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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
断片の物語を紡ごう 【挿入話・外伝】
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メリアス魔術学園武術大会 その1

「準備はいいかしら?

 ミティア」


「はい!

 いつでも大丈夫です」


 満員の闘技場。

 その中央にて相対するミティアとキルディス卿、そしてその二人から私を守るように盾を構えるアルフレッドを見て、私はただため息をついたのである。




「武術大会?」


 この手のゲームにおいてそのような大会は大体攻略キャラとのイベントに使われるので、当然この『世界樹の花嫁』にもあったりする。

 ただ、ダンジョンに潜る戦闘があるので、他のゲームとは少しイベントの特色が違っていたりするのだが。


「ええ。

 北部の未発掘遺跡の発見に、東方騎馬民族の撃退と久々に明るい話題が続きましたからね。

 大きなお祭りにするとの事で、王室や法院も乗り気なんですよ」


 私に説明してくれるアリオス王子の表情も困惑気味だ。

 どちらかといえば、この馬鹿騒ぎをする理由が理解できないという感じだろうか。


「で、その目玉が私とミティアの『姫と騎士』対決ですか?」

「貴方だけ表に出すつもりはありませんよ。

 その勝者は私と手合わせするようになっているらしく」


 『姫と騎士』というのは二対二の決闘であり、姫と呼ばれた相手を倒すことで勝敗を決めるゲームである。

 なお、姫だから女性がつく事が多いが要するに後衛であり、アリオス王子みたいに男性が後衛をする場合は『王子』になる。

 ポピュラーなゲームだと前衛は戦士系で後衛は魔術師が入る訳で、回復担当の支援系や弓持ちの間接攻撃等、姫役が何をするかで勝敗が決まるゲームだったりする。

 その目玉が私とミティアの直接対決である。


「で、どうやって負けろですか?」

「そこまで私も求めませんよ。

 ただ、善戦はしてほしいなと」


 古来よりパンとサーカスは為政者の大事な仕事である。

 世界樹の呪いでパンが厳しくなっている昨今、サーカスだけでもという王室や法院の思惑は間違ってはないのだろう。

 サーカスで必至にパンをごまかしているなんて言ってはいけない。


「で、ミティアは何処までできるんですか?」

「この学園に来てから初めて遺跡に潜った人に何を期待しているというので?」


 ですよねー。

 だからこうして筋書きを作らないといけないのだ。

 ゲームでは、『姫と騎士』に参加した攻略キャラの好感度が一気に上がるのと、私がやっている悪役令嬢側に一番好感度が高いキャラがつくので、相手の派閥の切り崩し対象が分かるという点で便利なイベントだったのだ。

