗換金の後で姉弟子様にたしなめられた。

 大いに反省。


「エリーお嬢様に何か落ち度があったのでしょうか?」


 アンジェリカが主人の何が悪かったのか聞こうとしたので、私の方から説明する事にした。

 このあたりの身分や主従関係もこの世界ならではというか。


「私たちの財力を削る事が目的でここに飛ばされているのに、その財を見せつけたら警戒されるでしょ」


 ビニールの件で露呈したが、おそらく向こうから何を持って行っても高値で売れる事は間違いが無い。

 それだと問題がいくつか発生するのだ。

 まずは、向こうからの持込が私の転移魔法によって制限されているという事。

 要するに船や家なんて大きなものは持ち込めない。

 もう一つは、私がもってくるものだけで街が形成されかねないという事。

 エルスフィアは東方との交易路から外れた街道街だ。

 私の品を求めて商隊がやってくるなんて、私がいなくなったらそのまま衰退に直結しかねない。

 それだけならまだしも、王宮に捕らえられてひたすら財を運ぶため働かされるなんてのもありうる。

 異世界からの持込というずるは、大規模にしちゃうと後々反動が来るという事だろう。

 因果応報という言葉もある。

 いろいろ持ち込んでそれが自分に返ってくることもあるので、持ち込みは適度にしておこう。


「この後はどうするつもりですか?」


 アンジェリカの質問に我に戻る。

 出来る事からこつこつと。

 地道な努力が結局問題解決の一番の近道だったりするのだ。


「騎士団訪問かな。

 彼らに働いてもらわないとね」

12/09 設定変更に伴う加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