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1 再召喚・再々召喚 0320加筆

 たしか登校途中だと思ったが、目に広がるのは大理石の神殿。

 神官服を来た人々が私がかつて覚えた言葉でこんな事を言っている。

 鞄の中のぽちが出ようとするので、出るなと鞄を押さえつける。


「おお!

 予言の巫女の召喚に成功したぞ!!」


「お断りします」


 その一言の後私が唱えた時空跳躍によって、私の再召喚はわずか十数秒という短さで終る事になった。



「しつこいわね。あんたら」


 諦めたと思ったのだが、再再召喚が行われたのは一月後。

 儀式呪文だから、霊脈の魔力が溜まるまで待っていたのだろう。

 今度はこちらの呪文を封じ込む為か、既に周囲の神官達は私に杖を向けている。


「手荒な事はしたくない。

 じゃが、これも世界の為なのじゃ」


 世界の為。

 長く王宮にいるとこの言葉の白々しさをいやでも知る事になるから、この言葉は嫌いだ。

 特に、それで私があの人を助けられなかった為に。

 で、こういう連中には手っ取り早く立場を分からせるのにぽちは実に便利が良い。

 来るだろうと踏んでいたので、魔法で小さくしていた世界樹の杖を元に戻して神官達に向けつつ、鞄の蓋を開けてぽちを中から取り出すと、事態の緊迫さを知ってその擬態を解く。

 ただのおっきなトカゲから白銀の神竜へと。

 それだけで、彼らは明確に格の違いが分かる。

 ぽちの魂まで震える咆哮に、ただ一人を除いてすくみ上がってしまったからだ。

 その一人は魔方陣の前で儀式を執り行っていた白髪の老人。

 白いローブを纏い、同じく白くなった髭を蓄え、三角帽子をかぶる姿は古の魔法使いに見える。

 持っている杖は遠目から見ても業物で、他にもマジックアイテムをローブの中に隠しているのだろう。

 おそらくは、彼が儀式の中心。 

 さっきわたしに世界の為とほざいたやつだ。


「時空跳躍、神竜を使い魔にするその才、世界樹の杖ときたか!

 希代の魔術師として我らが求める巫女に相応しい」


 杖を向ける周囲の連中とは違って、彼は杖を向けない。

 向けなくてもいい理由があるか、こっちが攻撃しないと読みきっているのか。


「お褒めにあずかり恐悦至極。

 大賢者モーフィアスがいらっしゃったら、弟子に見込まれていたと言われていた程度の魔術の才はありますので」


「何じゃ。

 おぬし、わしの事を知っていたのか。

 その言葉通り、弟子にしてやってもいいぞ」


「!?」


 手を考えながらの戯言に真顔で返す老人に私がびっくりする。

 こいつが大賢者モーフィアス。

 『ザ・ロード・オブ・キング』のフレーバーテキストキャラクターだが、彼は舞台であるオークラム統合王国の宮廷魔術師として長くその統治を支えていた大賢者である。

 だが、そんな大賢者も王国崩壊は救えず、その後の戦乱から主人公が世に出る事で『ザ・ロード・オブ・キング』の物語は始まる。

 そんな大賢者だからこそ、異世界から私が呼べたのかと納得。

 

「お主、『いらっしゃったら』と言ったな。

 という事はわしが死んだ後の魔術師か?」


 鋭い。

 さすが大賢者。

 こちらの一言でおよそ察しやがった。

 さて、魔術戦となった場合、この大賢者相手に勝てるか?

 魔術戦。つまり呪文の撃ちあいは呪文詠唱が絡むから、詠唱の短い呪文連打で圧殺するのが基本となる。

 逆に、ぽちみたいな盾がいる場合一撃必殺の大技が狙える訳で、センスが問われる戦いでもある。

 時空跳躍で逃げてもいいが、また来月に召喚されかねない。

 ここでモーフィアスを叩くのもありだが、ぽちと共に戦って勝てるかどうかは微妙。周囲の神官達もいるし。


「一つ尋ねるわ。

 今は何年かしら?」


 私の質問にモーフィアスが口を開くが、双方とも呪文発動寸前、つまり引き金に手をかけたままの会話である。

 私の武器は世界樹の杖とタロットカード。

 タロットの方が秘密兵器なので、普段はこの世界樹の杖を使う事にしている。

 これも、この世界では中々手に入らない業物の杖なのだが、向こうの杖の方が性能は良さそうだ。

 そんな事を考えながら相手の返事を待つ。


「統合暦365年。

 オークラム統合王国バイロン三世の治世よ」


 返ってきた答えが嘘でないならば統合暦365年。

 オークラム統合王国崩壊は統合暦369年。

 統一戦争が始まって再統一が果たされるのが統合暦374年。

 戦争が始まっていない……あの人が生きている!