 まさか、プロレスよろしくアングルから作る羽目になろうとは……


「一応、表向きはうちが降伏したことになっていますが、ヘインワーズとベルタの代理戦争の側面は晒さない方が良いでしょうね」

「南部諸侯の動きがきな臭いですしね」


 一応アリオス王子も南部諸侯の足掻きは把握しているらしい。

 南部諸侯から見てヘインワーズ家は寝返った形になっているので、先の王位継承争いからの因縁も絡んで不満がしゃれでなく溜まっている。

 で、東方騎馬民族撃退によってアリオス王子の立太子が確実視されつつある現状、彼らをこれ以上追い込むのは得策ではない。


「善戦でいいんですね?」

「東方騎馬民族撃退の英雄の一人が負けたら東部諸侯から文句が出ますよ」


 政治が絡んだ上でのプロレスはこのように大変なのだ。

 ミティアをどこまで善戦させるかで、シナリオは大きく変わってくる。


「私と護衛騎士のサイモンではミティアの勝ちが完全に無くなります。

 騎士をアルフレッドにしましょう」

「できれば、貴方の肩にとまっているトカゲ君も参加を控えていただけると助かりますが」


 ハンデについてはこれで良し。

 次はこのハンデ戦を行う為のストーリー作りである。


「世界樹の花嫁候補生同士の対決だけで回りは盛り上がります。

 で、護衛騎士サイモンとぽちを使わない理由。

 何かありますか?」


「貴方が挑発し、舐めてかかるというのが一番楽ではあるのですが」


 見事なヒール役である。

 だが、こんな茶番にそこまで真面目にシナリオを考えるほど私もアリオス王子も暇ではなかった。

 で、話は茶番からガチにうつる。


「私と殿下の対決。

 どこまで本気ですればよろしいので?」


「全力で」


 つまり、先の東方騎馬民族撃退時において、私を潰せるかを確かめに来たと。

 ミティアとの茶番はその前座みたいなもので、潰せるならよし。

 潰せないならば別の手段で潰すと。

 使えない手駒とはプレイヤーの意思に反する手駒だ。

 アリオス王子からの決闘状は、本気で私を駒として取りに来た証拠でもある。


「わかりました。殿下。

 五枚葉にかけて全力でお相手いたしましょう」


 なお、近くアリオス王子も東方騎馬民族撃退の功績を持って五枚葉従軍章が授与される予定だったりする。

 あとは、悪役令嬢らしくミティアを挑発し、それにキルディス卿が応じた事で冒頭に話は戻る。




「アルフレッド。

 おもいっきりやりなさい。

 全部サポートしてあげるわ!」


「ミティア。

 俺が片付けるから絶対に前に出るな!」


 盛り上がる観客を尻目に、私は世界樹の杖を持って後衛から攻撃魔法を放つ用意をする。

 この勝負、私とアルフレッド組は姫である私が圧倒的に強く、ミティアとキルディス卿組では騎士であるキルディス卿が強い。

 ならば、遠距離魔法でミティアを直撃すればいいのだが、それではショーとして成り立たない。

 キルディス卿に喧嘩を吹っかけたのはここに理由がある。


「まずはキルディス卿!

 貴方を叩き潰して、そのあとでミティアを地面に這い蹲らせてあげるわ!!」


「ほざけ!

 俺の剣を砕けるならばやってみるがいい!!」


「上等ぉ!

 マジックミサイル!!」


 キルディス卿にマジックミサイル十数発を発射するが、キルディス卿は半数以上を叩き落とし、残りは華麗に回避する。

 彼も成長すればこの国随一の剣士になる男。

 この時点ですでに格が違う。


「退けっ!」

「退きません!!」


 そのまま私に向かおうとしたキルディス卿は盾持ちのアルフレッドに突進を止められる。

 彼は剣を腰につけたまま、大盾でキルディス卿の剣を必死に受け流していた。


「アルフレッドの剣ではキルディス卿には届かないわ。

 大盾を持って、私へ向かってくるキルディス卿を止めて頂戴。

 あとはこっちでなんとかするから」


 単純な作戦ほど効果が発揮しやすい。

 駆け出しであるアルフレッドは、自分の技量を自覚してこの指示に従ってくれている。

 ここで、自主的な動きとかされるとかえって困るので、ありがたい。


「マジックミサイル!」

「っ!」


 後衛であるミティアが足を引っ張るのにそれを突かないのも失礼だ。

 アルフレッドが潰されそうになる時に、あえてキルディス卿に向けて、躱せばミティアに直撃するマジックミサイルを放っていた。

 それは叩き落とすしかないのはキルディス卿も分かっているので、アルフレッドにトドメを刺す事ができない。

 状況はまだ私のコントロール下にある。

 手を抜きつつミティアの様子をうかがうと何かを狙っているらしい。

 装備は対魔法防御の高い魔術師のローブに、杖自体に回復魔法がかかっている回復の杖か。

 ダメージレースならば、こっちのマジックミサイルで押しきれるから問題はない。


「エリーさん!」


 ミティアが叫ぶ。

 一応聞いているが、マジックミサイルでキルディス卿を牽制することは忘れない。

 おそらくは、対私への何かだ。

 魔法?どうとでも対処できる。

 飛び道具?ミティアがそれをモノにできたとは考えられない。

 さぁ。主人公。

 貴方の切り札を見せてちょうだい。

 ミティアは私の視線を確認した上で、ただ杖でとある方向を示した。

 そこは貴族席の一つで、私の視線を感じたその人物が手を振っている。


 私にとても良く似ている、金髪の女性が。


「え……エレナお姉さま……」


 もちろん、応援はしているのだろう。

 問題は、誰を応援しているかだ。

 私は一応エレナお姉さまの義妹に当たる。

 だが、キルディス卿はエレナお姉さまの婚約者になるのだ。

 おまけに、ハンデ試合の為に、今回は私が悪役をやっている。

 で、女というのは不利な男が頑張る姿をかっこいいと思う生き物である。


「キルディス卿!

 あんたそういう手を使ってくるわけ!?」


 動向が分からないこその掣肘。

 たまらず叫びながらマジックミサイルを連射するが、キルディス卿は致命傷をさけながらもその全てを交わして叩き落とす。

 で、ミティアに回復させながらその後に出てきた捨て台詞はこちらの想定外のものだった。


「言っておくが。

 彼女に招待状を出したのは俺じゃないぞ。

 ミティアだ」


 なんですと!?

 彼女そのまで裏工作ができる人だったか!?

 こっちの驚く顔にミティアが杖を持ったままきょとんとする。


「私は何もしていませんよ。

 『婚約者がいる』ってキルディスさんが言っていたので、かっこいい所見せてあげたいと思っただけです」


 こんなやつだった。ミティアは。

 多分純粋な善意が最適手を打つからたちが悪いんだ。

 そうなると、さっきの杖での指摘はキルディス卿あたりの知恵か。

 エレナお姉さまとキルディス卿の婚約はヘインワーズ家の降伏の証でもある。

 同時に結婚して夫婦生活が円満ならば、キルディス卿は次期ヘインワーズ家の当主として立つ可能性もあるのだ。

 ここでエレナお姉さまがキルディス卿に惚れてもらうというのは悪く無い選択肢。

 つまり、善戦しながらも敗北という既定路線の上に、キルディス卿をかっこ良く見せるという更なるハードルが上がったわけだ。

 この時点で、私はアルフレッドが負けるようにシナリオを書き換えた。


 そこからのショーは、まるで観劇みたいだった。

 派手だけどダメージをほとんど出さない魔法でキルディス卿を追い詰めたふりをしてアルフレッドに攻撃をさせて、アルフレッドが返り討ちにあうと場内の観客は一気に沸き立つ。

