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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第10章 不安定な世界
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-4-

 いざ、王宮内部へ!

 ……などと、簡単に行くはずもない。


 ゲームの世界だと、普通に入っていけるように開放されているのが常だと思うのだけど。

 この世界の王宮は厳重に警備されていて、簡単に侵入できるような状況ではなかった。

 王宮の門の前まで行ってはみたものの、兵士によって門前払いを食らってしまい、僕たちは途方にくれていた。


 そこでタイミングよく、


「……あ、(こがらし)お兄ちゃんから連絡……」


 凩さんからメールが届いた。

 しかも、今の状況に最適なツールが添付された状態で。


「……どんなものにでも穴を開けて、通り抜けられるツールだって。コンパスになっていて、それで円を描くと、そこに穴が開くみたい。これで壁に穴を開ければ、王宮に忍び込めるわね……」

「はっはっは、通り抜けコンパス、ってところか!」

「毎度毎度、便利なツールを作ってくださいますわね」

「……凩お兄ちゃんも、必死で頑張ってるってことだと思う……。ボクたちだけに任せるのは悪いって、そう考えているんじゃないかしら……」


 それは本当にありがたいのだけど。


「壁に穴を開けて忍び込むって……なんというか、泥棒みたいだよね」

「もともと無理矢理こっちの世界に入ってきた時点で、すでに犯罪者のようなものですわよ? 今さらではないでしょうか」

「……でも、べつに悪いことをしてるわけじゃない。さらわれた人を探しているってだけだし。だから、胸を張って不法侵入すればいいの……」

「そういうものなのかな?」


 なにか釈然としない部分はあったものの、さくっとスルーしておく。

 いちごが待っているかもしれないんだ。

 大事の前の小事。気にしてなどいられない。


 ただ、他にも心配なことはあった。


「どうでもいいけど、いろいろツールを使いすぎてる気がするんだけど。使った時点で運営側に感知されてしまうって言ってなかったっけ? 気づかれたら強制的にログアウトさせられるかも、とか……」

「……そうね……。今のところ、なにも起こってはいないけど……」

「実際に気づかれていないのか、それとも、気づかれてはいるけど泳がされている状態なのか。もしくはこの世界を司る誰かが今、私たちなんかに構っていられないような状況にある、って可能性もあるのかな」


 フランさんがいくつかの推測を提示したけど、どれが正しいのか、そのどれもが間違いなのか、僕たちに答えが導き出せるわけもなかった。




 王宮の外壁に添って歩き、門とは正反対の裏手にある、木が密集して生えている地点に身を潜めた。

 ここなら人に見られる心配はなさそうだ。

 コンパス型のツールによって、壁に円を描いていく。


「通り抜けるなら、なるべく大きな穴を描く必要があるよね」

「はっはっは! オレの図体のでかさが問題になりそうだな!」

「笑い事じゃないでしょうに、まったく……。ですが、どうしようもないですものね」

「……ギリギリまで角度をつけて、大きな円にしてみる……」


 ほとんど180度くらいまで開かれたコンパスで円を描くのは、なかなか大変だった。

 しかもその円を描く場所が、ある程度の凹凸もある壁なのだから、なおさらだ。

 それでも、天使ちゃんは器用にコンパスを操作し、直径1mくらいの穴を開けることに成功した。


「あっ、だけどさ、王宮の中にだって警備している兵士なんかはいるんじゃない? 見つかったら捕まっちゃうよね?」

「……その点も抜かりはない。このツールを使えば、姿が見られなくなる。小声で話すくらいだったら、気にもされないはずだって……」

「凩さん、そんなツールまで用意してくれたんだ。ほんと、至れり尽くせりだね」


 ゲーム的な感覚で言うと、凩さん自身が便利なアイテム、といった印象だった。


「……どうやらこのツールは、人の意識に影響を与えて、そこらへんに転がっている石ころ程度にしか思われなくなる、という機能を有しているらしいわ。一度見つかってしまうと、効果はなくなると思うけど……」

「はっはっは、あのアニメにそんな秘密道具があったよな!」


 なるほど。

 凩さんの作るツールのアイディアは、そういった部分から来ているのかもしれないな。

 壁抜けのアイテムがコンパス型だったのは、ちょっと謎だけど。


「……余計なことを言ってる暇はないわ。さっさと行くわよ……」

「ラジャー!」

「はっはっは! 了解だ!」

「ふたりとも、声のトーンを落としたほうがよろしいですわよ?」

「うんうん、この先はなるべく静かにね」


 こうして僕たちは壁の穴を抜け、王宮内部へと侵入した。




 仮に僕たちが見つからなかったとしても、壁の穴の存在に気づかれたら、侵入者がいることはあっさりと発覚してしまう。

 急いでいちごを見つけて、王宮から脱出しないと。

 いちごがここにいるのかすら、わかってはいないのが現状だけど。


 ともかく、僕たちは静かに廊下を進んでいった。

 そこで突然、騒々しい足音が響き始める。


「侵入者だ!」


 兵士の声。

 ヤバい、バレたか!?

