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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第11章 囚われのいちご
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-4-

 僕たちの心がひとつにまとまっていた、そのとき。

 突如として、小屋の屋根が吹き飛んだ。


「えっ?」

「なんだなんだ!?」


 慌てふためく僕たちの頭上――完全になくなってしまった天井の上に、なにか真っ黒くて巨大な物体が覆いかぶさっている。


『仲間同士の友情物語が展開している最中で悪いが、邪魔をさせてもらったぞ!』


 声が響く。

 凄まじい振動を伴って。

 地の底から伝わってくるのではないかと思えるほどの、圧倒的な重低音。


「モンスターだ!」


 モンスター? こんなに、巨大な? しかも、言葉を喋ってるのに?


 フランさんの声に反応してじっと見つめてみれば、確かにそこには、『シルエットドラゴン』との文字があった。

 全体が影のドラゴン。

 それがこの真っ黒い物体の正体だったようだ。


「でっけ~! あいつが小屋の屋根を剥ぎ取ったのか!? マジ、超かっこいいじゃんか!」


 いちごがなぜか歓喜の声を上げている。

 状況がわかっていないのだろうか?

 すなわち、モンスターってことは、敵になるのだという状況が。


 ただ、それだけではなかった。


『私の妻候補を勝手に連れ去っては困るのだ。返してもらおう!』


 その言葉で、ピンと来る。


「お前、国王エンドレスレインか!?」

『いかにも!』


 肯定とともに、シルエットドラゴンの手が伸びてくる。


「うおっ!?」


 身をよじってどうにか逃れるいちご。

 そのいちごに向かって、僕は即座に駆け寄る。

 というか、抱きつく。


「うがっ!? なにやってんだ、バカ兄者!」

「僕がいちごを抱きしめておけば、連れ去られたりしないだろ?」

「そ……それはそうかもしれないが、いくらなんでもこれは……」

「ああ、いちご! なんていい匂い! やっぱりいちごの抱き心地は最高だ!」

「あたしを守る目的より、欲望のほうが強いじゃないか!」

「久しぶりなんだし、いいだろ? 僕といちごは夫婦なんだぞ?」

「それは苺ぱるふぇの中だけだ! ここは別の世界って話だったじゃないか!」

「別の世界であっても、共通部分は多いんだから! 僕といちごはここでも夫婦でいいはずだ!」

「勝手な理論を展開させるな~! うぎゃ~~~! 兄者、なんだかすっごく悪化してないか!?」


 悪化とは失敬な。


「はっはっは! 久しぶりにいちごちゃんに会えて、嬉しさが有り余ってるんだろ! 二度と離れるもんか、ってやつだな!」

「なぜそんなことになってやがる! ミソくん、なんかあったのか!?」

「あ~、まぁ、なんというか……いちごちゃんに対する愛情を再確認したとか、そんなところか!」

「なんじゃそりゃ~!? って、兄者、いつまで抱きついてんだ! 離れろってば!」


 蹴りが飛んでくる。

 ああ、久しぶりに受けるいちごの蹴りの感触。

 やっぱり、いい!


「本当に悪化しているみたいですわね……」


 クララの呆れ声が聞こえる中、僕はいちごの蹴りによって壁のほうまで吹き飛んでいた。

 一方、シルエットドラゴンはというと……。


『はっ! あまりのバカバカしい会話に、唖然としてしまった!』


 ちょっとのあいだ呆然としていたようだけど、すぐにそんな声を響かせる。

 こいつはさっき、国王エンドレスレインだと認めていた。

 といっても、おそらくこのドラゴンが国王本人というわけではなく、モンスターの目を通して見ているような状態なのだろう。


『まあいい。妻候補は連れ帰らせてもらうぞ!』


 再び手を伸ばしてくるシルエットドラゴン。

 今度は実にあっさりと、いちごは捕まってしまった。僕への蹴りのせいでバランスを崩していたからだ。

 いちごが、敵の手に落ちてしまった!

 正確に言えば、落ちたというよりも、持ち上げられたわけだけど。


「いちごを離せ!」


 僕は壁に打ちつけた腰をさすりながら叫ぶ。

 でも、相手は剥ぎ取った天井の上に見えているだけの巨大なドラゴンだ。

 ここからでは、ジャンプしたところで届くはずもない。


「レモンくん、外へ出よう!」

「そうですね!」


 僕は小屋から出て、改めてシルエットドラゴンを見上げてみる。

 でかい。でかすぎる。

 体長は優に20メートル以上あるだろうか。

 そんなドラゴンの右手に、いちごは握られている。


「うあっ、動けない! 兄者、どうにかしろ!」

「どうにかしろったって……」


 僕なんかに、なにができるというのか。


「……ボクに任せて……」


 ここで、天使ちゃんが一歩前へ。

 ダンスを踊りながら、フンドシ戦隊マッチョマンを召喚する。

 とはいえ、いくら精霊だとはいっても、サイズの差は見るからに明らか。

 こんな状態で、歯が立つはずもない。


 絶望感に包まれる僕の前で、天使ちゃんはニヤッと笑ってみせる。

 その途端、フンドシ姿の精霊たちが、お互いに身を寄せ合い始めた。

 なんだこれ……!? フンドシマッチョ5人の絡み合いなんて、僕は見たくないぞ!?