 私は魔力を霧消させて攻撃姿勢を解いたが、まだぽちには警戒させて言葉を吐き出す。


「巫女って言ったわね。

 もしかして、『世界樹の花嫁』の事?」


「知っておるなら話は早い」


 知っているも何も、『ザ・ロード・オブ・キング』の外伝として何をとち狂ったのか乙女ゲーとして販売されましたがな。

 耽美で魅力ある敵役・脇役キャラに物語を与えたと乙女達から大好評で、そこから『ザ・ロード・オブ・キング』をやって悲鳴をあげるまでがお約束である。

 私もそんな一人だったのだが。

 『ザ・ロード・オブ・キング』は大陸を支配していたオークラム統合王国の崩壊とその再統一が行われる物語だった事もあって、ゲームとは関係のない実に無駄……もといフレーバーテキストが大量に存在していた。

 で、オークラム統合王国崩壊の理由の一つにこの『世界樹の花嫁』があげられるのだ。

 大陸中央にそびえる世界樹は古代魔法王国の遺産の一つで、そこから大陸に波及する豊穣の加護で大陸の人々は飢える事無く暮らせるという代物だ。

 だが、その『世界樹の花嫁』になる為には魔力の資質だけでなく高度な魔法管理が必要な為に高度な教育を受けた人間が必要になってくる。

 永きにわたる統治の結果、その花嫁候補者が貴族層に限定されてゆき、市井から出てもそんな彼女たちは力をつけてきた商人達に掻っ攫われる。

 つまり、花嫁候補者が上流階級のサロンとしてしか機能せず、本当の意味での『世界樹の花嫁』は近年出現していなかったという訳だ。

 もちろん、こんな設定を『世界樹の花嫁』で暴露した開発陣の悪意――お前らの自由恋愛の結果、大陸が戦乱に巻き込まれました。ねぇ、どんな気持ち?――

は壮絶にメイン購入者である乙女層からぶっ叩かれる結果となったが、それについて、


「世界の平和と己の恋愛を秤にかけて、己の恋愛を取ったのだろう?」


という、燃料投下で派手に燃え上がるのだが、これで当時最高級男性声優を大量に使って甘く時には容赦なく主人公に迫るという乙女ゲーの出来が最高だから文句も言えずに困るというぐぬぬ具合。

 話がそれた。

 そんな訳で、その世界樹の花嫁が出現しなかった結果、少しずつ加護が薄れて不作になってゆく。

 その結果物価が高騰し、商人達が更に力をつけて貴族層と激しく対立し、あとはお約束の王家の御家争いでついにオークラム統合王国は崩壊する事になる。

 この崩壊によってチャンスとみた北方蛮族、東方騎馬民族の侵攻と、南方魔族襲来、さらに世界の監視者たる竜の介入という大戦乱でこの大陸の人々は塗炭の苦しみを味わう事になるのだから、自由恋愛の代償は高くついた訳だ。


「つまり、私に巫女である世界樹の花嫁になれと?」


 うわぁめんどくさいとげんなりする私の顔に、大賢者モーフィアスは右斜め上にかっ飛んだ言葉をお吐きになってくれやがりましたよ。

 杖を持たない手を上げると、杖を向けていた神官達が杖をおろして、臣下の礼を私に向ける。


「うむ。

 本来はヘインワーズ侯のご息女がこれにつく予定だったのだが、有力諸侯との婚礼がまとまってな。

 お主にはヘインワーズ家分家の子女として、ヘインワーズ侯の養女となってもらう」


 ヘインワーズ家。

 オークラム統合王国の崩壊の引き金を引いた家で、『世界樹の花嫁』におけるライバル役。

 あれ?

 私、もしかして悪役令嬢?

11/11 少し加筆

11/27 少し加筆

3/20 設定変更に伴い加筆

9/17 国王の名前が違っていたので修正

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