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町に近づいてみると、その広さにまず驚いた。
色とりどりの屋根を持つ民家らしき建物が無数に存在し、様々な商店も立ち並んでいる。
道には人が溢れ、活気に満ちた町の中を忙しなく行ったり来たりしている様子がうかがえる。
苺ぱるふぇ・オンラインで拠点となっていた町よりも、ずっと規模の大きな都市のようだ。
町の中心に目を向けてみると、圧倒的な存在感を放つ豪華な建物がある。
黄金色に光り輝く、王宮とか宮殿とか呼ぶのが相応しいと思われる建物。
あまりにもきらびやかで、僕なんかでは畏れ多くて近づくことすらはばかれる、そんな印象だった。
遠くから見えていたのは、その建物の中でもひと際高くそびえ立つ、中央にある塔のような部分なのだろう。
そんな町の中に、僕たちは紛れ込んだ。
道行く人を避けながら、広い通りを進んでいく。
「それにしても、たくさん人がいるよね」
「……まったく、鬱陶しいくらいに……」
「はっはっは! 図体のでかいオレには、かなり厳しいな! ……おっと、すまない!」
ミソシルが通行人に肩をぶつけ、何度目になるかわからない謝罪の言葉を響かせる。
「これが全員、苺ぱるふぇ・オンラインで失踪してこっちの世界に来た人なのかな?」
「う~ん、さすがにここまで多くはないんじゃないかな。苺ぱるふぇの世界でもそうだったし、NPCもかなり含まれているんじゃないかと思うけど」
NPCかどうかは、顔を見つめてみればわかる。
名前の他に、クラスやレベルの文字も浮かんでくれば、それはプレイヤーキャラクターということになる。
名前だけだったらNPCってことだ。
ここでも同じシステムかどうかはわからなかったものの、試しに何人か見つめてみたところ、NPCの割合は多いもののプレイヤーキャラクターも結構いる、という状況だと把握できた。
やけに女性が多いのも、凩さんが調べた苺ぱるふぇ・オンラインの失踪者の情報と合致している。
「だったら、いちごやファルシオンも、この町のどこかにいるのかな?」
「……それはどうかしら……。ここの人たちが苺ぱるふぇ・オンラインの世界から失踪してきたという確証もないわけだし……」
そう言われればそうだ。
僕たちは手始めに、近くにいた女性に話しかけてみることにした。
「あの、すみません」
「はい? 私になにか用ですか?」
「えっと、その……あなたって、苺ぱるふぇ・オンラインで遊んでいた人ですか?」
あまりにも直球すぎる、そんな質問をぶつけてみたのだけど。
「え? 苺ぱるふぇ・オンライン? なんですか、それは?」
あれ? 苺ぱるふぇ・オンラインを知らない?
だとすると、他のVR系ゲームからここに来た人なのかな?
それとも、この世界自体が実際に運営されているゲームの中だってこと?
首をかしげる僕を、女性は不思議そうな目で見つめていた。
「あ……ごめんさない。呼び止めてしまって、申し訳ありませんでした」
「はぁ……。じゃあ、私はこれで」
女性と別れ、僕たちは道端に集まり、今の件について語り合う。
「なにも知らない、って感じだったね」
「そうだな! この世界で普通に生活してる人、って感じだった!」
「……でも、クラスはエレメンタルマスターって表示されてた……」
「ミスティックの上級クラスですわね。苺ぱるふぇ・オンラインでは、ですけれど」
「他のゲームにもあっておかしくないクラスだとは思うけど、どうなんだろうね?」
フランさんの疑問に、答えられる人がいるはずもなかった。
「……とりあえず、もっと情報がほしいわ。他の人にも声をかけてみましょう……」
「うん、そうだね」
僕たちはその後、数人に話を聞いてみた。
ここはハピネシアランドという国だということ。
人が住んでいるのは、この世界ではこの町だけだということ。
みんな、ゲームの中だとは考えていないみたいで、日々の生活を忙しくも楽しく過ごしているらしいということ。
町の中心にあるきらびやかな建物は、国王エンドレスレインの住んでいる王宮だということ。
さらに、僕たちは有用な情報を得ることにも成功した。
王宮には何人もの女の子が連れていかれたということだ。
その目的は、王妃探し。すなわち、現在独身である国王の嫁探し。
国王が気に入った相手を妻とし、王妃として迎えるつもりらしい。
町が異様に活気づいているのは、王妃誕生という一大イベントを前に、お祭りムード一色となっているからだったようだ。
「国王の嫁探しか……」
「もし気に入られたら、王妃様になれるなんて……。王宮に連れていかれた女性にとっては、まさに人生がかかったイベントになりますわね! ああ、わたくしも参加したかったですわ!」
クララが両手を胸の前で組んで、うっとりした表情をしていたけど。
お前、実際は男だろうに。最近、女性キャラが板につきすぎていないだろうか。
現実世界の剣之助に戻ってもこんなにくねくねした感じで、あまつさえべたべたくっついてこられたりまでしたら、凄まじく鬱陶しい気がする。
というか、絶対に殴る。
それに、参加したかったって……。
完全に目的を見失ってるよな、こいつ。
と、ここまでであれば、いちごを探す今の僕たちにとって、さほど有用な情報とは言えなかったのだけど。
この話には続きがあった。
それを通行人の女性から聞いた僕は、一気に食いついていた。
「王宮に連れていかれたのは、可愛らしい印象の女の子ばかりなのよ。年齢的には、十代くらいかな。私なんかじゃ呼ばれなかったのも当然よね~」
「国王って、まだ若い人なんですか?」
「ええ、そうね。公表されてはいないけど、見た目から想像すると二十代後半くらいかしら。落ち着いた感じだから、実際にはもっと上かもしれないけど」
「なるほど……。国王は若作りな上、ロリコンなのか!」
ミソシルが国王に対して失礼なことを叫ぶ。
世が世なら、一瞬にして捕まってしまいかねない発言だったかもしれない。
「そんなふうに言っちゃダメよ。国王様はとてもカッコいいお方なんだから」
キラキラした瞳で語るこの女性も、国王に憧れを抱いている身なのだろう。
「国王様は純粋な心を持った子を妻にしたいと考えているのよ、きっと! ああ、私がもう少し若ければ!」
女性は妄想世界にどっぷりと入り込んでいるようだ。
なんというか、他人という気がしない。
話を聞かせてくれた女性にお礼を言って離れると、
「はっはっは! レモンの女性版、って感じの人だったな!」
ミソシルがそんな指摘をしてきた。
他のみんなも、まったくもってそのとおり、といった表情でうんうん頷いていた。
僕たちパーティーメンバーの感覚は、完全に一致しているのだ。
……う~ん、こんなことで一致しても、全然嬉しくなんてないな……。
とにかく、僕たちはもちろん、王宮に行ってみよう、という意見でも一致していた。
他に手がかりもないし、ということよりも、もっと強い理由がある。
可愛らしい印象の十代の女の子が王宮に連れていかれている。
だったら、いちごも連れていかれたと考えて、まず間違いない。
なにせ、いちごは最高に可愛いのだから!
僕が力強く語ると、仲間たちも同意してくれた。
やっぱり僕たちは、ひとつにまとまっている。
改めて、そう思えた。
……全員が全員、なにやら生温かい視線を向けてきているような気はしたけど。




