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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第2章 僕らに近づく怪しい影?
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-1-

「ん~~~~っ! やっぱりここの苺パフェは最高だな!」


 いちごが満面の笑みをこぼしながら苺パフェを頬張っている。

 いつものことながら、凄まじい食べっぷりだ。

 というか、これから冒険に出発するというのに、特大サイズのパフェを3つもたいらげるなんて。


 ゲーム的に言えば、パフェを食べれば内部パラメーターが一時的に増加する、という話ではあるけど。

 それにしたって、効果が累積されるわけでもないはずだから、3つ食べるというのは完全に本人が満足感を得るだけの行為でしかない。

 ま、僕としては全然構わないのだけど。いちごの可愛らしい笑顔を思う存分拝むことができるのだから。


 もっとも、経済面を考えれば少々痛手だったりする。

 町のオープンカフェでいつものように苺パフェを注文した僕たち。当然ながらタダで食べられるわけじゃない。

 前回の冒険で得たお金の大半が、いちごの胃袋の中に消えてしまったことになる。

 冒険であまりいいアイテムをゲットできなかった場合、いつもこんな感じだった。


 一部、高価な値段の苺パフェもあって、パラメーターの増加率も高いらしいのだけど。

 駆け出し冒険者の僕たちには、そんなものに手を出せるお金はない。

 いちごは、「いつかは食ってやるっ!」と意気込んでいるけど、パラメーターアップ効果は高くても味は変わらないみたいだから、がっかりするだけなのは目に見えている。

 それでも食べるって言い出すんだろうなぁ……。


 ちなみに、いつものメンバー4人で冒険に出た際の戦利品の処理、及びそれを売り払って得たお金の管理は僕に任されている。

 パーティー共有財産、という扱いだ。

 他にも、戦利品の中で今後誰かが使えそうなものはレンタル倉庫に保管している。

 そのレンタル代も、パーティー共有財産から支払っている。


 なお、僕の責任感を買われて任されている、というわけではない。面倒を押しつけられただけだ。

 実際、いちごに任せたら苺パフェを食べまくって散財するだろうし、ミソシルやクララに任せるのも不安でしかない。

 ならば必然的に僕がやるしかないだろう。そう考えて諦めている。


「おい、そろそろ行くぞ? あまり遅くなると、夕飯までに終わらなくなるし」

「待てよ、兄者! あと1個食べたいから!」

「まだ食べる気かよ!」


 いやはや、いちごにも困ったもんだ。


「おいおい! レモン、そこは止めろよ!」

「うふふふ、そうですわね~。レモンさんはほんっと、いちごちゃんには甘いんですから~。めっ! ですよ~?」


 当然のようにもうひとつ注文させようとしていた僕に、ミソシルとクララからツッコミが飛んできた。

 どうでもいいけど、クララのやつ、めっ! って……。

 これが見た目どおりのお嬢様に言われたのならいいけど、中身が男だと考えると、とっても気色悪く思えてくる。


「ぶ~……」


 不満をありありと浮かべるいちごをどうにかなだめ、僕たちはオープンカフェを出る。


「じゃあ、帰ってきたら、また3つ食うってことで!」

「はいはい、わかったよ」

「だから、そこは止めろって!」「そこは止めてくださいませ!」


 再び甘やかす僕には、またしても友人ふたりからの容赦ないツッコミがぶつけられた。




「えいやっ!」


 いちごが可愛らしい羊の姿をしたモンスター、ドリーナを相手に、華麗に剣を振るい、蹴りまでまじえて戦っている。

 相変わらずの戦闘風景。

 いちごは近接戦闘が得意なファイターだからだ。


 蹴りなんて大したダメージにならなそうだけど、モンスターのバランスを崩したりなど、意外に効果を奏している。

 カッコよく戦っているな、と思って見ていると、いきなり転んだりするドジ属性のあるいちごだから、まったく目が離せない。


 戦闘システムについてちょっと補足しておくと、この苺ぱるふぇ・オンラインでは、攻撃でも魔法でも、戦闘中の行動については動きが重要となってくる。

 ダンスを踊るようなイメージで体を動かすことによって、効果が発揮される、というシステムになっているのだ。

