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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
物語が始まるまでに

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11 貴族様に笑顔を騎士様に歌を王子様に陰謀を 0320加筆

「この手の舞踏会の経験は?」

「もちろん。

 中央で踊るのも男の上で踊るのも経験済み。

 あんたは?」

「両方とも経験済みの上に会議もやっているわよ」

「会議?」


 ドレスをつけて正装の私とアマラが扉の前で軽口を叩き合う。

 出会ってすぐなのだが、なんというか本質的にうまがあうらしい。私達。

 ドレスは私が主役なので白のプリンセスドレス、アマラは従者扱いなので薄色のパーティドレスである。


「踊るのよ。会議も。

 知らなかった?」


「お嬢様。

 そろそろ……」


 私が笑うとそこで騎士正装のケインがたしなめ、メイドのアンジェリカに合図を送って扉を開けさせる。

 彼女はメイドだからこの会場に入れない。

 頼りの肉盾はケインと買ったばかりのアマラ二人だけ。

 さぁ。私の歓迎会という名の戦場の舞台があがる。


「シボラの街の君主に連なる者の娘で世界樹の花嫁候補生、エリー・ヘインワーズ様」


 会場に入ると耳に聞こえるのは万雷の拍手。

 それに優雅に礼を返しながら与えられた席に座る。

 さて、腹の中で何人が私に悪態をついている事やら。


「ご紹介に与りましたシボラの街の君主に連なる者の娘で世界樹の花嫁候補生のエリー・ヘインワーズと申します。

 ここにいる皆様とお知り合いになれる事をうれしく思っています。

 どうぞよろしくお願いいたしますね」


 笑顔を張り付かせてさっと会場をチェック。

 アリオス殿下が出席している事もあって、近衛騎士団らしき騎士がちらほらと警戒している。

 こういう席では、最初に挨拶するのは一番偉い奴と決まっている。

 たとえ、敵対していても招待状を出しておくのがマナーというもので、来られるとこっちも困ってしまうのだが。


「はじめまして。お嬢さん。

 君のお父上と敵対する者だけど、挨拶をさせてもらって構わないかな?」


 このような挨拶をかましてくれた中年貴族に心当たりがある。

 豪華な貴族服に着られている感じの人のよいおっさんにしか見えないが、にこやかな笑顔なのに目が笑っていない。

 豪勢な生活をしてお腹が出ているが、それを取り繕う事もなく自然体でこちらに話しかけてくる。

 陰謀蠢く政治の世界において無害そうに見える人物こそ警戒せよ。

 生き残っている時点で只者ではないのがこの世界の掟なのだから。


「ええ。喜んで。

 養父と敵対していても娘とは手が結べるのもこの世界では良くある事なので」


 私の返事にハンカチで汗を吹きながら、彼は自己紹介をした。

 差し出した手を握ると強く握り返される。

 値踏みに来たのだろうが、彼の目にはどう映ったのだろうか?


「ベルタの街の君主で統合王国法院議長を務めるジョナス・ベルタと申します。

 お嬢さん」


「どうぞ、よしなに。

 近く親族となるのですから、これを機会にお付き合いができたらと」


 こちらの返礼にに笑顔のままで手を離すベルタ公。

 ぞくりと何かが背中に走る。

 この人は見た目で侮ると、騙されて間違いなく失敗するタイプだ。


 パーティはおだやかに進み、笑顔の仮面をつけ続けて寄ってくる男をアマラに任せてロマンスの舞台たるバルコニーで一休み。

 もちろんこれも作法みたいなものでここでダンスを誘われて会場に戻るという筋書き。

 その為、このバルコニーの警備は全て近衛騎士団がしてケインも入ることができない。

 さて、誰がやってくるのやらと思った瞬間に悪寒が走る。

 この悪寒は戦場で何度も感じて私の命を救ってくれたが、乙女ゲーでここまで悪寒を走らせるキャラは居たか?


「♪メリアスに行くのですか?

  ラベンダーのお茶、ゼラニウムの香油、清めの塩、聖水。

  あの世界樹の麓に花嫁がいる。

  かつてその人は私の為に歌を歌ってくれた」


 ああ。忘れていた。こいつがいやがった。

 攻略キャラで隠しキャラその一。

 魔族大公サイモン・カーシー。

 近衛騎士団に所属しているエルフの騎士が主人公を誘惑するという悪魔的美男子。後の魔族大公だけど。

 こいつだけはフラグが立つと他キャラ攻略でもフラグが消えず、悪魔的誘いによって加速度的にビッチにさせてゆくというある意味正しい仕様になっており、最後彼を選ぶと新大陸ではなく魔族の花嫁として南方に行く事になる。

