9 授業に出よう。顔見せだけど
メリアス魔術学園は選択受業制を採用している。
ゲーム的に各パラメーターを処理する為なのだろうが、その為にクラスというものがなかった。
とはいえ、そのあたりは集団行動を学ぶ場でもある学校。
ちゃんとクラスがあり、朝と午後のホームルームはあったりするのである。
世界樹の花嫁はこのオークラム統合王国における閣僚クラス。
その花嫁候補生をとりまく生徒達も、庶民貴族問わずに優秀な者が集められた。
ただし、人間的について判断するのはこれからである。
午前中修行の顔合わせをして、午後からはホームルームに顔を出して挨拶をしておこうという訳だ。
その為に、今の服装はドレスではなく魔法学園の制服である。
もちろんドレスでも可だが、最初からそんな選民思想丸出しで行く度胸は無い。
「あ!あのお方……」
「ヘインワーズ一族のエリー様でしょ。
もうすぐこちらで学ばれるとか」
「メイドしか連れていないなんて、どうするのでしょうか?」
「何でも取り巻きをお断りなさったそうで」
聞こえているぞ。おい。
この手のひそひそ話は本人に聞かせる為にやるものだから、ある意味正しいのだろうが。
「エリー様。
先ほどの会話にもありましたが、私どもでは教室に入る事はできません」
「あら、アンジェリカも取り巻きを作れと言うの?」
「毒は防ぎようがありません」
茶化すように言うと、アンジェリカは真顔で言い切った。
それが言葉に凄みを与えている。
要するに取り巻きと一緒に同じものを食べて取り巻きを毒見に使えと。
そうか。
毒殺という手もあるのか。
「必要ならば作らないとね。
で、何人要るの?」
「最低二人。
予備を入れて三人は必要かと」
私の場合はヘインワーズの名はあるが、一族の娘という事で本家本流ではない。
その為にヘインワーズに取り入ろうとする野心家達が一度手を引いた経緯がある。
実力を晒したので、手のひらを返して再度取り巻きにと推薦してきたらしくヘインワーズ侯も苦笑しているとか。
なお、ゲームだとその枠に攻略キャラも入る事がある。
このあたり露骨に派閥を意識しているのだろう。
つまり、買収も色仕掛けも可。
このあたり乙女ゲーにあるまじきブラック手段は実際苦情が出たらしいが、開発陣の解答が火にニトロぶっかけるもので、
「某国某党総裁選よりましです。
某国某党中央政治局常務委員会にしなかっただけ自重しました」
ときたもんだ。おい。
この解答に激昂した乙女の一部が某掲示板極東板のナウでヤングな乙女が集まる某党オチ研で愚痴った結果、
「えー、大粛清できないんでしょ?
優しい優しい」
「不自然な自殺や病死がないって欠陥だよな。
開発陣にクレームつけておかないと」
「賄賂の額が街すら買えないレベルになってる。
大陸の賄賂額から見てなんて良心的なんでしょう♪」
などの集中砲火を食らって返り討ちに合い、目の光をなくして現実のクソゲーぶりを悟るなんてほほえましい一幕もあったりしたがそれはさておき。
悪役令嬢側に攻略キャラがつく事で、さりげなく主人公の立ち位置を知らせてくれているのだ。
なお、ハーレムプレイの終盤だと、悪役令嬢には取り巻きすら居なくなってぽっちの悪役令嬢が涙を誘うがやってきた事が事だけに『ざまぁ』としか言葉が出ない訳で。
「肉壁ならきちんと雇った方が楽よ。
ヘインワーズ侯にやってきている連中を雇ったら何をたかられるか分かったものじゃないわ」
「おっしゃるとおりで」
私の物言いにアンジェリカも苦笑する。
さてと、扉の前に着いた。
アンジェリカはメイドなので隣の従者控え室にて待機する事になる。
「じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃいませ」
アンジェリカが頭を下げたのを見て私は、教室の扉を開けた。
クラスの中にいる男女は30人ぐらい。
男女ともほぼ同数だが、制服をつけていない特権階級が10人ほど。
「失礼いたします。
わたくし、来週からこの学び舎で皆様と一緒に学ぶことになる、エリー・ヘインワーズと申します。
今日は皆様にご挨拶をと思いましてお邪魔させていただきました。
どうぞ、よろしくお願いしますね」
奇襲の衝撃を受けて硬直しているクラスメイトを相手につらつらと挨拶口上を述べる私。
まさか今をときめくヘインワーズ侯の花嫁候補生が、取り巻きも連れずに制服を着て内々に挨拶をするなんて思っていなかったのだろう。
私の挨拶に頬を赤める男子数人確認。
まあ、強くてニューゲームならばそうなるかと頭の片隅で納得。
このゲーム、難易度についてははなから調整する気が無いので、救済手段として強くてニューゲーム機能が搭載されている。
何度も失敗してやり直して攻略してほしいという事なのだろうが、ゲーム解析班が解析した結果とんでもない事が発覚する。
データの引継ぎだけでなく、回数ごとに補正がかかって強く美しくなるようになっているが、そのトリガーが『ゲーム内で主人公が男と寝た回数』だったのだ。
しかも引継ぎの為にその回数だけはリセットされない。