 そして、前衛の盾を失った私にキルディス卿が猛攻をしかけて攻守逆転。

 踊るようにキルディス卿の攻撃を回避する私にさらに場内が沸き立つ。


「貴様、前衛もできるな!」

「あら、言っていませんでしたっけ?」


 統合王国一の剣士となるキルディス卿だが、この時点ではまだ育ちきっていない。

 マリエルよろしく、修羅場をくぐってきた私にとってかわすのは容易だった。

 だが、観客を楽しませるために、ドレスの腕を切られたり、かわしそこねた髪が宙を舞ったりという見せ場を観客に提示してゆく。

 それができる技量の差というのは、実際戦っているキルディス卿が一番分かっているだろう。

 彼とて貴族の出。

 政治的茶番とショーについては庶子だからこそ、嫌でも身につかざるを得ない。

 こちらの危機を演出し、向こうの見せ場を作った。

 あとは、善戦という形で彼をどういう風に敗北に持ってゆくかだけ。

 そんな事を考えながら世界樹の杖でキルディス卿の鋼の剣を受け止める。

 伊達に世界樹の枝から作られた杖ではない。これぐらいの剣を受け止める強度は持っている。


「降参しろ」

「あら、貴方こそよろしいので?

 ミティア、お留守になっていますわよ」


 視線でキルディス卿に空を向けさせる。

 そこには、彼が弾いたマジックミサイルのいくつかがまだグルグルと滞留していた。


「しまった!

 ミティア!

 上だ!!」


「え?」


「遅い」




「お疲れ様。

 エリー。

 最後の逆転カッコ良かったわよ」


「応援ありがとうございます。

 エレナお姉さま」


 試合終了後の選手控室。

 エレナお姉さまの満足そうな顔を見れて、茶番が成功したと分かりほっとする。

 こちらの方も確認しておこう。


「で、婚約者殿の戦いぶりはいかがでしたか?」


「かっこよかったわね。

 ああいう風に守られる姫になってみたいと思ったわ」


 うむ。

 好印象という所か。

 ならば、少しだけ義理の妹として助けの手を差し伸べておくか。


「このお祭りの後夜祭。

 舞踏会があるのはご存知で?」


「あら、招待状でも出してくれるのかしら?」


 私は長女のはずなのだが、気づいてみたら姉コントロールがうまくなっている。

 もちろん、姉弟子様のおかげ……


「どうしたの?

 急に黙りこんで」


「ごめんなさい。

 招待状を送っておきますわ。

 匿名で。お姉さまとキルディス卿。

 一対一の武術大会もあるらしいので、キルディス卿は参加するかもしれませんわ。

 では」


 そこで恋の花が咲くことを祈って。

 救われない悪役令嬢のはずだったエレナお姉さまの為に少しだけ女神に祈って私は控室に戻った。


「アルフレッド。

 体は大丈夫?」


「大丈夫です。

 すいません。

 今の俺ではキルディス卿を防ぎきれませんでした」 


 悔しそうな顔のアルフレッドにキュンとするが表に出せる訳もなく。

 同時に彼が戦士としてまだ未熟であることにある意味ほっとする。


「構わないわよ。

 彼はいずれこの国でも名が轟く剣士に成るでしょうね。

 そんな彼と手合わせした事を喜びなさいな」


 タオルをアルフレッドにかぶせる。

 私は予備運動程度だったが、彼は疲労困憊状態だったからだ。


「体を休めておとなしくしていなさい。

 ご苦労様」


 アルフレッドを置いて控室から出てゆく。

 扉の隣には護衛騎士のサイモンが控えていた。


「アリオス殿下との対戦はお一人でするおつもりで?」


「まさか、騎士役は用意しないと勝てないわよ。

 何でもありのルールなのだから」


 つまり、アリオス王子とグラモール卿はワイバーンに乗ってくるという事。

 こちらもぽちを出せるが、それでは確実に押し負ける。

 で、そんなワイバーン相手に押し負けない力を持ってて使える騎士を私はサイモンしか知らなかった。


「騎士役お願いしてよろしいかしら?」

「姫君のお誘いは騎士の誉れですよ。

 お嬢様」


 互いに表情を笑顔で隠して、私は次の対戦のパートナーをサイモンに頼み、サイモンはいつもの慇懃無礼さでそれを承諾したのだった。

 これは『恋愛陰謀増々版』での加筆部分。

 『魔女とその弟子』を投稿して気づいたのだが、明らかに読まれていないのがわかったので、念のための投稿。

 なお、これでポイント10000越えたらというスケベ心も存在している。

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