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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
断片の物語を紡ごう 【挿入話・外伝】

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今は無き王国の記憶 その七

 ダンジョン探索と登山は似ている。

 この場合の登山はトレッキングに近い登山ではなく、数千メートルの高峰登山の方だ。

 チームを組み、ベースキャンプを作り、アタッカーを送り込んでその数十倍のサポート要員を必要とするような。

 そういう意味では、ダンジョン探索も探検なのだとふと思ったり思わなかったり。


「ちょっとこれ凄いんですけど!」


 シアさんが私のヘルメットを奪ってヘッドライトで遊んでいるが無視無視。

 今回は荷物係のアンジェリカが居ないので、私とケインとアマラがリュックを背負って荷物を持っている。

 中には着替えにタオル・折畳み傘・多機能ナイフ・水筒・携帯食器・調理道具・携帯食料・缶詰・ライター・シュラフ・マット・ロープなんかが入っていたり。

 で、これがシアさんだけでなくアリオス王子やグラモール卿の目をひくわひくわで出発時間が遅れるはめに。


「凄い靴ですね。

 洞窟内を滑らない。

 私も欲しいぐらいです」


「登山靴と言うのですよ。

 足のサイズが違うので差し上げられませんが」


 真っ先に靴に気づいたアリオス王子とグラモール卿。

 足場をある程度気にせず戦えるのは大きいだろう。

 そのあたりは私も考えて、ケイン・アンジェリカ・シド・アマラ・アルフレッドあたりはサイズを調べて登山靴を買ってあげていた。

 こういう所では大いに役に立つ。


「これ、水はじくわよ!」


「みんなの分もありますのでどうぞ」


 大はしゃぎのシアさんに渡したのは安物の雨合羽。

 坑道内は水滴などで結構濡れることが多いのだ。

 なお、今回はアンジェリカがパーティ内にいないのでドレスではなく長ズボン・長袖・軍手・ゲーターのガチ登山スタイルである。

 おかげで、アンジェリカが『お嬢様らしくない』衣装に対して小言を言いたそうだが、アリオス王子の手前我慢しているのが丸わかりである。


「じゃあ、出発しましょう」


 アリオス王子の声と共に坑道に入る。

 坑道のモンスターはほぼ掃討したはずだが、どこに潜んでいるかわからないので警戒は続ける。

 再開した鉱山には警戒を兼ねて、各層に冒険者を3パーティ、つまり6人編成×3パーティ×4層=72人を置いている。

 何かあったら彼らとともに対処すればいいだろう。


「遺跡は現在の鉱山の最深部と繋がっています。

 最深部の第四層入り口に拠点を作っていますから、今日はそこまで進んで探索は明日からになるでしょう」


 このあたり、ゲームだとシナリオが分かれることで難易度が処理されている。

 鉱山にモンスターが出るシナリオで全四層を制圧した後で、遺跡が発見されてさらに全四層のダンジョンが出てそこからスタートできるのだが、そんな便利な事には現実はなっていない訳で。