 もちろん、そんなわけはなかった。

 5体の精霊たちが、みるみるうちに融合していく。

 そしてそのまま、巨大なサイズへと変貌を遂げる。


「……5人の精霊たちの集合体、キングエレメンタルよ……!」


 巨大化した精霊、キングエレメンタルは、シルエットドラゴンと同等の大きさになっていた。

 キラキラと複数の色に輝く、巨大なフンドシマッチョ……。

 僕が改めて命名する。これは、レインボージャイアントマッチョだ!

 もともと5色の精霊だから、正しくはレインボーではない気もするけど、細かいことは気にしないように。


「さすが天使ちゃん! よし! いちごのことは頼んだよ、レインボージャイアントマッチョ!」

「……え? えっと、キングエレメンタル……」


 天使ちゃんは不意に飛び出した別名に困惑気味だったけど。


「はっはっは! このレインボージャイアントマッチョなら、シルエットドラゴンにも勝てそうだな!」

「そうですわね! 頑張ってください、レインボージャイアントマッチョ!」

「私の出番がないのはちょっと悔しいけど、ここは任せるしかないかな、レインボージャイアントマッチョに」

「名前、呼びにくくない? 略して、『レイアンチョ』、とか、どうかな?」

「おおっ、いいじゃないか、ドラキュラ! おい、レイアンチョ! 早くあたしを助けろ!」


 短いあいだに、レインボージャイアントマッチョから、さらにレイアンチョへと進化していた。


「……もう、それでいい……。行け、レイアンチョ……」


 天使ちゃんも諦めた……いや、受け入れてくれたようだ。

 ともかく、これで安心。

 あとはレイアンチョに任せて、いちごを取り戻してくれるのを待つばかり。


 かと思いきや。


『ふっ。こんな技を使える仲間がいるとはな。だが……』


 余裕しゃくしゃくといった様相のシルエットドラゴン、というか、エンドレスレイン。

 なにか奥の手でも隠しているのか!?

 固唾を呑んで見守る。


 そんな僕たちの目の前で、


『では、さらばだ!』


 シルエットドラゴンが、飛んだ!

 飛び立った!

 青い青い、大空へ!


「うわっ、逃げた! あいつ、逃げたよ!?」

「ですが、よくよく考えてみたら、それが当然ですわよね。エンドレスレインの目的は、王宮からさらわれたいちごちゃんを取り返すことだったのですから」

「あ~、なるほど、確かにそうだ!」

「私としたことが、迂闊だった……!」


 それでも、今の僕たちには心強い味方、レイアンチョがいる!


「天使ちゃん! 早くあいつを追いかけて!」

「……無理……。ボクの呼び出す精霊は、空は飛べない……」


 レイアンチョ、意味なかった!


 そんなわけで。

 戦闘はあっけなく、相手の逃走で終了してしまった。




 こうして、またしても連れ去られてしまったいちご。

 油断が招いた失態だった。

 固唾を呑んで見守っていないで、僕たち自身も戦わなきゃならない場面だったのに……。

 もし戦ったところで、あんな巨大なドラゴンが相手では、どうにかできた可能性は低かったかもしれないけど……。


「悔やんでいても仕方がないよ。いちごちゃんを追いかけよう」


 フランさんの言葉に力強く頷く。

 相手は国王エンドレスレインだとわかっている。

 だったら目指す場所は決まっている。


 僕たちは改めて王宮を目指すことになった。

 次こそは絶対に油断なんてしない!

 そしていちごを取り返す!


 ついでに、あのエンドレスレインとかいう国王をしばき倒して、洗いざらい喋ってもらう。

 きっと、あいつが失踪事件の黒幕。

 凩さんの目的達成は、あいつを打ち倒すことによって成し遂げることができるはずだ!


「……うん、ボクもそう思う……」


 天使ちゃんも控えめに後押ししてくれた。


「……あと、期待させておいて、役立たずでごめんなさい……」

「それは仕方がないよ。レイアンチョに任せきりにした、僕たちにも責任はあるんだから」

「……レイアンチョって名前は、やっぱり確定なのね……」


 なにやら少々項垂れ気味ではあったけど。


 とにもかくにも。

 僕たちは決意を新たに、最終決戦の舞台になると思われるエンドレスレインの王宮へと向かうのだった。


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