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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
物語が始まるまでに

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10 (ボーパル)バニーガールの夜のお仕事奮闘編

 歓楽街といえば夜が華であり、欲望渦巻くその街で行われる男女の駆け引きはあまた多くの男女を虜にし物語として語られてきた。

 で、そんな街の一角の盗賊ギルドが運営する高級店『夜の花園』にて私は男達に媚を売っていた。


「いらっしゃませぇ♪」


 バニーである。

 日本のコスプレショップより取り寄せたそれは、正確には燕尾バニーと呼ばれる物で無駄に出来が良い。

 なお、こんなコスプレを選んだのは燕尾ジャケットのポケットに銀時計を入れられて、大勲位世界樹章と五枚葉従軍章を飾れるからである。

 しかし網タイツは凄い。

 男の視線が足から外れやしない。

 なお、ぽちは壁に張り付いており、付き人のアンジェリカは冒険者姿でちゃんとついてきているが、柱の影で額に手を当てている。

 さもありなん。


「おっ。

 嬢ちゃんかわいいな。

 指名しちゃうかも」


「ありがとうございまぁす。

 エリー・ヘインワーズと申します。

 お金を稼ぐためにここでバイトしているんです」


 ぴくりと声をかけてきた顔の赤い男の顔が固まる。

 さすが高級店。

 金払いが良いだけに、金を持っている連中しか来ない。

 だから、私の名前の意味に気付く。


「ヘインワーズ。

 あのヘインワーズ侯の?」


「ええ。

 その一族で、ちょっと世界樹の花嫁候補生なんてしているヘインワーズですが何か?」


 しらじらしく笑顔で右斜め45度に顔を傾けてにっこり。

 頭につけているうさ耳がぴこっとゆれる事も忘れない。

 両手を口元に当ててかわいらしさもアピール。

 けど、なぜか相手は一歩下がった。失礼な。


「うん。

 が、がんばってください。

 応援しているので。

 遠くから」


 だから、露骨な厄ねたになりかねないと判断した彼はずささっと後退して一気に私の射程圏から遠ざかる。

 失礼な。

 私を化け物か何かと勘違いしているのではないだろうか?