 慌てる僕たちだったけど。

 どうやら壁の穴が見つかったわけでも、僕たち自身が見つかったわけでもなかったようだ。


「どうしたんだ?」

「王妃様候補のひとりがさらわれたらしい!」

「なんだと!?」


 周囲から集まってきた兵士たちが、そんな会話を交わしている。


「さらわれたって、誰がだ?」

「つい最近呼ばれて王宮に来た子だったかと」

「ああ、あの苺の飾りがあるペンダントをつけてる子か」

「でもあの子、言葉遣いは変だったよな。男っぽい喋り方までするし」

「なに言ってるんだ、そこがまた可愛いんじゃないか!」


 この話で、さらわれたのはいちごだと、僕は確信する。

 みんなもそう考えたみたいだ。黙ったまま頷き合う。


「おいおい、お前ら。王妃様候補に対して、不謹慎だぞ! 早く追いかけないと!」

「だけどあの子の場合、さらわれたんじゃなくて、自ら逃げたって可能性もないか? 何度も逃げようとしてただろ?」

「いや、最近はおとなしくしていたぞ。常時兵士が監視していたからな、逃げられないと悟ったんだろ」

「だったらどうして、さらわれるんだよ!?」

「中庭に散歩に出ていて連れ去られたみたいだな。警護する兵士が交代するタイミングであの子が勝手な行動を取って、少し目を離した隙に……といった感じだったようだ」

「……って、悠長に話をしている場合じゃないって! すぐに追いかけるぞ!」

「おっと、そうだったな! 大事な王妃様候補を守れなかったとなったら、減俸は免れないし!」

「急いで捕まえるぞ!」


 兵士たちの足音が遠ざかっていく。


「さらわれた子って、いちごに間違いないよね?」

「……ええ、おそらく……」


 いちごはやっぱり、この世界にいる!

 しかも、ほんの少し前までここにいた!

 それがわかっただけでも、大収穫だ。


 とはいえ、安心してはいられない。

 さらわれたというのであれば、危険な状況にある可能性が高い。

 僕としてはすぐにでも追いかけたかった。


 そこでふと気づく。

 僕はいちごのことが心配で、それだけを気にしていたけど。

 フランさんとしては、ずっと一緒に遊んでいたファルシオンさんを探したいはずだ。


 遠慮がちに視線を向けてみると、フランさんはなにも言わずに僕の気持ちを察してくれた。


「ファルシオンのことは心配だけど、なんの手がかりもない。今はいちごちゃんを優先するべきだよ。急ごう!」


 フランさんに促された僕たちは、壁の穴を抜けて王宮の外まで戻ってきた。

 さあ、いちごを追いかけよう!

 と意気込んでいた僕の勢いは、一瞬にして止められることになる。


「ですが、どこへ向かえばいいのでしょう?」


 クララの意見はもっともだった。

 じっくりと聞き込み調査をして、足取りをつかむ。それくらいしか方法はないのかもしれない。

 そう思った矢先、またしても凩さんからの連絡が入った。


「……なんか、チビの鼻がいちごちゃんの匂いを微かに感じ取っているみたい。凩お兄ちゃん、それを拡張させてみたって……」

「チビが……? それに、拡張……?」


 パタパタと羽を動かして浮遊しているチビに、僕たち全員からの視線が注がれる。


「きゅう~~~ん?」


 なにもわかっていなさそうなチビ。

 こんなんじゃ、役に立ちそうもない。


「おい、チビ! いちごの匂い、わかるか? 追いかけられるか?」


 ずいっと顔を寄せ、チビに問いかけてみる。


「僕の言ってること、理解できる? 今はお前だけが頼りなんだ! お願いだから、いちごのいるところまで、僕たちを連れていってよ!」


 必死にお願いしてみる。

 体長わずか20センチ程度の、ぬいぐるみサイズのミニドラゴンであるチビに。

 両手でつかみかかり、食いつかんばかりの勢いで。


「きゅう~~~ん……」


 チビは相変わらず、気の抜けた鳴き声を発するだけ。

 それでもなお、僕は一生懸命、懇願し続ける。


 どれくらいの時間、そうしていただろう。

 つぶらな瞳で僕を見つめ返していたチビが、しきりに鼻をピクピクさせ始める。

 そして、


「きゅううう~~~ん!」


 力強く鳴いた。

 レモン、キミの気持ちはわかったよ! ボクに任せといて!

 そう言ってくれているのだ。

 言葉はなくても、チビの意思は伝わってきた。


「チビが、いちごの匂いを感じ取った! みんな、チビに続け!」

「お~~~~っ!」


 ふらふらとした羽ばたきながらも、チビはまっすぐ自信満々といった様子で飛んでいく。

 僕たちはそのあとを追いかけ、町から外へと出た。


 草原に出た途端、チビが近くに自生していた木苺の実にかじりつき、おいおい、大丈夫か? といった雰囲気にさせられてしまったけど。


 木苺をいくつか食べ終えたチビは、やはりいちごの匂いをたどっているのだろうか、今度こそまったく迷うことなく、町とは反対方面へと向けて飛び立った。

 僕たちもそれを追う。


「チビ、任せたからね! 僕たちをしっかり導いてくれよ!」

「きゅう~~~ん!」


 チビは元気よく答えると、草原を抜けて鬱蒼とした森の中へと入っていった。


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