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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第11章 囚われのいちご
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-1-

 何者かによって王宮から連れ去られたいちごを追って、僕たちは森の中に入った。

 チビの鼻だけが頼りだ。


 凩さんが作ったビジュアルアダプターツールとやらによって、空は穏やかな雰囲気になっている。

 最初にいた草原は不安定な場所だったようで、至るところに穴が開いていたけど、この森の地面にはそういった部分はなさそうだ。

 それでも鬱蒼とした森は気温もかなり低く、僕の気持ちすら押し下げる効果をもたらしていた。


「いちご、見つかるかな……」

「はっはっは! チビを信じろって!」


 不安の隠せない僕を、ミソシルがいつもの調子でなだめる。


 チビは今いちごの匂いを感じていて、それを凩さんが拡張してくれたというのだから、僕たちは黙ってついていくしかない。

 あれだけいちごに懐いていたチビだから、大丈夫だとは思う。

 だとしても、不安は拭い去れなかった。


 いちごと会えない時間が長すぎて、僕の脳ミソは正常に機能できない状態にまで陥っているのかもしれない。

 早くいちごを見つけて、いちご成分を存分に補給しないと!


「レモン……いちごちゃん成分を早く補給したい、とか考えてそうな顔してるな!」

「うっ、なぜわかった!?」

「ふふっ、レモンさんは顔に出やすいですからね~。もっとも、レモンさんをよく見ているミソさんだからこそ、なのかもしれませんけれど」

「ごついミソシルに見つめられてもな~」

「はっはっは! 見つめるだけで足りないなら、抱きしめるぞ!」

「うわっ! やめろっての、気色悪い!」


 ミソシルとクララのおかげで、沈みがちだった僕の気分は一変していた。

 友人たちの気遣いに、心の中で感謝する。


 しかし、今問題となるのは、僕の気持ちだけではなかった。


「むっ! 敵だ!」


 ミソシルが叫ぶ。

 すぐに臨戦態勢に入る僕たち。


 ここは森だから、野生動物なんかも生息している。

 その中には、肉食の凶暴な動物だって当然のように存在していたのだ。


「え~っと……ウルフント……」


 戦闘になった場合でも、相手の顔を見つめれば名前が浮かんでくるシステムとなっている。

 相手がモンスターだと、僕たちみたいに固有の名前ではなく、その種族などの総合的な名称となるのだけど。


 ウルフント。

 実際に会うのは初めてながら、ネット上のデータで見たことはあった。苺ぱるふぇ・オンラインにいるモンスターだ。


 狼の一種という設定なのに、ダックスフントのように胴体が長い。

 もちろん、苺ぱるふぇ・オンラインのモンスターだから、可愛らしいデザインとなっている。

 長い胴体が不恰好だから、ブサ可愛い、とでも表現すべきだろうか。


 そんな相手ではある。

 でも、この世界は低難易度が売りの苺ぱるふぇ・オンラインとは違う。

 それは町に向かう前の戦闘でも実感していた。


 今回もまた、大苦戦。

 しかも、状況的にもこちらに不利だった。

 鬱蒼とした森だったのがその原因。激しく動きづらかったのだ。


 気分よくダンスを踊るように、というのが戦闘スタイルの基本なのは変わっていない。

 だとしても、剣やら斧やら杖やらを持った状態での戦いとなるのだから、周囲の木々が邪魔になってしまうのは否めない。

 対するウルフントたちは、木を上手く避け、それどころか縦横無尽に伸びる枝をも利用し、僕たちに攻撃を加えてくる。

 地の利は向こうにある。それは疑いようもなかった。


 敵は群れを成し、集団行動していた。それも苦戦を強いられた要因だろう。

 一匹狼なんて言葉もあることから、狼と聞くと単独行動しているようなイメージもあるけど。

 基本的には群れを作り、縄張りを持っているものなのだ。


「わおぉ~~~ん!」


 緊張感の削がれるようなキャッチーな鳴き声が響く中、死と隣り合わせの戦闘が続く。

 一番大活躍だったのは、天使ちゃんの操る精霊――フンドシ戦隊マッチョマンだった。

 もとより精神体である彼らには、森の木々など障害物にはならない。

 手になにも持たずに踊れる分、天使ちゃんの動きにも制約が少なくて済んだ。


 戦隊ものでリーダーとなるはずのフンドシレッドは火の精霊だから、森を燃やしてしまう心配を考慮し、今回は肉弾戦のみで本来の力を発揮できてはいなかったけど。

 他の精霊たちがそれぞれの能力を駆使して、ウルフントたちを蹴散らしていった。


 フンドシイエローが土を隆起させ、ウルフントたちの足もとをすくう。

 フンドシブルーが大量の水を操り、ウルフントたちを次々と流していく。

 フンドシグリーンが強風を起こし、ウルフントたちを木の幹に叩きつける。

 フンドシピンクが愛の力を使って、ウルフントたちを骨抜きにする。


 ……筋肉隆々のマッチョな精霊に骨抜きにされている光景っていうのは、なんともマヌケな気がしなくもないけど。


 とにかく、そんな精霊たちの活躍によって僕たちは難なく、とまでは行かなかったものの、どうにか勝つことができた。

 狼には群れのリーダーがいる。そいつを倒すことに成功したからだろう。

 どれがリーダーだったのか、僕たちにはよくわからなかったけど、相手の統率が一気に乱れ、いつしか周囲からウルフントたちの気配が消えていた。


「ふ~……どうにか勝てたね」


 戦闘後、フランさんが真っ先に声を響かせた。

 その顔には、ソードマスターとしてのまともな働きができなかったことに対する悔しさが、ありありと浮かんでいた。

 まともに戦えなかったのはフランさんに限ったことじゃないし、場所が悪かっただけでフランさんのせいでもなかったというのに。

 フランさんはせめて率先して言葉をかけ、場をまとめる役割だけでも果たそうと考えたのだろう。


「天使ちゃんがいてくださって、助かりましたわね」

「……自分にできることをしただけだから……」

「はっはっは! でも、ほんとにそうだな! フンドシ万歳!」

「ミソシルが言うと、精霊じゃなくて、フンドシそのものを褒めてるように思えるけど」


 勝利を喜び合う。

 疲れはある。それでも、息を切らせて身動きも取れないほどではなかった。

 この世界に来て最初に戦ったときのことを考えれば、随分と余裕が出てきている。

 敵は強くとも、僕たちは戦える。それだけ結束が強まっていると言えるだろう。


 そもそも、こんなところで立ち止まっている暇なんて、僕たちにはない。

 一刻も早くいちごを見つけ出し、もとの世界に戻らなくてはならないのだから。


 とはいえ、無理はできない。

 いつの間にか日は落ち、辺りは完全なる闇に包まれていた。


「野生動物もいるし、夜に森をうろつくのは自殺行為だよ。今日はここで野営しよう」


 フランさんが提言する。

 僕に向けて。

 いちごを助ける。その目的で言えば、リーダーは僕。

 みんな、そう考えてくれているのだ。


「そうですね。今日はここで休んで、朝になったら移動を再開しましょう」


 気持ちの上では、夜通し歩いてでも、いちごとの距離を縮めておきたい。

 だけど、そんなのは僕のワガママでしかない。

 僕は一匹狼じゃないのだから。


 少し開けた場所を見つけた僕たちは、野生動物たちが近づかないように焚き火も用意して、素早く野営の準備を整えた。


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