「というか、今のどう見ても捕食する怖さがあったんだが?」


「何でここにいるのよ。シド?」


「お嬢がアホな事していると店の支配人から泣きつかれた。

 で、来て見たら獲物を物色しているお嬢が居たので止めにきた」


 失礼な。

 今の私はアザトイ系チョロインの予定なのだが。

 ほら、男の視線が私にくぎづけ。


「……いや、気づいてないから言ってやるが、男がその足から胸に視線を移した先に銀時計の鎖と大勲位世界樹章と五枚葉従軍章が輝いていたらそりゃ逃げるぞ。

 というか、いくら必要なんだよ。金?」


「んーと、都市一つ作る程度?」


「……悪い事言わないから商会か銀行に行けよ……」


 ある意味当然な発言をしてくれるシドだが、既にアンジェリカを使って内々に打診はしていたのである。

 でも、どこもかしこも『今後のご健闘をお祈り申し上げます』系のお断りを入れおってからに。

 このゲームはミニゲームとして領地開発も行えたりする。

 辺境開拓地に街を作って発展させてリターンを得るものだが、ゲームにおいてその領主になるエンドは存在しなかった。

 そりゃそうだ。

 オークラム統合王国はこの後崩壊するのだから。

 だから、この都市開発は徹頭徹尾『投資』として処理される。

 開発地に資金をぶち込んで都市を作って価値を生み出し、その都市の権利を売る事でこちらは資金回収、買収先は御領主様の地位を得るというデベロッパー取引なのだ。

 このミニゲーム開放条件が私がぶら下げている銀時計つまり上級文官資格を持っている事で、この取引は辺境の王家直轄領を使うために御領主様は『知事』扱いとなる。

 ここから貴族に成り上がる為には王室法院に席を持つ必要があり、それによって男爵位が自動的に付与される。

 あとはそこから金と忠勤を注ぎ込む事でヘインワーズ侯は侯爵に成り上がった訳だ。


「ほら、今回はベルタ公とガチでぶつかる可能性があるから、大手の連中は保身に走って逃げちゃったのよ」

「まぁ、賭けるならば相手を見てからでも遅くはないだろうからな。

 この際だからはっきり言うが、お嬢の存在そのものが商人達に二の足踏ませているんだよ」


 なお、この会話はオープンで行われている。

 ちらちらと聞き耳を立てている商人の皆様のアピールタイムになっている事も忘れずに、私はシド相手に売り込みをかける。

 シドとて攻略キャラという公式チートなので、こちらに付き合ってくれているのだろう。感謝。

 

「どういう事?」


「お嬢相手にベルタ公は一歩も引かない。

 じゃあ、その引かない理由ってのを考えちまうんだよ。

 銀時計に大勲位世界樹章と五枚葉従軍章を相手に引かないベルタ公側花嫁候補生の隠し玉って何だ?」


 王家の血ですなんて口が裂けても言えない。

 ほぼその時点で勝負が決まってしまうからだ。

 頬に手を当てて頭を揺らしながら、あえて私もその不安に乗っかる。


「そうなのよ。

 ここまで見せているのにベルタ公引いてくれないのよ。

 だから、街作って王家に忠勤をアピールしておこうと思って」


「アピールするなら、何もせずにおとなしくしてくれた方がいいと思うぞ。多分」


 いちいち正論をいうシドに私はぐうの音もでない。

 というか、周囲の商人どももうんうんと首を縦に振るんじゃない。

 仕方が無いのでもっと不安を煽っておこう。


「いや、ヘインワーズ家門とすればその選択が正解だけど、それだと私トカゲの尻尾きりで潰されるじゃない。

 街作って御領主様なら逃げられる可能性があるから」


 はっきりと部屋の空気が下がるのが分かる。

 私が暗にこう言っているに等しいからだ。

 下手するとヘインワーズ家そのものが取り潰される可能性があると。

 ゲームやっていたら事実取り潰されたのだが。

 御領主様、特に爵位持ちの貴族処分は王室法院にその権限がある。

 で、身内である貴族は必然的に王権の介入に過度に警戒するから、裏取引等で命は助かる可能性は高い。

 それをさせない為だろう。

 ヘインワーズ侯の反乱は暴発させられて誰にも取り潰しが取り消せない口実の下、堂々と鎮圧させられたのである。


「けどさ。お嬢。

 俺がベルタ公側だったら迷う事なくお嬢は粛清リストに入れるぞ」


「ですよねー」


 根はいいやつなんだろうなぁ。シド。

 こういう場で堂々とそれを口に出すのだから。

 このあたりの茶番は誰もが皆わかっている事なのだ。

 だが、こんな茶番が後に重要なポイントになって命が助かるなんて事も人生それなりに生きていると稀に良くある訳で。


「ちょっと!

 シドも馬鹿に付き合ってないでこの人止めてよ!

 仕事になりゃしないじゃない!!!」


 茶番に付き合いきれなくなったのか、一人の高級娼婦が額に怒りマークをつけてづかづかと突っ込んでくる。

 頭に一輪の花の髪飾りが波打つ栗色の髪になじみ、花飾りを美しく見せつける。

 豊満な胸元まで開いた赤いドレスに輝く宝石が彩られたネックレスは己の価値の象徴。

 白く小さな顔にきりりと引かれた強めの眉は知性の印。

 で、私やシドに突っ込んでくる度胸もありと。


「この人シドのいい人?」

「そうよ」

「なっ!

