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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
物語が始まるまでに

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閑話その二 護衛騎士とメイド長の酒飲み話

「で、我らのお嬢様の感想は?」

「規格外。

 私らいらないと思うわ」


 こちらにいる時は24時間護衛という名の監視をする事になっている護衛騎士のケインとメイド長のアンジェリカは、そう言って互いにため息を吐く。

 艶やかな栗色の髪は仕事の邪魔になるからと肩口でそろえられ、鋭利な瞳と薄めの唇からなる秀麗な顔は男性よりも女性に人気があると本人は悩むお年頃。

 ならば黒いズボンと茶色のブーツなんて履かなければいいものだが、今はオフなので気楽な私服という訳だ。

 エリーをして負けたと言わしめたその胸が白のブラウス越しに強調されるあたり、女の武器は使っているのだろうが。

 で、そんな彼女の対面にてその胸を眺める恩恵に預かっている護衛騎士のおっさんは、黒の短髪の下にある焼けた顔に手を当ててテーブルに肘を置いている。

 背が高いので顎においている手も長く、それがかっこよく見えてメイドたちの間でひそかに話題になっていたり。

 そんな姿でいながら双方ロングソードはテーブルに立てかけているあたり仕事は忘れていない。

 エリーが就寝し夜番のメイドと従士に引き継いだからこそ、テーブルの上にはワインとワイングラスがおかれていた。

 話題はもちろん今日の迷宮探索だ。


「迷宮からの帰り道、今回の支払いについて苦言を言ったら『自前の財布で何とかする』だそうで」

「騎士団丸ごとの費用を自前で確保するか。

 凄いお嬢様だな」


 ケインがワイングラスに口をつけるがそれは喉の奥に消える事無く、アンジェリカの次の言葉で吐き出される羽目になった。


「で、『どれぐらいの費用がかかるかわかって言っているので?』と尋ねたら、あのお嬢様事も無げに『体を売るから』だって」

「ぶっ!げほっ!げほっ……」


 なお、アンジェリカは伏せたがこの言葉には続きがあった。

 言えない続きはこうである。


「気にしなくていいわよ。

 既に男にも剣にも体を貫かれた身なので」


 女同士の下ネタは生々しいから困る。

 それを希釈するアンジェリカとて酒の酔いではない頭痛がしているのだった。

 これでエリー本人の体が売れる容姿をしているからまたたちが悪い。

 腰まで届く美しい黒髪に華やかな飾り紐がつけられ、彼女が持ち込んだ洗髪剤の香りは香水よりきつくなく、かといって気づかないほど薄くも無い。

 肌はなめらかでその艶が真面目そうな顔に凛とした雰囲気を与えている。

 発育は彼女が居た世界では良いほうで、これから十五年後には豊かな体つきで側室に入るぐらいなのだから、その輪郭が出ている若い蕾として男性達を刺激せずにはいられない。

 あの迷宮探索から、彼女にひかれた冒険者も多いだろう。


「冗談だろうけど、身に着けていた大勲位世界樹章を質に入れれば国が買える金が転がり込むでしょうね」

「あまりに高すぎるから、この街の商人ですから買取を拒否したという曰くつきのやつだろ。あれ」


 世界樹の樹液を固めた深緑琥珀自体が貴重なマジックアイテムであり、瀕死からHPMP全快するというRPGお約束のもったいなくて使えないアイテムである。

 で、身に着けると世界樹の加護によって健康と肉体的成長と老化の停止までつくという優れもの。

 街ではなく国が買えるという超貴重品ゆえに背後には王家や貴族や神殿の暗部が見え隠れし、商人達は歯噛みしつつもそれの買取を断ったのだった。


「というか、あのお嬢様体が多分一番安いぞ。

 使い魔の竜の鱗を剥がすだけでも職人達が金貨の袋を確保に走らねばならないのだから」


 本人が聞いたら激怒しそうな事をケインが言ってのける。

 ちなみに、一番高いのは実は体(というか頭脳)で、国の運営資金を一手に握っていた金のなる木だったりする。

 二人とも気づかないし、気づけという方が無理だろうが。

 何しろ彼女の持ち物は大勲位世界樹章だけでなく、それだけで国が買えるものがもう一つあるからだ。

 ぽちである。

 竜の鱗は当然のように魔法的加護がついている。

 エリーの実家において機械の掃除機相手に縄張り争いをするぽちの鱗は耐火属性と耐魔防御を持つだけでなく、ドラゴンメイルみたいに全て鱗で作られた鎧だとまず剣が貫けない硬さまで持ってしまう騎士垂涎のアイテムである。

 年に一度の脱皮で大量の鱗を出してもったいないからと現在夢の中のエリーが取っておいたのに母親にゴミとして捨てられかかったものも、この世界では同じ重さの金貨と引き換えになるのだった。

