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第3会 一つの戦いが終わる~one finish~

『………』


 沈黙があった。

 ポニーテールの少女は恐る恐る目を開けた。

 そこには…

 目の前には…唯一の仲間、華の背中があった。


「もお~先輩、一人で行くなんて無茶にもほどがありますよ。」

「は…な…?」


 華の前には何か半透明な人らしきものが見えた。


「私の超怠惰な精霊がたまたま状況を伝えてきてくれたから間に合ったものの、それがなかったらどうするつもりだったんですか!」


 華と呼ばれる少女はその超怠惰な精霊を使役して金髪少女の銃弾を防いでいた。

 急いで来たためか彼女の服装は軽い私服だった。


「ごめん…華。」

「無事ならいいんですよ。でも、これからは一人で挑むなんて無茶な行動は控えてくださいね。」


 華はポニーテールの少女に微笑んだ。


「どうやらお仲間が来てしまったみたいですね。」


 2対1の状況になりながらも金髪の少女は二人に銃を向けていた。

 華は彼女をにらみつけた。


「形勢逆転ですね。クレイ。」


 そのクレイと呼ばれる金髪の少女はこんな状況でも笑みを崩さなかった。

 ポニーテールの少女は足首を庇いながら、なんとか立ち上がると華の隣に並んだ。

 二人の視線がクレイに向かう。


「そうですねえ…」


 二人に睨まれていてもクレイの表情は変わらない。


「確かに形勢逆転されちゃいましたねー。でもー」


 それでもなお、クレイは勝利を確信している笑みを浮かべていた。


「私はね…」


 ゆっくりと、はっきりとクレイの声は華たちを飲み込んでいく。

 そして…最悪は訪れる。

その(・・)逆転(・・)しましたって(・・・・・)顔を絶望させるのが(・・・・・・・・・)快感(・・)なのよねぇ(・・・・・)‼」


 瞬間、クレイの後ろと華たちの後ろにそれぞれ4,5人の学生服の生徒が現れた。

 その全員がクレイと同じ学生服だった。


「な…」


 驚いたのは華の方だった。


「そんな…干渉できないように迷宮結界を張っておいたはずなのに…。」

「ふふふ。そんなもの百人くらいで挑めば、十人ぐらいは突破するでしょ?」

「百人…」


 それがクレイと呼ばれる少女の勢力の数。

 対して、ポニーテールの少女たちの勢力と言えば…


「華…」


 ポニーテールの少女は華を見た。


「はい、私たちの戦力じゃ圧倒的に不利ですね。でも…それでも…私は諦めませんよ!」

「…そう。」


 ポニーテールの少女は華だけでも逃がしたいと思っていたが、華の方はまだ「諦めてない」ので、恐らく、もう何を言っても華は聞かないだろう。

 華の説得を諦めたポニーテールの少女はクレイを華とともに見据えた。

 対してクレイは心底つまらなそうに息を吐いた。


「そんなまだ諦めないって目、本当にイライラしますわね。さっさと諦めればいいのに…」

「諦めませんよ。まだ突破口はありますからね。」

「この絶望的な状況で?笑わせないでください。」


 華はクスクスと笑っているクレイにニヤリと笑った。

 そして、華はクレイに静かに告げる。


「あなたも…そんな喋っていていいのですか?そろそろ戦闘(・・)不可(・・)時間(・・)になりますよ。」


 その時、学校内にチャイムが鳴り響いた。

 一般生徒の登校の時間。それが彼女らの言う戦闘不可時間。

 この状況で勝てる可能性のない華達が狙っていた唯一の逃げ道。


「どうやら終わったみたいですね。どうします?まだ続けますか?まあ、その場合はあなた方の負けが決まるわけですけど。」


 華はクレイを含めた勢力の人々を引かせるために言葉を投げかけた。

 クレイはお嬢様に似つかない大きな舌打ちをすると、後ろを振り向いた。


「今回のところは引きます。でも次は一瞬で壊滅させてみせます。ちょっとした猶予を怯えながら過ごしてくださいね。」


 余命宣告のような言葉を残し、クレイは取り巻きの生徒たちとともに眩い光の中へと消えていった。

 屋上は一気に静かになった。

 ポニーテールの少女は華を見た。しかし、すぐには言葉が出てこなかった。

 それでも、これだけは伝えたいという思いが口を動かした。


「華…ごめ」

「さあ、先輩ここは掃除人に任せてさっさと帰りましょう。少しでも休まなきゃ身体がもちませんよ。」


 申し訳なさそうな表情をするポニーテールの少女と違い、華はあくまで明るくポニーテールの少女の手を引っ張った。

 クレイの流れ弾でところどころ壁が抉られている階段を降りながら、ポニーテールの少女は静かに呟いた。


「やっぱり、私にリーダーなんて無理なのかな…」

「そんなことないですよ。」


 独り言のつもりだったが、華はすぐに反応してくれた。


「でも、結局さっきの戦いはタイムアップで逃げるしかなかった…」

「逃げるのも戦いの内ですよ。でも、実際に戦力が違い過ぎるのはまずいですね…」


 華は階段を下りながら腕を組んで、うーんと唸った。

 ポニーテールの少女は華がここまで自分を支えてきてくれていることをうれしく感じた。


「華…今までありがとね。」

「やめてくださいよ。先輩。その言葉、死亡フラグになってますよ。」


 華に真面目な顔で言われ、そういえばそうだなとポニーテールの少女は自分の言葉に苦笑した。

 華は一度咳払いをすると、これからの方針を話した。


「とりあえず、私たちと同じような境遇の人を探しましょう。まだ何人かいるはずです。」

「そうね。でも、私たちのようなケースは極めて稀だから本当にいるかどうか…。仮にいたとしても六〇〇人近い生徒の中から探すのはかなり骨ね。」

「探すのに関しては私が精霊を連れて校舎の中を歩き回ります。私たちと同じ参加者なら何かしらの反応を示すはずです。それに…」


 華は一度言葉を切り、ポニーテールの少女を見つめた。

 彼女の幼い顔立ちとは全くかけ離れた強い眼差しがポニーテールの少女に当てられる。

 そして、華はゆっくりと口を開いた。


「稀でもなんでも…探さなきゃ私たちがクレイ達の勢力に食われてしまいます。それに…私たちは理不尽(・・・)でここに連れてこられて、こんな最悪なゲームに参加させられているんです!なんとしても元の世界(・・・・)に帰らなきゃ‼」


 華の言葉は強く、はっきりとポニーテールの少女の耳に響いた。

 そんな強固な決心を告げられたポニーテールの少女も華と全く同意見だった。


「そうよね。なんとしても帰るのよね…。」


 目的を再確認した二人は、太陽の光が差し込んできた廊下を歩いていく。

 たった二人の『派閥』に名前なんていらない。

 必要なのは理不尽で連れてこられた、この不条理な世界からの脱出。

 その時、ポニーテールの少女は思った。


 これが私、姫宮由紀乃の不条理な日常なのだと…


とりあえず一区切り

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