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第1会 いつもの日常~usually~

声が聞こえる。


『助けて!

 助けて………

 た…す…け…て…

 あなた…なら…きっと…』




 目が覚めるといつもの自分の部屋だった。

 乱雑に積み重なった漫画。机の上には開いただけの教科書とノート。そしてベッドの上にはゲームをしながら横になっていた結果、そのまま寝落ちしてしまい充電が切れた携帯ゲーム機が転がっていた。

 何か変な夢を見たような気がしたが思い出せない。いや、思い出してはいけないような気がする。

 ベッドから降りてもう一度部屋の中をぐるりと見渡してみたが、自分の記憶の中にある風景が目に映るだけだった。

 しかし、何故だか違和感があった。

 ここは確かにいつもの自分の部屋のはずだ。カーペットが数センチずれているとかそんな微々たるものに違和感を感じたわけではなかった。しかし、自分の部屋じゃないような…妙な感覚だった。

 自分はよくできた異世界にでも来てしまったのだろうか?

 昨日のことは鮮明に思い出すことができる。

 普通に学校から帰った後、家族でご飯を食べ、お風呂に入って勉強しようと思い教科書ノートを開いたが漫画を読み始めてしまい、結局、勉強する気が失せてゲームをしながら寝てしまった。おかげで今日の倫理の小テストは追試確定である。

 そして今日は…いつもなら…そろそろ…

 ドタドタドタと足音が聞こえ、部屋の扉が勢いよく開き、セミロングの髪を揺らしながら、パジャマ姿の妹、鈴佳(すずか)が入ってきた。


「お兄ちゃん、朝だよ! 起きろーってもう起きてる!?」


 何かとんでもないものを見たような顔をして部屋の前で硬直していた妹を見て、俺は顔をしかめた。


「お、お兄ちゃんが自分で起きてる…。」

「ああ、起きてるよ。てか、なんでお前は珍種を見たような顔をしているんだ?」

「え、いや…珍しいなって思って…。ハッ、今日は嵐が来る!」

「いや、来ねえよ!というか、俺だってちゃんと七時には起きるわ。お前が起こしに来るのが早すぎるんだよ‼」


 ベッドの傍に置いてあった時計の針は5時半を指していた。学校は8時半からなので、少なくとも後一時間半は寝られたはずだった。しかし…


「え~だって、怠惰なお兄ちゃんを朝早く起こすのは妹たる私の役目だもん。」


 腰に両手を当てて、えっへん、と言わんばかりに(それなりに大きい)胸を張った自分の妹がそこにいた。

 妹の鈴佳は今年から高校一年生だ。

 高校生にもなれば、だいだいは兄弟の間に見えない壁というものが建設されるわけだが、鈴佳はそんな壁を作らずに解放的な態度で接し、あろうことか兄と同じ高校に通っている。

 ここまで説明すれば鈴佳にブラコン疑惑が持たれるが、別に兄のことが好きというわけではなく、兄弟として接しているだけで鈴佳にはちゃんと彼氏がいた。

 若干、憎らしいが…

 そんなリア充な妹は、二度寝モード入ろうとした俺の毛布を勢いよく引っぺがした。


「だめだよお兄ちゃん!今二度寝したら絶対遅刻しちゃうよ。」


 確かに、だいだい今の時間帯に二度寝すると、基本的に遅刻すると相場が決まっている。


「あーもう、わかったよ。潔く起きますよ。」


 大きな欠伸をしてからベッドから起き上がると、着替えるからと妹を部屋から追い出した。

 部屋から出ていこうとした鈴佳はドアの手前で何か気づいたかのように立ち止まり、振り返ると、


「そういえばお兄ちゃん、今日からの放課後の話聞いた?」

「話?」

「テスト一週間前だから授業は4時半までで、その後の居残りは禁止って話。」

「あ~そういえばそんなこと言ってたな。それがどうかしたのか?」

「いや…うちらの高校は進学校なのに学校で残ってテスト勉強しちゃダメっていうのが変だなーって思って…」


 鈴佳の言う通り俺たちが通っている学校は卒業生のほとんどが大学に進学しているというそれなりに有名な進学校だ。

 したがって、定期テストにもそれなりに力を入れており、少なくとも俺が高校1、2年生の頃はどうせ家では勉強しないだろう、という理由で学校に残って勉強することを推奨していた。

 そうなると、確かにおかしいが、


「まあ、学校側にもいろいろ事情ってもんがあるんだろう。」


 机の上に広げていた教科書を鞄の中にしまいながら適当な調子で答えた。


「そうかな~」


 まだ納得がいかないようだが、鈴佳はドア枠に預けていた体を離し、部屋から出ていった。

 ドアが閉まったのを確認して着替えに入ると、ふと、夢で聞こえた声を思い出した。


(やけにリアルに聞こえたけどなんだったのかな…)


 そういえば、起きた時に感じた違和感は消えていた。

 ここはいつもの自分の部屋。

 そして…


「桐也~、鈴佳~、御飯よ~」

「は~い」


 母の声に反応して階段を勢いよく下りていく音がした。

 桐也も着替えを済ませると、部屋から出た。


 そう。これが高校三年生になる俺、榊原桐也(さかきばら きりや)の日常だ。


 いよいよ本編。どうぞお楽しみください。

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