 なお、ゴミに出されかかった鱗が回収できた最大の理由は回収業者が張った一枚の張り紙にて説明できる。


「燃えないゴミは指定日に出してください」


 硬すぎで燃えないゴミと勘違いされる竜の鱗。

 世界が違うと価値も違うという話。

 閑話休題。


「で、我々の依頼主には何て言う訳?」

「そのまま言うしかないだろう。

 好き勝手しても構わないらしいからな」


 好き勝手言いながら、護衛対象についての話は終る。

 そして、話は本題に入る。


「さてと、迷宮探索でベルタ公側の人間を何人か見かけたわよ」

「だとしたら、向こうにも情報は伝わっているだろうが、頭を抱えているのだろうな」


 ケインの物言いにアンジェリカが苦笑する。

 それはそうだろう。

 ヘインワーズ侯が連れてくる花嫁候補は、銀時計持ちで五枚葉従軍章を見せつけ大勲位世界樹章を胸に飾る神竜持ちの化け物(比喩表現)である。

 ヘインワーズ侯の娘と縁談を組んで候補から外したと思ったらそれ以上の強敵というかラスボスをぶつけられたようなもの。

 悪役令嬢的にはある意味正しいと言えば正しいのだが。


「間違いない。

 あのお嬢様相当数場数踏んでやがる。

 しかも踏んだ場は迷宮より戦場の方が多いぞ。あれ」


 傭兵上がりのケインは場慣れしていたエリーの振る舞いに、こっち側の人間であると確信を持つ。

 それはあの華奢な手のくせに相当数血で汚していると同義語なので、冒険者上がりのアンジェリカが顔をしかめざるを得ない。


「近年五枚葉が出るような騒乱ってあったかしら?」

「俺の記憶では無いな。

 だが、魔法で確認し王子様も認めたのだから本物なのは間違いが無い。

 あれらの勲章もつけているお嬢様の才能も」


 だからこそ二人して頭を抱える訳だ。

 エリーを守る事ではない。

 エリーの暴走をどう止めるかを。


「ベルタ公が用意する花嫁候補を消すなんて事しないでしょうね?」

「多分、花嫁消すよりベルタ公そのものを潰す事を考えるんじゃねーか?」


 アンジェリカの懸念にケインは右斜め上の答えを返し、ありえそうだからとアンジェリカが額に手を置いて天井を見上げる。

 ぽちを使えばベルタ公『領』ぐらい消せるし、乱を勃発させる政治的根拠と正当性は間違いなく用意して事に及ぶだろう。


「あのお嬢様ぶっ飛んでいるが、その実基本には忠実だし危ない橋を避けてやがる。

 迷宮に突っ込んだ時みたか?

 自分の身は守れるからと王子に俺をつけただけでなく、使い魔の竜が常に王子の視線の先を抑えてやがった。

 あれ、敵が不意に突っ込んだらブレスで消し炭になっていたぞ。

 騎士気取りの王子様には悪いが、何が傷つけられたらまずいかちゃんと分かってやがる」

  

 同じくその場に居たアンジェリカも慎重に言葉を選んでぼやく。

 何しろ、そのぼやきは彼女の空回りが絡むのだから。


「率先して傷の手当をし、皆と同じ食事をし、自分は特別なんて意識もない。

 冒険者だったらぜひ仲間に入れたいわね。

 特別な天幕用意してお嬢様用の食事も準備したけど、まさか冒険者たちと一緒に同じ食事を食べるとは思わなかったわ。

 しかも金払いは良いし、できる手を最大限打って、ボスには自ら赴く。

 最高じゃないの」


 そして二人仲良くため息を吐いた。

 言わんとする言葉が同じだったからに他ならない。


「だからこそ」

「絶対に潰される」


 何も肉体的に潰す必要はない。

 政治的に潰す手段はそれこそ無尽蔵にある。


「ヘインワーズ侯は、お嬢様に合わせて取り巻きを送り込むつもりだったらしいけど、取りやめたらしいわよ」

「そりゃそうだ。

 下手につけたらお嬢様の足を引っ張りかねん。

 あと、これは秘密だが、ヘインワーズ侯はお体を綺麗にしているらしい。

 お嬢様が潰せないならば、実家を狙うのは常套手段だからな」


 新興貴族の成り上がりだからこそ、彼にも色々と言えない黒い噂がある。

 そこを突かれて失脚でもしたら目もあてられないどころではない。


「お嬢様の最大の秘密たる転移ゲートは?」

「大賢者モーフィアスの肝いりでガーティアンに警護させている。

 ただ、召喚儀式には神殿も絡んでいるから漏れるのは時間の問題だろうな」


 大賢者モーフィアスが管理する転移ゲートの破壊は王国に轟く大賢者の名前が邪魔をする。

 だからこそ、その破壊も政治的にモーフィアスが失脚しないと行うのは難しい。


「詰み筋は、ヘインワーズ侯の失脚、大賢者モーフィアスの連座、転移ゲートの破壊の順か」

「打つならば、今でしょうね。

 無理を押してヘインワーズ侯を潰すかどうかだけど、ベルタ公はヘインワーズ侯ご息女との婚姻を決めたばかり。

 動くには体裁が悪すぎる」

「神殿過激派の暴走って筋だろうな。

 色々な支援は影からするだろうが、ゲート破壊さえできればどうにでもなる」


 ワインを片手につらつらと上司への報告をまとめていたら、扉が叩かれて夜勤についていたメイドが姿を見せる。

 手にはぽちを抱え、そのぽちの手には何か透明なものの中に食べ物が。


「あの……寝室から扉を引っかく音がして、出られようとしたのでこちらにつれて来たのですが……」


 ぽちの手にあるのはエリーが己の世界で買ったつまみ。

 コンビニで買ったスモークサーモンの赤みに二人だけでなく持ってきたメイドも目を見張る。


「『良かったら食べてちょうだい。わがままに振舞ってごめんね』。

 わかって持ってくるから、このお嬢様本当にたちが悪い……」


 ビニール袋に書かれたエリーの文に乾いた笑い声をあげるしかないケインを尻目に、アンジェリカはぽちの指図するがままにビニールを開けて、スモークサーモンを木皿に乗せる。

 その匂いと色が鮮度を見せつけてアンジェリカとメイドは唖然とするしかない。


「うわ。

 こんな鮮度港町でないと食べられませんよ!」


「ほんと規格外よね。

 うちのお嬢様は。

 皿をもう一つ持ってきて。

 夜勤の皆にも分けてあげるわ」


 こうして、エリーは護衛騎士とメイド長という監視者を買収する事に成功したのだった。 

容姿説明回。

まったく決めていなかったから、ここで軽く触れる事に。


11/27 設定変更によって修正

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