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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
二人の世界樹の花嫁候補

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23 黄昏の厄介ごと

 世界樹の花嫁における修行は、陳情処理とは先に語ったと思う。

 とはいえそこは何も知らない主人公。

 攻略キャラたちの力を借りて一から勉強する事になるのだが……


「よろしくお願いしますね。

 エリーさん」


 どうしてこうなった!?


「それ、本気で言っているのか?」


 とジト目なのは、ゼファン上級書記。

 ミティアはまずはこの書記を取る事が目的になる。

 下級書記の資格習得の条件は文官補佐経験一年以上、もしくは文官からの推薦によって与えられる。

 そこから中級・上級と上がる訳だが、上級書記習得まではヘルティニウス司祭と仲良くなっていれば問題なく取れる。

 で、書記から文官にクラスチェンジするルートは二つ。

 ヘルティニウス司祭ルートをそのまま進んで司祭になれば自動的に下級文官が付与されるのと、王家または法院の推薦が必要になる訳でそこからはアリオス王子との関係が大事になってくる訳だ。

 

「本人目の前でぶっちゃけるのは悪いけど、ライバルよ。

 私達。

 ここまで明確な上下関係つけるとまずくない?」


 学生服につけられた上級文官の証である銀時計の鎖をゆらしながら私がぼやく。

 そんな姿を見て、ヘルティニウス司祭が書類を持ったまま眼鏡を光らせた。


「近年の不作傾向で、陳情が溢れているのですよ。

 私が王子に頼んで、勝負うんぬんより民の事をとお願いしてこのような形に」


 おまえかよ。元凶は。

 こめかみをひくつかせながら、ヘルティニウス司祭が持っていた書類を奪い取る。

 それは、穀倉地帯の南部一帯の去年の収穫高のまとめで、ここにも不作の影響が露骨に響いていた。


「ちょっと!

 南部でこれなの!?」


 そこに記されていた数字は、再建された統合王国における南部収穫高の半分しかなかった。

 世界樹の加護なんてない再建された統合王国の半分以下ってどういう理由だと書類を読み進めると、出てくる言葉が素敵に末期的。


「不作による農家の収入減に、貨幣価値の上昇に伴うコストの増大で破綻。

 その結果耕作放棄地が急増し、流民および農奴転落の拡大で生産性が低下。

 それを補う為に、新大陸からの食料供給が更に農家に追い討ちをかけて……うわぁ……」


 書類を置いて両手で頭を抱える私に、何も知らないミティアはきょとんとするばかり。

 どれだけ詰んでいるか分からないって幸せな事だろう。

 現実逃避とも言うが。


「ね。

 争っている暇は無いと」


 いい笑顔で言うんじゃねぇ!

 ヘルティニウス司祭!!

 あんた分かってやっているだろうが!

 ため息をついて仕事モードに切り替える。

 やる事とやってはいけない事を整理して、妥協点を探る事が政治なのだ。


「ゼファン上級書記はミティアさんに付いて説明を。

 最低限の知識を叩き込まないと、諸侯の傀儡で終っちゃうわよ。

 ヘルティニウス司祭。

 王国法院にて、諸侯に説明を行うわよ。

 神殿喜捨に関する関所税課税は阻止するから、神殿側から流民の生活再建の為の案を用意して」


 私の言葉にヘルティニウス司祭の眼鏡向こうの目が細くなる。

 何かを企む顔であると同時に、感心する時にも彼はそんな悪巧み系の笑みを浮かべるのだ。

 司祭なのに。


「かしこまりました。

 神殿は、流民対策に東部を中心に新たな開拓地を考えており……」


 彼の言葉を止めたのは私の手だった。

 私はあそこに居たから、それがどれだけやばいかよく知っている。


「東方騎馬民族の前に餌を置けと?

 喜んで略奪に来るわよ。

 背に腹は変えられないわ。

 諸侯がやっている新大陸開拓を支援して。

 あそこから入ってくる穀物は生命線よ。

 その代わり、神殿喜捨を使って各地に商隊を編成して、流民はそこに吸収させるわ」


 これならば、諸侯も新大陸権益が拡大するし、法院貴族も商人からの支持を取り付けられる。

 あとはパイ分けで揉めるだろうが、そこは法院で遊んでもらうとして、大枠はこれで問題はない。


「最善ではなく、次善で多くの者達に利益を。

 その銀時計にふさわしい人で何よりです」


「富の独占なんて、妬まれて最後は袋叩きよ。

 そんなのこっちから願い下げなだけ」


 ヘルティニウス司祭の賛辞に私は適当に返事を返す。

 ミティアはぽかーんとして私が何を言っているのかわからない様子。

 ゼファンが頭を抱えるのを私は見捨てる事にした。

 私も頭を抱えたいし。

 この日、私が書類を片付けている隣でミティアは涙目でゼファンから説明を受ける羽目になった。

 もっとも、半分以上わかるとは思えなかったが。


「お嬢様。いるかい?」


 仕事が終わろうとする時間、ノックの後で扉を開けたのはアルフレッド。

 今日は私がこっちの仕事をしているので勉強に専念しているはすだが、何かあったのだろうか? 