 そして、エンドカードは孕んだお腹がはっきり分かるサキュバス系衣装の主人公とサイモンが共に軍を率いて、崩壊したオークラム統合王国に攻め込む絵が。

 誰だよこんな誰得キャラを作ったのはと調べてみたら、欧州の妖精伝承あたりに原典があるからこれがまたたちが悪い。

 さすが開発陣。資料の熱意と悪意だけは一級品だ。

 サイモンは元はエルフと魔族のハーフで、北方のエルフの集落から流れてこの地にて近衛軍騎士の地位を得る。

 その後統合王国崩壊によって南部に逃れ、出世と激しい権力闘争にも勝ち抜いて魔族大公の地位を得て、魔族侵攻軍司令官の一人として『ザ・ロード・オブ・キング』のボスの一人として立ちはだかる事になるのだが、手口がとにかくえぐい。

 たとえば、彼が歌っているのは待ち人が来るのを待っている姫君を飽きさせないためという言い訳もつけられる訳で。

 護衛なのであくまで隠れての歌。姿を見せないあたりがまたにくい。

 ラベンダー、ゼラニウム、塩、聖水。

 全部魔除けのアイテムです。


「♪騎士は姫君の為に角笛を吹く。

  それは始まりの音であり終末の音。

  乙女はその音に合わせて歌う。

  愛を重ねるように。

  愛を重ねるには試練が必要。

  薄絹の試練の先に姫君は待っている」


 歌にしっかり魅了の魔法を混ぜているんじゃねぇ!

 こっちの抵抗が成功していたから良かったものの、失敗していたら魅了の果てに庭の茂みでサイモン相手に裸でダンスを踊っていただろう。

 次からはレジストアイテムも常備しておかないと。


「きゅ?」


 壁に張り付いていたぽちが声を出そうとするのを手で制して私は歌う。

 騎士の歌に返事をするのは乙女の誉れ。

 

「♪騎士の為に花を捧げましょう。

  ラベンダーのお茶、ゼラニウムの香油、清めの塩、聖水を身にかけてあの人を待ちましょう。

  あの人は帰ってくるでしょう。

  貴方が悪魔で無いのならば、世界樹の麓で待っていると伝えてください」


 歌が止まった。

 悪魔の不文律に正体を知られてはいけないというのがある。 

 その意味ではアリオス殿下以上のチートキャラクターであるサイモンも、私の前には致命的に相性が悪かったらしい。

 『ザ・ロード・オブ・キング』時のサイモンのレベルが45だからそれより下だろうと思ってはいたが。

 なお、レベルは大体10までが初心者、20代が中堅で30超えるとプロと呼ばれる域に達し、40超えると人間卒業というのが目安だったり。

 彼のレベルはたしか31。

 ……うん。

 説明して思ったが、私も人間辞めているレベルに足突っ込んで居るんだよなぁ。

 そのサイモンに未来において、


「ベッドよりも会議室で楽しめた」


と彼に言わしめた女が私だったりするのだが。


「きゅー」


 ぽちの鳴き声がサイモンが去った事を知らせる。

 あ、彼にはぜひ聞いてみたい事があったのだ。

 彼は東方騎馬民族の略奪鎮圧に出陣して、東方騎馬民族と相打ちに近い形でその命を散らしてしまうのだから。


「ねぇ。

 その身を差し出して媚を売った女の願いを聞いて王都防衛戦の侵攻軍に合流しなかった結果が、東方騎馬民族と相打ちだった訳だけどどんな気持ち?」


って。

 おっと、私怨が漏れた。

 どういう未来になるにせよ統合王国崩壊後の為には確実に消しておきたいキャラなのだが、近衛騎士団騎士ってのはエリートなんだよなぁ。

 おまけに、アリオス王子が王位継承の為に騎士団を掌握しつつある訳で、サイモン粛清はアリオス王子の機嫌を損ねかねない。 

 なんて考えていると、足音が一つ。

 おそらくロマンスのお相手なのだろうが、誰が来るのやらと思っていたら、来たのは予想外の少年だった。


「こんばんは。

 月の綺麗な夜ですね」


「こんばんは。

 本当に月が綺麗ですわ。

 小さな騎士様」


 第三王子カルロス。

 オークラム統合王国崩壊の引き金を引いた野心家で隠しキャラその二。

 身分の低さから第三王子にされた背景を持ち、チート性能と子供特有の無邪気さと大人顔負けの野心を持った結果、中二病を発症してアリオス王子失踪の後で第二王子セドリックと王位を争う事に。