 レベルアップなどによるパラメーター増加よりも、自らノリノリでダンスを踊ることによる効果のほうが大きい、とまで言われているくらいだ。


 ダンスといっても、上手さとかキレとか、そういった部分が関係するわけではない。

 完全に自己満足でいい。

 どれだけノリにノッて一心不乱に踊れているか、それが決め手となっている……らしい。

 運営側からの公式発表はされていないため、ユーザーが様々な推測を立てているものの、確実な結論はいまだ導き出されていないようだ。


 さらには、踊るのが必須と言ってもいいシステムになっているおかげでダイエット効果がある、という噂まで流れている。

 それも女性ユーザーの多さにつながっているのかもしれない。


 実際のところ医学的な根拠はまったくなく、運営側はユーザーから「ダイエット効果があるんですか?」といった質問があっても完全否定している。

 だいたい、ブレイン・インパルスのシステムによって睡眠状態になってゲームを遊んでいるだけなのだから、ダイエットになるはずもないと思うのだけど。


 ともかく、そんな戦闘が続いている。


 ノリノリで剣を振り腰を振り、足を伸ばし手を伸ばし、飛び跳ねたりくるりと回ったり。

 思い思いの動きで戦いを楽しむいちごの姿を見て、僕はほのぼのとした気持ちになっていた。

 なんだか戦いにくそうにも思えるけど、そこはシステム側のサポートがあるようで、ノリノリで繰り出した剣先は一直線に敵の弱点を捉える。


 やがてドリーナが消滅。

 トドメを刺したのだ!


 このゲームでは、血を噴き出して倒れる、といったようなグロテスクな表現は一切ない。

 全体的にポップで明るいイメージで統一されている。


 モンスターを1匹倒した僕たちだけど、敵も複数で徒党を組んでいる。

 まだ戦いは終わっていなかった。

 標的を次のモンスターへと向け、「うりゃあああああっ!」と突っ込んでいくいちごの姿を、僕は少し離れた場所から見守っている。


 僕はプリースト。主に回復魔法や補助系の魔法を使うクラスということになる。

 魔法を使うにもノリノリで踊る必要があるため、僕はとても苦労している。

 上手く踊る必要はないのだけど、どうしても恥ずかしく思ってしまうのだ。


 とはいえ、仕方がない。

 踊らなきゃ、傷ついたいちごを回復することもできないのだから。


 僕はぎこちなく体を動かし、コケて鼻から地面に激突した隙にドリーナの体当たりを食らって「うぎゃあ~~~っ!」と女の子らしくない悲鳴を響かせているいちごに、ヒールの魔法をかける。

 ほわほわほわ~んとピンク色のエフェクトが広がり、いちごが立ち上がる。


「兄者、サンキュ! 兄者の愛、しっかり受け取ったぜ!」

「愛じゃないっての!」


 まぁ、愛を受け取ってくれたほうが嬉しいけど。

 そんな僕の気持ちなんて知るよしもなく、いちごは意気揚々とモンスターに飛びかかっていく。


 僕のすぐそばには、ミソシルとクララも立っている。

 というか、踊っている。


 ミソシルはハンター。ハンターというと、ファイター同様、前戦に立って戦うイメージがあるかもしれないけど。

 日本語に直訳すれば狩人。すなわち、弓など、間接攻撃を主体とするクラスとなっている。

 といっても……。


「はっはっは! どっせい!」


 巨体のミソシルが好んで使っているのは、斧だったりする。

 しかも、投てき用の小さな斧ではなく、通常はファイター系が使う大型の斧だから、その破壊力たるや想像を絶する。

 現実世界ではちんまい女の子なのに、ここでは豪快に大きな斧を投げるなんて、やっぱり違和感ありありだ。


 そしてもうひとりのクララはソーサラー。攻撃魔法を得意とするクラスということになる。

 普段、オンライン上ではお嬢様キャラを押し通しているクララだけど、戦闘となると違ってくる。


「お~っほっほっほ! 真っ白い毛がよく燃焼しそうだわ! それそれそれ、ジンギスカンにしちゃうわよ~! 燃えなさい! そしてわたくしを萌えさせなさい!」


 完全に悪の魔女へと変貌を遂げている。

 僕としては、お嬢様風の喋り方と比べれば、こっちのほうがまだ素に近くて違和感が少なくて済む、なんて思っていたりして。


 そんな感じで、戦闘だけでも充分に楽しめている僕たち4人だった。


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