世界樹神話
ちょっと話が脇道にそれる設定がらみの小話。
世界が、まだ女神イーノの子として育まれていた頃の話。
世界は大きくなる体に不安がり泣いた。
「どうして貴方は泣いているの?」
女神は世界に尋ねた。
世界は泣きながら答える。
「体は大きくなるのに、私の体はなにもない」
女神は世界が泣いた涙を集めて微笑んだ。
「そんな事はないわ。
ほら。
貴方の涙が『海』になった」
こうして、世界は海という衣を纏った。
またある時、世界は泣いた。
泣く度に体が震えて、海には波ができた。
「どうして貴方は泣いているの?」
女神は世界に尋ねた。
世界は泣きながら叫んだ。
「海という衣を纏っても、私の体は何もない」
女神は世界が叫んだ息吹を集めて微笑んだ。
「そんな事はないわ。
ほら。
貴方の声が『風』になった」
こうして、世界は風に包まれた。
またある時、世界は泣いた。
泣く度に風が吹き荒れ、天気というものができた。
「どうして貴方は泣いているの?」
女神は世界に尋ねた。
世界は地団駄を踏みながら泣いた。
「海という衣を纏っても、風に包まれても、私の体は何もない」
女神は世界が地団駄を踏んだ所を指さして微笑んだ。
「そんな事はないわ。
ほら。
貴方が地団駄を踏んで『大地』ができた」
こうして、世界に大地が現れた。
またある時、世界は泣いた。
泣く度に大地が揺れ、山や谷が島ができていった。
「どうして貴方は泣いているの?」
女神は世界に尋ねた。
世界は体を震わせて呟く。
「海という衣を纏っても、風に包まれても、大地に立っても、私の体は何もない」
女神はやっと間違いに気づいた。
そして世界を抱きしめる。
「そんな事はないわ。
ほら。
貴方はこんなにも温かい」
世界は泣いた。
嬉しくて泣いた。
それは、自分が一人ではないとわかったから。
こうして、世界に生き物が現れた。
女神が世界の元を去る時、世界は泣かなかった。
世界は女神に多くのものを与えられたと分かっていたから。
ただ女神の為に、一本の花を捧げた。
海の穏やかさを捧げ、風の変化を捧げ、大地の豊かさを捧げ、生き物達の暖かさを捧げた白い花は女神の髪を飾った。
女神は泣いた。
自分が与えたもの以上のものを世界から与えられたのだから。
世界は、もう自分がいなくてもやっていけると確信できたから。
その白い花は永遠に咲き誇り、女神の髪を飾り続ける。
その白い花は世界に咲き誇り、女神の思いを世界に飾り続ける。
海は波をたたえる。
風は天気とともに世界を巡り続ける。
大地はその色を変えてゆく。
生き物たちはそこで生を育み死んでゆく。
はるか古の物語。
女神が去り、世界が残した思いは、今や白い花にのみ残される。
女神に捧げた世界樹と世界樹の花の物語に。
女神神殿の設定を考えていたら降ってきたので投稿。
豊穣神系の神話になっているかなと少し不安だったりする。
これで最低限埋めないといけない設定がらみは活動報告を含めて出し尽くしたかな?
そして書き上げて気づく。
これ、絵梨と弟子の暗喩にもなっているじゃねーか。




