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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第2章 僕らに近づく怪しい影?
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-2-

 何度か戦闘を繰り返し、今回受けているクエストの目的地付近にまでたどり着いた頃。


 チャーララッチャラチャラララチャーン!


 突如、ファンファーレが鳴り響く。

 鬱蒼とした森の中でこんな音がするなんて、場違い以外のなにものでもないとは思うけど。


 これはパーティーを組んでいるメンバーだけに聞こえる音となっている。

 メンバー誰かのレベルアップ。それを告げるシステム音だ。


「お~っ! いちご、おめでとう! これでレベル3だな!」

「よく頑張ったな! はっはっは!」

「うふふふ、おめでとうございます、いちごちゃん!」

「うむっ! みんな、ありがとう! これでまた、あたしの魅力が上がっちまうな!」


 自信満々ないちご。これでまた、無茶をする可能性が高まってしまいそうだ。

 僕の気苦労は、レベルの上昇とともに増えていくばかりなのかもしれない。


「晴れてあたしがメンバーの中で最高レベルになったってことだな! 崇め敬うがよいぞ、皆の衆!」


 などと言ってふんぞり返っているいちごだったけど。


 チャーララッチャラチャラララチャーン!


 ファンファーレはさらに鳴り響く。しかも今度は3つ重なって。

 残りのメンバー全員もレベル3に上がったのだ。


 僕たちはいつも3人一緒に冒険に出ている。それぞれがソロで出かけたことは、今までに一度もない。

 だったら、レベルアップするタイミングもほぼ同じになるのは、火を見るより明らかと言えよう。


「うげ~~~っ!? なぜだ~!? あたしが一番、敵をいっぱい倒してるってのにっ!」

「みんなで戦ってるんだから、当たり前だろ?」

「なんか、納得行かない! 兄者たちは離れた場所からちまちまやってるだけなのにっ!」

「まぁ、不満に思うのもわからなくはないけど、それがクラスごとの役割ってものだから……」


 加えて言えば、近接戦闘でモンスターに打撃を与えているのは確かにいちごだけど、コケたりもするし、調子に乗りすぎてミスすることも頻繁にある。

 それだったらむしろ、大きな斧を投げて見事なコントロールでヒットさせ続けるミソシルや、魔女というか魔王といった勢いで業火の魔法を操ってすべてを燃やし尽くしているクララのほうが、敵に与えている総ダメージ量は圧倒的に多いに違いない。

