おとぎ話の思い出
「愛しい人よ。よくお聞きなさい。
血も世界すらも違う私たちだけど、私は師として貴方を愛してきたわ。
私が知っているものは一つを除いて全てを教えてあげた。
今から教えるのが最後の一つ。
これで貴方は私の元から巣立っていくのよ……」
それが正しかったのかは私も知らない。
私が人に絶望していた以上に、世界が違うだけで迷っていた子供を見捨てることができなかった。
それだけなのだろう。
私は刹那に近い永遠の時間を生きる。
その花火のような時間をかけて世界というものを理解する。
だけど、人の命はあまりにも短い。
世界が何であるかを理解できず、
自分達が世界にいる理由を理解しようとせず、
ただ世界という劇場で一人芝居をしているに過ぎない。
誰に見せるわけでもないのに輝きつづけている人間達。
「貴方に教える最後の一つ。
それは私が人を信じていた時の記憶。
まだ私が若くて、
何でも願えば叶えられると思っていた時間の記憶……」
私は何を彼女に教えようとしているのだろう?
希望?
世界?
それとも絶望?
もうあの時代を知っている者はいないのに、
あの栄光も、
あの悲劇も、
歴史の混沌の中に消えてゆこうとしているのに、
それを教えようとしている。
「そう。
私が貴方に教えるのは一つのおとぎ話。
だから、貴方がいつもおとぎ話を枕元で語ったように話してあげる……」
記憶を伝える事。
私という記憶をあの子に残すために。
私の事を誰かに覚えてもらいたい為に。
「むかしむかし……あるところに……」
『華姫挿歌』より。
最も古いゼラニウムの設定の一つ。
UP後に使えると思って少しいじって投稿。