かくして生まれながらならにしてビッチという状況に祭り状態となったが、その回答も煽ってゆくスタイルだった。
「一般風俗嬢が生活するにおいて一日に男と寝る回数が大体四人。
一月20日働くとして80人。
それが一年で960人で、10年働いたとして9600人です。
このゲーム、一週間あたりの恋愛回数上限は平日の午前と午後の二回の10回と週末デートの一回の計11回。
月四週なので44回で、年528回。
それで二年だから最大1056回しか恋愛はできず、主人公はビッチ『ですら』ありません」
何で購買層にここまで喧嘩を売るのだろう。ここの開発陣は。
なお、隠されていた乱交プレイを解禁してもおよそ7000回にしか届かない。
その為、ストレスフリーでイケメンといちゃらぶする為には、乱交プレイ解禁して捨てゲームとしてひたすら男相手に腰を振る事が最短攻略法となる。
こうして、
『何か問題があっても男の上で腰を振れば解決する清楚系ビッチプレイ』
という推薦文と共にその年のクソゲーおふじいやー乙女ゲー部門大賞を獲得。
その時に開発陣がコメントを残してここまでのどす黒い悪意の理由も判明する。
「クソゲーおふじいやー乙女ゲー部門大賞受賞ありがとうございます。
本来このゲームはネゴシエートゲームとして企画されたものが没になり、乙女ゲーとしてイケメンを入れたらOKが出たという経緯で発売されました。
なお、その開発途中で私情ではありますが彼女をイケメンに寝取られ、『男は顔なのか!顔なんだな!!』と激昂してイケメン度をあげた結果爆発的ヒットを獲得。
世の中の真理を悟り、涙と乾いた笑いしか出てくる事ができませんでした。
リア充爆発しろ。イケメン達に災いあれ」
という、怨嗟の塊を浴びた乙女達はそれ以上何もいう事ができずに怒りの炎を鎮めていったという。
かくして、一部のマニアに熱狂的に迎えられ、二次創作はその反動からか純愛系大流行という伝説のゲームはできあがった。
閑話休題。
さて、三十路ちかい人生で男と寝た回数を考えてみる。
初体験からサルのようにやられていたし、負け戦で捕虜になってsenka的な目にも何度かあったし、大きな戦の前にはしてたし、戦争終ったら終ったで浮名流してたな。
そのあたり補正で引き継がれていたらこうなる訳だ。
見るとこちらの奇襲に即座に態勢を立て直したのは攻略キャラ連中である。
この場に居るのが、アリオス殿下とグラモール卿、ヘルティニウス司祭とゼファンの四人。
シドは基本盗賊ギルドにいて迷宮探索等で親しくなると転入してくるというイベントがあったりする。
「よろしくお願いします。
その制服もお似合いですよ」
アリオス殿下が口火を切って、私の周りに輪ができる。
このあたりそつがないのだが、同時に状況に反応しているだけにも見える。
アリオス殿下はこの斜陽のオークラム統合王国の現状は把握してそれに対処しようとする志はあったりするんだよな。
その結果がこの微妙な孤立感だったり。
王というものは孤独である。
それは王の傍で支えた私も知っているが、その位置にこの人は既に立っている。
主人公に触れた事で人の心を取り戻したのは良い事なのか悪い事なのか。
「ありがとうございます。殿下。
花嫁修業で何か問題が発生したら、どうか助けて頂きたいのですが?」
「あなたの修行の邪魔にならない程度には」
ヘルティニウス司祭が目で挨拶を送る。
午前中のやり取りを覚えているならば、即座に殿下を味方に引き込もうとしたと判断するのだろうなぁ。
間違ってはいないが。
「それがしも姫君の手助けならば何処にでも駆けつけますぞ」
武人らしい言い回しでグラモール卿が茶化して笑いが広がる。
彼はアリオス殿下の外付け良心回路という所だろうか。
攻略キャラではないが味があるので、ファンは多かったりする。
もちろん、殿下との絡みで腐女子たちの人気も高い。
「よろしく頼む」
「ええ。
よろしくね。ゼファン」
ゼファンは天才肌という割にはツンデレを見せてくれるので、こういう場ではあまり前には出ない。
その分二人だけの破壊力が大きいのも彼だったりするのだが。
「何分不慣れなもので、色々迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします」
「何か分からない事があったら聞いてください。
できる限りお手伝いさせて頂きますよ」
委員長ポジはアリオス殿下では無くヘルティニウス司祭だったりする。
これは殿下に世事を関わらせないというのと、関わらせて問題が発生したら首が飛ぶという二つの理由からだ。
その為他の攻略キャラはほぼ同年代なのに、ヘルティニウス司祭は教会での修行後に学びなおすという理由の元で年上としてこのクラスに居る。
「これはお近づきのしるしです。
良かったら皆で頂きませんか?」
私が出したのはパーティパックのお菓子で、量を優先してクッキーやチョコ系でまとめられている。
上流階級といえども食についてはうるさい事この上ない日本のお菓子技術が負けるとは思わず、事実ホームルーム終了後に開かれたお茶会は大成功の内に終った。
サラマンダーよりはやーい♪
11/27 少し修正