 攻撃にはあまり参加できない僕まで同じくらいのレベルアップ速度なのは不公平かもしれないけど、回復や補助だって重要な役目だと考えれば問題ないはずだ。


「ま、いいや。みんなもおめでとう!」

『ありがとう!』


 いちごの祝福の言葉に、3人が声を合わせて答える。


「兄者以外!」

「おいっ!」


 いちごのやつ、余計なことをつけ加えやがって。


「なんて、冗談さ! おめでとう、兄者!」

「お、おう!」

「うふふふ、確かにレモンさんは、おめでたいですしね~」

「はっはっは! なるほど、そうだな!」

「そこ! 意味が変わってるぞ!」


 暗く静かな森の奥地にいようとも、いつでも明るく元気に冒険を楽しむ。

 それが僕たちの冒険スタイルだ。




 今回のクエストの内容は、深い森の奥に早朝の時間にだけ生える、『朝露のキノコ』を採集するというものだった。

 僕たちがゲームをしているのはいつも、学校から帰ってきた放課後の時間で、夕方から夜にかけてだけに限られている。

 それなのに早朝のクエストがこなせるのは、この世界の時間が現実とは違う速さで流れるようになっているからだ。

 6時間で1日。つまり、現実世界の4倍の速さで時間が進んでいることになる。


「目的地には着いたけど、まだ早朝までは時間があるね」

「うふふふ、そうですわね~。今は深夜になりますかしら~」

「現実世界だったら寝てなきゃいけない時間だな!」

「戦闘にも飽きたし、寝てようぜ、兄者!」

「ええっ!? いちごが僕と寝るなんて……!」

「はっはっは! このバカ兄貴、耳までバカになってるな!」

「うふふふ、現実世界ではまだ夕飯前ですから、そろそろ暗くなってきたかな~って時間だと思いますけれど」

「はう、そうだった! ついつい周囲の暗さだけで判断しちゃったぜ!」

「いちごは相変わらず、お茶目さんだな~!」

「はっはっは! お茶目……っていうのか?」


 そんな会話を交わしつつ、時間を潰す。

 もう少し、計画的に行動するべきだったかな、と思わなくもないけど、「行き当たりばったりで適当に」というのもまた、僕たちの冒険スタイルだったりする。


「とりあえず、待ち時間が暇だな。ほら、兄者。なんか面白いことでもやってくれよ!」

「はっはっは! 裸踊りでもするか? オレと一緒に!」

「うふふふ、それはいいですね、是非お願いしますわ!」


 ……やっぱりこのスタイルは、ちょっと考え直す必要があるのかもしれない。


 一応言っておくと、完全な意味での裸踊りは、この世界ではできない。

 衣類をすべて脱ぎ捨てて裸になることはできないシステムになっているからだ。

 ただ、男性キャラであれば上半身裸になることはできる。

 というわけで、半分だけとはいえ、結局僕は裸踊りをする羽目になってしまった。


 どうでもいいけど、なぜにミソシルはあんなにもノリノリで裸踊り(というか半裸踊り)をするんだか。

 現実世界でやってくれたら嬉しいのに。

 ……って、女の子がそんなことをするはずないか。世知の場合、絶対ないとは言いきれない気もするけど。




 休憩中でもバカ騒ぎしている僕たち一行。

 そんな折、ふとおかしな気配を感じた。


 森はさっきまでと変わらず、静まり返っている。

 僕たちの声以外は、そよ風に揺れる木々の葉音くらいしか聞こえてこない。

 なのに、明らかな違和感。


 なんだこれは?


 僕だけじゃない。ミソシルやクララも同じ気配を感じ取っているようだ。


「ん? 兄者たち、どうしたんだ? おしっこか?」


 いちごだけは、まったく気づいている様子もなかったけど。


「なにか、来る……?」

「そうみたいだな」

「ええ……」


 小さく声をかけ合う3人。

 その途端、木々の陰から赤い物体が飛び出してきた。


「わっ!?」


 一直線にぶつかってこようとするそれを、僕はすんでのところでかわす。

 他のみんなもそれぞれに避け、すぐさま戦闘態勢へと入る。

 といった状況の中で、


「うわわっ! なんだこれ、可愛い~♪」


 いちごの黄色い声が響き渡った。

 改めて飛び出してきた赤い物体をじっくりと観察してみると……。


「え~っと、これは……」

「はっはっは! 苺か!?」

「うふふふ、そうみたいですね。森にいるのですから、野苺と言うべきでしょうか」


 ミソシルとクララが言ったとおり、それは見るからに苺だった。

 ただし、膨らんだ実の部分に目と口があり、緑色のヘタの部分は髪の毛っぽく、さらには手と足まで生えている。

 苺をかたどったモンスター、ということか!


「なんたる可愛らしさ! まさにあたしのために存在してるって感じだな! お持ち帰りしたいぜ!」

「モンスターなんだから、持ち帰っちゃダメだって!」


 いくら可愛らしい見た目でも、敵は敵。

 無差別に襲いかかってくる凶暴なモンスターでしかない。

 外見からは絶対にそんなふうには思えないけど。


 なお、このゲームに出てくるモンスターは全部が全部、こんな感じの可愛らしいデザインだったりする。

 何度も戦っているドリーナだって、ぽよぽよとゼリーみたいなスライムだって、現実世界だったら不気味な印象になるであろう虫をイメージしたモンスターだって、ポップでキュートな愛らしい容姿をしている。