 王家を二分する内乱に勝ったまでは良かったが、力を消耗し尽くしたオークラムに北方蛮族・東方騎馬民族・南方魔族の侵攻を押し留める力は残っていなかった。

 彼が愛妾に刺し殺された時、警護の者は誰も居なかったという末路が、この金髪秀麗のお子様の全てを表している。

 でも、彼は乙女からの人気は凄く高かった。

 おねショタだからだろうか。


「バルコニーにて麗しい姫君がため息をついていると聞いて姫君の無聊をお慰めしようと馳せ参じました。

 どうか私の物語でお耳を汚す事をお許し願いたく」


 この無駄にがんばった感がお子様なんだよなぁ。

 あと、噛まなかったのは褒めるけど、足が震えている。

 精一杯の背伸びが見え見えなのですが。

 そこがまた可愛いんだよなぁ。

 私は視線をただ下げる事でそれを許した。


「諸侯の中では花嫁選びで賭け事をしている不届き者も多く、私はそれに憤慨しているのです。

 これほどの力を持ち、これだけの可憐さを兼ね備えている姫君ならば、きっと世界樹はお認めになるでしょう」


 はい。減点-1。

 野心先行しすぎ。

 彼の屈折した心はこのあたりから既にたまっていたか。

 近づきたくもないが、抜け駆けの褒章はあげることにしよう。

 私は音も無くすっと立ち上がり、カルロス王子に手を差し出した。


「月が綺麗ですわね。

 踊りたくなりました」


 フリーズするカルロス王子。

 野心を見せて味方ですアピールからの手を考えていたのだろうが、女は理詰めじゃなくて感情で行動する生き物だとまだ知らないと見た。

 私の手をとって連れて行く訳にはいかないだろう。

 アリオス王子を差し置いて、私に夜這いをかけた事がばれてしまうからだ。

 だから、『ばれてもいいわよ。その上で味方についてくれるんでしょう?』とただ手を差し出した私の王手にあっさりと詰んだ。

 秀麗な顔がはじめての敗北に歪む。

 その金髪を私は優しく撫でて耳元で囁いてあけた。


「授業料ですわ。

 次からはもう少し周囲にお気をつけを。

 貴方が私の手を取ってダンスに誘ってくださることを楽しみにしていますわ」


 そして私はカルロス王子を残したままバルコニーから立ち去る。

 思ったが、カルロス王子の野心を煽ったのかもしれないな。

 サイモンあたりが。

 アリオス王子が主人公とくっついて新大陸に渡ったのが公式ルートのはずなのだが、それ以外のルートでもアリオス王子はついに王位に着かずに失踪という形で処理される。

 サイモンとカルロスが何かやったのか?

 知りたい所だが、近衛騎士団騎士と王族では私の手が届かない。

 会場近くの柱の前で私は立ち止まって、わざとらしくため息をついてみせた。

 音消しの魔法をかける事も忘れない。


「このようなお遊びはお控えになられるとよろしいと思いますが。殿下」


「可愛い弟が背伸びして姫君に求愛しようというのを止めるほど私は薄情ではないよ。

 それに、君も王家の後ろ盾が必要かもしれないだろう?」


 悪寒が止まらない。

 この王子、今何を言いやがった?


「ご冗談を。

 一族に連なる者でしかありませんよ。私は」


「だからだよ。

 君だけならば、救い出せる」


 王家にとってヘインワーズ粛清は規定路線とはっきり言い切りやがったぞ。おい。

 何故だ?

 個々の案件については詰みではあるが、一発振込みを食らうほどヘインワーズ家はまだ動いちゃいない。

 何の地雷をヘインワーズ侯は踏んだんだ?


「ヘインワーズは王家に忠勤を尽くしておりますが」


 額からたれる冷や汗を拭く事もできずに私は言葉を慎重に選ぶ。

 このような場所とはいえ、音消しの魔法は身辺警護に障害を発生させるから必ず護衛が解除に走るからだ。

 時間はあまりない。


「だからだよ。

 潰す事で最後まで王家に貢献できる」


 そこかよ。

 商人の力の拡大に伴う法院貴族の勃興と土地持ち諸侯の軋轢、中央集権を目指す王家に世界樹の花嫁争いで喧嘩を売ってしまい、全てのヘイトを集めた上で潰せばたしかに国内はこれ以上なく安定するだろう。

 つまり、はるか昔の時点でヘインワーズ家はやりすぎたのだ。

 パリンと乾いた音が耳に響く。

 音消しの魔法が解除させられた。

 解除に四・五人ほど魔術師がへばっているだろう。ご苦労様。


「ここにおられましたか。殿下。エリー様」

「男女の睦み事に聞き耳を立てるなんて心外ですわ」

「グラモールを許してやってくれ。

 こんな身の上だと、愛の囁きですら何かを意識せずにはいられないのだよ」


 何かって『政治』、『陰謀』、『利権』のどれですか?

 こっちの突っ込みなんて気づくわけも無く、アリオス王子は一礼して私に向かって手を差し出した。

 イケメン王子の仕草と笑顔は実に見事で、思わずチョロイン発動しかかったぐらい。


「よろしければ、私と踊って頂けないでしょうか?」

「はい。喜んで」

参考動画

スカボロー・フェアの不思議 前編

 http://www.nicovideo.jp/watch/sm12640287

スカボロー・フェアの不思議 後編

 http://www.nicovideo.jp/watch/sm12752231

『イザベルと妖精の騎士』の不思議

 http://www.nicovideo.jp/watch/sm12788202


11/27 設定変更で一部修正

3/20 ベルタ公登場を加筆

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