 合計で八層歩かないといけないので、しっかり装備を整えたのである。

 先頭はケインにアマラ。グラモール卿にアリオス王子は中盤で後が私とシアさん。

 二列で坑道を進むアリオス王子の声の最期が、二層まで下れるトロッコの轟音にかき消される。

 上りは魔術師が使役するゴーレムが押し上げ、下りは下るに任せるので移動には怖くて使えないが、壊れない荷物を運ぶ分には楽で食料等はこれで運んでいる。

 第一層は何事も無く通過。

 歩いた時間はおよそ二時間ばかり。

 第二層に入る前に、少し休憩を取る事に。

 なれたもので、ケインやアマラはマットを取り出して私のマットと繋げる。

 六人で座る分には十分だろう。


「靴を脱いで座ってくださいな。

 食べ物を用意するので」


 あ。

 アリオス王子とグラモール卿とシアさんの目が点になっている。

 おずおずと座った三人に、私は向こうで買った携帯食料を手渡す。

 一口食べたシアさんの口からこの声が聞こえるのはある程度織り込み済み。


「おいしいじゃない!!!」


 ふむ。

 ハイテンションになるとエルフ耳がぴこぴこ動くのはこの頃からの癖だったのか。

 アリオス王子やグラモール卿にも好評みたいだしよかった。

 ただ、携帯食料の難点は飲み物が欲しくなる所で、そこまで私は考えていた。


「お茶を入れましょう。

 少しお待ちを」


 水筒を取り出して、お茶を入れる。

 お茶の湯気を見た、三人の目の色がはっきりと変わるのが分かる。

 そうだよなぁ。

 皮の水袋使っている時点で、保温機能付き水筒って革命的だからなぁ。


「ね、ねえ?」

「あげませんよ。これ」

「けちー!」


 お茶を飲んだシアさんの物欲しそうな視線を先に容赦なくぶった切る。

 ちらとアリオス王子とグラモール卿を見たら視線をそらしやがった。

 二人も欲しかったらしい。

 後日談になるが、私が水筒等の登山道具一式をこの三人に送ったのは言うまでもない。




 休憩後第二層に突入。

 段々暑くなってくるが長袖なのは怪我防止のためである。

 着替えは持ってきているので、そのあたりも抜かりはない。

 坑道の修理作業で鉱夫が一番投入されているのが実はここで、鉱脈が近くにあるせいでここの保管庫には兵士が常駐して掘り出された宝石を見張っている。


「そういえば、ここはどんな宝石が出るんだっけ?」


 先頭を行くアマラの言葉に返事をしたのはシアさんだった。

 精霊魔法で風と水の精霊を使って周囲を冷やしているので汗すらかいていないのはさすが。

 なお、その恩恵は私にもきていて汗が出ていないので大助かりである。


「第一層では水晶や琥珀、この第二層では魔石が取れるわ」


「魔石?」


 疑問形で返事をしたアマラに私が補足する為に口を開く。

 この魔石こそが、この宝石鉱山の主要産出物なのだ。


「この世界、マナっていうのが漂っているけど人の目には見えないわ。

 で、そんなマナが地中で集まって結晶化したものを魔石って言うの。

 魔法を使っている人には魔石は便利な道具で、しかも使ったらマナが放出して還っちゃうから常に需要はあり続ける。

 古代魔術文明ではこの魔石が財産の象徴にもなっていたそうよ。

 どうもこのあたりは霊脈がらみで魔石ができやすくて、それもあって多くの魔術師が研究施設を作っていたとか。

 これから行く遺跡もそんな一つでしょうね」


 なお、この魔石を王都に輸出し換金したら、その金で西部諸侯より穀物を買う。

 西部諸侯より買った穀物を北部諸侯にある程度の利をつけて売ることでポトリの経済は回っている。

 その為、この地が北部諸侯から離れると、ぼったくり価格で西部諸侯から買わないといけないので、ポトリは北部諸侯が手放せない町なのだ。


「坑道を掘って採掘したら、今度は坑道を埋めるのよ。

 マナの結晶化は土の中で起こるのは分かっているから、埋めて数年放置してまた掘るの繰り返し。

 だからここでは落盤が日常茶飯事なのよ」


 遠くから聞こえる振動と悲鳴にシアさんが淡々と説明する。

 なお、この手の鉱夫の多くは奴隷を使っているので、命は限りなく安い。

 ドワーフ族はこの手の安い仕事に投入するにはもったいないからだ。


「じゃあ、第三層は何が有るの?」


 アマラの疑問にシアさんがにっこり。

 あ、これ自慢したい系の笑みだ。


「見たら分かるわよ。

 見たらね」



 第一層と同じぐらいの時間をかけて第二層を走破。

 休憩を挟んで第三層に入ると鉱夫の多くがドワーフ族に変わる。

 空気が暑いのは、ここで製錬しているのだろう。


「ここでやっていたんだ。

 ミスリル」


「ここまで侵入できる盗賊はそうは居ないわ」


 ミスリル。

 ファンタジーにお馴染みの金属だが、その製錬は銀に魔石を混ぜることによって作られる。

 エンチャント効率が良くなり、その武器防具一式を揃えると城が買えるほどの金額になる。

 なお、シアさんの武器防具一式はミスリルで作られていたり。

 金属を精霊が嫌うという設定の為、精霊使いの最高級防具がこれである。

 もちろん、そんなもの見せてうろつくと盗んでくれと言っているようなものなので、インナーとして使っていたり。

 ミスリル糸のボディストッキングなんてのを装備しているのは、世界広しといえどもこのおっぱいエルフしか居ない。

 この時間では。

 知って作らせた馬鹿が一人居たからだ。私のことだが。

 なお、これで対物エンチャントをフルでかけると、ボウガンの直撃を無傷で弾くことができる。

 話がそれた。

 表向きは皮装備にて自慢しているシアさんの話を適当に聞きながら、周囲をさり気なく確認。

 再開されたばかりでミスリルそのものの製錬は再開されていないが、銀鉱脈があるのだろう。銀の精錬は始められていた。


「北部産の銀貨の産地もここなのよ」


 えへんと胸を張るシアさん。

 この世界で使われる通貨は金貨・銀貨・銅貨だが、発行主が国以外にもある。

 重さで純度を調べて、王室発行の銀貨を基準に純度によって取引レートを決めているのだ。

 だから、銀行や両替商が力を持つ訳で、そんな商人の系譜にヘインワーズ家が居る。


「正確には、銀貨の元になるインゴットをここで作っているの」


 シアさんの説明に私が補足を入れる。

 ここでインゴットを作り、諸侯に納品する。

 納品されたインゴットで諸侯は銀貨を作り、それで支払い等を行う訳だ。


「けど、これだけ大規模に採掘・精錬なんてしていたら鉱害もひどいものになると思うんだけど?」


 私はふと気になった事を呟く。

 ちょうど学校で公害の授業をやったからこその言葉なのだが、さすがファンタジー。

 我々の世界とは解決方法が違う。


「問題ないわよ。

 土や水の汚れは私の精霊魔法で浄化するし。

 その代金として私宛のインゴットはほぼ無料なのよ」


 まほうのちからってすげー。

 ん?

 という事はマナ汚染をシアさんが一身に集める訳で。

 彼女に集まった負のマナをどう処理しているのだろう?

 私の言いたいことがわかったらしいシアさんがウインクを一つ。

 出てきた言葉はある意味納得できるものだった。


「負のマナを正のマナに上書きするの。

 正確には生、生きる喜びや感謝にね」


 あっ(察し)。


「という訳で、グラモール卿かケイン卿。

 拠点についたら私とエッチしない?」


 なるほど。

 性の喜びともかけるか。このエターナルビッチ。

 お後がよろしいようで。


 何事もなく更に二時間ぐらいかけて本日の目的地に到着。

 なお、シアさんはその日二人に振られた事を記しておこう。 

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