 ネットで調べた限り、最初のボスと言われているリトルドラゴンを含めたすべてのモンスターが、倒すのをためらってしまうようなデザインになっていた。


 可愛くても敵。倒すべき相手。

 それを忘れてはいけないのだ。


「なるほど、戦うしかないってことか!」


 いちごも、どうにかわかってくれたようだ。


「食べたら美味しいかな? じゅるり」


 いや、あまりわかっていないのかも……。


 それはいいとして。

 僕はこのゲームについてネットで調べたりもしている。

 いくら低難易度のゲームといっても、絶対に安全なんてことはない。この世界にだって、「死」は存在するのだから。


 もちろん、本当に死んでしまうわけじゃない。ゲームの中にある世界なんだから、当然といえば当然だけど。

 もしモンスターやら罠やらのせいで死んでしまったとしても、簡単に復活することが可能。

 死んでから数分のタイムラグは発生するけど、拠点としている町で生き返るシステムになっている。


 町に戻されること自体がペナルティーで、それ以外の弊害はない。

 ともあれ、受けているクエストは継続可能なものの、大きなタイムロスになるのは間違いない。


 そういう場合、普通のパーティーだったら、残ったメンバーだけで継続してクリアしてしまうらしい。

 でも、死んで町に戻された人には報酬が支払われないことになる。

 それだと気が引けるので、もし僕たちがそういう状況に陥ったら、一旦全員で町まで戻ることを約束してあった。


 苺ぱるふぇ・オンラインは、戦闘中でなければ拠点の町までは一瞬で戻れるシステムとなっている。

 だからこそできる荒業とも言える。


 どちらにしても、僕がプリーストとして回復役を担っている限り、いちごを死なせたりなんかしない。

 死ぬとしたらいちごだと決めつけているのは、まぁ、普段の行動から考えても妥当な推論だろう。


 ま、低難易度を(うた)っているゲームで、そうそう死ぬような目に遭うはずもない。


「それにしても、このモンスター、ネットのまとめサイトにも載っていなかった気がするのですが……」

「このゲームって敵の種類が異常に多いから、絶対とは言いきれないけど、確かに僕も見たことないと思う」

「はっはっは! レアモンスターってやつか? 名前は……ストロベリーナだとさ。名前まで可愛らしいな!」


 敵の名前も、人の名前同様、見つめれば文字として浮き上がるようになっている。

 確かに可愛らしいネーミングだな。


「お~~~っ! レアってことは、お宝がっぽがっぽ? こりゃ、運が回ってきたぜ!」


 いちごが盗賊団の首領かなにかにでもなったようなあくどい顔をしている。

 そんな表情でも、いちごはラブリーだ。


 目をランランと輝かせ、かぶりつくほどの勢いで……いや、たまに本当にかぶりついたりまでしながら、いちごが敵をバッタバッタとなぎ倒していく。

 いちごが苺のモンスターを相手に戦っているなんて。

 こんなレアな光景、なかなか見られるものじゃない。脳裏にしっかりと焼きつけて、心のアルバムに永久保存しておこう。

 普通のゲームみたいにスクリーンショットを撮る機能がないのは悔しい限りだ。


 とにかく。

 勢いづいたいちごが負ける要素なんてあるはずもない。

 全部で7匹ほどいたストロベリーナは、いちごの剣、ミソシルの斧、クララの炎の餌食となり、あっという間に全滅していた。


「レアのくせに、弱いじゃないか! あたしの敵じゃないな!」

「このゲームの敵だからね」

「はっはっは! これでレアアイテムゲットできてたら、申し訳ないくらいだな!」

「うふふふ、そうですわね。……って、あら? あれはなにかしら」


 7匹のストロベリーナはすでに消え去っている。

 倒した敵は消えてしまうため、死体が残ったりもしない。

 だから、そこがストロベリーナを倒した場所かどうかはわからなかったけど。


 クララの指差す先、木の根もと辺りに、なにかが落ちているのを発見した。

 僕はそっと手を伸ばし、持ち上げて確認してみる。


「これは、ペンダント?」

「そうみたいだな! 赤い宝石がついてて、いちごちゃんに似合いそうだ!」

「え~っと……ストロベリーペンダント、っていう名前みたいですね~」


 この世界では、じっと見つめればアイテムの名前も文字として浮かんでくる。

 普通は効果の説明なんかまでわかるはずなんだけど……。


「赤い宝石をたたえたペンダント、としか書かれてないね」


 見ただけでわかる解説なんて、あってもまったく意味がないじゃないか。


 ふと気づけば、いちごが物欲しそうな目でペンダントを見つめている。

 う~ん……でもなぁ……。

 これはみんなで倒したモンスターの落としたお宝だし……。


「よくわからないけど、パーティーの共有財産ってことでいいかな? 高値で売れそうなら換金に回す感じで」


 いちごにあげたい!

 という本音を押し殺し、僕はみんなに提案する。


「おいおい、レモン! ほんとにそれでいいのか?」

「うふふふ、本当はどうしたいのか。わたくしにも、丸わかりですわよ?」

「うっ……! でも……」


 ちらりといちごを見る。

 凝視。

 目線はペンダント。

 口もとからはヨダレ。


 ……って、食べる気か!?

 いやいや、さすがにそれはないだろう。

 ヨダレが出るほど欲している、ということだ。


 視線をミソシルとクララに戻す。

 ふたりとも、黙って頷いてくれた。


「よし! それじゃあ、コレはいちごにあげよう!」


 そう宣言した途端、ぱーっと笑顔100万ボルト。


「マジで!? いいの!?」

「ああ」


 僕が答えると、いちごは奪うようにペンダントを手に取り、さっそく自分の首にかける。


「うあ~~~っ! これ、いい!」

「うん、似合ってるよ」

「兄者からのプレゼント、大切にするぜ!」

「えっ? べつに僕からってわけじゃ……」


 正確に言えば、ミソシルとクララも含めた3人から、ということになる。

 そんなのまったく意に介さず、控えめに添えた僕の否定の言葉も耳に入らず、いちごは大はしゃぎ。


「ありがとな、兄者!」


 ちゅっ!


 と、ほっぺたにキスまでしてきた。

 ……うん。喜んでもらえて、本当によかった。


 それに一瞬だけとはいえ、ほっぺたに触れたいちごの唇の感触も、本当によかった!

 ああ、なんて柔らかいんだ!

 いつか絶対、直接唇同士で……!


「はっはっは! この兄貴、また怪しい妄想してやがるぞ!」

「うふふふ、脳みそ腐ってますわね~」

「う……うるさいっ!」


 そんなやり取りをしている僕たちの横で、当人であるいちごは、


「これ、とっても綺麗だし、めちゃくちゃいいぜ! 苺パフェ以外にもいいことがあるんだな! やっぱ最高だ、このゲーム! ぐへへへへ♪」


 ペンダントの赤い宝石を手に取って、完全にどこか別世界にトリップしているような瞳をさらしながら、ヨダレを垂らしまくっていた。


「はっはっは、この兄にしてこの妹ありだな!」

「うふふふ、兄妹ふたりして、脳ミソが腐ってますわね~」

「うぐっ……!」


 自分の妄想癖を自覚している上、僕と同様と思われるいちごの惨状まで目の当たりにしては、友人ふたりに返す言葉など出てくるはずもなかった。


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