 何言ってやがる!!」


 シドの狼狽をよそに彼女は貴族の儀礼で私に挨拶をする。さすが高級娼婦。

 では、こっちも貴族の儀礼で挨拶を返してあげよう。バニーだけど。


「イベリス鐘の家門に連なる者で花園の花の一輪かつシドの幼馴染、アマラと申します。

 どうぞよしなに」 

 

「シボラの街の君主に連なる者の娘で世界樹の花嫁候補生、エリー・ヘインワーズと申します。

 どうぞよしなに」


 この手のお店は、部屋貴族や屋敷貴族の主な収入源で、こうやって身分をロンダリングする事で箔をつける事ができる。

 部屋貴族が金欲しさか借金のかたに貴族身分を手放したか貸したかしたのだろう。

 鐘は始まりや終わりの合図であり、イベリスの花言葉には『誘惑』ってのがあったりする。

 こういう場所にある意味ふさわしい家門は高値で取引され、それ目的で家門を申請する輩も居るそうな。

 話がそれたが、多分私もアマラも同時に、『あ、こいつ血族じゃないかも』と思っているだろう。


「で、シドのお味はどうだった?」

「最初カチカチでキスするのにも手が震え……」

「頼むからそんな話はせめて俺の居ない所でしてくれないか」


 まあ、盗賊の御曹司なんぞしていると、早いうちに女の味を覚えさせないと組織を動かせないからなぁ。

 シドとのイチャラブはそのあたり彼が一番のテクニシャンとして表記されていたりする。

 ここから主人公一筋に持ってゆくまでシドを溶かすのも楽しいのだが、開発陣の悪意が。が。

 そんなシドの彼女というか幼馴染である。

 ゲームではまったく出てこなかったが、出てくるとある意味やっぱりと思ったり。


「第二夫人で手を打つからシドの事よろしく」


「突っ込んでくるわね。

 周りの商人ですらリスクを恐れて手を出さなかったのに」


「だって、一期一会に愛を囁くのが私達の生き様でしょ。

 ならば、その出会いに全力を尽くさないと」


 清清しいまでの割り切りと、己の引けない最終線の即時提示に私は感心するしかない。

 これは当たりの玉だ。

 決めた。


「ねぇ。

 そこまで言うのならば、私が貴方を『買いたい』のだけどどう?」


「あら、私は高いわよ」


「残念。

 今は資金繰りに苦労しているけど、私、貴方より『高い』ので」


「大変ね。

 高値で売らないと『売れ残っちゃう』人は」


 ぴきっ!と部屋の空気が凍る。

 なお、私もアマラも営業スマイルである。あしからず。


「おい」


 流石に見かねたシドの一言で二人とも我にかえる。

 そして二人ともアマラは扇で、私は手袋をした手で口をかくして同じように笑った。

 そして仲直りの握手。

 なぜかガン飛ばして握られた手が痛いし向こうも痛いはずなのだが、仲直りである。


「あら失礼。

 おほほ」


「ごめんあそばせ。

 ほほほ」





「お嬢様。

 あのアマラという娘を買うとかおっしゃっていましたが、何に使うおつもりで?」


 帰り道、アンジェリカの質問に私は笑って答えた。

 なお、燕尾バニーのままなのだが、誰もよりついて来ない。

 頭にぽちを乗せて垂れドラゴンにしているのが悪いのかもしれないが、女の尊厳的に少しは欲情とかちょっかいをかけてほしいものである。

 返り討ちにするが。


「貴方が言ったんじゃない。

 肉壁が必要だって。

 教室内の私の取り巻きに使うわ」


「信用できるので?」


 アンジェリカの疑念を私は即座に切り捨てる。

 とてもいい笑顔で


「できるわよ。

 私達がシドを裏切らない限り、彼女は私達に忠誠を誓ってくれる。

 ヘインワーズ侯が用意した取り巻きより確実に裏切らないわよ」


 なお、アンジェリカにも言えない役をアマラには押し付けたい所である。

 ゲーム上、ひたすら腰を振り続けないと認められない世界樹の花嫁という役を。


 数日後、金と政治力が少し消費されて、私のとりまきとしてアマラ・イベリスベルがメリアス魔術学園に転入してくる。

 なお、心配になって一緒に転入したシドの言葉によると、とりまきというより悪友というか喧嘩友達みたいだったらしい。 

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