「もうすぐ終わるけどどうしたの?」


「アリオス殿下がお呼びだそうだ。

 終わったら来てほしいって」


 うわ。

 何かよくない予感がすると思っていたが、案の定アリオス王子の所に行ったら厄介事が待っていた。

 彼しかいない教室で、相変わらず笑顔を崩さない王子が一枚の書類を私に渡す。

 人払いが必要な類の話か。


「北部と東部の中間に位置する王家直轄都市エルスフィア。

 そこの太守が老齢を理由に引退を申し込んできました。

 王家は代わりの太守を送り込まねばならないのですが、その代わりの太守がくるまで貴方に太守代行をお願いしたい」


 直轄都市だけの範囲だと知事、都市および周囲の領地まで範疇に入る地位を太守と統合王国では定義している。

 市長はいないのかと言うといるのだが、市長は自治権のある独立都市トップの名前だったりする。

 太守や知事の地位は任期ありの交代制だが、世襲になっている所も多い。

 太守および知事の条件は上級文官資格を持っているという事。

 銀時計組のキャリアの終点のひとつで、この統治が大過なく過ごせると中央で大臣や長官が狙えたり、爵位を与えられて法院に席を持つ貴族として暮らす事になる。

 そうやって席を持った貴族たちも法院貴族に入る。

 そんな太守が老齢という理由で任期途中で急遽交代し、私が抜擢される。

 厄介ごとしか思いつかない。


「で、何をしたんですか?

 その太守」


「よくある横領さ。

 度が過ぎて反乱寸前の事態に発展し、引退という事で更迭。

 太守が有力諸侯の分家筋じゃなかったら、今頃は首を切っていたよ」


 最悪だ。

 そんな都市の後任に私を押し付けるなんて。

 私のじと目で悟ったのだろう。アリオス王子はにこやかにその先を言ってのける。


「君を抜擢したのは、その銀時計が偽者じゃないと諸侯に納得させるのと、ミティア君への支援という所さ。

 物分りのいい人は控えているが、馬鹿は君の勲章に目をくらませているからね」


「太守代行という事で、私を飛ばしてその間にミティアさんに肩入れをしようと」


 私の露骨なため息にもアリオス王子はその笑顔を崩そうとしない。

 そんな彼の口から裏をぶっちゃけられた。


「もちろん、君にもメリットが無い訳ではない。

 前に、ヘインワーズ分家筋なら助けられると言っただろう?

 ヘインワーズ侯の全面降伏は予想外だったが、君を助ける際の手がこれだ。

 太守に押し込んでしまえば、中央に出ない限り面倒事はこっちで排除してあげるよ。

 もちろん、そのまま太守を続けてくれても構わない」


 笑顔のまま吐き出されるアリオス王子の最後の言葉に毒が篭る。

 だからこそ、事態の深刻さをいやでも感じ取ってしまう訳で。


「ミティア君にまた刺客が来られたら困るんだよ」


 背筋が凍った。

 つまり、既に誰かがミティアに刺客を送ったと。


「うちじゃないですよね?」


「その前に全面降伏してくれたからね。

 キルディス卿が始末したが、背後関係は不明。

 それがなかったらかなり危なかった。

 ヘインワーズに取って代わりたい連中か、ヘインワーズに恩を売ろうとした連中か。

 いやになるね」


 つまり、私と私の身内を一度飛ばして、その間に馬鹿を始末する訳だ。

 ミティアがお披露目になった瞬間に私を勝ち組と踏んで恩を売ろうとしたか、足を引っ張ろうとしたか知らないが場外からの危険球に私は悪寒が止まらない。


「もちろん、授業に出たり修行をするのは構わないよ。

 ただその中でエルスフィアの統治を代行してほしいわけだ。

 少しこの学園に顔を見せる回数が減るだろうが勘弁してくれ。

 あと、アメとしてパトリの開発許可を出しておいた」


 パトリのある場所はエルスフィアの管轄地域になっていた。

 これはこっちの要求を理由に、汚い事をやっていたエルスフィア太守を見せしめにしたな。

 権力とは、政治とはかくも恐ろしいものなのだ。

 そして、だからこそ私は笑顔で王子に告げた。


「わかりました。

 その件お引き受けします」


 

 教室を出るとアルフレッドが律儀に待っていた。

 私の肩にとまっているぽちの頭をつつきながら、アルフレッドが口を開く。


「王子様と何を話していたので?」

「知りたい?」

「結構です」


 とてもきれいな笑みで振ってみたら即効で拒否された。

 やばい勘でも働いたのだろう。


「少し仕事を頼まれちゃってね。

 ここに顔を出す日数が減るって事。

 もちろん、貴方は連れて行くつもりだから覚悟するように」


「……休めると思ったんだがなぁ」


 アルフレッドの冗談に私も笑う。

 気づいてみたら夕焼けがきれいな時間になっていた。

 世界が黄昏に染まるこの時間は本当に美しい。


「逢魔が時ね」


「何です?それは?」


 立ち止まった私の呟きに、アルフレッドが尋ね返す。

 こんなにも美しい時間だから、魔が忍び寄るのだ。

 そしてこの世界には、魔族をはじめとした本物の魔がある。

 その魔すら人の欲は食い殺すあたり人という生き物は本当に業が深い。

 

「なんでもないわ。

 行きましょう」


 そんなメリアス魔術学園の日常は過ぎてゆく。

 私には厄介事が増えただけとも言うが。

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